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第四十七幕 この最悪なる世界 2


 会合の場だった。

 そこで、サウルグロス討伐の時のように、あの戦争にて、生き残ったメンバー達が集まっていた。


「ミランダとロギスマが生きている」

 ガザディスは神妙な顔をして、宮殿にいる者達に伝えた。


「みな、力を貸して欲しい」

 元盗賊団の長は握り拳を作る。


 クレリックの長サレシアと魔女ルブルが、お互いに険しい顔を向けていた。やはり、どうしてもいけ好かないのだろう。


 ドラゴン魔道士であるザルクファンドが会合の場に現れる。


<おい。お前ら、奇妙な子供達が、ルクレツィア中を徘徊しているようだな。手掛かりが欲しい>

 ザルクはそう告げた。


「ブラウニー・キッズと言うらしい。ジャレスが育てていた暗殺部隊だ」

 ガザディスは、とても不愉快そうな顔をしていた。



「貴方達、どうせ子供だからって躊躇っているんでしょう?」

 メアリーが部屋の中に現れる。

 彼女はいつものように、戦斧を手にしていた。


「汚れ役は、この私が引き受けるわ。子供だろうが何だろうが、一人残らず殺す。ジャレスの配下やパラダイス・フォールの残党。そう、今の王女様、ミントの敵となる者達は私達全員が皆殺しにする。それで何も問題無いわよね?」

 メアリーは極めて合理的に残忍な事を口にしていた。


「子供だぞ?」

 ガザディスはテーブルを叩く。

「あれは矯正不可能。殺す以外に選択は無いわね。王女様を危険に晒したいの?」

 今や近衛隊長となった男は全身を小刻みに震わせていた。


「幾らでも貴方から恨まれて上げるわ。どうぞ。でも、私は奴らは一人残らず殺す」

 魔女のメイドもとい、北のギデリアの守護者、王女の防衛者となったメアリーは、無慈悲にそう告げた。

 サレシアも、少し不快そうな顔をしていたが黙っていた。


「なあ、メアリー」

「何かしら?」

「俺に稽古を付けてくれないか? 今、この場にいないハルシャと王女は、訓練場にいるんだろう? 俺はミランダと再び相対して、死ななくて良い命を失った…………」

 ガザディスはとても悔しそうに言う。


「いいわ。じゃあ、貴方、訓練場に来なさい。稽古を付けて上げるわ」

 メアリーは、らしからぬ事を言った。

 ガザディスは礼を言う。

 

 会合の中にいたジェドが手を上げる。


「すみません、メアリーさん」

「何?」

「この俺にも、稽古を付けてくれませんか?」

 彼は深々と頭を下げる。



 戦士達の訓練場だった。

 ハルシャはジャレスの手にしていた刀身の無い剣を振るい続けていた。

 ミントが炎と稲妻、それらを融合させながら、ハルシャの動きを見ていた。


「ミント」

 ハルシャは背後にいる、自らの妹分のような存在の名を呼ぶ。


「何?」

「ジャレスの武器である、この刀身だが、何かを感じるか? たとえば、ジャレスの思念が取り憑いているとか」

「…………、感じないわ。でも、彼は生きている。おかしい……、以前よりも、強くなって、再び、戻ってくるような感覚がする」

「そうか」


 ハルシャは刀身から、炎の槍を生み出した。

 そして、炎は次第に風の刃を帯びていく。


「やはり、中々、強力だな。この剣は」

 ミノタウロスは驚きの声を上げていた。


「ミント、もう少し、広い場所へ移ろう。こんな狭い場所ではまるで我々の訓練にはならない」

 クレリックの少女は頷く。



 訓練場には、サレシアとルブルも呼ばれる事になった。


 それぞれ、ジェドとガザディス。そして、メアリーの怪我の治癒の為だった。


 ルブルは面倒臭そうな顔で、訓練内のベッドに横たわって何冊かルクレツィアで出回っている絵本をパラパラと読んで、けたけたと笑った後、すぐに飽きたのか、すやすやと眠っていた。

 サレシアは三人の戦いを神妙に見守っていた。


「まず、ガザディス。結論から言うと、貴方、あのミノタウロスのハルシャより弱い」

 メアリーはストレートに辛辣な事を言った。


「ううむ、そうか…………」

 近衛隊長の男は顎を摩る。


「そういえば、ハルシャとミントの二人は、別の訓練場で修業中らしいわね。話を戻すと、貴方、防御魔法と大剣の強化。剣による衝撃波などの攻防が得意なんでしょう? でも、ハルシャは似たような系統の魔法を使って、貴方の上を行っている」

 メアリーは、しっかりと戦力計算をしているみたいだった。


「貴方の攻撃力の数値が50だとすれば。ハルシャは120くらい。防御性能の数値が50だとすれば、ハルシャは200くらい。敏捷力でもハルシャは貴方の倍以上はある。私は彼と共闘したから分かるわ。ハルシャは間違いなく、強い」

