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第三幕 国家を滅ぼす者達。 2


 やがて、兵士選抜の試験が終わって、兵士達の第一部隊は作られた。


 兵士達は砂漠を行進していく。

 大悪魔ミズガルマの下へと向かっていった。

 みな、高揚していた。

 剣や魔法を手にして、悪魔の王に挑もうとしていた。復讐と、国の平和の為に……。


 蜃気楼のようだった。

 凍える砂漠の夜、悪魔の住むとされる谷へと向かう道中に、そいつは現れた。


「貴方達は、私の兵士に引き抜きたいと思っているの」

 メイド姿の女が、一人、無防備に、砂漠の砂煙に晒されながら立っていた。

 女一人の細腕で、巨大な戦斧を手にしている。

 彼女の口調には抑揚が無く、まるで今日の天気は曇りね、といったような、日常会話でもしているような言い方だった。

 

「なんだ? お前は? 魔法使いか?」

 兜をかぶった兵士の一人が、訝しげな口調で訊ねる。


「私の名前は、メアリー。憎悪を撒く者」

 兵士隊長が、その女に歩み寄る。

 

「なんだ? 貴様は我々はこの砂漠を進軍して、大悪魔を討伐しに向かうっ!」

「あらそう? その大悪魔も、私と私の伴侶が殺すわ。貴方達はルクレツィアではなく、私の下で働きなさい。これはお願いではなく、命令」

 だが、その声音は何処までも殺意に満ちていた。まるで小さな虫でもひねり潰すような……。


 メアリーは、左手を掲げる。

 ぼんやりと、まるで蜃気楼のような炎が兵士達の辺りを彷徨っていた。


「私は幻術使い。幻を使うの」

 彼女の口は、何処までも嗜虐的だった。

 まるで、小さな昆虫をひねり潰すような口調だった。


「貴方達、ルクレツィアは輪廻を信じている。転生後の世界の為に生きて、戦っている。だから、私は貴方達に“第二の人生”を贈ろうと思っているの」


 それは突然の発火だった。

 兵士達の数多くが、突如、出現した炎によって生きたまま火あぶりにされる。生きたまま、火刑にされていった。人の肉の焼ける臭い。


「黒焦げになって、私の伴侶、ルブルに仕えろっ!」

 炎は燃え広がっていく。


「私とルブルを神と崇めなさいっ!」

 兵士の一人が、氷の魔法を使って、メアリーを襲撃しようとしていた。だが、氷の弾丸は、メアリーの巨大な斧によって弾き飛ばされる。


「貴方達の死は新たなる始まり。そう、第二の人生の夜明けねっ!」

 悲鳴と焼ける臭いによって、メアリーは陶酔感に浸っているみたいだった。


 大地が振動している。


 兵士の何名かが、その場から逃げ出す。

 だが。

 突如、地中から現れた、巨大なカマキリの大鎌によって逃げた兵士達の首がはね飛ばされていく。


「駄目でしょう、メアリー。貴方ばかり目立って」

「ふふふっ、そうね。ルブル、私だけが楽しんでは、駄目よねえ?」

 メアリーの左腕は、炎の蛇によって包まれていた。


「平等に楽しまないとね」

「まあいいわ、私は私で、楽しませて貰うわねっ!」

 メアリーは左手を天へ向かって掲げる。


 すると、焼死体となって地面に横たわる者達が立ちあがっていく。

 そして、死体は集まっていき、一つの怪物になった。

 それは、大きな燃える犬だった。

 人間の死体が集まって、組み合わさって、燃える大きな犬へと変わっていった。


「炎のゾンビ犬よっ! どう? 素敵でしょう?」

「中々、良い発想ね」

 メアリーの舌舐めずりは止まらない。


 生き残った半数以上の者達は、この二人の襲撃者に対して、完全に恐怖していた。村を襲った奇形の巨人どころの話ではない。まず、この二人が帝都にとって危険なのが分かった……、自分達の力はどうする事も出来なかった。


 メアリーは斧で近くの兵士達の首を落としていって、遠くにいる兵士達を生きながら発火させていく。血と臓物と、人の肉が焼ける臭いが、凍える砂漠に広がっていく。


「さて」

 メアリーは、生き残った兵士を見つめる。十数名程度か。


「貴方達の中から、殺し合いなさい。五名くらいになるまで」

 一分に近い時間、彼らは何を言われているのか分からないみたいだった。


「私は憎しみの象徴、化身。貴方達は殺し合うのっ! 生き残る為にっ! 手に武器は持っているわよね? かつての仲間を殺しなさいっ! 生き残った者達は私達の存在を帝都に教えるのっ!」


 兵士達は、恐怖に怯えながら、誰一人、ルブルとメアリーに立ち向かう事なくお互いを剣で切り合っていた。……次第に、兵士達は互い同士への憎悪を募らせていく。

 兵士の一人が、意を決して、メアリーへと魔法の電撃を放つ。

 だが。


「みな、私を見なさい」

 彼女は冷酷に笑う。


 彼女の背中からは、巨大な獣のシルエットが浮かび上がった。

 それは、身体に異様な文様が彫り込まれているみたいだった。


「光栄に思いなさいっ! 私の奥の手である幻影獣『ソウル・ドリンカー』の餌食になるのだからっ! さあ、畏怖しなさいっ!」

 メアリーの背後から現れた、巨大な獣人のような獣は、メアリーの持つ斧よりも、更に巨大な戦斧を手にして、彼女に立ち向かう兵士に得物を振るう。斬る、というよりも、肉塊にしてしまった。

 兵士の一人が、その場から逃げだす。

 だが、その兵士は、ルブルの作り出したゾンビ犬の餌食になった。燃えながら喰われていく。


 やがて、一時間も経過する頃には、兵士は残り三名程度になっていた。

 三名共、かなり負傷していた。そして絶望が宿っていた。


「お、俺は友人を殺してしまった…………」


「さて、貴方達の役目は…………」

 メアリーは自らが召喚した幻影の獣の肩に乗りながら、三名を見下ろしていた。

「此処から、逃げなさい。そして、私達の事をルクレツィアの王に伝えなさい。我々二人、魔女ルブルと、その召使のメイドである、このメアリーが、大悪魔よりも早く、ルクレツィアをこの手にするつもりだ、と」

 ライオンのような頭に、羽飾りのようなものと、刃物のような角を何本も生やした幻影獣ソウル・ドリンカーは低く唸っていた。


「お、俺は、俺はっ! 俺の大切な親友を助かりたい為に殺してしまった……っ!」

 男は泣きながら、剣を自らの喉元に突き立てる。


 兵士は残り、二人だった。

 彼らのうち、一人は、かなりの傷を負っていた。

 手当が遅れれば、失血死するかもしれない……。


「さて、貴方達は、もう分かるわよね? ちゃんと逃げるのよ? この場から、助かりたいでしょう? ねえ、助かりたいでしょう? 貴方達の帰りを待つ、家族がいるんでしょう?」

 メアリーは、何処までも深い嗜虐に満ちた眼で、二人を見下ろしていた。


 空も大地も、血に染まっている。


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