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第六十四幕 それぞれの想いは夜想曲のように。 1


 ミントは必死に仕事に戻っては、すぐに熱で倒れる。それを繰り返している。充分な休息が必要だ。それでも彼女は自身の身体を鞭打って、イルムと一緒に南まで飛んでいった。病状は悪化したのだった。


 ジェドは、疲労と怪我でベッドに寝ていたミントの看病を任される事になった。


「俺。以前、酒に酔って、ミントさんの偽物ですが、その…………」

 ジェドはとても言いづらそうな顔をしていた。

 ミントは詳しい経緯は分からないが、何となく察する。


「気にしていないわよ」


 イルムとハルシャに任されている。

 二人を裏切るわけにはいかない……。


「俺、ミントさんの事が好きなんです」

 ジェドは気付けば、余りにも当たり前のように告白していた。

 それを聞いて、ミントは少しだけ困った顔になっていた。

 ジェドは彼女の表情を見て、完全に玉砕した事を理解する。

 …………、明らかに、どうやって告白を断ればいいか悩んでいる表情だ。ジェドは愕然と項垂れていた。何故、今、勢いで言ってしまったのか。二人きりだったからか、それはジェドでさえ分からない。


 だが、ミントは少しして、余りにも意外な事を口にした。


「このベッド、大きめじゃない? 二人分は寝れる…………」

 ミントは何を思ったのか、とんでもない事を口にした。


「ジェド。……隣で寝ていいよ…………。私の看病して、貴方も疲れているでしょうに」

 ミントは熱っぽく、赤らめた顔で小さく言う。

 余りにも、自然体な程、ミントはそう言うのだった。


「駄目です…………」

 ジェドは首を横に振った。露骨に彼は挙動不審に全身を小刻みに震わせていた。そして、彼はふいに自身の下半身が熱くなっている事に気付く。ジェドはそんなどうしようもない自分を止められないのだ。


「お、お、俺、ミントさんの事を想いながら、ずっと、背徳的な妄想をしていましたから、その…………」

 ミントはジェドの顔を見つめる。

 そして、ふっ、と、彼女は笑う。


「この部屋でね。メアリーの奴…………」

 ミントは屈辱的な顔で言う。


「私の捨てた使用済み生理用品を舐めて、自慰行為していたから…………」

 ミントはわなわなと震えていた。


 …………、…………ジェドは、……それを聞いて、かなりドン引きする。…………。


「…………。いや、マジっすか……?」

「うん、マジだよ」

 ミントは、ジャレスとの戦いの頃、自身の部屋の中の掃除をマトモに出来ずにいた。召使いが足りていないから、メアリーが部屋を掃除すると言ってきたので、ミントは安易にそれを快諾してしまったらしい。……安易な考え過ぎた……。

 

「私の味がした、ってさ…………」

 ミントとジェドは、かなり何とも言えない顔になった。互いに唖然としていた。

 いくら女性に対して妄想ばかり抱いているジェドも、女性が生理の時はしかるべき場所から血を流す事くらいは、流石に“知識”としては知っている。そして、メアリーは血で欲情するのだ。


 ジェドは改めて、メアリーは“そういう性格”であり、平凡な男に過ぎない彼が理解不可能な程の“常軌を逸した変態である女”という確認する。


「後…………」

「うん? なんですか? ミントさん、いや………その……」

 ジェドは半泣きになるミントを見ながら、困惑する。


「私のパンティー、何着か盗まれていたわ。……特に使い古しの奴、あの女、やっぱり全身を雷撃で焼いてやるわ…………っ」

 ミントは全身を小刻みに震わせていた。


 ジェドは再びドン引きしていた……。

 ジェドもまた、以前から頻繁に夜にミントで妄想していた。未成年男子らしく、全力のエロ妄想を行い、ミントでマスターベーションを行っていた……。

 …………、メアリーはその斜め上を行っていた。ある意味で言えば、本当にいつもの事だった……


「ははっ。なんだか、メアリーさん、羨ましいです」

 ジェドは、ミントのパンティーを想い浮かべて妄想を始める。……何色だろうか。

「この馬鹿っ!」

 ミントは力いっぱいに、枕をジェドの顔面にぶつけるのだった。


「い、痛い。怒ったミントさんも可愛いな」

「ふん。私の気も知らないでっ!」

「ちなみに、下着は何色ですか?」

「白よっ! それが何っ!?」

 ミントは今度は、電撃の魔法を唱えて、ジェドの全身に落とす。ジェドは軽い激痛が全身を走り、全身が麻痺して、地面に転がる。ミントは再び、熱が酷くなり、魔法を使った反動によって傷口が少しだけ開く。ミントは、そのまま、気を失う。