 メアリーは意外と、あのミノタウロスを高く評価しているみたいだった。

 そして、彼女はジェドの方を見る。


「で、ジェド。貴方はもう、お話にならない」

 容赦無かったが、ジェドは今更だよなあ、と顔を背ける。


 メアリーは黒板にチョークで、おおよその戦闘力の数値を書いていく。


「で、ミランダ。貴方達の話なんだけど、水を飛ばす斬撃を使い、切り刻まれても、自らの肉体を血液操作を使って再構築する力がある、と」

 彼女はチョークで、その事も記した。


「どっからでも掛かってきなさい。ああ、そうそう。ルブルとサレシア、貴方達は外に出ていて、こいつら全力で半殺しにするから。巻き添えになるの嫌でしょう? で、ガザディス、ジェド、貴方達は、本気で私を殺すつもりで挑みなさい」


「無茶はしないで下さいね、三人共」

 サレシアは頷く。

 ルブルは起き上がると、面倒臭そうに部屋の外に出た。


 メアリーは両手に、幻影の大型の鉈を実体化させて生み出す。


「この訓練場。大量に色々な武器が揃っているわよね。お好きに私に挑みなさい。殺すつもりで来なさいね? 私、アンデッドだから、大した事じゃ死なないから」


「ああ。礼を言う」

 ガザディスは部屋に置いてある大剣を手にする。

 ジェドも細身の剣を手にする。


 メアリーは。

 跳躍して、二人の後ろに回る。

 そして、ガザディスの脇腹に強烈な蹴りを入れた。

 ガザディスは昏倒して倒れる。

 ジェドは細身の剣でメアリーに切り掛かろうとする。

 メアリーは鉈でジェドの剣を弾き飛ばす。

 そして、もう片方の手に持った鉈の背をジェドの背中に叩き付ける。

 二人共、簡単に地面に突っ伏した。


「あのね」

 メアリーは鉈を手にして、呆れた顔をする。


「貴方達、弱い。ってか、特に元盗賊。貴方、殺すつもりで来いって言ったのに、そのザマなの? 魔法を使っても良かったのよ」


 ガザディスは脇腹を押えながら、立ち上がる。


「…………っ! 凄いな。見えなかった」

「見えなかったじゃないわよ。やっぱり、貴方、ハルシャより遥かに弱いわ。あのミノタウロス、本当に実力者ね。貴方、よくあの暗黒のドラゴンとの戦いで生き残れたわね」

「ああ。ハルシャには、本当に助けられた…………」


 メアリーは少し考える。


「…………、どうやら、貴方、極限状態だと実力以上のパワーが出せるタイプ? ハルシャと共闘していたんでしょう? 訓練だと思って舐めているわね」

 メアリーは、とんとん、と鉈で地面を叩いた。


「そういえば、最近、盗賊、夜盗の類が増えているわよね。全員、王女様にとっての敵になる可能性があるから、この私が殺して回ろうかしら?」

 メアリーはそう挑発する。

 ガザディスは奮い立って、大剣をメアリーへと振るう。

 確実に首を切断しにきていた。

 だが、メアリーは、首を後ろに動かして、彼の斬撃を紙一重で避ける。


 そして、彼女は全身をねじらせて、ガザディスの足首を蹴り飛ばした。彼は勢いよく転倒する。


「はい。駄目。でも、今の動きは良かったわ」

 メアリーはそう言いながら、立ち上がろうとしているジェドの頸椎に鉈の背を当てる。ジェドは再び、地面に突っ伏した。彼は口から文字通りの血反吐を吐いていた。


「少し、……容赦無いな」

(ミランダ)だったら、とっくに貴方達二人共、水の刃でバラバラにされている。違う?」

「…………、違わないな」

「宜しい」


 メアリーは面倒臭そうな顔で、両手の鉈を後ろに放り投げる。


「貴方達、体術で私に負けてどうするのよ?」

「いや、しかし、メアリー。貴方は、本当に…………、魔女ルブルと二人だけで、北のギデリアを制圧しただけの実力があるんだな…………」

「当然でしょう」


 ジェドは、メアリーが人外の動きをしていたのを知っていた。

 今の処、彼女の動きに付いていっているのは、他ならぬ人外であるハルシャとミントの二人だ。ジャレスとの戦いを遠くから眼にして、よく分かった。


「もう、正直、面倒臭い」

 メアリーはそう言うと。


 背後から、何かの幻影を実体化させていた。


 それは、渦巻く水流だった。


「そのミランダとか言う奴の動きを再現して上げるわ。心して避けなさい。貴方達をバラバラ死体に変えるつもりで発射させるから」

「ははっ。本当に、鬼教官なんだな」

「私なんかに、稽古を頼む貴方が大馬鹿者なのよ」

 メアリーは舌舐めずりをする。


「せいぜい、死体にならない事を祈るのね」

 水の刃は実体化を終えて、二人に発射されていく。



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