Contact-44 ゴブリン退治(後編)
大変お待たせしました!
毎度毎度、長らくお待たせしまして申し訳ありません……。
実は、唐突なのですが――読者の皆さんに相談したい事がありまして……。
皆さんから「評価」や「ブックマーク」をチョコチョコと頂き、感謝と共に「細く長く」この作品が続く様な状況を好ましく思う私なのですが……。
それでも、「総合評価 数百Pt代」から中々抜け出せないでもある状況に、<モチベーションの低下>と言う事実が、”遅筆”の要因の一つになっている事は隠しきれません……。
……本当、弱音を吐く様な事を言ってしまい、申し訳ないです……。
そこで、「総合評価 数百Pt代」から中々抜け出せない理由を、私なりに考えたところ、「……やっぱり、ヒドイ出来の”初めに”つまづく人が多いのかな……?」と思い、<話の本題>に戻らせて頂くのですが……。
皆さんは、「第三章の続き」か「第一章のリメイク版」……どちらを読んでみたいでしょうか?
(徳川家康がどうのこうの言っておきながらも)唐突な路線変更で、本当……大変申し訳ないのですが、下記の私の”Twitter”に繋がるURLから、アンケートにご参加頂き、回答して頂けると有り難いです。
(回答期限は、この話が投稿された日から「1週間」とさせて頂きます……)
最後になりますが……とある漫画家の”尊敬できる一言”を引用させて頂きます……。
<この岸辺◯伴が金やちやほやされるために、マンガを描いてると思っていたのかァーーーーーッ!!
ぼくは『読んでもらうため』にマンガを描いている!
『読んでもらうため』ただそれだけのためだ。
単純なただひとつの理由だがそれ以外はどうでもいいのだ!>
「面白くないけど、頑張って!」、「酷いけど応援するから評価するよ!」……と”同情”などではなく。
「この作品、面白いから頑張って!」、「……生ツバゴクリものに面白れェェェェ! 評価しよっとッ!」……的に、あくまで”作品”に対して評価して頂けると、私も嬉しいです。
我儘なお願いで申し訳ないですが……。
今後ともこの作品をよろしくお願いします……!
アンケートURL:https://twitter.com/OzTokida
11:45 AM
Goblin Village (tentative name)
Straw Mountain Area Inside Straw Mountain
(ゴブリン村(仮称) 藁山エリア 藁山の中)
さて……上記が、(前編)においてボスが行動した事による”結果”である。
しかし……だ。これは無数に広がる「未来」の一つでしかない……。
ある時空では――ボスはゴブリンを全く殺さず、藁山に辿り着けたかもしれない……。
また、ある時空では――現状よりも実に狡猾な手段をボスが思いつき、次々と暗殺者の如くゴブリン共を静かに倒していたかもしれない……。
更に、ある時空では――一切、この状況に相応しいアイディアが思いつかず……泣く泣く貧弱な武器達を携え、焚き火に集まるゴブリン達目掛け、正面突破して行ったかもしれない……!
「隠密行動で進む」、「ゴブリンは全滅させる」……。
今回の状況は……そんな二つの事が、上手く進んでいる過ぎない……幸運に進んだ「結果」でしかない……!
そのような物であると……◯者の諸君、君達はそう解釈しておいて欲しい。
さてさて……んッ?
ボス君……腰に付けてた”水筒”と、”ポケットティッシュ”なぞ取り出して――何をするつもりなのだ?
……スキットルだよ。ちゃんと名前を言え。
洋画なんかでたまに出る、蒸留酒を入れる酒専用の薄い水筒だっての。
……で? 結局、何をしているのだ?
ハァ……中に入っているのは「スピリタス」。
アルコール度数「約95〜96度」の、ほぼ純粋なアルコールであるウォッカだ。
そしてティッシュは、”焚き火”をする際に燃える持続時間は短いが、着火しやすい優秀な火口なんだよ。
んで……干し藁ってのは、日本の畳の部屋がジメジメせず、快適に過ごせる程――湿気を吸収しやすい。
つまりは、少なからず水分を含んでいるから――燃えにくい場合があるんだ。
燃えにくい場合?
ここ一ヶ月、マケットの街にいた時は、ほとんど雨が降らなかった訳だが……。
このゴブリン村じゃあ……”通り雨”みたいなのが降ったかもしれないだろ?
乾燥して燃えやすい物とは言え……干し藁はただでさえ、湿気を含みやすいんだ。
だから、安易に「クリッカー」と「スイッチ」のスキルコンボで、着火させるんじゃあなくて、確実に狼煙にするため――念には念を……って事でだよ……。
なるほど……。
因みに、それだけの理由で酒を持ち歩いているのか?
……原産地のポーランドじゃあ、コイツを消毒薬として使うらしいからな。
回復魔法の節約ため、軽い怪我はコイツと包帯で処置してるんだよ……!
後、スキットルを敵に投げつけた後に銃で撃ち抜けば、簡易的な”焼夷弾”になると思って携帯してる。
……決して飲むためじゃあないぞ? 少なくともまだオレは未成年だし、こんな燃える水を、二十歳の初めに飲みたかねぇわッ!
だが、ドワーフには喜ばれそうな代物だな?
……まぁ、スカウトする際は、フツーに40度ぐらいの”美味いウイスキー”でも渡しますよ……っと。
よし! 少し大きめのティッシュ玉に、スピリタスを染み込ませた物を……周囲の藁を失敬して作った”藁の小山”内にセット完了……っと!
後二つを設置して、「クリッカー」と「スイッチ」のスキルコンボを発動させれば……ティッシュ玉が、アルコールランプみたく燃え上がって、藁に延焼……。
ゴブリンの死体焼却と共に、立派な狼煙が――”上手に出来ましたぁ〜”……ってな!
……美味しく頂くんだぞ?
……何、言ってるだよ……?
まぁ良い……とにかく、後、二箇所設置しに行くぞ……!
そう言った後のボスの行動は早かった……。
それはそれは素早く、手際良く、気付かれず、瞬く間に、残り二箇所の「藁山エリア」にあった藁山達に先程と同様の「着火装置」を内部に仕掛けて行くボス。
三箇所に設置後、彼は迷いもなく隣接した「ゴブリンの宿舎」へと……って、おいおい!
「藁山エリアに置く”囮”」はどうしたのだッ!?
おおっと! そうだった、そうだった……!
「匂いの強い食料」を置くんだったよな?
えぇっと……レーションの”マグロ缶”でいいか?
勿体ないけど……放置して腐れば、匂いも強くなるだろうし……。
そうそう。見つからないよう、藁山の中で開けた後、藁山エリアの中央に投げ置いて……!
ただ……本当に一缶だけで良いのか?
……一理あるが、魔力も含めてマジで勿体ねェ……。
そうか? なら、失敗しても……
あぁ、もうッ! 分かった分かった!
仲間の事を考えれば、背に腹は変えられねぇよ! もう……全くッ……!
そう言うとボスは、悪態付きながらも追加で二缶分の”マグロの旨煮”の中身を藁山エリアの中央に放り投げた後……今度こそ”迷いなく”、「ゴブリンの宿舎」へと向かうのであった……!
そして、前話で「藁山エリア」を偵察した”茂み”近くの壁に背を預けた後……背負っていたバックパックを地面に降ろし、中から何やら「両端をダクトテープで塞いだ”プラスチック製の短めのパイプ”」を取り出すのだが……それは?
フッフッフ……聞いて驚け……! コイツは、「パイプ爆弾」だ!
ば……爆弾!?
そ〜だ。
中に、俗に”肥料爆薬”とも言えなくない「アンホ爆薬」をタップリと詰めた、簡易爆弾さ……。
……いよいよ装備が、テロリストじみてきたか……。
じゃかしいわッ!?
未だ、アサルトライフルとかの”現代的な銃”が、一切使えねぇんだぞ!?
しかも、骨董銃で、なんとか敵を退けていられる状況に、軍隊クラスの大群と相手してみろッ!?
単発、マガジン貧弱、連射・リロード撃遅……バッカリな! 骨董銃で、対処し切れると思うかッ!?
……だから爆弾を?
マケットの街では”200人”をほぼ二人で倒し切った癖に?
”街”って地形を、リフィル達が活かしきれてたからだよッ!?
支援攻撃なしに、あの人数をたった二人で捌き切るなんて、地球だったら現実的じゃあなかったってのッ!
後は”運”だ! 運が良かっただけッ!
……そうであっても、ほぼスレッジハンマーのみで”100人”近く捌く時点で――”現代的な銃”は、もういらないぐらい”化け物”だと思うが……?
……はッ?
いやいや、空耳であろう……。
そ・れ・よ・り・も……!
……ッ?
そのアンホ爆薬……原料となる「硝酸アンモニウム」は、日本じゃあ”通販サイト”どころか、園芸店でも純粋な物を入手するのが難しい程の、危険物だぞ?
そんな危険物……そのバックパック内に、後”11本”もの「パイプ爆弾」を作れる程――どうやって入手出来たのだ?
まさか、一ヶ月の間に”硝安”と似た成分の”異世界産の鉱石”を見つけたとか……!?
あぁ〜そうじゃあねぇ。
へっ?
