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第五十四幕 王家の墳墓 1


 王族達の墓所であるピラミッドは、帝都の王宮から少し離れた場所にあった。

 そこで、ジャレスは一度、死んだ後に復活を遂げている。

 それは、斥候達の情報によって、知る事となった。

 

 ジャレスを倒す為の討伐隊のパーティーは、凍土の砂漠を跨る事になる。

 近辺にはラクダに乗った行商人達がいた。


 うねる砂丘が地平線の彼方まで続いている。

 この凍土の世界において、砂漠の生き物達は意気揚々と犇めいていた。


 みな、それぞれ歩いて向かう事に決めた。


 王族の墓所(ピラミッド)は、今や放置されているだろう。

 実質的に廃墟と言ってもいい筈だ。


 そこに奴は潜伏している。


 日が昇っていく。

 今度こそ、ジャレスと決着を付けなければならない……。

 


 砂漠に黒い土煙が集まっていく。

 

 黒い煙からは人型の人形が作られていった。

 砂で作られた人形達は奇怪な声を発していた。


「あれは? 奴の新たなる能力かしら?」

 メアリーはハルシャに訊ねる。


「違う。ピラミッドの(トラップ)だ。王家の墳墓に侵入する者達を抹殺する為に作られたものだ。以前の仕事柄、トラップの管理にも携わった事がある。やっかいだぞ」


<俺が対処しようか?>

 ザルクファンドがハルシャに言った。


 ……トラップを使用してきたという事は……。


 狙いは分断。

 そして、奴は今までのように全員を相手にする余裕はもう無い。ハルシャを襲撃した時と同じ。確実に、一人、一人を追い詰める戦略に切り替えている。


「乗るわ」

 メアリーは言った。


「二手に別れましょう。私達六人全員を相手にするつもりなら、六人を全滅させる為の策を練ってくる筈。でも、私達が分断するのも彼の狙い通りなら、裏の裏をかいて、分断を止める、という手段もあり得る。ハルシャ。貴方が決めて。もし、パーティーを分断させる場合、どの組み合わせが良いのかも」

「ああ。分かった」


 ルブルはハルシャと同じように“次元を渡る”事が出来る。つまり、ジャレスに異世界を作成された場合、それに対処出来る能力の持ち主が必要となる。


 ジャレスが次元を渡って、別の世界に向かった場合、ルブルかハルシャの能力は必須になる。なので、二人を分けなければならない。


「では、パーティーの組み合わせを決めるぞ」

 ハルシャは少し、意外な組み合わせを決めた。



 グロテスクな色彩を放つ、巨大サソリが部屋の天井を張っていた。

 赤い色の水がピラミッド内にある水路を流れていた。

 巨大なワニの怪物達が水路を徘徊している。ジャレスが餌を水路に落とす度に、ワニ達はそれに飛び付く。新鮮な生肉を好む怪物達だ。


 どちらの怪物も、この王家の墳墓を守る番人達だった。


 ジャレスは宝石の散りばめられた玉座に座りながら、彼らが此方に近付いてくるのを待つ事にした。全員、殺すつもりでいた。


 壁には神聖文字(ヒエログリフ)が描かれている。

 魔法によるトラップは、このピラミッド全体に張り巡らされている。


 一つの人影が現れる。

 

 ミントだった。

 彼女が部屋の中へと入り込んでくる。

 彼女背中には、ドラゴンの翼がはためいていた。


「このピラミッド。途中に通気口があるわね。私も墓所の中はある程度、知っていたから。貴方らしいわね。王座の間にいるなんて」

 彼女はクレリックの杖を向けた。

 いつでも、ジャレスに自身の魔法を向けられる算段でいた。


「ピラミッドの構造を知っていて助かったわ」

 後ろから、メアリーが現れる。


「二人だけで来たのかい?」

 ジャレスは玉座から離れない。

 自信と……自らの命を顧みない意思がそこにあった。


「まあ、いいさ。二人揃って、殺されに来たんだろう?」

 彼は右手の剣を何も無い空間に向けて振るう。


 彼だけの世界が作成される。………………。


 彼は彼だけの世界へと逃げる。

 この世界から襲撃すれば、一方的にミント達を殺せる筈なのだ……。



「消えたわね」

 ミントが言う。

「メアリー。どうする? どうやって倒せばいい?」

「貴方の父親が動いてから、奴の背後に“女神”なるものはいなかった。奴はもう敗北を覚悟していると思うわね。でも、一人でも私達の誰かを道連れにしたいんじゃないかしら?」

「そう…………」

「ミント」

 メアリーはキツめの口調で言う。


「もう私達の誰も死んではならない。ジャレスを倒す事が目的ではなく。ジャレスを倒して、国民達に希望を与える事。転生の宗教ではない、死後の世界ではない、今、この世界において、国民に希望を与える事。だから、私達の誰も死んではならない。分かるわね?」

「分かる、わよ…………、……」

「貴方はジャレスにしか執着していない」

「もう、それは聞き飽きた」

「まあ、いいわ」

 メアリーは鉈を手にする。


「別の世界を自由に行き来出来るのは、ルブルも同じ。奴の能力は“彼だけの世界”を作れる、という事。ルブルはその世界に入れるのかしら?」

 ジャレスの作り出した世界に入り込む事が出来れば、倒せるのではないのか?



 もし、この戦いが終わったら。

 別の次元いせかいに行ってみたい。別の新たなる世界に。


 そして、色々なものを見て回りたい。


 ハルシャにその力が与えられた。

 彼に付いていけば、あらゆる多次元世界を回れるのだろうか?

 ミントは、そんな事を考える。


 別の世界、別の次元には、様々な文明があって、自分達の世界にある魔法とは違った位相を持った超能力と仮に呼ばれるものも存在する。


 他の文明も見てみたい。


 この世界にはルクレツィアという国家しか無いと言われて、ルブルやメアリーはおかしいと言った。別の世界においては、様々な国家が存在するのだと。ミントはこの世界の文明や価値観、物の考え方しか知らない。だから、こんな世界など出て、新たな世界を見てみたい。


 ジャレスへの怨恨から解放されるには、それしか無いのではないかと思った。

 自分自身を苛む存在は、たとえ相手を死刑にしたとしても、相手が死んでしまったのだとしてもトラウマとして残り続けるだろう。ミントはそう確信している。それ程に、ミントの幼少期の傷は深い爪痕を残してしまっている……。


 なら、外に出よう。

 この世界の外に。


 …………。…………、…………。


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