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第五十幕 命運を分ける者達。……ミランダとの決着。

<一応、重力魔法を放って、追撃を行っていたんだがなあ。それも掻き消された>


 ルブルを背中に乗せていた、ザルクファンドは翼をはばたかせながら告げた。


<想定よりも、奴の“存在を掻き消す能力”はやっかいだぞ?>


「私達、これから呪性王の拠点の廃墟へと向かうわ」

 クレリックの少女は言った。

 彼女の眼は執念に燃えていた。

 彼女はもはや、ジャレスを殺す事しか考えていない。

 きっと……、その後の事など考えていないのではないのか?


 メアリーとハルシャは顔を見合わせて、互いに不安そうにミントの背中を見ていた。



「イブリア様」

 コカトリスの獣人である、イードゥラが大ピラミッドへと降り立った。


「ラジャル様がお会いしたいそうです」

 彼はうやうやしく、ピラミッドの前で礼をする。

 砂塵が、あの四つ頭のヒドラの臣下の頬に舞い当たっていく。


「ラジャルか。また、この俺に苦言を言いに来たのか?」

 ピラミッドの扉から、一人の男が現れた。

 イブリアはターバンを巻いた、人間の青年の姿で現れる。


「はい。……昨夜、空に巨大な幻が現れたのはご存知ですか? この現世にて、ルクレツィアに生きる者達全てが幸福な未来を描いている、といった幻です。都市は復興し、人々が笑顔で活力が漲っている姿の幻を…………」

 イードゥラは嬉しそうな顔をしていた。


「貴方の御力なら、ルクレツィアの者達全てに“声”を届ける事が出来るのではないですか? ラジャル様は二度と悲劇を繰り返させない事を切に願っています。彼は配下のエルフ達の殆どを失いました。わたしもとても心を掻き毟られている。悲劇を繰り返させてはならない」


 イブリアは無言で彼の話を聞いていた。


「おそらく、あの幻はあの幻影使いの女の力。そして、貴方のご令嬢、その仲間達の思惑では? イブリアさま、転生の信仰だけでなく、ルクレツィアの者達は貴方への信仰も根強く持っています。どうか、我らのお力になって頂けませんか? それをラジャル様は望んでいる」

 そして、再び、コカトリスの獣人はうやうやしく礼をする。



 ガザディスは、ミランダを追っていた。


 戦いの場所を、彼女は何処に指定するつもりなのだろうか?


 場所は山か? 森か? それとも砂漠か? 廃墟か?

 分からないが。

 とにかく、これで逃すわけにはいかない。

 向こうもそのつもりでいるのだろう。


 彼は岩山を走り続けていた。

 途中。

 何かが音の速さで飛ばされてくる。


 ガザディスはそれらを大地の精霊の力によって弾き飛ばしていく。


 水の弾丸。

 それが、彼の喉や心臓を正確に狙ってきた。


 敵も決戦の場を探しているのかもしれない。


 どんどん、山奥深くなっていく。

 この辺りは、邪精霊の者達が狩り場にしていた場所だ。


 ……森の奥に誘い込むつもりか? なら好都合だ。俺の魔力を最大限にまで引き出せる。


 何か木々がへし折れる音が聞こえた。

 やがて、轟音が鳴り響いていく。


「んっ?」

 彼は首をひねる。


 何かが向かってきた。


 それは大洪水だった。

 そういえば、この先に滝があった。

 その滝の水を操作して、山全体に大洪水を起こしたのだろう。

 ガザディスは近くの木の上に飛び乗る。

 水に流されれば、動きが取れなくなる。

 彼は大地に魔法を掛けて、岩や樹などを肉食動物のような姿へと変えていく。これで此方の臨戦態勢は整った。後は敵がどう動いてくるか、という事だ。


 空から。

 雨が降り注いでくる。


 ガザディスは作り出した怪物の一体を自身の上へ被せる。

 凄まじい散弾となって、雨は刃のように落下してきた。

 

 ……敵もかなり本気だ。……持久戦に持ち込むつもりか……。


 此方の動きは読まれているから……。


 次第にガザディスがいる樹木は陥没していく。いや。

 この辺り一帯の地面が沈んでいっている。

 彼は泥に沈み込むように、水の渦の中へと飲み込まれていった。



 呪性王の拠点、地下。

 おそらくは、別世界への入り口の場所。

 洞窟が広がっている場所だった。


 かつて奴隷商人達の王、カバルフィリドは呪性王の闇の天使と奈落の王の二人を裏切り、呪性王の齎す暗黒の力を帝都に奉げたと聞く。おそらく、剣闘士達の戦いは、呪性王の儀式か何かをイメージして持ち込んだものなのだろう。

