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第四十八幕 敵の『世界』への追撃。 1


 ジャレスが復活して、再び、ミント達に宣戦布告を行ってから、一日が経過していた。


「メアリー。もう一度、この俺と手合わせ願えないか?」

 宮殿の庭の中、草木が生い茂っている場所があった。


 ガザディスは大地の魔法の精密度を上げて、より強力なものへ変えようとしていた。その過程で編み出したのは、大地の精霊から力を借りるものだった。

 ガザディスの周辺には岩や木で作られた巨大な怪物達が生み出されていた。

 それらは、獅子や大トカゲのような獰猛な生物の姿に似ていた。


 メアリーはふん、と鼻を鳴らす。


「まあ、一応、私に勝つ事をちゃんと考えてきたのね」

「ああ。ハルシャにも負けられないしな」


 二人がそうやり取りしていると。

 二人の間に、伝令が現れる。

 リザードマンの青年だった。


「お二人共、ただちに、正門へと向かってくださいっ!」

 彼は息を荒げていた。



 ルクレツィア王宮、正門。

 そこは、所々に樹木が生えているが、それ以外の場所には、広漠とした砂漠が広がっている。


 その入り口には、何名かの死体が“手紙”として身体中に文字が彫られた状態で送り付けられていた。


‐大闘技場があった場所で待つ。人間は幾ら増えてもいいけど、必ずミントとハルシャ、メアリーの三名を加えてくる事。‐


 そう記されていた。


 メアリーは死体を確認する。


 既に、ミントとハルシャは正門に辿り着いていた。

 二人とも、険しい顔をしていた。


「貴方達の見解によると、ジャレスの能力の正体は『異世界に転生した後、新たなる強大な能力をもう一つ手に入れて復活を遂げる力』だと考えているわけね」

 メアリーは神妙な顔をしていた。


「余りにもふざけているけど、それが今の奴の力の全貌だと私達は見ているわ」

 ミントは歯を食いしばり、悔しがっていた。……このままでは、勝てないのだ。


「ふうん。大闘技場か。奴隷を剣闘士にして戦わせていた場所ね」

 メアリーは思考を巡らせていた。


「私が奴ならば、まず何度も、自殺を試みてみるわね。死ぬ度に強力な能力を手にして戻れるんでしょう? 本当に新たに手にしたのが二つだけとは限らないわね」


「もっともな話だ」

 ハルシャは頷く。


「もし、その場合。私ならば、確実に、敵を始末出来る能力を手に入れてから、敵に挑むわね。私達に勝算は何も無いわ」

 メアリーは断言した。


「そうなの!?」

 ミントの声は裏返る。


「当たり前でしょう? 私ならサウルグロスのオーロラ並の能力や、デス・ウィングの大気全体を自在に操作出来る能力並の力を確実に三つか四つ手に入れてから、敵に挑むわ。その方が確実だから。その方が極めて合理的でしょう?」


 ミントは黙って歯噛みする。


「私達に勝ち目はまず無い、と…………」

「ジャレスの性格上。戦いを楽しんでいる節はあるけど、確実に私達への復讐を果たしたいならば、とっくに大スラムの中で、私達は倒されてしまっている。でも、私達は勝利した」

「あれは…………、ジャレスが楽しんでいただけでは……?」

「どうかしら? 私の考えだけど、転生には条件がいる気がするのよ」

「条件だと?」

 ハルシャは首を捻る。


「たとえば“敵に殺される事”が転生の条件の可能性が高い。何故、奴は自ら自殺して、新たに延々と転生を続けないのか? それは自殺では発動しない可能性があるから」

 彼女は極めて冷静に考えていた。


「で、ジャレスを倒す方法だけど。奴が転生される事を封じるしかない。たとえば、脳死って死んでいる状態なのかしら? 脳は死んでいるけれど植物人間といった状態だとか。他にも私なら死なせずに延々と生かし続ける拷問なら幾らでも思い付く」

 彼女は極めて、それらしい怖しい事をさらりと言った。


「奴は無敵でも不死身でも無いわ。必ず弱点がある。倒すわよ。二度と、この世界に戻ってこられないようにっ!」


「幾つか考えていたんだが」

 ハルシャは言う。


「死後に異世界へと向かっているのか? どのような世界だと思う?」

「分からないわ。マズイのは、その異世界で特殊な技術を此方の世界に持ち込んでくる事。他の世界にしか存在しない法則の魔法とか兵器。それらを持ち込める事が可能だとするならば、その視点も考慮しなければならない」

「成る程な…………、極めてやっかいだ」

「それから、奴の背後にいた、女神とかいう存在。あれは奴の転生と復活に関係しているのか。ハルシャ、あれは確かに貴方が二つに切り裂いていたわよね。あちらの方は果たして倒せるのか?」