なんでかな〜? 「デパートセール」ってのは、”日本のデパートだけ”じゃあないんだよな〜。
……? それはどう言う……?
簡単に言えば、世界中の”デパート”や何故か”ショッピングモール”に入ったテナント全ての商品を、魔力で買えるだよ……!
なッ……ナンダッテ〜!?
……なんか、態とらしいな?
いや、思い過ごしであろう?
しかし、そんな密輸な事をしていたなんて……!
ちょっとした”油断”や”不注意”で、死にかねないこの世界で、そんなこと言ってる場合かよッ!?
て言うか……じゃあ、「フリピス」とかの銃はどうなんだよ!?
日本じゃあ、”猪”とか”鹿”の駆除のために装弾数を規制した「狩猟用散弾銃」や「狩猟用狙撃銃」は買えても……。
”ハンドガン”や、さっき言った”アサルトライフル”的な「自衛・戦闘用の銃」なんて、一般人は一切買えないだぞ?
なら、もし「ガンクリ」が――元居た地球から銃器を取り寄せるスキルだったら……って、考えると”海外の銃砲店”から――ってのが”筋”じゃあないか?
……
何だよ!? 急に黙りこくりやがって!?
……いや、急にそんな捲し立てられて……ビックリしただけである……。
……そうか?
それよりも……その爆弾、早く宿舎内に設置しなくて良いのか?
おおっと、そうだった! ほんじゃあまぁ、こうやって……三本一纏めに……一緒に入れておいた”ダクトテープ”で爆弾を束ねて……!
良しッ! それじゃあ……粉微塵に、ゴブリン共を吹ッ飛ばしに……ッ!?
……んッ? どうした?
爆弾を持ったまま、窓を覗いた瞬間――固まって……?
……ヤベェ……置きに行けねェ……!
……へッ?
……こんなビッシリ……と、ゴブリンが詰め込まれた屋内……どうやって、静かに爆弾を仕掛ければいいんだよ……ッ!?
……え? さっきの作戦で、想定済みだからこそ……言ってたんじゃあ……!?
オレは元”一般人”だぞッ!?
元軍人とかのスーパーな”逸般人”じゃあねぇよッ!?
ラフィルに”ボスとしての格”! オルセットやリフィルに”ボスとしての威厳”を見せたいがばかりに、ノリと勢いで言っちまったんだよッ!
……傭兵団のボス……(笑)だな……。その失態じゃあ……。
悪いかよッ!? 慕ってくれる仲間に<良い所を見せたい>って思うのはッ!?
……。
あぁ……もう……ッ! どうすりゃあ良いんだよッ!?
……ハァ、だったら――恥を忍んでも相談をするってのが……「仲間」ってモンじゃあないのか?
……。
……「仲間」ってのは、ただの文字? 記号?
それとも……傭兵団のボスとして、くだらない”見栄”を張りたいだけに――連れ回しているだけなのか?
……違げェよ……。
なら……分かっているのならば――”やる事は一つ”であろう?
……ハァ、また”ラフィルとの距離”が離れていきそうだなぁ……。
……やれやれなモノである……。
まぁ……そう”私”が、まだまだ未熟であろう”ボス”へと思う傍……ボスはタメ息を地面に向け――一つした後に顔を上げ、首の頸動脈に右手の”人差し指”と”中指”を当てるのであった。
『……リフィル、今――大丈夫か?』
『あっ、兄さん……? どうかされたのでしょうか……?』
『……その……問題発生だ……』
『ッ!? 兄さんッ!?
まさか……どこか怪我をされて動けないのでしょうかッ!?』
『いやっ、そうじゃあなくて……』
『……ハァ……良かった……。
……? では、どうされたのでしょうか?』
『……あぁん……さっき相談してもらった手前、言いにくいんだが……』
――どうしても”ラフィルの事”が頭にチラつくのか……ボスは言い澱んでしまう。
『……兄さん、遠慮しないで下さい。
兄さん一人が”傭兵団”じゃあないです……。
一蓮托生である私達でこそ、”傭兵団”……って……。
そう、私だって……先程、言ったじゃあないですか……?』
――静かで優しく……かつジョジョに力強く……リフィルはボスに”助けてと言っても良いよ……?”……と促す……!
『……じゃあ、言わせてもらうぜ?』
『フフッ、えぇ……ドン! ……と、来て下さい!』
『リフィル、さっき言った”試作品”は覚えているか?』
『……? はい……。
兄さんが自信満々に言っていた、”ゴブリン共を木っ端微塵に消し飛ばせる”代物……ですよね?』
『あぁ……それなんだが……仕掛けられないんだ……』
『……? 何をですか?』
『……「間もなく相談」、「披露前に披露する」……って。
二重の意味で、カッコ悪りぃなぁ……オレ……!』
――再び地面に顔を向け、イジけながらボソボソと呟くボス……。
『……兄さん、何を拗ねてるか分からないですけど……。
今は、そんな場合じゃあないですよね……?』
『あぁ……そうだな。
えぇと……さっき言っていた”試作品”ってのは、「パイプ爆弾」の事だ』
『……パイプバクダン?』
――一瞬、オルセットが疑問に思った際に良くやる”小首を傾げる姿”を「リフィルも今してんのかなぁ……」なんて想像し……つい、口元を緩めるボス。
しかし……「おっと、そんな場合じゃあないよな……」……と思い、何とか言葉を紡ぐ……。
『あぁ……ホラ、領主館の元”拷問室”で……オレが色々と作ってるって言ったろ?』
『……あぁ……兄さんが、夜な夜な作っていた物なのですか?
……もしかして……たまに、地下から”狼の咆哮”とも比べ物にならない程の音が聞こえていましたが……』
『……改めて思うが、スゲェなぁ……。エナとアラナの二人……』
――思わず唸るボス。
『いや……お二人が私に伝える事もなく、聞こえましたが……』
『……二人の事も含め、やっぱりスゲェわ……リフィル……』
――「地獄耳」という単語が浮かんだボスであったが……何か失礼だと思い、思わず言葉を飲み込んでいたのであった……。
『……兄さん、お褒め頂けるのは嬉しいですが……。
それはそうと、その”狼の咆哮”が……「パイプバクダン」? なる物なのですか……?』
『あぁ、正確にはその”火薬”だな。……ホラ、あれだよ。
種類は違うが……リフィルが使っている「ガル98」の弾薬に込められている”発射薬”に似た物だよ』
『あぁ! なるほど! 何かに似ている音だと思ったら……!
そういう事だったんですね……!』
『そう。それを”プラスチック”っていう素材で出来た筒に、鉄片と魔石を一緒に詰めこんで……ダクトテープで両端を蓋したのが、オレ特製の「パイプ爆弾」って訳だ』
『……なるほど。
そして……火薬を爆発させる事で、中に入った”鉄片”を四方八方に飛ばし……ゴブリンを……殺傷……するん……ですよね……?』
――ゴブリンの事は嫌いでも、彼女の性分なのか……”殺傷”と言う単語の部分で言い澱みつつも、ボスに尋ねるリフィル。
『……へぇ。爆弾を見た事ないハズなのに、よく分かったな?』
『以前、”狩猟小屋の戦い”で……小屋を吹っ飛ばしていたじゃあないですか……』
『あぁ……そうだったな……悪りィ、悪りィ……』
『しかし……』
『?』
『何で……魔石を一緒に入れているんですか?
魔石の”脆さ”や”危険性”は、兄さんもこの一ヶ月の間に嫌と言う程、お判りになっているハズ……』
『あぁ、それか?
それはな……魔石を”伝爆薬”の代用品にしているからだ』
『……デンバクヤク?』
『さっき言った火薬……「アンホ爆薬」ってのは、オレが”フリピス”に使っていた「黒色火薬」と違って、ただ単に火を付けただけじゃあ爆発しないんだよ。
アンホ爆薬を爆発させるには、黒色火薬とかの”他の爆薬”を使って”伝爆”……ザックリ言えば、強い衝撃を与えないと、アンホ爆薬ってのは起爆しないんだ』
『……あっ、だから”微弱な刺激”でも破裂してしまう魔石を使って……!』
『……そう。
「クリッカー」ぐらいの”微弱な火”でも、反応して爆発する事を発見したオレは、魔石自体に「スイッチ」のスキルを使って、「クリッカー」の魔法を付与して<遠隔起爆>させる事を思い付いたのさ。
でもここ最近じゃあ、手に入る魔石は”ゴブリン”の拳大にも満たない……ちっこい「無属性の魔石」ばっか……。
更に、爆発させても”癇癪玉”程度の爆発で、全く武器になりゃしない……。
なら、開発中だった「アンホ爆薬」と組み合わせれば……!?
……って、思って作り上げたのがこの「パイプ爆弾」って訳さ』
『……う〜ん……”カンシャクダマ”ってのが、何なのか見当もつかないですが……。
要するに……”魔石を利用して、遠隔起爆も可能なバクダン”……と言うのを作り上げた訳ですよね?』
『まぁ……ザックリ言えばそうだな。
んで、今日がそのパイプ爆弾の初お披露目になるから、”試作品”……って言ってた訳さ』
『成る程……そう言う事だったのですか……。
……と言う事は、あの狩猟小屋を吹き飛ばした程の威力を……!』
『いや……あの時程の火薬が「パイプ爆弾」に詰まっている訳じゃあない……。
そもそも、これは携帯しやすいように作った”手投げ弾”な訳だから、以前の”仕掛け爆弾”と比べると、どうしても威力は落ちるんだよ……』
『……兄さん、疑いたくはないのですが……。
本当に……それで、”ゴブリン共を木っ端微塵に消し飛ばせる”……のでしょうか……?』
『……言っただろう?