 この洞窟の最深部に、おそらく、ジャレスはいる。

 何らかの形で、呪性王、最後のギルド・マスター、奈落の王ゾア・リヒターと取り引きを行ったのかもしれない。


 以前、ハルシャが破壊した橋は直されていた。

 橋の先に、二つの人影が現れる。


 一つは悪魔の姿をしていた。

 コンドルの翼を持つ怖ろしい形相をした悪魔、ロギスマだった。

 もう一人は子供だった。幼い少女だった。

 彼女は暗殺者の服装に身を包み、両手におそらく毒が塗られていると思われる短剣を手にしていた。ルズリムと言ったか……。


「貴方達がそこにいるという事は、その先にジャレスがいるのね」

 少しだけ遅れてやってきたミントは訊ねる。


 敵二人は無言だった。


 ハルシャは……。

 牽制として、問答無用で、デス&タックスの不可視の剣の切っ先を向ける。本来、剣がある場所から何かが照射されていく。ハルシャの魔法は空間をまるで蛇のようにうねりながら、次々と爆発させていった。爆発の衝撃がロギスマとルズリムの方へと向かっていく。


「姿を見せた、俺達は囮だぜぇ」

 悪魔は歯茎を見せて、にやにや笑う。

 見えない天井から、何者かが、ミントとハルシャへ向けて襲撃してきた。両手に刃を手にしていた。


「知っているわ」

 更に、ミントの先に遅れて到着する。そして、そのまま……。

 天井に張り付いていた曲者の両腕を、手にしていた鉈で切断していた。


 ハルシャは現れた男の顔を見る。

 かつて、共に王族護衛軍に所属していた者だ。


「ロガーサか……」

 彼の素顔が現れる。

 三十歳程度の年齢の優男だった。

 彼の首も、メアリーの追撃によって落とされる。

 そのまま、ロガーサの死体は地底深くへと落下していった。


「貴殿、やはりジャレスの部下だったんだな…………」

 ハルシャは無感動のまま、落下していく、かつての友人の姿を眺めていた。



 山頂へ繋がる道の途中の洞窟の中だ。


 そこは、地底湖へと繋がっていた。

 所々に冒険者達の死体のなれの果てが古い白骨となって散乱している。この辺りで宝石や医療に効果のある特殊な薬草などが採取される。その道中に洞窟の中に住まう怪物達に襲われて、命を襲われたのだろう。


 ミランダはドレスを纏いながら、悠然と佇んでいた。

 だが、彼女のかつての面影は無い。

 所々が火傷によって焼け爛れ、片目は潰れていた。


「元盗賊の頭ガザディス。せめてお前だけでも道連れにする」

 彼女はそう宣言する。

 彼女はまるで、羽衣のように、水を周辺に揺らめかせていた。


 ガザディスは大剣を握り締めて、眼の前の敵を睨んでいた。


 彼女の背後に存在する地底湖から、まるで沸騰する溶岩のように、水が泡立っている。


 勝負は……、一瞬で決着が付くであろう。


 地底湖の水が空中へと伸びる。

 それは、大海蛇のような姿へと変わっていた。

 そして、そのままガザディスを丸呑みしようと襲い掛かる。


 ガザディスの背後の地面が盛り上がる。

 まるで、獅子や虎のような姿となった岩の怪物が大地から生まれてくる。


 互いに、それぞれの魔法を、精霊の具現化として操っていた。

 互いの魔法が激突する。


 勝負は……、数秒後に決着が付いていた。


 水の巨大海蛇はガザディスを呑み込む事は無かった。

 ミランダが放った水の刃が、ガザディスの胸元を貫き、腹の辺りを裂いていた。

 ガザディスは、そのまま、地面に倒れる。


 対するミランダは微笑んでいたが。

 彼女の頭蓋と胸は、ガザディスの放った大地の怪物達によって喰い破られていた。


「惜しい、わね……。もう少しで勝てると思ったのに」

 ほんの数秒の遅れだった。

 ミランダはそのまま地面に倒れて、絶命した。


 ガザディスが口から血を吐き散らす。

 どうやら、急所は外れているみたいだった。


「みんな。やったよ……」

 元盗賊の頭は、かつて死んでいった仲間達の顔を思い浮かべる。そして、スラム街にいた者達。果樹園に実り、残酷に処刑された者達の顔を……。


 帝都を裏から支配していた武器商人、金融業者のグループであるパラダイス・フォールの代表の一人であり、生き残りであったミランダは、かつて帝都への反乱を企て、革命を願い続けた男、ガザディスの手で倒されたのだった。

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