 ミントとハルシャは首を横に振った。

 …………、倒せる感じがどうにもしないのだ。

 縦に二つに分けたのに、あれも甦ってきている。


「まず奴を脳死させる事に決めたわ。心臓は動かしたままね。それでネクロマンシーの技術でも、特殊な魔法の技術でも何でも使って、奴を永遠に死なせない状態に持ち込む事。まず、頭蓋を割って、重体へと追い込むわ」

 メアリーは合理的にエゲツない事を口にしていく。


「脳死が人体としての死と認定する場合、一度は転生と復活を許す事になるな」

「ええ。一度は新たなる能力を与える事を許す事になるわね」

「脳死が駄目だった場合、次の策はあるのか?」

 メアリーは右手を翳して。


 すかさず、ミントの額に触れる。


「『クラウディ・ヘヴン』」

 メアリーに額を触れられたミントは、明らかに異常な表情をしていた。そして、周辺を見渡す。見えない何かを見ているみたいだった。


「そこにいるの? ジャレス?」

 彼女は口走る。



「アダン、ラッハ……、ゾアーグもいる。…………、ねぇ、私は生きているよ。まだ、そちらに行けない…………、ねえ、何で、そんな顔するの?」

 彼女は涙を流し、全身から冷や汗を垂れ流し続けていた。

 そして、歯をがちがちと震わせていた。


 そして、ミントは凄まじい形相になって。

 いきなり、周辺に稲妻の球体を撒き散らし始めた。


 ハルシャとメアリーは、彼女の攻撃を後ろに飛んで避ける。

 そして、メアリーは再び、ミントの額に触れる。


 しばらくして、ミントは正気に戻ったみたいだった。


「あれ、そこにいたジャレスは? その他にも……」

「私の能力を喰らって貰った。『クラウディ・ヘヴン』と言って、触れた相手の精神に幻影を見せて、その人物のトラウマを呼び覚ます。上手くいけば、半永久的に対象を精神の幻影の中に閉じ込める事が出来るわ」


 ミントは、能力の説明に利用された事と実験台にされたに気付いて、ブチ切れながら、メアリーへ向けて、炎の槍を撃ち込んでいった。メアリーは巧みにそれらを避けていく。


「今すぐ殺してやるメアリーッ! 私の心の傷を弄んでっ! 殺してやるわっ!」

 彼女は口腔から、炎のブレスを解き放とうとする。


「まあ、問題は」

 メアリーは幻影による分身体を生み出して、ミントの攻撃を攪乱しようとする。


「このように、敵を余計に怒らせて、正気に戻った時は、発狂したように力を発揮される危険性もあるわ、なので使い処が難しいけれど、これでジャレスを嵌める事が出来るかもしれない。ちゃんと覚えておいてね、ハルシャ」


 そう言いながら、全力で怒り狂ったミントに特大火球や特大の炎のブレスを浴びせられ、それを避け、防ぎながら、メアリーは丁寧に講釈を続けていた。


「今すぐ灰にしてやるわ、メアリーッ! この腐れ外道っ!」

 ミントの炎の攻撃の猛攻を、同じように炎の幻影で相殺しながら、メアリーは飄々とした顔をしながら、まったくミントに対しての悪気も無く、そのまま思考を続けていた。


「で、奴に関しての考えはまだまだ、幾つも予想出来るけど」

 いよいよ、周辺一面に炎の渦が巻き散って、周囲にいた警備兵達はミントの凶行を止められずに、傍観したままでいたのだが。メアリーは容易くさばき切っていた。


「何度目の転生なのか? 転生による復活以外で、本当に新たに手に入れた強力な能力は存在を消滅させる能力と敵の能力をコピー出来る能力の二つだけなのか? 転生した先の世界で何らかの行動を起こして、私達が不利になる何らかの状況を作っているのか? それから、一番、重要なのは」

 メアリーはミントの背後に回る。

 そして、実体化した細身の鈍器でミントの頸椎を殴った。

 そのままミントは地面に倒れて気絶する。


「私達は、ジャレスが転生した場所へ行けるのか? 奴が一度、死んだ後、追撃として、奴が転生した先へと向かう事が可能なのか? ちょっと考えただけでも、此処まで、色々、思い付くわ。未だ、完全に奴の力の全貌は未知のものなのよ。そういう事で、すぐに奴の挑発に乗るのは、得策とは言えないわね。闘技場へ向かうのを延期出来ないか、ジャレスと交渉出来ないかしら?」

 メアリーはミントを背負うと、宮殿の中へと向かっていった。


「本当に厄介だな。そうだな、俺は、お前の言った事も踏まえて、ザルク辺りの考えも聞いてみたい」

 ハルシャも、宮殿の中へと向かう事にした。


 後には、燻る炎の残り火ばかりが宮殿の周囲に巻き散っていた。


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