<この先の索敵とかの”サポート”は頼んだぞ……!>……って』
『……頼ってくれるのは嬉しいですが……。
言える事はハッキリ言う様……お願いしますよ、兄さん……』
――まさか討ち漏らしの掃討も、”サポート”の内容に入っていたとは思わず――少々呆れ気味に言ってしまうリフィル……。
『……あぁ……なんかスマン……。
今後は気を付けるよ……リフィル……』
『もうっ……何とか、ラフィル達には言っときますけど……。
今後は……気を付けてくださいね?』
『……ところで、ちょっと気になったんだが……』
『……?』
『この世界じゃあ、魔石を使った”道具や文化”が余りにも発達した様な気がしないんだが……。
リフィル達の様な”エルフ”の間じゃあ、よく利用していたりするのか?
魔法使いのエキスパート的な感じで?』
『う〜ん……人間達がどの様に魔石を利用してるかは、ほとんど聞いたことがないのですが……。
”エキスパート”がどう言う意味かはともかく……一部のエルフは、”魔法の触媒”や、”研究用の素材”にしていたと母から聞いた事はあります……。
ですが……私が住んでいた森では、そのような事はまずしませんでしたし……。
他の魔物が強くならないためにも……回収しても一纏めに集めては、魔法を撃って一度に処分するか……。
もっぱら……弓や魔法の難しい”的”として使っていたぐらいですね……』
『……この世界の魔石って、どんだけ不憫な扱いを受けているんだよ……!?』
『……? 兄さんが居た「チキュウ」でも、魔石はあったのですか……?』
『いや、魔石自体はなかったけどさ……。
リフィルの読もうと頑張っている”小説”とかの創作の世界じゃあ、結構出ている物なんだぜ?
主な使い道としちゃあ、さっきリフィルが言ったような使い道もそうだが……。
最も良くあったのは、”魔道具とかの燃料”になる事だな』
『……魔道具の燃料? あんな危険な物なのに……?』
『……”ニトログリセリン”みたいな物なんかね……。この世界の魔石は……』
『……ニトログリセリン?』
『あぁ、今は気にしないでくれ……。
まぁ、話はだいぶ逸れちまったが……オレが作った「パイプ爆弾」の仕組みを知った上で――リフィル? 何かいい案はないか?』
――「仲間に頼りすぎる自分……情けない」……なんて事を思いつつも、彼女に意見を求める。
”右脳が発達していると感受性が高い”、”左脳が発達していると論理的である”……と言う他、「男性脳」、「女性脳」と言う単語を、たまに耳にする◯者の諸君もいるだろう。
それを踏まえて「彼女の頭の良さ」を端的に言えば……”右脳が優れているが、左脳も学者や指揮官に負けないレベルで優れている”……と言えるであろう。
事実、この章の冒頭でボスの代理で”指揮”を一ヶ月近く取っていた実績が、彼女の有能さを雄弁に物語っているであろう……。
それ故に、ボスは”オルセット”や”ラフィル”よりも……”作戦の立案”に関しては、真っ先に”リフィル”を頼るのであったのだ……!
『そうですね……今し方、兄さんと話している間に”アラナ”に頼んで、この村の家屋内を今一度――偵察してもらったのですが……。
確かに……兄さんが居るすぐ傍の家屋を含め、これから仕掛けるの屋内の様子じゃあ……その手に持っている「パイプバクダン」を静かに仕掛ける事は不可能に近いでしょうね……』
『……まぁ、そうだよな……。
(てゆうか……手回し早ッ!? いつの間にか見ていたのかよ……!?)』
『……兄さん、これは”お母さん”からの受け売りなのですが……。
「困った時には、見方を変えろ」……というのがあります……』
『見方を変える……?』
『私がまだまだ弓矢の腕前が”下手っぴ”で、落ち込んでいた頃……母が言ってくれたのですよ……。
「いい、リフィー? 貴方は下手だから練習しているんじゃあないの……。上手くなる才能があるからこそ、練習しているのよ……?」……と』
『……本当、助けられなくてゴメンな……。
そんな……良いお母さんだったのに……』
――彼にとっては、”一生背負う十字架”なのであろう……。
思わず出た謝罪の言葉が、二人の空気をしんみりとさせてしまう……。
『……謝罪は……もう、聞き飽きましたよ……? 兄さん?』
『でも……オレは……!』
『いえ、もう……何度後悔しようとも……”戻らない者”ですから……。
それでも……私に”謝り続けたい”と言うのであれば……。
ずっと……兄さんの傍に……居させてくださいね……?』
『……リフィル……』
――背負う十字架の重さが”少し軽く”なったのか……呟くように、嬉しげな声を漏らすボス……!
『……さて、そんな”励ましの言葉”があったからこそ……兄さんから賜った”ライフル”を、すんなりと入り込める程……弓矢の腕前が上達した私ですが……。
このように、兄さんもその「パイプバクダン」を別の方法で活かす事は、できないでしょうか……?』
――ボスと過ごしてきた事で、性格的にも”前向き”になってきたのか……。
サッと、話題を切り替えるリフィル。
それに対し、ボスは彼女のせっかくの意見を無駄にしない様――唸りつつも頭を捻らせ始めるのであった……!
『う〜ん……仕掛ける以外だと……。
やっぱ、戦闘時に投げて使うしか……他に用途はないよな……』
『……兄さん、頑張ってください……!
確かに……他の手を考えても、攻撃用の用途にしか残されていないのは分かりますが……。
流石に、一度に”300体ものゴブリン”を相手した時に使用するのは……』
『……うん? 一度に……!?』
――再び、ボスの頭の中で鳴り響いていた”木魚”が叩き壊され……中から眩い光を放つ、”一つの電球”が生まれるのであった……! つまり、どう言うことかと言えば……?
『そうだよッ! 一度に爆破させるのも、順々に爆破させるのも……!
最終的な結果を見れば、同じ事じゃあねぇかよ!』
――「見方を変える」……!
これを活かし、妙案を思い付いたのであった……!
『……に、兄さん……声……大き過ぎますよ……!』
『えっ? そ、そうだったか……悪りィ……』
……まさか、連絡内の念話のボリュームが、自身の”思いの強さ”で変わると思わず、若干戸惑ってしまうボス。
しかし、「……兄さん? 先程叫ぶ程……一体、何を思い付いたのですか?」……と、疑問に思ったリフィルに、ボスは意気揚々と応え始めるのであった……!
『元々は、「ウドウスト・バンジャベリン」を使って、この小屋の”扉”や”窓”を鉄格子代わりにして塞いでから爆破させる予定だったんだよ!
だったら、”爆破させる所”じゃあねぇ……! ゴブリン共を”閉じ込める所”から見方を変えれば良いんだ!』
『……そんなに強度があったのですか……?
その……ウドウスト・バンジャベリンから生まれる……”タケ”という植物は……?』
『あぁ、普通の物ならそんなに強度はないもんなんだが……
あの変態暗殺者と戦った際に、奴の傷を抉ってダメージを与えるために”刺さった竹”を蹴った事があったんだよ。
その時に感じた硬さと言ったら……「竹か、これッ!?」……って、思わず足を抑えて蹲りそうな”金属に近い硬さ”だったからな……!
まぁ……攻め時だったから、痛みを堪えてオルセットと一緒に殴り続けてたけど……』
――その場面を思い出していたのか、心の中で苦笑いしながら語るボス。
『なっ、成る程……。
その経験から……兄さんはゴブリン達を”ウドウスト・バンジャベリン”で、閉じ込める事を思い付いていたのですね……』
『そう言う事。
だから、閉じこめる際の強度は申し分ないと思ったし……。
一件一件、捌いて行く間に――突破される事もないと、考えた訳だ』
『……では、兄さんが新たに考えた……「ゴブリン共を”閉じ込める所”の見方を変える」……と言うのは、どう言う事なのでしょうか?』
『あぁ、順を追って説明するとだな……。
まず、三つの「ゴブリンの宿舎」にある”扉”や”窓”全てを、”ウドウスト・バンジャベリン”で閉じ込める事には、変わりない。
だが、本来なら”パイプ爆弾を家屋の中央に設置”してから閉じ込める……って事は、しない』
『……”ゴブリンの宿舎”?』
『ただ、「ゴブリンの居る家」じゃあ呼びにくいだろ?
便宜上、ここではそう呼ばせてもらう』
『はぁ、分かりました……』
――納得はしているが、何とも言えない声で応答するリフィル……。
(パクリは気になるが……)
『(……うるせぇって!)
それで、こっからが大まかな”変更点”だ。
オレが”三つの宿舎”を封鎖した後……リフィルは、さっき提案してくれた通りに、オレが狼煙を上げた地点に”火炎竜巻”を発生させてくれ』
『……ゴブリン共が狼煙を上げた、”藁山地帯”に入ってから……ですよね?』
『いいぞ、リフィル! 確認は大事だ』
――”自発的な事”が余程嬉しかったのか、ボスは思わず力の込もった声で彼女を褒める。
『……フフッ、ご謙遜を……。大した事じゃあないですよ……』
『リフィル、それが良いんだ!
