Mission-42 ”マケット”ト異世界事情
明けましておめでとうございます!
今年もノロノロ投稿になる可能性が高いですが……。
どうか、この「異界の傭兵団」の物語と共に……ッ!
今年も宜しくお願いします……ッ!
About a month ago ...
(およそ一ヶ月前……)
「……ゴブリン退治? 何で今更?」
20:14 PM
Fortress City Marketet Former Execution Site Central Plaza
(城塞都市マケット 元処刑場 中央広場)
――とっぷり日が暮れた頃、ボスは”LEDランタン”の灯の中で「アウトドアキャッシュバック」で出した折り畳み式の”椅子”に腰掛けていた。
相当冷えていた夜であったのか……その傍らには同様に出したのか、「ロケットストーブ」が轟々と入れられた薪を燃やし、ボスを温めてもいた。
そして、これまた同様の”机”に置いていた――箸で切り分けた”シーフードお好み焼き”を一口……頬張った所に、彼の背後から声が掛かったのである。
そうしてボスは上記のように、お好み焼きを咀嚼しながら……その声の主”カルカ”に問い掛けていた。
今はちょうどボスが行ってた「炊き出し」が終わり、ボスの”食いしん坊三人組”な仲間達を含め……ほとんどの街の住民が床に就いた頃だった。
そんな中、どんちゃん騒ぎにもなっていた広場の片付けを、ボス”一人”でようやく終え……焼いておいた”シーフードお好み焼き”にようやく手を付け始めた時に、彼女はやって来たのだ。
「……そう。
街を救ってくれた上に、こんな催しもしてくれたのに……申し訳ないだけどね……。
貴方達、”傭兵団の腕”を見込んで――どうしても頼みたい事なのよ」
――LEDランタンの灯が、彼女をぼんやりと照らし出す。
……篝火や焚き火よりも明るいハズなのに……だと? ……軽く弁明させて貰おう、彼女は「狩猟小屋での戦い」直前――訓練の3日間の間に、ボスは何度か出して使っていたのを彼女は見ていた。
しかし、数百年先を行く「文明の利器」による昼間の如き、”眩い光”に慣れないのか――この時は少し離れていたからだ。
そんな彼女はマケット統治の実権を握ってからは……おっと――意外にも「反乱勢力時代」と余り変わらない、動きやすそうな”パンツ・ルック”な服装になっていた。
複数のレースが折り重なった”ジャボ”に”ペザント・スリーブ”風の袖をした”白シャツ……。
裾に金糸を使った、豪華な刺繍が施されている黒い”ベスト”……。
膝丈まである中世のズボンのような緑の”ブレー ”……。
ブレーの丈下以降を覆う、”ガーターベルト”のようにブレーの内側に着用された、中世タイツとしてよく見られる白い”ショース”……。
靴先が緩くトンガリとした、茶色い編み上げ”ブーツ”……。
そして、「3匹の豚」共の処刑時にも髪に着けていた……”麦穂のような金細工の髪飾り”を、少し伸びた後ろ髪にバレッタ風に付け、纏めていた。
……とまぁ、近世・近代風のデザインが混ざりつつもあるが……全体的に、その姿は「男装の麗人」と言った感じの服装に纏まっていたのだ。
その一方でその姿を見ながら「似合ってるけど……女っ気ねェよなぁ……その服」などと、地味に失礼な事を思いつつも――咀嚼していたお好み焼きを飲み込みつつ、ボスは返答した。
「……何でオレ達なんだよ?
この街にはご立派な”冒険者ギルド”があっただろ?
