第四十一幕 サウルグロスとの最終決戦 2
2
オーロラは世界全体へと広がっていく。
ザルクファンドは全力で重力魔法を生み出す。
彼を支援する為に、サレシアがつねに彼の体力の回復に励む。
ハルシャは宮殿に戻ったミントの肩を握り締めていた。
そして、彼女に魔力増幅の魔法を行う。
ハルシャは右手で、ミントの肩をつかみ、左手で戦斧の切っ先を天に向ける。
「この世界に住まう者達よ。我らに力を。悪しき者を討つ為に。我らの善なる精霊よ」
ハルシャはひたすらに、詠唱を唱え続けていた。
ミントは沈みゆく太陽に向けて、両腕を翳していた。
イブリアは、ミントとハルシャの隣に佇んでいた。
「見ろ。ザルクがオーロラを弾いている」
ドラゴン達が次々と集まってくる。
「我々は本当に犠牲にならなくていいんだな?」
ドラゴンの一体が、イブリアに問う。
「変身魔法で避ける事が出来るかもしれないが。駄目だ。それでは、奴は倒せない。既に、奴の闇の球体がルクレツィア全土の生命を吸い取り始めている。オーロラは奴が世界を滅ぼす手段の一つに過ぎない。だが、我々にとっては違う。希望に変えるんだ」
そう言うと、イブリアは全身から魔力を迸らせる。
そして。
竜王イブリアは、元の姿である、金色のドラゴンへと姿を変えた。
彼は集まってきたドラゴン達を見渡す。
「この中で変身魔法を使える者は?」
彼は問う。
「では、わたくしめが」
蒼き鱗を持つ、小型の竜がイブリアの下へと近寄る。
「スフィンクスで頼む」
蒼きドラゴンは、イブリアに魔法をかける。
すると、竜王の姿が、みるみるうちに、獅子のような頭に羊のような角を生やした、背中に翼のある巨大な獣、スフィンクスの姿へと変化していく。
「では、私は出来るだけ、奴へと近付く」
そう言うと、イブリアは、空高くへと飛翔していく。
ザルクファンドの重力操作によるオーロラの軌道のねじ曲げから外れて、イブリアは淡いオーロラの中へと飛び込んでいく。
高度な変身魔法であった為に、肉体構造も変わっている為に、イブリアは完全なスフィンクスとして、オーロラの影響を受けずにサウルグロスの下へと近付いていく。
しばらくして。
竜王イブリアは、空高くから地上を見下ろしているドラゴン、サウルグロスへと近付いていく。
「お前を討つ。この世界でもっとも邪悪な者よっ!」
竜王イブリアは、滅びの魔法『ヒューペリオン』の作成を始める。
同時に、彼は娘のミントに思念を飛ばした。
娘にも、滅びの太陽を放て、と。
†
オーロラは西の方にも、一瞬で広がっていた。
ガザディスが全力で防御魔法を張り巡らせていた。だが、このようなものオーロラには通じないだろう。彼の仕事は、今だルクレツィア中で溢れ返っている、やってくる死霊達の迎撃だった。
ヒドラのラジャル・クォーザは大竜巻を器用に操作して、淡いオーロラを弾き飛ばしていく。
東と西。
二つの地位から、オーロラははじかれ、押し戻されていく。
†
サウルグロスは、弱き定命の者達の行動を見ながら、明らかに小馬鹿にしたような表情をしていた。
「オーロラを、この俺に当てるつもりか?」
勿論、サウルグロスは、敵側の戦略を見抜いていた。
そして、存分に、徹底して、敵の策略を全力で叩き潰すつもりでいた。
オーロラは、太陽を中心にして広がっている。
サウルグロスは、自身の周辺に闇の空間を作り出して、オーロラが自身を巻き込む事を防いでいた。
「考えたみたいだったが。悪足掻きだな」
サウルグロスは、してやったり、といった顔になる。
近くに現れたスフィンクスを見て、すぐにイブリアと気付く。
彼はとてつもなく、ドス黒い声音で、告げた。
「お前達が変身魔法で何かやってくるだろうと思って、計画を変えたのだよ」
彼はとてつもなく、悪意に満ち満ちた、邪悪な笑みを浮かべていた。
「実は、ドラゴンじゃなくて。人間を指定した」
サウルグロスは、何処までも、狡猾で、情け容赦が無かった。