今後も、オレが”言い忘れて”いたり……”間違っている”と思った事言っていたら、ドンドン積極的に言ってくれ!』
『分かりましたよ……兄さん。
それで……次は何をすれば良いのでしょうか……?』
『おう、そうして焚き火に居たゴブリンの連中を排除したら……次はオレ達が”焚き火のある中央”へと移動する。
そうしたら、村の周囲にある”木箱”とかの”廃材”をありったけ集めるんだ』
『”木箱とかの廃材”? ……何故なのですか?』
『それで、宿舎の入り口にバリケード……”囲い”を作るんだ。
……小さな物をな?』
『……”小さな囲い”を? ……あっ、成る程……!
それなら、ゴブリン共を入り口から出したとしても……”一度に戦う事はない”と言う事に……!』
『……そう。入り口だけを開けて、ゴブリンが雪崩れ込んできても、その囲いを前に”立ち往生”するハメになる……!
そして、その囲いは”天井のない小さな部屋”にもなる……!』
『”天井のない小さな部屋”……?
……あっ、そこに”パイプバクダン”を投げ込めば……!』
『隠密する必要なしに、ゴブリン共を”木っ端微塵に吹き飛ばせる”ってワケだ。
……爆範範囲が狭くてもな?』
……と、自身が考えた改案策に、思わず口元をニヤケさせつつ、自信満々に語るボス。
『……しかし……兄さん、申し訳ないのですが……。
今、アラナに再び見て回って貰ったのですが……それ程……その”囲い”に使えそうな「廃材」は……ないみたいですよ……?』
『……え?
藁山地帯に行った際、その近くの”小屋”に結構――木箱とかの”廃材”があったハズなんだが……?』
『……三箇所全てに設置する程、量があるとは……私は思えないのですが……?』
『えぇぇ……そんなにないのか……?』
――ボス、まさかの痛恨のミス……!
思っていた以上に、「バリケード用の廃材」が足りなかった模様……!
『……じゃあ……リフィル?』
『……なんですか? 兄さん?』
『その……廃材が足りない分、バンジャベリン出すの……頼めないか?』
――どこか哀愁漂う声で、申し訳なさそうに頼むボス……。
『……良いですよ。
もし……村の家屋を全て壊すとしても……もう一度”火炎竜巻”を出す程、魔力も残らないでしょうし……。
現状、その案しか……良い作戦はなさそうですし……』
『何から何まで済まないな……リフィル』
『ですが、兄さん……?』
『んっ? 何だ?』
『これだけ苦労するんですから、また……「ワガシ」をお願いしますよ?』
『……何だ? 昨日の「柏餅」に続いてまたか?
少しずつとは言え、毎日食っていると流石に”太る”んじゃあないか?』
『……もぅ、兄さんの性ですよ……?
美味しすぎるんですから……「マンジュウ」も……「サクラモチ」も……「ネリキリ」も……』
――とまぁ、また話が”脱線気味”になり掛けているが……。
一応、説明をしておくと……「一ヶ月間の訓練」の初週、リフィルは憂鬱に成り掛けていた……。
ボスから課せられた「狙撃手兼、司令官代理」という、未だかつてやった事がない課題の難しさを実感しつつも……彼女の聡明さによって、癖の強い二人を何とかまとめる事が出来ていたのだが……。
それでも「上手く出来たでしょうか……」、「兄さんが”望む結果”に成り得ていたでしょうか……」……と、成功しても”自身を肯定しきれない不安”が、毎日のように付き纏っていたのだ……!
ある日の晩――ボス達が領主館の食堂の長机囲み、夕食を口に運んでいた……。
だがその長机の端で――静かに”豆乳スープ”を口に運んでいく彼女の表情が、日に日にやつれて行くような様を見兼ねたボスは……。
「リフィル? たまには”甘い物”でも食べてみないか?」
……と、褒め続けていても効果ナシと思っていた彼は、安直ながらも”女性には甘い物”的な考えで彼女の気分を持ち直そうと、”デパートセール”のスキルを用いて(何故か)「ひなあられ」を出したのが始まりだった……!
『ッ!? こんな……こんな、果実以外に……!
色取り取りの花のような……美しい”甘味”があったのですか……!?』
……これが、彼女が初めて”ひなあられ”を一粒食べた瞬間――呟いた言葉であった……!
それ以降は彼女の発言通り……彼女は毎日のように、(ボスに注意されつつも)両手の指に収めきれない和菓子の種類に驚きながらも、確実に”和菓子の虜”へとなって行くのであった……!
……ボスと彼女らの間を結ぶ「信頼関係」という太い縄は、彼女らの純粋な「絆」の他……。
実は、このような――彼の無自覚な「餌付け」によって、成り立っているのであった……!
肉の”オルセット”……トマトの”ラフィル”……和菓子の”リフィル”……!
……という風に、彼女達には順調に”拘る好物”が成り立ちつつあるのであった……!
『……』
『……「クズモチ」も……「モナカ」も……「ヨウカン」も……「オハギ」も……』
『……分かった、分かった!
そう恨みがましく”今まで食って来た和菓子の名前”を、延々と言い続けようとすんじゃあねぇよッ!?』
『……フフッ、では……?』
『あぁ、分かったから……。ただし、少しだけだぞ?
一ヶ月前の初週みたいに自分の魔力を使って「饅頭100個を出す」とかは、絶ッ対ッ! ダメだからなッ!? いいなッ!?』
『……分かりましたよ……兄さん……』
――と、チョッピリ拗ねた口調で言うリフィル。
因みに余談だが……彼女が出した饅頭は、流石に全部を食べるのは”マズい”という事で――ボスが強制的に、カルカ経由で「マケットの住民達」にお裾分けされた。
……それでも、生まれて初めての我儘で彼女がゴネた末……彼女の口に”10個”程入って行ったが……。
『……納得していないような気もするが……まぁいい。
とにかく、この後の「火炎竜巻」と「バリケードの設置」は頼むぞ?
何かあれば即座に連絡をしてくれ。いいな?』
『はぁ〜い。分かりましたよ……兄さん。 リフィル、アウト……』
『……あぁ。ボス、アウト』
――と、ボスは「任務後」に一抹の不安を思いつつも、彼女と連絡を切る。
そして、背中を合わせていた「ゴブリンの宿舎」の壁から離れると……窓から僅かに顔を乗り出し、封鎖すべき扉や窓をチェックし始めるのであった……!
約三分後……隣の窓に移動し、初めの窓では見えない”死角にあった窓等”を確認する動きもあったが……。
ボスは粗方、この宿舎の”抜け穴”となりそうな場所を把握したボスは、左手に持っていたナイフを腰の鞘に戻すと、宿舎の壁へと当てる。
そして……手始めにボスから見て宿舎の奥、入り口近くにあった”窓”へと意識を集中させ……。
「ゆっくり……!
鉄格子みたくなるよう……「ウドウスト・バンジャベリン」を……!」
……と呟くのであった……!
すると……! ボスはちょっとした倦怠感を感じた後、念じた際に閉じていた目を意識させていた窓へと向けると……? なんと! 土もないのに”窓枠”からニョキニョキと……”5本の竹”が生え、窓を塞いで行くではないか……!
多少、竹が生える影響で”メキメキッ”……と、窓枠の木材が割れ軋む音はしたが……それに反応し、目を覚そうとしたゴブリンは皆無であった……!
この状況にボスは思わず、「良しッ!」……と呟きつつ、小さく”ガッツポーズ”を取るように”ガバメント”を強く握り締める……!
そこからと言うもの、ボスの行動は早かった……!
見事、自身の目論みが成功したと思った彼は、次々と”抜け穴”に成りそうな”窓”や”扉”を竹槍格子で封鎖して行く……!
そしてついに、最後となる自身が覗く窓を封鎖した彼は、5本並ぶ竹槍格子の内の一つを握ると、思いっきり前後左右に揺らす!
……しかし、その竹槍は内側に生え、窓枠に引っ掛かっていたから……という理由はなく、先程彼が言っていたように「まるで金属に近い硬さ」で、”ピクリとも動く事はなかった”のである……!
その不動を貫く様に、ボスは手を離した後――満足げに何度か頷くのであった……!
「良し、封鎖完了! ……魔力は……まぁ、何とかなるだろう……」
……と、自身の近未来的な”UI”であるステータスを、空中に表示するボスの視線の先には「MP:639/1684 (bin's:+1334)」の文字が……。
「ウドウスト・バンジャベリン」の消費魔力量は、一本生やすに付き「MP:10」程度ではあるが――彼はゴブリンを確実に逃さないために、”窓や扉”の封鎖に”常に5本”の竹槍を生やしていた。
つまりは、今後”3本”などに節約しない限り……一つの”抜け道”の封鎖に、彼は「MP:50」ずつを消費して行く計算になる……!