そんなザコ供――オレ達を襲ったご立派な冒険者達に、”依頼”として任せればいいだろ?」
「……依頼できる”資金”と、”信頼性”があったらね……」
「はっ? どう言う事なんだよ?」
「まず、貴方達が街を救ってくれた事には本当に感謝してるの……。
だけど……救った事で、二つの大きな問題が浮かび上がって来たのよ……」
「……どんなんだ?」
「……”資金不足”と”間引き部隊の人数不足”よ」
――その後、カルカはボスにそれらの事を含めたこの異世界事情を話していくのだが……何分、世界が違えば、”地理”や”常識”――”専門用語”に、”認識のズレや違い”すらも異なる物だ。
なので、ここは私が二人が話した内容を要約しつつ解説しよう。
まずは、どんな異世界に行こうとも必ず付き纏う要素であろう「食物連鎖」についてだ。
……いきなり話題が逸れているって? まぁ、コレを聞いておかないと彼らの話を説明しきれないので、申し訳ないのだが聞いて欲しい……。
「食物連鎖」とは、ザックリ簡単に言ってしまえば……自然界の「弱肉強食」を表した物になる。
”空”で言うなら、最も強い強者は……鷹や鷲など猛禽類。
”海”で言うなら、最も強い強者は……鰐や鮫、鯨などの爬虫類、軟骨魚類、哺乳類。
”陸”で言うなら、最も強い強者は……ライオンや熊、蛇などの哺乳類、爬虫類……となっている。
そして、それらの下に”食べられる弱い生物”が居て……その生物の下にまた、食べられる弱い生物が居て……と言う事が繰り返される――”生命の循環”こそが、リフィルにもチラッと諭すように話していた「食物連鎖」なのだ。
……それでは最弱は? ……だと? 無論、突き詰めると最終的には”ミジンコ”や”草履虫”などの、肉眼ではまず見えない――”微生物” の類に行き着くため、ここは割愛させて頂く……。
そして……コレらを図式で表すとしたら、上の頂点を”強者”として……下に行く程”弱者”になって行くように表すのだ。
そうすると――ちょうどエジプトで有名な”ピラミッド”のような三角形の形として説明できるのである。
それじゃあ、コレを異世界などの「ファンタジー」世界に当て嵌めると?
どの世界でも「こうだ!」……と、<共通する魔物や特有の生物>の強さが――確実に同じではない事は確かな筈なため、厳密な強さを示す事は非常に難しいであろうが……。
概ね、ファンタジー世界の食物連鎖の頂点は……大体「ドラゴン」であろう。
中間辺りとなるのは……「オーク」や「オーガ」、「リザードマン」ではないだろうか……?
そして、最弱となるのは……「スライム」や「スケルトン」……知名度ナンバーワンであろう「ゴブリン」! ……となるハズであろう。
では……この異世界では「食物連鎖」はどうなっているのだろうか?
頂点? しばらく確認されてはいないが、”ドラゴン”だそうなのはカルカの談。
中間辺りは、「オーク」や「オーガ」の類は……ボスの予想が大当たり!
ではでは最弱と言えるのは? ……実は「人間」や「家畜」、「野生動物」なのであった……!
「何でゴブリンが”最弱”じゃあないんだよッ!?」
……無論、思わず身を乗り出すように――意見してしまうボスの意見は最もだ。
だがしかし……その認識はこの世界ではビミョ〜にズレていたのである。
「……ゴブリンが最弱? 何言ってるの?
確かにゴブリンは弱い魔物の部類だけど……。
それでも、最弱の中の最強なのよ。……ゴブリンはね」
コレにはボスも首を傾げた。
……しかし、カルカの説明を聞いて行く内に、ボスはゴブリンを侮ってはならない魔物だと認識せざるを得なくなって来ていたのだ……!
そう……ゴブリンは食物連鎖ピラミッド、下層「弱者部門」の”頂点”なのである……!
言い換えれば、実は食物連鎖の”中位最下層”に、食い込むかどうかと言う魔物であったのだ……ッ!
だが、どうして中位最下層に食い込もうとする強さがあるのか……?
