第六幕 闇の者達の談合。 5
5
ジェドは、どうにか狂気に満ちた魔女の城から脱出する事が出来た。
外に出てみると、城の外壁は炎で燃え盛っていた。
全身が燃え続けるゾンビ達が組み合わさって、外壁が形作られていた。城の中にいると、まるで分からなかった。外界から閉ざされたあの城は、まるで異空間にいるかのようだった。ジェドは外に出れた時、気付けば涙を流して喜んでいた。
砂漠の中、デス・ウィングと名乗った金髪美女の後を付いていく事になった。
「な、なんでもしますので、なんなりと、この俺に申し付けて下さい……っ!」
「んん、そうだな…………」
彼女は、振り返らずに、顎を手に置く。
「まずは、そうだ。この私を性的な目線で見るのを止めろ」
極めて、鋭い刃のような口調で、ジェドの思惑を見抜いているみたいだった。
「お前、私の胸ばかり見ていただろう?」
「……すみません…………」
「サイズとか考えていたのか?」
「そうです…………」
しっかりと、見抜かれてしまっていた。
「…………。男は大体、同じなんだな。そうだ、お前の性癖はノーマルか?」
「思春期の男としては、割とノーマルかと…………」
「そうか。面白くないな、残念だ」
何が残念だったのだろうか。
ジェドは、しばし困惑していた。
しばらくの間、二人は沈黙していた。
砂漠の向こうで、砂塵が舞っていた。
“永久凍土の砂漠”。
此処は、真昼なのに酷く寒い。ジェドは寒さに震えていた。そういえば、薄着だ。
「デス・ウィングさん、何を考えていらっしゃるんですか?」
「んんっ、そうだな。あのクレリックの事だな」
「ミントさんの事?」
「ああ、ミントの事を考えていたんだ」
「どんな事ですか?」
「ああ、そうだな。ミントをどうすれば娼館に突き落としてやれるのか、とか。奴が街中の奴らから迫害されるような罪を着せるには、どうすればいいか、だとかな。どれが一番、面白いかだな」
かなり、真面目な口調で答えられた。
本気で考えていたのだろう…………。
また、しばらく無言になる。
「そういえば、そういえば、ですね……、あの……、俺がノーマルじゃなかったら、どうしたんですか? アブ・ノーマルな男の人がお好きなんですか?」
「ああ、好きだよ。死体を犯す事にしか生き甲斐を見い出せない奴とか。生きたまま頭蓋骨に穴を開けて、新鮮な脳味噌を女性器の代わりにする奴とか。私は彼らの相手にはなってやれないが、私はそんな人種を友達だって思えるんだ」
また、かなり真剣な口調で答えられた。
ジェドは、彼女が一体、何を言っているのか分からなかった…………。
ジェドはかなり遅かったが、気付き始めていた。
この女も、かなりヤバイ、と。
「ジェド。心配するな。お前はクズだろうが。私はお前よりも遥かにクズだ。お前はどうやら、女を見れば欲情ばかりしているみたいだが、私は人間を見ると、どうやったら破壊出来るかばかり考えている。多分、生きていく上で、欲望はどうしようもないんだよ」
「何か…………、何の慰めにもなっていません…………」
「そうだ。お前に強大な力を授けよう」
デス・ウィングは、満面の笑みで言った。
「ええっと、なんですか? それ」
「反則的な武器だ。身の危険があれば、使えばいい」
デス・ウィングは、何処からともなく、短剣のようなものを取り出す。
そして、それをジェドに向かって放り投げる。
鞘も柄も、特に、何の装飾品も無く、素朴なものだった。
「お前がそれを“悪用する事”を願っているよ」
ジェドは彼女から渡された武器の柄を握り締める。
何故か、全身に震えが起きて止まらなかった。慌てて、彼はそれを服のポケットの中へと仕舞う。
†
「やっぱり、気に入らないわね。デス・ウィング」
ルブルは不機嫌そうな顔で、ソファーに座っていた。
「私の城で、あの傲慢な態度が気に入らないわ」
彼女は爪にベースコートを付けて乾かした後、赤いマニキュアを塗っていた。
血の色のような赤だ。
「まあ、いいじゃない」
メアリーは、ルブルの為にケーキを焼いていた。
彼女も、ソファーに静かに座る。
空のティーカップの中に、紅茶を注いでいく。
「私達では彼女に敵わないわ。でも、利用する事は出来る。彼女が私達に協力するのなら、敵対する理由は無いわ。あれは貴方を試していたのよ、ルブル」
魔女は、召使いに指摘されて、少し冷静になる。
「…………。本当に不遜極まり無いわね。自分がこの世界で一番、偉いと思っているのかしら?」
「それは私達も同じ……」
「何を考えているのかしら? メアリー。言ってみなさい」
「ふふっ。彼女はおそらく、竜王に興味を持つわ。もし、そうなれば、彼女は力を試したくなる。……彼女の性格は分かってきたわ」
それを聞いて、ルブルはほくそ笑んだ。
「成る程ね」
ルブルは焼き上がった、林檎のケーキをフォークを付けて、口にする。
「殺し合わせたいわけね?」
「そういう事」
メアリーは、紅茶に口を付けて、ティーカップを静かに置く。
「どちらが勝っても、私達は構わない。ねえ、そう思わない?」
デス・ウィングが言うには、ルクレツィアと大悪魔は繋がっていると言っていたか。
もし、ルクレツィアの領土を自分達が支配したいのならば、いずれ、大悪魔ミズガルマとも戦わなければならないだろう。
どちらにせよ、向こうから、自分達の下へと攻めてくるのは時間の問題だろう。
メアリーは、そんな事を考えていた。
「さてと、私達は大悪魔の下へと赴かない?」
メアリーは、ルブルに提案する。
「私はこの城の主。ここを守る必要があるわ。メアリー、貴方一人が向かうのよ。また、死の翼のような狼藉者に入られては困るから」
ルブルは不貞腐れていた。
「ふふっ、そうね、ルブル。機嫌を直して。成果を持ってくるわ。悪魔の下へ向かってね」
「出来れば、デス・ウィングを殺せる成果がいいわね」
「それは、少し期待出来そうにないわねえ」
ルブルは嘆息する。
「まあいいわ。大悪魔ミズガルマの下へと向かって。場所は何処か分かる?」
「そうねえ、デス・ウィングもまだ調べているみたいだし……、ねえ、ルブル、貴方は知っているかしら? 交信したのでしょう?」
「どうやら、大ピラミッドの間逆の方角にいるみたいよ。その場所は大きなオアシスになっていて、森林になっているだとか」
「成る程、教えてくれていたのね。なら、私はそこへと赴くとするわ」
メアリーは、そう言うと、城を留守にする事にした。
ルブル&メアリー