それが、若干の不安の種であった……。
だが、そんな事にショボくれ――立ち止まっている場合ではない。
再び封鎖した宿舎の壁に背を合わせていたボスは、”ナイフ”と”ガバメント”を握りしめると――元来た道である”草むら”をホフクして行き……「食糧庫」から漂う悪臭に再び顔を顰めつつも通過、”食糧庫の裏口”で足を止めた。
……何故かって?
それは――近くの草むら先にある、”茂み”の中に居た”ラフィル”と視線があった際に睨まれたからだ。
……という(事実ではあるが……)冗談はさておき、本当に止まった理由としては……ボスが睨まれた原因でもある、裏口付近から周囲の状況を”見回した”時だ。
その時に、初めに向かわなかった「反対側の家屋」の屋根を見たからだ。
その家屋の屋根には「弓持ちゴブリン」がおり、高所からの見張りをしている事……。
そして、その家屋に向かおうにも周囲に”草むら”や”茂み”など、隠れ場所が無かった事……。
更に、見つかれば”ゴブリンの弓の腕前”は如何程かを、彼は知らないが……確実に矢を射られ、周囲の仲間に知らされる事は明確であった事を……”再確認”したために、足を止めていたのだ……!
「さて……どうするか……?
”銃”は射程も含め、論外……”空薬莢の囮”も、屋根から降りてくる”確実性”がないし……”投げナイフ”しようにも――これまた確実性と、”供給魔力”の問題が付き纏う……」
……と、”ガンガンいこうぜ!”……が出来ず、”隠密行動”に拘る以上……!
”不必要な音”は極力避けないといけないこの状況に――ボスは再び頭を悩ます……。
『……兄さん、少し宜しいでしょうか……?』
――悩むボスの脳内に、再び”リフィル”の控え目な声が響く。
『どうした? リフィル?
これ以上、和菓子の催促は受け付けないぞ?』
『もうっ、兄さん……! 私をオルちゃんみたく言わないでくださいよ……!』
――その一言に「ボスゥ〜! お肉ゥ〜!」……と言う”オルセット”の声が思わず過ぎり、彼の口角が僅かに上がる。
『ハハッ、冗談だって。
んで……? どうしたんだ、リフィル?』
『もう……改めて言いますけど……兄さん、反対側の家屋の屋根に居るゴブリン……。
宜しければ、私が排除しましょうか?』
『いや、リフィル……気持ちだけ受け取っておくよ……ゴメンな?』
『……兄さん、勘違いしているかもしれませんが……。
アラナに頼んで風魔法を使えば……音もなく、あんなゴブリンなんて……』
『リフィル……弾も魔力も大事にしとけ。
この後の「火炎竜巻」で大量に使う訳なんだし……今日持って来た”緑茶”の残りも少なかっただろ?』
――忘れているであろう○者の諸君のために説明しておくと……。
ハイエルフである彼女は何故か「緑茶」を飲む事で「TRB」として「25000」近い魔力が瞬時に回復してしまうのだ!
しかも……その後”二時間”は「TRB+100/m」……と、分単位で魔力が100ずつ回復して行くと言う、彼女にとってはチート級の”魔力回復薬”になっているのだ! 無論、弱点はない!
ただ――あるとすれば……「自動回復中」は、再び緑茶を飲んでも「25000」もの魔力も、自動回復時間も、一切回復せず巻き戻る事もない事……。
後、湧き上がる魔力を前に、”酒”を飲んだかのように酔いしれてしまい……僅かな間、”艶かしくほろ酔い”してしまう事ぐらいであろう……。
『……でも、今の状況では……』
『緑茶による回復も、二時間の間は”連続使用ができない”事と、秒単位で魔力が回復する訳じゃあない事が、最近分かったんだし――無理すんな』
『……でも……』
『ありがたいとは思ってるぜ、リフィル。
けど、何とか探してみるよ……”静かに攻撃できる手段”をな?』
『……分かりました。
兄さんこそ……無理をしないでくださいね……?』
『あぁ……ボス、アウト』
『リフィル……アウト……』
……って、言っても……結局はノープランなんだよな……。
あぁ……またカッコつけちまったぜ……! サプレッサーもねぇし、作る知識はあれどぶっつけ本番で上手く行くか分からねェし……! 一体どうすれりゃあ良いんだよ……ッ!?
……やれやれである。
うるせぇッ! 分かってるよッ! 分かってるんだけどなぁッ!?
頼ってばかりも、オレとしちゃあ――カッコ悪いんだよッ!
〜 ……ギャァァァァァ……! 〜
「んッ? 何だ? この……呻くような――耳障りな鳴き声は……?」
――私のツッコミに気付くまで、頭を掻き毟っていた時とは一変……真剣な表情になったボスは、彼の頭上から聞こえる音に対し、疑問を抱いた……。
屋根の真下にいては何も確認できないとでも思ったのか、背中合わせにしていた裏口の壁から離れ――恐る恐る振り返ると……!?
〜 バッ! ゲギャァァァァァッ! 〜
「ッ!? どわッ!?」
〜 バタンッ! ブンッ! 〜
……いつから気づかれていたのであろうか……ッ!?
ボスが屋根の真下から離れ、屋根を確認しようと振り向いた瞬間……! 食糧庫の屋根に居た「弓持ちゴブリン」がボス目掛け飛び込み、彼を押し倒したのだッ!
そして間髪入れず、腰の縄に挟んでいた刃に毒らしき”緑色のヌルヌル”が付着した、見窄らしい短剣を彼の頭目掛けて振り下ろしたのだッ!
しかし、ボスはそう簡単にやられはしなかった……!
振り下ろされる腕に、素早く”自身の右腕”を滑り込ませ、ナイフの一撃を防いだのだ!
そして間髪入れず、左手に持っていたナイフを自身の一撃を防がれた事に、驚愕の表情を隠せないゴブリンの側頭部に突き立てるッ!
すると、彼の一撃に耐えきれなかったのか……そのまま振り抜かれた腕と共に、彼の右側へと倒れ――先端の尖った汚らしい舌をだらしなく出しながら、沈黙してしまうのであった……。
「ハァハァ……脅かしやがって……ッ!」
――声を荒げつつ、侮蔑を込めた視線でゴブリンの亡骸を見るボス。
少なからず、大きな音が出ていたと思った彼は周囲を警戒したが……特に変化はなかったようだ。
「……ハァァ……」
突然のアクシデントを何とか乗り切った安堵故か、一度起こした上半身を再び地面に降ろし、大の字になりながら大きな溜息を吐く。
しかし、「……んッ?」……と、体を起こした際、再び亡骸を見た時に何かに気づいたボス。
気付くや否や亡骸の傍で片膝立ちになり、刺さったナイフを抜き取って亡骸に刃に付着した血を拭い取った後……ゴソゴソと亡骸から物色を始める。
「……よっ、とッ! フゥ、やっと剥ぎ取れた……。
これは……”ショートボウ”か……?」
数分後……ボスはゴブリンの胴体に”たすき掛け”のように保持していた物を、貧弱な体に不釣り合いな、”巨大な頭”から何とか剥ぎ取る事に成功していた。
彼の手にはヤスリを一切掛けられず、適当に余分な枝を折られて作られた粗末な「弓」。
これまた”小さな丸太”を、殴るようにして中心を削られた荒い作りの「矢筒」。
その中に”石製の鏃”と”ボロボロの羽”で出来た粗末な「矢」が数本刺さった……「ゴブ弓セット」とでも言えば良いだろうか(?) ……そんな代物があった。
……後、余談だがそれは奴らにとっては「ロングボウ」であろう。
小学一年生ぐらいの背丈な奴らと、ほぼ同じサイズなのだから……!
「(……いや、最後はどうでも良いだろう……!?)
……”武器装備は現地調達”……か。
このサイズじゃあ、威力は心許なさそうだが――これなら……!」
――そう言ったボスは何を思ったのか……再び”UI”を呼び出し操作をし始める。
何々……<イラヴァ語 Lev.10>の”Li”を切って……。
リフィルの……<弓術 Lev.10> の”Li”を有効に……?
君々、弓矢の経験は?
あぁ? ねぇよ……。
あっても、レジャー施設のオモチャ擬きの弓矢で、ボール相手に少し撃ち方を齧ったぐらいだが?
……えぇぇぇぇぇぇぇ……!?
……勝手に呆れてろ。
今から改めて、オレの”チートスキル”の凄さを見せてやるよッ!
――そう言うとボスは、少し来た道を戻り……「ゴブリンの宿舎」の屋根に居た「弓持ちゴブリン」を見据えた。
当然、バレないために体は”宿舎”に移る手前の”食糧庫の壁”に、背を預けた状態でだ。
すると、そのゴブリンが彼の居る方向を見ていたのが反転した瞬間、ボスは壁から離れ――片膝立ちに姿勢を移す。
左手に”粗悪なゴブ弓”を、右手に粗末な矢筒から背中のバックパックに移し、取り出した”ボロボロな矢”を持ち――矢を弓に番える……。
そして、焚き火方面のゴブリンに見えないよう注意しつつ……”引き手が顎につくまで引く”と言う、洋弓の理想的な弓の引き方を披露しながら――彼は静かに待つ……。
……まぁ、分かる。
”銃の発砲音”よりも、矢を射った際の”弓の弦の音”の方が遥かに静かである事は分かる……。
素人にしては、他の素人な人が見ても――構え方が様になっている事も……分かる。
……しかし、やはり素人も同然な経験のボスが射った矢が、当たるワケ……。
〜ギリギリギリ……ビンッ! ブサッ!〜
……えッ?