……その”最弱の中の最強”として言われる所以は、キチンとある。
それは、”知能”だ。
「パルトディアー」や「マグズリー」などの”獣に近いタイプの魔物”は、基本的に考える事はあまりせず、本能に従って行動することが多い。
だがしかし……ゴブリンは、その行動の下劣さなどから”野蛮”やら”獣”と罵しられる事が多いが……それでも、歴とした「人型」の魔物である。
群れて行動し、武器を作り、罠を準備し、計画的に獲物を狩る事も出来る……!
いずれも「拙い」や「浅はか」、「杜撰な」……などなどと言う、形容詞が付くが……ゴブリンは”獣タイプの魔物”にはない”知能”を武器に、冒険者達に襲い掛かるのだ。
人間は生物学上、その体格に見合わない大きさと重さを持つ”脳”を、「直立二足歩行」に自身の体を進化させて行く事で、全動物中、最も高い知能を得てきたのだ。
だからと言って、今日の人類の種族である「ホモ・サピエンス」同様……ゴブリンも猿から進化してきたどうか、証明できるかは定かではないが……。
それでも、奴らは”チンパンジー”や”ゴリラ”が行う「四足歩行」ではなく……立派な「直立二足歩行」し、獣以上の知恵を持って冒険者達に襲いかかっているのだ……!
そして……彼女の話を脳内で現代的な”例え”や”解釈”――”補足”に変換しながら、大まかな”ゴブリンの脅威”を知ったボスは、大いに恐れた……ッ!
……そのため、口ではリフィル達に”最弱の魔物”と罵りつつも――「一ヶ月間の訓練」の際……。
”リフィル”と”ラフィル”のそれぞれに……「Gar98」や「オリバンスター M1894」による狙撃で、バンバンと遠方から”ゴブリンの群れ”を一方的に減らさせた後……。
”1〜3体”程度になってから自身やオルセット、ラフィルと共に”近接戦”での銃火器や格闘、立ち回りなどの訓練をしていたと言う……所謂「ビビリプレイ」を半月程やっていた時期もあったのだが……それを語るのはまた別の話である……。
だが……ここから、ようやく二人の”本題”となる話は始まって行くのだ……。
「……ナルホドな。ゴブリンが舐めて掛かっちゃあいけない魔物だって事は――良く分かった。
遭遇した際には十分気を付けるよう、善処しよう。
……だが、それでも何で”ゴブリン如き”に大袈裟に困るんだよ?
結局は弱いんだし……倒せば問題ないんじゃあないか?」
「……驚くほど強いのに、何でこう言うところは抜けてるのかしらねぇ……?」
「おい、それはどう言う事だ?」
「……あぁ、ごめんなさい。
別にゴブリンが”強かった”……って、蒸し返す訳じゃあないから」
「……お前こそ抜けてないか?
それじゃあ、結局オレの事を”おマヌケ”だって、バカにしてんのを誤魔化せてないぞ……?」
「……あっ……!」
「……話は終わりか?
こうやって、お好み焼きをのんびり食っちゃいるが……オレら傭兵団も暇じゃあないんだ。
誰かさんのために街を救った後――”サービス”で、街の清掃やら食糧供給やら、更には商会の立て直しに……挙げ句の果てには、内政のためのアドバイザーなどなど――とッ!
”無償”かつ、”領主館の部屋”に無期限で滞在できる事と引き換えにやってるんだ……!
……冒険者ギルドに報酬が払えない程――”金がない事”を理由にな?」
……とまぁ、ボスは「昼間の話」と「資金」と言うキーワードから、「冒険者への依頼の報酬」が出せない程、カルカ達の財政が”火の車”になっている事を見抜いていたのだ……!
これで”一つ目の問題”の謎が解けた訳だが……?
「……いやッ、その……」
「……と言う訳で、明日もお互い早いんだ……。
お互い忙しいんだし……これ以上、お互いの仕事を増やしても……」
「うわァァァァァッ! すまなかったッ! 私も夜通しの”執務”で疲れてたんだッ! 頼むッ! 話を聞いてくれェッ!
