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第六十六幕 イルムの暗躍。 2

「アリゼに関しては彼女の行動はリュートに少しずつ調査をさせている」

 アナタージャはコーヒーを啜りながら、そう告げた。


「珍しいコーヒーね。泡が溢れているのかしら?」

「ダルゴナコーヒーと言う。専用のミキサーで泡立てして飲む」

 アナタージャはコーヒーを飲み終えた後、立ち上がった。

 

 彼は急流の崖へとイルムを案内する。

 そこには蒸気で動くエレベーターが設置されていた。

 聞く処によると、この最上階から、ある景観がよく見えるらしい。


 この科学者は一体、この世界の事を……いや、この世界の外側の事をどれくらいまで知っているのだろうか?

 アナタージャは白衣風の白いパーカーを羽織る。

 此処からは風が吹き荒れている。


 巨大な虫のデザインをした二足歩行の怪物の群生が、並んでいた。


『クレデンダ』と言ったか……。

 かつて、大悪魔ミズガルマとバザーリアン国王及び武器商人達が、終わりのない戦争を結託していた時に作り上げた兵器だ。


 戦争の為の兵器。

 戦争を作り出す為の兵器。

 ただただ、戦争を生み出す為の殺戮兵器。

 この優男が、この兵器開発の中心部にいたのか。

 イルムは少しだけ息を飲む。


「私の名はアナタージャ。別名『アン・ダイイング』。不死の使徒と呼んで欲しい。私は私の好奇心の為になら、どんな事だって行うだろう。迫害の天使、イルム・エルデ。君は私の処に来た。さて……」


「お前……」

 イルムは確信に満ちた声で確認した。

「別にアリゼに協力したって構わないでしょ?」

「ああ。そうだね。面白き事無き世を面白く出来るのならな」


 隣では、リュートがおどおどとした顔で二人を見つめていた。

 ロギスマはまじまじと、この隠れ潜んでいた狂気の科学者の創り出したものに感嘆の声を上げていた。



 大きな爆発を待とう。


 その為には幾つもの仕掛けが必要になる。


 ヴィラガは思う。

 彼女に付いていけば、この国は変革が可能なのだろうか?

 ヴィラガは願う。

 自らの復讐が果たされる事を……忌み子として生まれて、忌み子として迫害された自分と……、そして同胞達の無念が果たされる事を……。


 計画は順調に進んでいる。

 ただ、まだ足りないものがある。

 

 兵力だ。

 圧倒的に兵力が足りない。


 竜王イブリア。

 ザルクファンド。

 ヒドラのラジャル・クォーザ。

 そして、新たに現れた勢力である呪性王の後継者である闇の天使イルム・エルデ。

 全員と敵対し、そして始末しなければならない。

 敵は余りにも強大な国家と、国家に連なるギルドそのものなのだ。


 陽動は幾つか行った。

 これで、本当の目的を霞ませる事は可能だろう。


 目指すべきは、王宮の地下だ。

 それで、あの王子。ジャレスからの贈り物が眠っている筈だ。


 アリゼは一体、何を見ているのだろう?

 自分と同じ景色が見えているのだろうか。


 洞窟内の会場に、忌み子とされたアリゼの軍団達が集まってくる。彼女の演説を耳にする為に。


「次の作戦を伝えるわ。ただ、もう少しだけ先になるかもしれない。ただ、覚えておいて欲しいの。私達はまだまだ兵力が、戦力が足りない」


 獣人やオーガ、ゴブリン達が熱心に彼女の言葉に耳を傾ける。


「王宮地下にある、ジャレス様の遺物の奪取。そして、ミランダから資金を貰いパラダイス・フォールにおける兵器開発部門の中心部にいたアナタージャという男の接触。可能ならば、アナタージャを我々の軍団に引き入れる事。その二つを命ずる」

 アリゼは相変わらず歌うような声で、自身の部下達に命ずる。


 隣にいたヴィラガが、何体かのオーガに伝えた。


「さてと。大きな花火の前に、また小さな花火を起こすぞ。先日、エボン・シャドウが南を襲撃した。次は東だ。東の工業地帯であるザッハ・レイドルを強襲する」

 ヴィラガが、言った後に、少し考える。


「だが、気を付けろ。東の工業地帯にはドラゴン達がいた筈だ。我々の戦力でどれだけ奴らの戦力を削れるのか」

 狂乱の女騎士の片腕は念を押す。


「それから、事のついでに、ラジャル・クォーザの天空樹も襲撃する。その部隊をこれから編成する、参加したい者は名乗りを上げろ。先の大戦におけるエルフ共の生き残りがいたならば、根絶やしにしろ。……いや、待て……。あのヒドラへの信仰に縋った者達がいる。黒い肌の連中だ。そいつらはなるべく殲滅しろ」

 ヴィラガはぎらぎらと瞳の奥に憎しみを抱いていた。


 巨大な体躯の鬼であるオーガと、小さな体躯の鬼であるゴブリン達が勇ましく吠えていた。



 今宵は星座が輝いている。

 あれは、巨大な牡牛座だろうか。


 呪性王の聖堂に戻ったイルムの背後には、ホロウとロギスマの二人が佇んでいた。

 もうすぐ、聖堂の奥には、アリゼの軍団から引き抜いた獣人のエボン・シャドウが参入する事になる。


 聖堂は王宮に準ずる程の巨大な塔の建築が進められている。

 その塔の真上から街を見下ろすのは、どれ程に気持ちが良い事なのだろうか。


 建設中の塔の上で、イルムはダンスを踊っていた。

 禍々しい顔のある翼が揺れる。

 それぞれの翼に付いた顔達が笑う。


 帝王ジャレスも、聳え立つ王宮から下々の者達を見下ろしていたのだろう。

 ジャレスの背後には、ロギスマがいた。

 大悪魔の将軍であるロギスマは、今やイルムの傘下にある。


「イルム殿よおぉ、これから、どうするつもりなんだ?」

 ロギスマは歯茎を剥き出しにして笑った。


「決まっている。この世界を私の手中に収める。ねえ、ロギスマ、貴方も私と手を取ってダンスを踊らない? 貴方もかつては、この世界を足蹴にする存在であった筈」

 闇の天使は鼻歌を歌い始める。


「この世界に聖句を刻むのは、ミントでもなく、アリゼではなく、この私。女騎士アリゼが計画を進めているように、この私も進めていく、いずれ全ての国民達は、この私にひれ伏し、この私を信仰するでしょうね」


 パラダイス・フォールが研究していた装置の中には、スクリーンというものがある。

 電気信号をスクリーンに送って、動画を国民達に届ける。

 TVという装置だ。

 今は大型だが、今後は小型する事も可能だろう。


 ロギスマは漆黒の翼を広げて、少しだけ宙に浮かんだ。


「イルム殿、確かに悪くない。俺は権力の座に返り咲きたい。大悪魔ミズガルマ様の片腕として、国王バザーリアンとの外交官としての座に……」

「素晴らしいわ。私の後に付いていけば、それはいずれ手に入る」

 イルムはダンスを止めて、立ち止まると、両翼を大きく広げた。


「いずれ、全面戦争を起こすわよ。アリゼと、そして、帝都の王女であるミントともねっ!」

 イルムは両手を広げて、帝都を手にする仕草を行う。

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