「ははっ。ミントさん、やっぱり、優しいわ。物凄く手加減して、魔法ブツけてくれている…………」

 ジェドは這いずり回りながら、メアリーに切り刻まれそうになった事を思い出していた。あの眼、刃物が身体に刺さっていく感覚は、ルブルの城にて散々に虐待されまくった時の絶望は…………正直、メアリーで妄想しようと思わない程に、彼に充分な程、トラウマを植え付けてしまっている……。彼はアンデッド化した少女達の排泄物の味を覚えてしまっている……。笑えない。最低だ。メアリーは鬼で外道な存在なのだ。


 ジェドはミントの頭の濡れタオルを代えながら、以前からもやもやと疑問に感じていた事を口にする。しばし気絶していたミントは眼を覚ます。


「そう言えば、メアリーさんとルブルさん。何で、俺達の処からいなくなったんですかね……」

「実は知っているわ。……少し、ルブルと色々あってね…………」

 ミントは少し複雑そうな顔をしていた。もやもやが、取れない、といった風情だ。ジェドはミントのそんな表情に戸惑う。


「ジェド。その時の話をするわ…………」

 ミントは頭のタオルに手を当てて、大きく溜め息を吐いた。



 ジャレスを倒してから、少し後の事だ。


 魔女ルブルはミントの書斎に入ってきた。


「いい加減にしないと。私がお前を殺すわよ」

 ルブルはミントの、首根っこを掴まえて、睨み付けてきた。


「何の事よ?」

 ミントは首を傾げる。


「メアリーとの関係。何故、メアリーは貴方の事を特別な存在に思っている?」


 ジャレスとの戦いの途中、あるいはサウルグロスとの戦いの途中、終始、ルブルがミントに対して苛立っていた事をミントは見抜いていた。それでも、眼の前の敵を倒す、という事を第一の目的としていた為に、ルブルがずっと我慢していた事にミントは気付いていた。


 ミントはルブルの腕を掴む。


「喉が苦しいわよ。私は関係無い。それは、メアリーの問題でしょう? それと、貴方とメアリーの問題。私はメアリーに友愛以外の感情なんて無いから……」

「でも、王女。ルクレツィアの王女、貴方がメアリーと交流を持ち始めて、彼女の心は惑っている。何がそうさせるのかしら? 貴方は一体、何なのかしら?」

 ルブルはミントから手を離す。


「はっきり言うわ。メアリーは私のモノ。何故、貴方に心移りしていくのかしら?」

 ルブルは、かなり声に怒りが籠もっていた。

 答え次第では、今すぐにでも、憎しみの余り、眼の前にいる少女を文字通り八つ裂きにする。そのような決意を持っていた。


「ルブル。分かったわ。貴方にしか、貴方達にしか出来ない事を頼んでいいかしら?」

「何?」

「サウルグロス同様に、このルクレツィアを狙っている存在がいるとすれば、それを討伐して欲しいの」

 ミントは喉を押さえて大きく呼吸する。


「………………。……分かったわ。メアリーに言い聞かせておくわ。ミントの頼みなら、仕方ない、ってね」

 ルブルは少しだけ釈然としない、といった顔をしながらも、何とか納得したみたいだった。あるいは、これからメアリー側にも納得させようと想いを抱いているのか。


 ルブルは部屋を出ようとした時に、ふと思い至って、ミントに訊ねる。


「ミント王女。貴方は人間なの? それともドラゴンなの?」

「私は…………、ドラゴンだと思う……」

「それが貴方自身を定義付けるものなのね。言い方を代えるなら、私は人では無い。魔女。化け物。そして、メアリーも同じ」

 ルブルは自身の右手を掲げる。

 彼女は死霊術師であり、人間の、あらゆる生き物の死体を弄ぶ事を何とも思っていない。そこにマトモな倫理観なんてものは存在しないのだ。生命を何とも思っていない。マトモな人間らしい感性など、ルブルや、そしてメアリーは持ち合わせていない。


「境界線ってものがあるわ。私もメアリーも元々は人間だったのだけれども、化け物になる事を選んだ。ミント、貴方は人間である事を選ぶの? それとも、化け物である事を選ぶのかしら?」

「私はドラゴン。ドラゴンはこのルクレツィアにおいては貴方の言う意味での化け物……病的で、邪悪で、ただ他者を踏み躙るだけの存在では断じて無いわ。獰猛だけど、理知的であり、極めて誇り高い種族」

「まあいいわ。私とメアリーは、マトモでは無い。ミント、貴方とメアリーは似合わないわ。友達としてもね」

 そう言うと、ルブルは扉を閉めた。


「何とも…………、やっかいね。色々と……。人間関係もね……」


 ミントはソファーに座って、溜め息を付く。

 ルブルとは、もっと根本的な部分が合わない……薄々、感じていたが。

 境界線と言ったか。

 多分、ミントは今後、熟考しなければならない何かなのだろう。そう確信する。

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