この街から去ろうなんて思わないでくれェェッ!」
――と、必死の形相で再び――お好み焼きを頬張ろうとしていたボスの膝に、泣き付いて来たカルカ。
この突発的な展開に、ボスは思わず「”ドラ◯もん”に泣きつく、”の◯太くん”かよッ!?」……と、”芯の通った立派な女領主”と言う、彼女のイメージが一瞬にして崩壊して行くのを感じた……!
しかし、このまま”の◯太くん”な事は口に出さずとも、何かしら言わなくては収拾がつかないと思ったボスは……。
「待て待て……そんな、切羽詰まった事なのか?
それに、オレは……」
「そ……そうだ……!
ひ……貧相ではあるが……こっ、この後…私の事を……す、好きにして……構わないから……!
そっそれで、機嫌を直して…話を……ッ!」
「待て待て待て待て待て待て待て待てェェッ!
何でそう、「ここから先は”R指定”だ」……的な展開になるんだよッ!?
馬鹿にされた事は――チョッピリ、ムカっとしたけど……街を去るまでには怒ってないから……!
……大体、”オルセット”や”リフィル”と言った――女性メンバーが居るってのに、浮気的な事なんてオレは……!」
「ほっ、本当か!? 本当なのだな!? ボスさんッ!」
「お……おう。
だから、落ち着けって……! そもそも”間引き部隊”とかって何なんだよ?
……響き的に、”多すぎる害獣を間引く”……的な仕事をする役職に聞こえるんだが……?」
「……そうね。
害獣となる獣もそうだけど……主に魔物を狩る事が、”間引き部隊の仕事”なの。
そして”間引き部隊”は、同時に”街の食糧調達”も行っているのよ……」
……「肉は力の源」。
これは、現在のヨーロッパの人々の文化的祖先となった……とあるゲルマン人が残した言葉である。
ハッキリと記録が残る”弥生時代”に、中国から伝来した”稲作”が日本に浸透して以降……日本では、”菜食”が中心となっていった。
その一方で、「欧州(ヨーロッパ)」に住んでいた人々は、日本と比べると”農作には厳しい大地”に囲まれた中……代わりに”牧畜”や”酪農”、”狩猟”で手に入れた貴重な食料である肉類を、獲物の隅々まで余す事なく食して来た事で、今日まで子孫を残し――繁栄させる事が出来て来たのだ……。
……とまぁ、ここまでかなり簡単かつ、ザックリと「日本とヨーロッパの食文化の違い」を説明して来たのだが……これが100%、ファンタジー世界に当て嵌まるのかと言うと――それは難しくなってくる。
各”転生者”や”転移者”達が訪れる世界によっては、魔力というバリバリな不思議パワーによって……日本並みかそれ以上に、バリバリと”豊かな大地”と”綺麗な水”、そして”豊富な農作物”に溢れた世界になっていたりする事もある……!
……そして「魔力が大地を巡って……」と言う、捻りのなく有り触れ始めた説明によって、「なるほど〜!」……と、片付けられてしまう場合も多いが……考えてみて欲しい。
じゃあ、その農作物達を毎回――安全に回収出来ていたのだろうか……?
「赤ずきん」、「狼と七匹の子山羊」、「三匹の子豚」……。
このように、非常に有名な”童話”になる程――中世ヨーロッパでは、”盗賊”とほぼ同格に、”狼”の存在は恐れられていた。
……どうしてかって? それは、菜食中心の日本では「真神」と”狼”は、大事な作物を食べる害獣を排除していた事などから――”神格化”された程、崇められたのに対し……。
肉食中心のヨーロッパ世界では、”牧畜”や”狩り”で得た獲物を盗む事が多発していた事から、狼は憎悪の対象……言わば”悪”の存在として成り童話として語り継がれてきた程、”ヨーロッパ”及び――植民地化された後、その子孫達が混在する”アメリカ”では、狼達は憎まれ役であったのだ。
だが……ファンタジー世界ではその”二大巨頭”だけではない。
それらに加え、絶対に欠かせない”魔物”――モンスターの存在があるのだ。
今日、異世界ファンタジーが溢れすぎて――少々、その存在は”アタリマエ”に軽視されがちであるが……その脅威は圧倒的である。
その脅威をザックリと現代的に例えるのなら……「”アメリカ”と”ロシア”の二大国家が、第三次世界大戦でドンパチやっている最中に……現代科学では解明不可能な”技術”をてんこ盛りに持った”宇宙人供”が、第三勢力として地球に侵略しに来た」……と言えば、ファンタジー世界の過酷さ、カオスさがお分かりになるだろうか?