〜ゲギャ……ガッ……ガッ……ドサッ〜
……えッ!? ウソッ!? 喉元に当たって……ッ!?
しかも、倒れた衝撃で”箆”が鏃の根元からポッキリ折れて……!?
更に焚き火どころか……より警戒しているハズの、周囲の屋根のゴブリン共にも……気付かれてないだとッ!?
……ど〜だ。
今のオレなら、エルフとの弓術勝負で真っ向からタイマン張れるぞ?
どうなっているんだってばよッ!?
こんな……こんな達人級の技に匹敵するような技術を――素人同然のボスが出来るワケ……ッ!?
……素人同然の”腕”や”知識”でも、スキルさえ借りれば……レベル次第で達人級の技を使えるようになる……! これが、オレの能力だ。
……見直したか?
……いや、全然?
おいッ!? 何でだよッ!?
『兄さん……?』
――私の厳正なる実況にボスがケチ付ける中……再び、リフィルからの連絡が舞い込む。
『(……ハァ……。
まっ、頭のおかしな幻聴を”腐れ縁”みたく思っている場合じゃあないか……)
おっ、リフィルか?
ど〜よ? エナちゃんかアラナ君を通して見ててくれたか〜?
こんな、ゴブリンのショボイ弓矢を使っても――始末できちまうオレの惚れ惚れとした腕をッ!』
『……処分してください』
『……へっ? なっ、なんて言ったんだ……!? リフィル?』
『今直ぐ……処分してください……って言ったんです。兄さん……?』
――唐突に突拍子もない事を言われ、呆けてしまうボス……!
それに対し、静かながらも何故か”怒気”の込もった声で語り出すリフィル……!
『確かに……兄さんの実力と、兄さんのスキルの賜物である事は凄いとは思います……。
……しかし、その弓術は元はと言えば……”私の技術”を借りて出来た物ですよね……?
ですから……ハイエルフとして、私の技術に相応しくない……況してや、そんなボロ枝で出来た”弓擬き”に使われたとなると……! 我慢ならなくなりまして……ッ!』
『おいッ! リフィルッ!? 大丈夫かッ!? この悪臭に頭ヤラレてねぇかッ!?
話の内容は理解出来なくねェけど!? 今はそんな話をしている場合じゃあねェだろッ!?』
――一応、彼女の言い分を補足して言うのならば……。
「一流の技術を持つ料理人が、穴だらけ錆び塗れの調理器具を使っていて、恥ずかしくないのかッ!?」
……と言う物なのである。ボスも理解できたのは、上の一文を「軍隊や特殊部隊」的な”ミリタリーワード”に置き換えて理解したのであろう。
『……いえ、理解しているからこそ……言っているのです。
そして……私が危惧しているのは、それをこの”依頼”が終わってからも使い続ける事が……』
『いや、使う訳ねェだろォッ!? こんなボロ弓矢ッ!
マケットに帰ったら、もっと良い奴に変えて貰いたいぐらいだよッ!
自慢しちゃったけど! 仕留めるのに、射程ギリギリだったからな!? このボロ弓矢ッ!』
『……フゥ、良かったです……。あっ、すみません……兄さん。
本当……こんな状況じゃあ言うべき事ではないは……分かり切っていた事なんですが……。
……やっぱり、私の……ハイエルフとしての”誇り”と、”家族の思い出”でもある”弓術”が、汚らしい……いえ、相応しいくない弓矢で成されたのを見た時……。
こう……何と言えば良いのでしょうか……急に、その事以外考えられなくなりまして……』
『……』
――ボスは、「意外だな……こんな所でリフィルの”エルフ っぽい所”を見るなんて……」と思っていた。
唐突だが、よくあるエルフのイメージに<自身の種族が優れていたり、高潔であると思い込む余り……他種族を見下したりする>……などの、「高慢さ」がある事を◯者の諸君は、何度か目にした事があるのではないだろうか……?
彼は、彼女に会った際――彼女の性格に”感心と尊敬”を抱いたが、同時に”ガッカリ”もしていた……。
エルフらしい”高慢さ”が、彼女にはなかったからだ。(……まぁ、一眼見て満足した後……意地でも端正させる気でいたらしいが……)
しかし、今までラフィルの”高慢っぽい”態度で、鬱陶しいと思いつつも何とか自身の”ファンタジー魂”を慰めていた中……今回の彼女の発言である。
だが、それでも……ボスの胸中の”ファンタジー魂”が満たされる事はなかった……。
それ以上に、彼女が”自身の技術を誇り”に思う事、それが”家族の思い出”でもある事がボスの琴線に触れ、今ボスはちょっとした”漢泣き”を心の中で静かに流していた。
ただそれが……ボスの心の穴を”ファンタジー魂”を上回る以上に、満たしていたのである……!
『分かった……分かったから……。
……じゃあ、リフィル?』
――チョッピリ湿っぽい声が漏れ出つつも、何とか彼女に声を掛けるボス……。
『……はい?』
『マケットに帰ったら……二人分の弓矢を拵える事と……スキル無しのオレに、弓術を教えてもらう事……。
弓術の達人である”リフィル”さんに、ご教授願えるかな?』
『……フフッ、”弓術”に関しては……私は、ラフィルよりも厳しいかもしれませんよ……?』
『フッ、アイツよりも喧しくなければ――良いモンだ……。
だから……リフィルさんよ? さっさとこの依頼を終わらせようぜ?』
『えぇ……引き続き、兄さんを見守っていますが……。
早く、狼煙による合図を下さいね……?
後……もう私達は親しい中なのですから……”さん”はいらないですよ……兄さん? リフィル、アウト……』
『フンッ、ちょっとふざけて言っただけだよ、リフィル。
んじゃあ……。ボス、アウト……』
――戯れに言った事なのに、ユーモアに疎い優等生のような……真面目に取り合ってしまう彼女に、ボスはちょっとした滑稽さを感じ、またも口角が僅かに上がっていた。
しかし、談笑に耽っている場合じゃあないと状況を理解していた彼は、連絡を切り終えてからの行動は実に早かった……!
左手に”弓”、右手に(近接戦の際に”刺突短剣”の代用も考えて)”矢”を持ち、ラフィルの居た茂みへと静かかつ、速やかに移動して行くのであった……。
そして、茂みについた際にラフィルからの小言を面倒に思いつつも……先程同様、鹵獲した弓矢で”食糧庫反対側の宿舎の屋根”に居た「弓持ちゴブリン」を撃破。
チョッピリ驚愕したラフィルを横目にしつつも、速やかに宿舎に移動。
一番目の宿舎同様、コッソリと竹槍格子で封鎖して行き……再び屋根に居た「弓持ちゴブリン」を撃破して行った……!
これを計2回繰り返し、倒した「弓持ちゴブリン」は合計”6体”となっていた……!
……えっ? ”DIEジェスト”過ぎないかって……?
○者の諸君、考えてみて欲しい……。
多少のアクシデントなどで、細かな展開の違いはあるかもしれないが……。
先程の一番初めの宿舎封鎖の手順、これを計3回――ほぼ同じ内容を繰り返し書かれて<面白い>であろうか?
とあるコロネ頭のギャングスターも言っている……。
「何度も言わせるって事は”無駄”なんだ」……だと……!
そしてそして……!
「良しッ、最後の竹槍格子の設置も完了っと……!
後は……「スイッチ」……ッ!」
――そう言うボスの目前には、今回の話の冒頭にあった”マップ”のような”UI”が浮かんでいた。
彼は”十五箇所”もある「サムズアップ」のマークの内、”三つ”を押す……。
そして、自身も右手で「サムズアップ」を作り……スイッチを押すように、右手親指を動かすと……!?
〜 ……モクモクモクモクモクモクモク…… 〜
――ボスが身を潜める最後の「ゴブリンの宿舎」の反対側……。
「藁山エリア」から、3本の煙が立ち上り始めるのであった……。
間も無くして……覗くボスの視線の先に居る「焚き火」前のゴブリン達が、”宴会ムード”ではない騒がしさを立て始める……!
そして、一匹……また一匹と……ジョジョに、ジョジョに「焚き火」周辺の広場に居たゴブリン達は、”飛んで火に入る夏の虫”の如く……次々と「藁山エリア」へと、足を踏み入れていくのであった……!
あるゴブリンは、ボス達の目論見通り……撒き餌となった「マグロの旨煮」に飛び付き、後続のゴブリン共と奪い合いになったり……。
あるゴブリンは、(少数であったが……)訝しげに、出火する藁山を見つめていたり……。
あるゴブリンは、呑気に燃え盛る藁山を囲み……先程の「焚き火」の続きを続ける始末なゴブリンも居た……!
どいつもが、「ボス達の掌」の上だとは気づかずに……!
『良しッ! リフィルッ! 今だッ!』
『了解です! 兄さんッ! ……エナ……アラナ……お願いします……!
”……全てを包み込む大空……全ての源となる大海……全てを育む大地をせし神々よ……どうか私に……その”恵み”を……不当に享受せんとする輩達に……天罰なる奇跡を……私の魔力を糧に……お与え下さい……!”
