第六幕 闇の者達の談合。 2
彼女は城の中へと侵入した後、城の壁に触れてみる。
彼女は壁の材質を確かめていた。
大理石や煉瓦などに見えるが、確かに人や獣の肉の死体を変形して作られている。普通の人間ならば、不気味だろう。彼女は城の一部を切り取って持ち帰ろうかと考えていたが、流石にそれは無礼過ぎると思って止めにした。
彼女は、城の中を進んでいき、この城の主の下へと辿り着く。
「ふふっ、久しぶりだな。ルブル」
デス・ウィングは腕を組みながら、死体の城の壁に寄り掛かっていた。
「竜王、イブリアの所在地を、お前なら知っているんじゃないかと思ってな?」
ルブルは、彼女の姿を見て、極めて不快そうな顔になる。
何故、こいつが、此処にいるのか? と。
「それを答えたら、素直に帰ってくれるのかしら?」
「さあ? どうだろうな?」
死の翼は含むように言う。
「相変わらず、不遜で無礼ね。デス・ウィング。勝手に私のお城に入り込んで。招いた覚えは無いわよ?」
「ははっ? お前達を討伐したがっている連中を、散々に歓待しようとしているのにか?」
デス・ウィングと、ルブルは、向き合って互いをにらみ合う。
「ええっ、そうね。歓迎会を豪勢に開こうと考えているわ。でも、貴方のような曲者は、私の城に立ちいって欲しくないわね」
ルブルは、眼の前に現れた女を、どうやって始末しようかを考えているみたいだった。
……だが。
魔女は、深く、溜め息を吐く。
「まあいいわ。私じゃ、貴方に勝てない。いいわ、客人として認めて上げる。客室にいらっしゃい」
そう言うと、魔女は通路を指差す。
「じゃあ、私に付いてきて。……それにしても、私が折れるなんて、悔しいわ……」
ルブルは、やはり納得行かない、といった顔をしていた。
「まあ、この私は最強で無敵だからな。誰も私に従うしかないんだ」
「……貴方の方が支配者の才があるみたいね。でも、私の面子も考えて欲しいわ」
「ははっ、そうだな。確かに、それは考えておくよ」
「メアリーは、貴方を嫌っていると思うわ。この私以上にね」
ルブルは燭台を手にして、暗い通路を進んでいく。
「そうか。処で、ルクレツィアの国王に会ってきたぞ。奴の寝室でな」
「本当に不敬極まりない性格ね。その傲慢さはどうにかならないのかしら? デス・ウィング、貴方は自分がこの世界で、一番、偉いと思っているんじゃないのかしら?」
「ルブル。その言葉、お前にも同じように返すよ」
「私にはメアリーとクルーエルがいるわ。貴方は誰も対等だと思っていない。みんな、自分以下の存在としか思っていないの。最低ね」
彼女は死の翼に対して、毒づき続けるが、死の翼は何処吹く風、といった処だった。
「あら、ルブル」
魔女の召使いである、女が現れる。
彼女は書斎から出てきた処みたいだった。
「あら、メアリー。皮肉屋の死にたがりが現れたの。貴方にも私にも、何の魅力も無い存在なのだけど、嫌悪感を抱かれる事が快感で、帰ってくれないわ」
「…………、随分な言われようだな……」
「だって、本当でしょう?」
ルブルは、デス・ウィングに強く毒づく。
「貴方は…………」
メアリーは、デス・ウィングの顔を見る。
「久しぶりだな。メアリー。いつぶりか?」
「あら、招かざる客。私に殺されに来たのかしら?」
ストレートな口調とは裏腹に、メアリーの方は、少し、デス・ウィングを好機の目線で見ていた。死の翼の方も、それに気付く。
「いいや、お前ごときに殺されてやるつもりは無いよ。私は私を殺す事に相応しい相手の為に、死んでやる事を考えているんだ」
デス・ウィングは不敵に告げる。
「ねえ、メアリー。この女、竜王に会いに行きたいんですって。さっさと話したら、帰ってくれるかしら?」
ルブルは困ったように、両腕を広げる。
「……そう。デス・ウィング、竜王イブリアなら、大ピラミッドという場所にいるわ。地図は渡して上げる」
「そうか。礼を言う。邪魔したな」
デス・ウィングはそう言うと、元来た場所へと帰ろうとする。
「あら、死の翼。私の主人は貴方を嫌っているけれども、私は貴方の訪問に興味が湧いたわ。……一体、何を考えているのかしら?」
ルブルはメアリーのそんな反応に、少し意外そうな顔をする。
「…………、ふふっ、メアリー。クレリックの女に興味があるか?」
「ええ、とっても」
彼女は眼の奥に、強い獰猛なまでの欲望を抱えていた。
「情報交換しない? 大ピラミッドへの地図は渡すわ。私が図面を描いたのよ。ねえ、デス・ウィング、あの“ギルド・マスターの娘”について、何か知っている事はあるかしら? たとえば、親は何者であるのかとか。どの、どんなギルドに所属しているのかとか」
メアリーは狡猾そうな眼をしながら、デス・ウィングと交渉を行う。
「…………、すまないな。実は、私も分からない。なので、お前達が知っているものだとばかり思っていたが……」
「まあいいわ。客室まで、私が案内するわ」
黒いドレスの魔女が、しぶしぶ告げた。