……更に言えば、そんな「ゴブリン」だの「オーク」だの「時に形容し難い化け物」である魑魅魍魎(魔物)共が、ほぼ無尽蔵に湧き出てくる上、その”湧き出る理由”や”根絶方法”も余り解明されていない事が、ほとんどの世界では多い……。
そんな得体の知れない化け物供が、跋扈(ウジャウジャ)しまくっているより”ハードな世界”の中……鋤や鍬、鎌などを振るって、呑気に”農作物を回収”したり――狼や盗賊以下に、化け物供が”家畜を盗まない保証”は何処にあるのだろうか……ッ!?
「……ナルホドな。
”作物”や”牧畜”の巡回警備に加え、その過程で狩った食える魔物や獲物を”食料”として街や国に供給するのが、”間引き部隊”なのか……。
だが、それ以上に”間引き部隊”で大事な役目なのが……」
「スタンビート。
魔物達が増えすぎた事によって――森の果実や山菜、動物など……その地域の”あらゆる食料”を食い尽くして――私達の住む街なんかに、”食料を求めて襲い掛かる”事がないよう間引く必要がある。
……それが、”間引き部隊”の真の目的でもあるの」
そしてだ。生きている限り……動物である限り……必ずついて回るのが生物としての「3大欲求」と言うものだ。
思考を正常に保たせ、体の成長を促す……「睡眠欲」。
次代に自身の子孫を残して行くための……「性欲」。
……そして、生命維持に欠かせない……「食欲」。
勿論、これは人間にもあり――更には「人間的3大欲求」が、様々な説として提唱されていたりするのだが……。
当然、生き物である以上……特殊な例がない限り、”魔物”にも生物としての「3大欲求」は存在する。
そして……ボスとカルカが、冒頭で話していた”ゴブリン”。
”最弱の部類の魔物”である事は確か何だが……前述の”知能”に加え――その生態が、非常に厄介であるが故に”食物連鎖ピラミッド”の、「中位最下層」に食い込む程の強さに認識されていたのだ……!
……それを、この世界で分かっている限りの”奴らの生態”を言うのならば……。
小柄かつ身軽な体を生かした”敏捷性”。
自身の2倍近くある、人間の頭まで飛び掛かれる”跳躍力”。
更に人間は勿論、全く種族の違う”動物”や”魔物”でさえも……”雌”であれば見境なく捕まえ、「エ○チな事」をしては……まるで、鶏に迫るペースでポンポンと生まさせる程の”繁殖力”。
そして、その繁殖の”苗床”となり……その機能を失ってしまった苗床を、何の躊躇いもなく――嘲笑いながら”惨殺”してしまうなどの、”残虐性”。
そしてそして、その無残となった”死体”や”既に腐った食物”でさえも食す程の悪食さを持つ……”雑食性”。
……この五つの中で、特にその「雑食性」が様々な魔物達よりも群を抜く程……。
<”スタンビート”を起こす原因>に最もなっていた事から……この世界の住民達にとって、厄介者として嫌われていたのだ……!
