第六幕 闇の者達の談合。 1
主人公達の敵である、大悪魔ミズガルマですが、登場はもう少し先になるかと思います。
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メアリーは血の湯船に浸かっていた。
ルクレツィアで集めてきた美少女達の生き血だ。
彼女は経血を舐めるのが好きだった。
特に、処女の生理の血は素晴らしい。
彼女はさらってきた少女二人の両脚を切断して、並べて壁に貼り付けにしていた。彼女達の両脚から絶え間なく血が流れ続ける。
左に貼り付けられた少女は、沢山のゾンビ達が貪っていく。
彼女達の脚から噴き出た血は、開かれた血の湯船に注がれていく。彼女達は失血死してもおかしくないが、死霊術によって生かされ続けていた。
「ふふっ、くくっ」
ミントの両脚が欲しい。
欲情がメアリーの中で渦巻いていた。
メアリーは、シャワーを浴びると、いつものメイド服に着替える。
最近では、ミントを弄ぶ妄想を、いつものように行っていた。
服を着替えた後、メアリーが拾う事になったグズな少年のいる部屋へと入る。
メアリーは先程までの官能的な欲望を忘れて、顔が引き攣る。
ジェドが渡されたモップを使って、まだらに床を拭いていたからだ。
彼女は途端に、頭の中が切り替わった。
かつて、本当にメイドという仕事をやっていた頃、散々、怒鳴られた事を思い出す。
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「貴方ねえぇ、そんな仕事もちゃんと覚えられないの!?」
かなり怖い形相で、メイド姿の女であるメアリーは彼に対して怒りの感情を露わにしていた。
「す、す、すみません。本当にすみませんっ!」
ジェドは、深々とメアリーに頭を下げる。
「だからね、ほら。モップ掛けは、適当にやらずに、ちゃんと壁と壁に沿ってやるの! モップが掛けられていない箇所が無いように、やっていくっ!」
メアリーは、また見本を見せて、ジェドに教えていく。
「とにかく、ちゃんと覚えて。貴方、何の役にも立たないのだからっ!」
そう言うと、メアリーは夕飯を作ると言って、調理場へと向かった。
彼女は、普通の食材を買ってきて、普通に美味しい料理を作るのだから、人間はよく分からない。どうやら、かつて普通の人間だった頃、メアリーは本当にメイドの仕事をしていたらしい。その時の経験を生かしている、と。
ジェドは、あれから、ルブルの城の使用人見習いをする事になった。最初の予定では、メアリーは彼を加虐的に拷問してやろうと考えてみたいだが、そもそも、彼女はレズビアンであるし、ジェドは完全に彼女の性癖の対象外だった。城の中でも散々、命乞いをした末に、殺す価値も無いと判断されて、仕方なく使用人として使われる事になった。
……かなりキツめの顔立ちだけど、メアリーさん、美人だよなあ。彼女の作る料理、美味しいしなあ。
そんな風に、少し前に、徹底して尊厳を破壊されたジェドだったが、頭の切り替えが早く、城の生活に馴染み始めていたのだった。彼は本当に生命力と適応能力だけはあるみたいだった。
ちなみに、本当に手や足を切断された美少女のゾンビの便器にされてしまい、排泄物の味を覚える事になってしまったのだが、メアリーが“こいつを辱めても何も面白くないわね”という軽蔑の眼で見られて、飽きたから、さっさと殺すと言われて、命乞いした結果、こうやって城の掃除を覚えさせられている。
「…………、この豪華なお城の中って、床もカーペットも、死体を変形させて作られているんだよなあ……」
そんな事実を忘れそうになる。
本物の大理石の床みたいだ。
天井の飾り付けも、所々に置かれている、騎士の鎧も死体で作られている。
