僕のこれまでの経緯
きっと君は、僕のことなど気にも留めないんだろう。そう考えるととても悲しくて、とても安心して、とても君に………会いたくなった。
誕生から、三年の月日が経った。いや、訂正しよう。生まれ変わってから、三年が経った。まだ、三歳でしかない子の体は、いまだに思うように動かない。どうやら、僕を産んでくれた母親はここにはいないらしい。死んだのか、僕を置いてどこかに行ったのかは定かではない。ただ、僕の世話をしてくれている人たちは、シスターのような恰好をしているので、ここは教会などの施設だろうということだけが分かっている。ここにいる人たちをシスターのような、と言ったけど、僕のいた世界のように黒装束ではない。真っ白な…法衣、というやつだろうか?…ここはたくさん人がいて、赤子の僕に皆優しいけれど、少し寂しいと感じてしまう。前世は人がたくさんいたわけではない。むしろ大分少ない方だっただろう。だけど、ここには……_
この世界に誕生してから八年、自分の現状を大体把握できたと思う。この世界は、神々の争いによって生まれた世界で、一部の者は魔法を使えるという。更には人間以外の種族も多々いるという、まさにファンタジーな世界だった。そして、自分について、最も重要なことを知った。僕はどうやら人間ではないらしい。僕を育ててくれた、この場所…セント・フィアリエル大聖堂というらしい…の長が僕に話したところによると、僕は神に創られた存在、らしい。
「貴女の母親は、ここの若い、…幼い少女でした。捨て子だったため名は無く、慣例としてマリアと呼ばれていた、まだ15の子供でした。彼女は病を患い、余命幾ばくも無い命でした。彼女は毎日、祈りの間で一人神へ祈りを捧げていました。ある日、彼女が私の部屋へ駆け込んできて、今にも折れそうな細い体で、不自然に膨らんだお腹を抱えながら言ったのです。私は、神の子を授かった、と。……最初はわが目を疑いました。ですが…前日まで何もなかった彼女のお腹が、はち切れんばかりに膨らんでいて、お腹に子供がいることは疑いようがなかったのです。彼女はそれから一週間としないうちに貴女を産みました。」
そこまで言うと、聖女長はゆっくりと目を閉じ、震える手を抑えながら
「貴女が産まれた直後、喜び涙を流していた彼女は、突然こと切れました。今まで生きていたことが嘘のように、体は冷たく、固く、生を感じさせませんでした。」
僕の目の前の聖女は、まるで僕を恐れるようにこう言った。
「貴女はもうこの国で一人で生きていけるほど大きくなった。どうかここから出て行ってはもらえませんか…?このことを知る聖女たちの間では、恐れから神への信仰を失い、ここにいることができなくなった者もいるのです。貴女を悪い者とは言いません。これも神のお導きでしょう。ですが、私には聖女たちを守る義務があるのです。」
…。
「分かった。ここから出ていく。僕を育ててくれたあなたたちには感謝している。…恨むことなどないから、そんなに怯えないでほしい。明日にはここを出るから、少しだけ路銀をくれないか?幼いこの身では無一文で生きることはできないと思うから、さ…」
聖女長はうなずき、悲しそうに微笑んだ。
そして僕は、大聖堂から王都の端、広く深い森へ向かった。