「……ていうか、何でそんな厄介なら”間引き”なんて言わず――”根絶部隊”に改名もせず、冒険者に任せる事があるんだよ?」
「……この王国の方針よ。
……と言うよりも、そんな事をしたら”お金を稼げなくなった人”達が、盗賊に堕ちて被害が増す一方よ。
だから……冒険者達の食い扶持が困らない程度に”お溢れ”は、残しておかないといけないのよ……」
「……厄介なモンだなぁ。
しかし、そんな奴らの相手もする事があった「反乱勢力時代」によく遭遇していた割には、良く生き残れてきたモンだなぁ……?」
「……私だって苦労したのよ。
マケットで苦しむ人達のために……苦労して狩った「パルトディアー」や「マグズリー」を今まで何度、横取りされた事やら……。
……いつも遭遇しては、狩った獲物を残して――真っ先にその場から逃げていたわ……」
「それでも、冒険者でもない”一般人の大人”が、たった”一人”でも撃退できる弱さなんだろ? ゴブリンは? ……何で逃げてたんだ?」
「……逃げてないわよ。
相手がたった”一匹”だった場合はね……」
「塵も積もれば山となる」、「積羽舟を沈む」……。
狼の童話同様、今日まで伝わるこの有名な諺のように――”数の暴力”と言うのは、いつの時代でも猛威を奮って来た。
それはゴブリンだけでなく、”食物連鎖ピラミッド”の下位層全ての魔物に言える事である。
奴らは<個>としての能力は人間よりも下か、互角に張り合うのがやっと”と言うレベルではあるが……。
奴らが”人間よりも強い”と言う本質は、<群れる>事にある。
ここよりそう遠くない未来、オルセット達が複数のゴブリンを容易く仕留めつつも、何故か何度も窮地に陥っていたのは……紛れもなく奴らが”群れていた”事からだ。
群れて連携し、常に”死角”を突くように襲い掛かっていた事による賜物だ。
……そして”数の暴力”の恐ろしさは、人間が地球に生まれ……400万年以上も続く”人類の歴史”が常に良く物語ってくれる。
世界中が”地獄の大釜”を閉じるのに、必死になって犠牲を払い続けた……”第一次世界大戦”のように……!
「……魔物が自覚してるかは分からないが、群れれば軍隊並の恐ろしさがあるってワケか……」
「そう言う事。
特にゴブリンは、他の魔物の数がマシと思えるぐらいに数が多いからね……。
”スタンビート”が起こった際は、人間の”雑兵並み”に良く見かける程数が多いって、聞いた事あるわ」
「ナルホドな……。
けど、逃げ出した一番の理由は――やっぱいつも、いやらしい目つきで見られるのが嫌だから――逃げ出したんじゃあなくてかぁ〜?」
――真面目な話にチョッピリ飽きて来たのか、からかうような口調で茶化すボス。
「かっ、からかわないでよッ!
確かに、”そんな被害”にあった人達が多く居る事は聞いた事あるけど……。
……べっ、別に怖いから逃げたとか……そう言うんじゃあなくて……」
「ハイハイ、聞かないでおくよ。
……しかし、最後に聞いておきたい事がある」
「なッ……何ッ? 何が聞きたいの……?」
「……何で真っ先にオレら”傭兵団”を頼ったんだ?
成り行きで協力し合った仲とは言え、オレらは何の後ろ盾もない……ポッと出で、しかも出来たばかりの”はぐれ者集団”なんだぞ?
それに……お前自身、ゴブリンよりも強い”マグズリー”とかを狩れる実力もあんだろ?
……なのに、街の衛兵や冒険者達よりも――オレらを”信用”出来るって言うのか?」
――ボスは地味に気になっていた……彼女が言う”信頼性”と言う事柄に、メスを入れるのであった……!