水洗式になっているお手洗いも、バスルームの中も死体で作られているのだ。元々は人間の人体や、亜人や獣の身体を変形させているのだ。
恐ろしい事に、段々と感覚が麻痺してきてしまっている。
メアリーがいない時は、漠然とミントと彼女の弱小ギルドのメンバーが、どうしているのかと考えるようになった。恐怖から逃れたい為か、仲間達に対する何らかの罪悪感の為なのか……。
†
「タンドリー・チキンを作ったわ。食べましょう」
豪勢な食事だった。
宝石のはめ込まれた椅子に座り、テーブルクロスの上には火の灯った燭台が乗り、花の入った大きな花瓶が中央には置かれている。皿にはバケットと呼ばれる堅いパンが置かれ、煮込んだシチューや、子羊の肉をラム酒で食べる、といった事をしている。今日は、特殊な味付けを行ったチキン料理が皿の上に乗っていた。
中央の椅子にルブルが座っており、その隣には男の子の人形が座っている椅子があった。
「お城の住民がもっと欲しいわねえ」
ルブルが、そう楽しそうに告げる。
「そうね。二人だけの世界も悪くないかもしれないけれども、仲間がいても良いわねえ」
メアリーはチキンをナイフで切っていく。
ジェドは二人から離れているが、片隅で一応、ちゃんとした食事を与えられていた。最初は四足歩行型のアンデッド用の皿の上に、パン切れや野菜の屑みたいなものを与えられていたが、いつの間にか、彼女達二人は彼を食事用の部屋に招き入れてくれた。
ルブルは男の子の人形の口に、シチューの入ったスプーンを押し込める。すると、シチューは消えてなくなる。ルブルは、美味しい? クルーエル? と訊ねていた。
あれから、何日が経過しているのか分からない。
「処でメアリー。あの少年、どうするつもり?」
ルブルは、あまり興味が無さそうな顔をしていた。
「そうねぇ」
シチューにパンを浸して食べているジェドに向けて、メアリーは視線を向ける。
「彼、何の役にも立たないのよねえ」
「なら、さっさと処分すればいいのに」
「そうねえ、何の才能も無いのよねえ」
……俺、今、殺されるのかなあ。魔女ルブルの奴……、余計な事、言いやがって。
そう言いながらも、ジェドは図太くも、メアリーの作った料理を口に運び続けていた。
「ジェド、後で私の部屋に来なさい」
ジェドは、頷き、タンドリー・チキンと呼ばれる料理に手を伸ばした。甘辛い、不思議な味だった。
†
ステンドグラスを背にして、煌びやかな椅子にメアリーは足を組んで座っていた。壁には絵がいくつも掛けられている。
「さて、ジェド。お前は何の役にも立たない。何の才能も無いわねえ……、さっき聞いていたと思うけれど、ルブルは貴方を処分したがっているわね。死体の素材にしたがっている」
ジェドの顔は恐怖に慄いていたが、メアリーは面倒臭そうな顔をしていた。
「けれども、貴方にもし、才能があるとすれば、それは貴方のもうどうしようもない程の、性欲でしょうね」
「はあ……、性欲ですか?」
「そうね。貴方、本当に女性に対する妄想が酷いしねえ」
「いやですね、俺、これでも年頃の男でして…………、ふ、普通ですよぉ……」
「ミントと性交渉出来なくて、可愛そうねえ」
「う、ううっ…………、俺、童貞のまま死にたくないです……」
メアリーはジェドの顔を見下げる。
そして、彼女は椅子から立ち上がる。
辺りには、いつの間にか、瘴気の煙が立ち込め始めていた。
「その邪な欲望が、貴方に邪悪な才能を開花させる、きっかけになるかもしれないわ?」
メアリーは韜晦を含むような表情を浮かべる。
いつの間にか、ジェドは魔法の円の中にいた。
メアリーは片手を上げる。
「さて、貴方はまたしばらく、妄想の中で生きて貰う、というのも面白いわね? さあ、どんな悪夢を見るのかしら?」
彼女は高らかに笑う。
ジェドは阿鼻叫喚の悲鳴を上げ始めた。
†
メアリー&ルブル




