小休憩 イルムのクーデレ、ツンデレボイス。
今日はよく晴れている。
砂漠を見ると、砂丘の金色と空の青がコントラストを作り上げている。
闇の天使イルムは、ジェドと一緒にバルコニーで午後のお茶をしていた。
「イルムさん、イルムさん、そう言えば、イルムさんって何属性なんですかね?」
「いや、別に好きに決めてもいいけど? 私、何属性だと思う?」
「うーん、じゃあ、イルムさんはツンデレ系なのかな?」
「クーデレも捨てがたいわね。……ああ、駄目ね。私、茶化すのと煽り気質あるから、ちょっとクールな性格じゃないのよね」
「じゃあ、クーデレ練習しませんか?」
「いいわよ」
ジェドはイルムに、普段から自身の妄想を書き連ねているノートを渡す。
ノートには、クーデレ台詞集なるものが並んでいた。
「貴方に興味は無いの。だって、私は冷たい女だしね」
イルムは恥ずかしげもなく、ジェドの書いたノートを読み上げる。
「かなり、決まってますっ! かなりハマってますっ!」
ジェドは身悶えする。
「貴方の為に、その、やってあげたわけじゃないんだからね」
イルムは顔を少し反らしながら台詞を読み上げる。
「本当に、私でいいの? ふっ、こんなに怪物みたいな翼をしている女、貴方には相応しくないんじゃないかしら?」
イルムはアドリブを入れてみる。ジェドは喜ぶ。
「私ともあろうものが、その、凄くドキドキしているわ。貴方と一緒にいると不思議な気分になるの。分からないわ。どう言葉にすればいいのか、上手く出来ないの」
イルムはつたなく伝えるように台詞を読みあげていく。
ジェドは両手を広げて、万歳のポーズをしていた。
イルムはそんなジェドの大げさなリアクションに、少しだけ、不覚にも、本気で好感を持ってしまう。
「ねえ。今なら、特別に何でもしてあげなくもないわ?」
イルムは少し首をひねりながら、書いてある台詞の一つを読みあげる。
「特別にですか? 本当に特別に今なら何でもしてくれるんですか!?」
「いや、お前、調子乗るなよ。……でも、クーデレって聞こえはいいけど、タダのコミュ障なだけなんじゃ」
「そこがっ! そこがいいんですよっ!」
「……分からないわね」
イルムは台詞集を眺めながら、再び首をひねっていた。
「イルムさん、本当に特別に何でもしていいんですか!?」
「…………。…………、取り敢えず、言ってみなさい」
イルムはジェドが調子に乗り過ぎないように、慎重に言葉を選ぶ。
「この俺をっ! この俺をっ! 踏んでくださーいっ!」
澄んだ青空の下、ジェドは力いっぱいに叫んでいた。
イルムは立ち上がり、椅子の一つを倒す。
そして、おもっきり、椅子を蹴りあげる。
椅子は粉々に砕け散って、空中に四散していく。
「この前、アホの犬野郎蹴り飛ばしたばかりなんだけど……。そうね、ジェド。良い場合のケースを教えて上げる。肋骨の何本かはバキバキに肺に突き刺さって、想像を絶する苦しみを味わう事になると思うわね。呼吸困難になるわよ。悪い場合は、頭蓋骨が砕け、中身が弾け飛ぶと思うわ。それでもやるうぅ?」
「う、うあああああああっ! そ、そ、それは優しく、優しくお願いしますよっ!」
ジェドは蒼ざめた顔になる。
「っていうか、何で、貴方と真昼間から、特殊なプレイをしなければならないのかしら? この変態。…………、そうね。私のお願いも、後で一つだけ聞いてくれたら、その、やらないわけでもないわ。ふふっ、ねえぇ、この変態っ!」
イルムは嫌そうな顔をしながらも…………、…………明らかに楽しそうにジェドの要求に乗っていた。
「イルムさん、イルムさん、今、最高にクーデレでツンデレしてますっ!」
「あら、行けるわね。じゃあ、ちょっと、そこで四つん這いになるなり、何なりしてくれないかしら? 顔を踏めないじゃない?」
イルムはブーツで、床に転がって寝そべるジェドの顔を踏み付けていく。べきべきべき、と、ジェドの頭蓋が軋む音がする。
「ちょ、イルムさん。痛い痛い痛い痛い痛い痛い、ず、頭蓋骨が、頭蓋骨が、あああああっ!」
「この場合、喜んでいるって解釈でいいわよね? 歯の方もいってみようか? それとも、喉とかどうかしら? やられると、呼吸をするのが苦しくなるわよ」
イルムは今度はブーツでジェドの喉を踏み付けていく。
ジェドはのたうち回っていた。
「おい、さっきから、喚いて何をやっているんだ?」
近衛隊長のガザディスが、バルコニーに入ってきた。
イルムとジェドは、一瞬にして、アフタヌーン・ティーを楽しんでいる姿勢に戻る。
近衛隊長は怪訝そうな顔をしながら、その場を離れていく。
「危なかったわね。いや、本当に。恥を晒す処だったわ」
「シチュエーション的に、ミントさんだったら、嬉しいハプニングでしたけど……。ガザ兄さんは…………」
ジェドは汗だくになりながら、両の手で握り拳を作っていた。
「そうだ。ジェド、私のお願い聞いてくれるわよね?」
「えっ。いいですけど? なんですか?」
ジェドは、先程のイルムとの約束を思い出す。
「その、あれよ。カード・ゲームしてくれない?」
イルムは懐から、デッキを二つ取り出す。
そして、ルールが丁寧に書かれている用紙もジェドに渡す。
しばらくして、二人は互いに先行か後攻かを決めるサイコロを投げる。
先行はジェド。…………。
それから、十数分が経過する。
「…………、なんで、モンスターで総攻撃しようとしたら、いきなり、一ターンキルが発生するんですか。おかしいでしょ、おかしいでしょ、そのデッキ、もう何もかもっ! っていうか、なんで、イルムさんのデッキはモンスターが一枚も入ってないんですかっ! なんですか、その特殊条件勝利ってっ! 俺のデッキ、全部、墓地に置かれましたよ!」
「そういう鬼畜仕様のデッキだから。私が先行を取って、2ターン目にコンボが決まる可能性もあるわ。五回か、六回に一回くらいかしら?」
「鬼過ぎますね…………」
「大丈夫。そちらには、手札破壊があるから、私の手札からコンボパーツを抜けば勝てるわよ」
「その戦略、先に教えてくださいよ…………」
「教えたら、対戦する上で面白くないじゃない。ちゃんと読み合いしたり、相手の戦略を見抜くのも勝負のうちなんだから」
「…………、初心者にルール破壊デッキをぶつけてきますか…………」
「ライフをゼロにするだけじゃなくて、デッキを破壊して勝利するのもルールとして正解よ。覚えておきなさい」
「鬼だー! 鬼だーっ!」
二人は長閑にハーブ入りの紅茶を飲みつつ、二戦目を行うのだった。