……ハァァァァァァ……! ウィドラマスタ……フレイムストームッ!』
〜 ……ヒュウゥゥゥゥ……! 〜
――それは取るに足らない”ちっぽけな風切り音”だった……。
何体かのゴブリンはそのちっぽけな音に気づいてはいたが、僅かに意識を向けるだけで気にも留めなかった……!
だが……始めに、出火する藁山の火が不自然に揺らめき始め……。
次に、藁や小枝、小石などなどの”小さな物”が次々と藁山エリア内を、円を描くように動き始め……。
最後に、燃える藁山を焚き火に囲んでいた一匹のゴブリンが、自身の意志なく……体がずり動き始めている事に気付き、振り向いた際には時既に遅し……!
奴が見たのは”地獄”だった……!
何だ……アレ……!?
中央で食料に群がっていた奴らは見えず……代わりに見たこともない”巨大な薄緑色の柱”がいつの間にか出来ているではないかッ!?
それにオレの仲間達が、必死に走っている……? ……あっ、柱に吸い込まれたァァッ!?
しかも、次々とッ!? あんなに全力で走っていたのにッ!?
うわっ、顔に何か……ッ!? ……血が……血が……ッ!?
血が……上から……!? 雨のように降ってきているッ!? あの柱の中で切り刻まれてるッ!?
……えっ? 焚き火の塊が吸い込まれて……?
次々と……うわッ!? 燃えたッ!? あの”巨大な薄緑色の柱”が、焚き火以上に燃えてるッ!?
仲間達が……叫んでいる……! 掻き乱れるような轟音の中……微かに聞こえる声で叫んでいる……ッ!?
い……いやだ……ッ! あんな……熱くて痛いとこに吸い込まれるなんて……ッ!
いやだッ! いやだッ! 助けろよッ! 誰かッ! なんでオレがこんな目に……ッ!?
たまに空を眺めて……”鳥になって空を飛んでみたい”……なんて、思った事もあったけど……こんな風に飛びたくなんか……ッ!
……と、この惨状に気づいた哀れなゴブリン君の胸中を代弁しておこう……。
何故かって……? それは、上記の事を一切思う間もなく――一瞬にして、燃え盛る”薄緑色の柱”に、奴は吸い込まれて行ったからさ……。
吸引力の凄い”ダイ◯ン掃除機”の如く、吸い上げられて行った奴らの末路……?
そりゃあ――竜巻に切り刻まれ、荒れ狂う炎に焼却された後……最後の最後に”真っ黒な燃え滓”として、森に降り注いで僅かな養分となるか……。
運よく”大きな燃え滓”として残っても……これまた地面に叩きつけられた際に、”塵”と化すしかないであろう……。
どっち道、奴らの運命はチェスや将棋で言う……”詰み”にハマっていたとしか言いようがなかったのである……!
『……リフィル、屋内以外にゴブリンはもういないか?』
『……フゥ……。久々と言え……何とか上手く出来ましたね……。
あっ、兄さん……すみません……。少々お待ちを……』
――リフィルに連絡を取りつつも……内心、彼女の力に”怖れ”を抱くボス。
それもそのハズ……先程の最後に工作を仕掛けた家の影から、覗く彼の視線の先には――僅かながらも地面を抉り……螺旋状に炭化した、元「藁山エリア」があった。
先程の彼女の発言から、”久しぶりに力を行使した”……と推測出来るがそれでも、その魔法の余波で近くにあった小屋は全壊。
更にその近場の「ゴブリンの宿舎」の屋根の半分が引っぺがされ、人質がいると思われる「大きな家屋」の屋根も角の一部が崩壊する程の威力を、先程の”魔力によって作り出された竜巻”は発揮したのだ……!
実際の竜巻を見た事なかった彼は、彼女が巻き起こす竜巻は、日本にいた頃の”台風クラス”に、藁山以外も吹っ飛ばすんじゃあないかと、危惧していたが……。
久々故、多少のミスはあれどキチンとして「藁山エリア」内に、魔法を留まらせる”魔法の操作技術”……。
そして、ゴブリンとは言えどそれらを容易く屠れる彼女の魔力の膨大さに、「仲間になってくれて良かった」……と、再認識していたのだ。
ただ、ぶっちゃけ「これだけの魔法が出せるなら……ラフィルの役割、要らなくね?」……なんて彼女の魔法を見た後、彼は思ってしまうのだが……。
その後こっそり彼女に打ち明けて際に、『必要ですよ……。だって私……喧嘩や戦闘なんて、兄さんに会うまで全く出来ず……やりたいとも全く思いませんでしたし……。それに、ラフィルみたいに戦うにしても……私の魔力が膨大でも……限りはありますからね……?』
……と、見事に論破されてしまうのであった……。
『……お待たせしました、兄さん。
お二人に村の中を偵察して頂きましたが……。
屋内以外、ゴブリン共はもう屋外にはいませんでした……』
『サンキューな、リフィル。
二人にも”ありがとう”って、伝えてくれ』
『……はい! ありがとうございます……!』
『後……作戦通り、オルセットとラフィルを連れて村中央に集まってくれ。
今はまだ静かだが……さっさと各宿舎に”バリケード”を設置して行くぞ』
『……了解しました。
あっ……でも、オルちゃんが……』
『まだ不調なのか?』
『はい……。
中々調子が戻らないものなので……木の幹に寄り掛からせて休ませてはいるのですが……』
『……そうか……。
んじゃあ、一旦声を掛けて――ダメそうなら、無理はさせなくて良いぞ?』
『はい……分かりました……。
兄さん……お気を付けて……。リフィル、アウト』
『あぁ。ボス、アウト』
――連絡を終えたボスは、潜伏場所から出ると……「焚き火」のあった村中央へと歩みを進めて行く……。
「……フゥ、心配しすぎだって……。
あの竜巻の”馬鹿デカい音”を聞いても、屋内のゴブリン共はスヤスヤとお休み中……」
〜 ガタンッ! ガタッガタガタバンッ!
バンッ! ババンッ! ガタッガタガタバンッ! バババンッババンッ……! 〜
――と、まるで予定調和でもされていたかの様に、一斉に三軒ある「ゴブリンの宿舎」から壁や窓、扉を乱雑にブッ叩く音が続出し、ボスが封鎖した”竹槍格子”から怒り心頭のゴブリンが何体も、格子に見え隠れし始めたのだ!
「……でもないか……。
ヤレヤレ、この騒ぎ様……理解は出来るが、”発情期”かっての……」
……年中、獲物を殺し犯す事しか考えない”奴ら”にとって、強ち間違いではないが……。”銀髪天パのバカ侍”のセリフを一部引用するのは、どうかと……?
うるせぇ。こちとら”娯楽ナシ”でも、文句垂れずにやってんだよ……ッ!?
文句あんなら、異世界に”特許庁”のお役人さんでも呼んでみやがれ……ッ!
――うわぁぁ……”中指を突き立て”ながら、言っていそうな発言だぁぁぁ……!
『兄さん! お待たせいたしましたッ!』
――と、その一方……。
「ガル98」を携えながら、不機嫌な表情をしたラフィルと共に、ボスの元に現れたリフィル。
だが、ボスの視線は……黒マスクを装着した二人よりも、真っ先にラフィルの背後へと向けられるのであった……!
「……おい、オルガ……大丈夫か?」
「ウプッ……ボス達が……ガンバって…るのに……。
ボクだけ……クサイ…からって……タオれて…いるのは……イヤだよ……!」
――健気。ひたすら健気である……!
未だ、この村に漂う悪臭を前に”KO”状態であるにも関わらず……ボス達のために頑張りたいと、ラフィルに負ぶられながらもボスの元へ参じるとは……!
「オルガ……無理すんなよ……」
「だ、大丈夫だよ……ボスゥ……。
バリケードを……作る…ぐらい…なら……ウプッ……!」
「mrhbana! la tatajahalha!?」
「あっ、ヤベ……!」
――ボスは何を思ったのか……またまた”UI”を呼び出し操作をし始める。
何々……リフィルの……<弓術 Lev.10>の”Li”を切って……。
彼女の……<イラヴァ語 Lev.10>の”Li”を有効に……?
「おいッ! ボスッ!
いつまでこの駄猫を背負ったまま、無視され続ければ良いんだよッ!?
後、何で姉ちゃんをこんな悪臭塗れの場所に、オレらを案内させるよう頼んでんだよッ!? それに……!」
「待て待てラフィルッ! 今は一分一秒が惜しいんだッ!
リフィルからどうするか聞いてんだろ?」
「あっ? あぁ……あぁ」
「なら、この村にある箱やガラクタとかの廃材を、ありったけ掻き集めてくれ!
それで”バリケード”を作ってから、お前の説教は聞こう……!」
「……」
「とにかく……今は、お前の”力”が必要なんだ。
……協力してくれ、頼む……!」
「……チッ、仕方ねェなぁ……!
ホラ、さっさと降りろッ! バカ猫ォ!」
「……ブゥゥ……ラル君の……バカァァ……!
