オホランデとの出会い
冬の童話祭投稿用。
ま、間に合うのか?!(;'∀')
北海道の春は遅い。4月上旬になっても、まだ雪が降る。
それでも徐々に雪は溶けて、真っ白な雪原に茶色い土が見えてくる。
野原には小さな小さな緑が芽吹き、ふきのとうも芽を出す。
野原の真ん中、日当たりのいい場所の雪はすっかり溶けていて、薄茶色の枯草の中から、若草色のふきのとうがいくつか頭を出している。
小学生になったばかりの美紅は、ピンクに白い水玉模様の長靴を履いた足を、一歩一歩高く上げ、まだ雪の残った野原に足を踏み入れた。
ぐしゃ、と、枯れ草の下から雪解け水が染み出てくる。
ふきのとうの群生に辿り着いて、しゃがみ込んで手を伸ばす。
まだ蕾のふきのとうに触れると、突然、ポンッ! と、ふきのとうが弾けて、中から小さな男の子が出てきた。
親指くらいの、小さな小さな男の子。
年齢的には美紅よりはいくつか年上のように見える。
変わった模様の、ちょっと短めの着物のようなものを着て、額には着物と似た模様のバンダナを巻いている。
つんつん、とつついてみると、男の子は美紅の指にしがみついた。
「俺はコロポックルのオホランデと言う。仲間を探してるんだ。でも俺の足じゃ遠くまで探しに行けない。お前、手伝ってくれよ」
美紅の足でもそんなに遠くまでは行けないのだが、オホランデはかまわず美紅のポケットの中に入り込んでしまった。
「お前、名前は何て言うんだ? 子供のくせに随分無口だな。俺の仲間を見つけてくれたら、何でもお前の望みを一つ叶えてやるよ。願いは何だ?」
美紅はふきのとうを摘みながら、ちょっと考えて答えた。
「美紅、友達が欲しい」
「お前、美紅って言うのか。友達・・・・・・な。じゃあ俺が友達になってやるよ。美紅の願いを先に叶えてやったんだから、美紅は絶対に俺の仲間見つけないとダメだからな」
ふきのとうを腕一杯に抱えて、美紅は頷いた。
家にオホランデを連れて帰って母に紹介したが、母にはオホランデが見えていないようで、困ったような顔をして微笑んでいた。
「おーちゃん、おかーさんに見えないの?」
「俺の事か? ああ、俺の事見える人間はあまり居ないみたいだな」
「おーちゃん、ふきのとうの中で何してたの?」
「冬眠だ。冬は寒いから、土の中で眠るんだ。そうすると、春になったらふきのとうの中で目が覚めて、それから秋まではまたそのフキの下で暮らすんだ」
「美紅はね、本当はふきのとう、好きじゃないの。ハンバーグが好き。あとはね、魔法少女ラブリーキャットが好き」
「うん?」
「昨日ね、魔法少女ラブリーキャットでね、みゆちゃんが魔法少女に変身したんだよ。美紅も、美紅じゃなくてみゆって名前だったら良かったな~」
「・・・・・・そ、そうか」
「それでね、みゆちゃんにはね、お友達がいっぱいいるの。みどりちゃんとね、クリスちゃんとね、まあやちゃんとね、あとね、ゆずる君」
「・・・・・・う、うん」
「それでね、それでね・・・・・・」
美紅の一方的なおしゃべりは、夕飯の準備ができたと母が声を掛けるまで続いた。
夕飯は、家族全員で食べる。
祖父、祖母、父、母、美紅の5人。
そしてそこに、今日からはもう一人。オホランデが加わった。
他の家族にもオホランデは見えていないようで、テーブルの上を自由に歩き回り、好き勝手におかずを食べた。
オホランデの一口は小さいので、誰もおかずについたオホランデの歯形には気付かないようだった。
祖父が晩酌の日本酒をちびちびと飲みながら、ふきのとうの天ぷらをおいしそうに食べている。
「じーちゃん、それね、美紅が採ってきたんだよ。そしたらね、中からおーちゃんが出てきたの」
「そうかそうか、うん、美紅は偉いなぁ」
祖父はにこにこと笑って、美紅の頭を撫でた。
それだけでもう、美紅は幸せな気持ちになる。
初めての友達もできた。
きっと、明日からはもっともっと楽しい毎日になるに違いない。