ボクは……バカ猫…じゃあぁぁ……なぁぁいぃぃ……! ブゲェッ!?」
――と、話しているにも関わらず、背中からずり落とされるオルセット……。
……会話が続いて黙ってしまっていたが……ナルホド。
スキルさえ借りれば……レベル次第で達人級の技を使えるようになる……!
会話の途中、ボスの耳に聞こえていた……アラビア語風の謎言語……。
それが”スキルを共有していない”時で……。
”UI”を弄った後に、唐突にラフィルの声がクリアに聞こえ始めたのが……。
”スキルを共有した”時と言う訳か……。
ナルホド、ナルホド……。
……お前こそ、小学校からやり直したらどうだ? その理解力!?
それはさておき……ラフィルを説得後、指示した後のボス一党の行動は正に迅速であった……!
リフィルのちょっとしたミスで、「藁山エリア」近くの”小屋”が全壊し……中にあった廃材がほとんどダメになってしまっていたが、それをカバーするかのように奮闘したのは、意外や意外……文句マンな”ラフィル”であったのだ……!
彼は残ったもう一つの”小屋”から、廃材を次々に運び出し……ボスが指示した場所にあっという間に運んで行ったのだ……! しかし、それだけではない……!
彼は何を思ったのか、村内の廃材を全て運び終えた後……「おい、ボス。ハンマーを出せ」……と何故かボスに催促し始めたのだ。
不思議に思いつつも、ボスが「アウトドアセール」からスレッジハンマーを支援投下させ、彼に渡すと……なんと!? 彼は”小屋”を破壊し始めたではないかッ!?
しかも、彼の優れた腕力により僅か3分足らずで”小屋”が破壊された後……休む事なく、今度は「食料庫」を破壊し始めたのだッ!?
”小屋”の時から「一体……どういう事だッ!?」……とポカンとしてしまっていた、ボス達であったが……。
「おい! ボスッ!? 何ボサッとしてんだよッ!?
廃材が足りないんだろッ!?
オレが壊した所から……サッサと、そこに寝そべってるバカ猫と一緒に運べよッ!」
……と、「食料庫」を破壊中に手を止めて一喝ッ!
思わぬラフィルの機転の良さに、ボスは舌を巻くと同時に感謝していた……!
恐らく、リフィルを通じて作戦を聞いた際――彼の「行動原理」が、”姉に無理をさせるか”……という思考で働いたのであろう……。
……唐突だが、私でさえ驚いているのだから……!
「ハァハァハァ……みんな、なんとか助かった……! 設置完了だッ!」
「スゴ〜いッ! ラル君もそうだけど……これを思いついたリルちゃんや、ボスもスゴイよォォッ!」
「おい、バカ猫……?
お前、フラフラでほとんど運べてなかった癖に、良く言えるな……? ……泣かすぞ?」
「モォォォッ! だからボクは”バカネコ”じゃあ……ウプッ……!?」
『オルちゃん……確かに、言う言葉には気をつけましょう……?
後……本当、臭いが無理でしたら……』
「だ……大丈夫だよ……リルちゃん?
チョ……チョッピリは……ナれてきたから……ウプッ!?」
「無理すんなって……オルガ……。
後、二人共? 喧嘩はいい加減やめろよ?」
――とまぁ、緊張感のない談笑が続く中……ボス達は、自身らの身長を優に越すようにそびえ立つ、”大きなバリケード”を前に、一列になるよう横に並んで立っていた……。
ボス達が作成したバリケードは、ラフィルが小屋や食料庫を破壊してくれておかげで、予定よりも潤沢な材料で作れたおかげか、意外にも機能的に作られていたのだ。
大きさとしては、およそ”5mの正方形”。
効率良く爆風をバリケード内に広めさせる他、ボス達を爆風から守る効果が期待できる代物である。
先程の竜巻によって”飛ばされた屋根”や、「藁山エリア」近くで竜巻によって”倒木した樹木”を基礎に、廃材が積み上げられており――ほぼ、”木製”なのが特徴の一つである。
そして、作戦の要となる”パイプ爆弾の束”はバリケードの中央、余った廃材の小山に包まれる形で設置されていた。
これは、中の”鉄片”だけでは不安に思ったボスが、爆破した際に”廃材の破片”も飛翔させ、殺傷範囲を広げようと考案したための物だ。
だが、それとは裏腹に……ボス達から見て正面には――ゴブリン達の唯一の”脱出口”となるような”穴”が……壁に”三つ”も設けられている。
閉じ込めないのか? ……と思う○者の諸君もいるであろうが、これは”脱出口”であると同時に”銃眼”である。
爆弾で仕留めきれず……逃げようとするゴブリン供に、確実かつ容易く鉛玉を頭に喰らわすために、わざと大きく開けた”罠”でもあるのだ。
因みに考案したのはボスだが、これを開けたのは――ハンマーを持ったラフィルであった。
即席ながらも、上記のようなバリケードを計三つ……リフィルの魔力使用”一切ナシ”で、各宿舎の入り口に、ボス達はおよそ”30分”程で何とか構築仕上げたのだ……!
そして、意外や意外……結構な時間が経っているにも関わらず、各宿舎からは未だ一匹たりともゴブリン供が抜け出す事は出来なかったのだ……!
「さてと……それはともかく、三人共、構えろ。
入り口を開ける……! 合図したら、頼むぞ?」
――ボスが再び”UI”を操作し、右手を”サムズアップ”にして、スイッチを押すよう親指を動かす……。
すると、既にもうボロボロであった宿舎の扉が突然! 破裂したかのように破壊され、無数のゴブリンが決壊したダムの水の如く……ボスたち目掛けて押し寄せて来たのだッ!
しかし、それを見ても彼は冷や汗をかく以外、表情を崩す事なく未だ表示していた”UI”を素早く操作した後……!?
「今だッ! 伏せろォォォォォッ!」
〜バッバッバッバッ、グッ……!
ドカアァァァァアアァァァァアアアァァァァァンッンッ!〜
――飛び込むように、背後へと一斉に伏せたボス一党。
そして、彼らが地面に着地したと同時に、彼らの背後から轟音が走る……!
両手で頭を抱えていたボス達が、恐る恐る顔を上げ振り向くと……眼前に広がっていたのは、ゴブリン供にとって――また別の”地獄”であった……!
飛び出したゴブリン供は全滅。
どれもが、爆風によって飛散した……画鋲(?)らしき”鉄片”や、ボスの目論見通りの”木片”が無数に突き刺さっており、それが致命傷となっていた。
更に、先程の”脱出口”近くまで走り、運良く生き残っていた者も重症……。
しかも、脱出出来た数体は――息がある事に気づいたラフィルに、容赦無く”頭”にスレッジハンマーを全力で振り下ろされ……潰れたトマトの如く、命を散らして行くのであった……ッ!
そしてそして……通勤ラッシュの電車に乗り遅れたように、家から出ずに助かったゴブリンの数は……実に、”36体”ッ!
家にいた際の”100体”という数と比べれば……”爆弾と囲い”を用いた作戦は、ほぼ成功したような物である……!
「総員ッ! 構えろッ!」
ボスの一声により、以前の”狩猟小屋の戦い”以来……久々に”爆弾”の威力の”凄さ”と”恐ろしさ”前に、思わず言葉を失っていたオルセット達”異世界組”は、ハッと正気を取り戻し……慌てつつも、各自が携帯していた得物を構えた。
彼らの目標は一つ……爆風にブルっちまっていたが、怒りを思い出し、顔を覗かせるゴブリン供……ッ!
「行くぜ……! 総攻撃……開始だッ!」
――一匹のゴブリンが上げた”突撃ィィィィッ!”と思わしき怒号を皮切りに、ゴブリン供は今度は鉄砲水の如く……再びボス達目掛け、各自の獲物を携え、突っ走って行く……!
それに対し、ボス達が行った事はただ一つ……。
弾が切れるまで、”脱出口”から這い出ようとする奴らの頭に照準を合わせ……。
次々と……冷静に引き金を引いていくだけであった……。
<異傭なるTips> アンホ爆薬
”硝酸アンモニウム”と”燃料油”を混合させて作る簡易爆薬。
アンホとは「Anmonium Nitrate Fuel Oil explosive 」の頭文字を取って「ANFO」と呼ばれている。
日本では「硝安油剤爆薬」とも呼ばれる。
爆破させる際には本来、”ダイナマイト”などの伝爆薬を使うのだが……ボスは、そこを「魔石の爆発」で代用させる事に成功している。
……因みに、伝爆薬として使用している魔石は――一ヶ月間の間に無数に狩っていた”小振りなゴブリンの魔石”を使用している。
ダイナマイトよりも、爆発の発生熱量や発生ガス量が少なく――ダイナマイトよりも安価かつ大量に作れるため、現代ではトンネルを建造する際などの”発破作業”に多く使われるようになっている。
しかし、その製造法の簡単さからボスの作った”パイプ爆弾”を含め……”圧力鍋爆弾”、”IED”、”自動車爆弾”などの多くの「テロリズム」を助長させる……安価な兵器としても使われてしまう、悲しい現実がある……。
ダイナマイトを含め……便利な物程、総じて戦争などの”争い”に利用されてしまうモノなのだ……。
因みに、その威力は”小さじ一杯程”で――コンクリートブロック一個を、粉々に粉砕出来る程の威力を持つ……!