「……全員、この国の手先だからよ」
「んッ? 衛兵は何となく分かるが……冒険者もか?」
「そうだけど……この街の中から、自ら志願した”自警団としてのメンバー”も少なからず居るわ。
だけど……冒険者ギルド自体が、国営なのよ」
……つまり、彼女が言いたい事はこうだ。
<この王国の全ての”経済”を担うギルド達の元締めとなるのが「冒険者ギルド」である>
<そして、「冒険者ギルド」は、各都市や街、村を見張る「諜報組織」と言う”裏の顔”を持つ>
……と言う事であった。
またまたで申し訳ないが、これらを詳しく説明するために、少しザックリとした歴史のお勉強に入る……。
……それは一時期、中世ヨーロッパではまだ――”我が王こそ、国を収める者なり!”……的な「絶対王政」が浸透していなかった頃……。
「城塞都市マケット」のような、各”自治都市”(王様に仕える、各諸侯(領主)達に従わず”市参事会”と言う独自の行政機関によって運営された都市)では……”商人こそ正義ッ!”……と言わんばかりの政治が行われていた……。
これは、商人達が、「商人ギルド」を作り上げた成果にある。
この頃は、市参事会で”政治的発言力”を持つことが商売をする際に有利に働くため、この市参事会を牛耳るために商人たちが団結して、「商人ギルド」を作り上げたと言う背景があったからだ……。
だが、彼らが利権や儲けを牛耳り過ぎた性か……彼らが取り扱う”商品”を生産する、職人達の”儲け”や”立場”がドンドン低くなって行くようになっていたのだ……!
それに対抗するように……職人達が一致団結して立ち上がったのが、「職人ギルド」なのである。
まぁ、その後……”絶対王政”が始まったことで自治都市の自主性が失われ、王権に屈していったため、職人ギルドは王権に擦り寄ることで自分たちの利権を守ろうとするのだが……。
市民革命(民主主義。絶対王政をぶっ壊して、個人を大事にしよう! ……的な運動)が起きた時期に、王権に擦り寄っていたギルド達は、時代の流れに逆らう事ができず……止む無く解体されてしまう、何となく虚しい結末を迎えてしまう……。
……とまぁ、ここまで下地として「現実世界の歴史」をザックリ解説して来たワケだが……。
……そもそも”ギルド”とは、「組合」の意味する言葉である。
”パン屋さん”や”武器屋”以前に……”パンギルド”や”鍛治ギルド”などの様々なギルドが「現実の中世ヨーロッパ」の世界では存在していたのだ。
彼らは国にすり寄っていたものの……各ギルド内の技術や腕を存分に振るっては、その利益をギルド内で肥やしていた。
では、そのパンや武器を作るための”原料”は、一体、何処から取ってきていたのであろうか?
前述で解説した”ファンタジー世界”の人外魔境っぷりを前提に、考えてみて欲しい……。
ファンタジー世界だと、「ゴブリン」だの「オーク」だの「時に形容し難い化け物」である魑魅魍魎(魔物)共が、ほぼ無尽蔵に跋扈(ウジャウジャ)しているよりハードな世界なのだ。
そして前述の”麦などの作物の栽培”同様……。
”武器”などを作るための<鉱石の採取>……。
”食料”や”移動手段”になる<家畜の飼育>……。
更には、<採取した原料の運搬>……などなどの、”原料獲得に関する仕事”が落ち落ち安心して出来ない世界で、どうやって<人間らしい文明的な生活>を送ればいいのか……?
そこで登場してくるのが、<総合派遣警備会社>ッ!
……もとい、みんな大好き”冒険者ギルド”なのだ。
冒険者ギルドが、様々なギルドから”商品”の”原料採取”の仕事を受け、それを命知らずな”冒険者達”に斡旋。
採取してきた原料を元に各ギルドが”商品を生産”、販売した商品が”街の中”や他の”城塞都市”や”国”へと流れ利益になり、各コミュニティの経済を回して行く……。
そして、その際の”商品輸送”の警備もよっぽど裕福な商会や行商人などが”私兵”でも雇わない限り……主に”冒険者”がその役目を担う事になるだろう……!
要は、”冒険者ギルド”こそファンタジー世界における”文明の利器の原産地”、もとい”経済を支える要”と言っても過言じゃあない組織であったのだ。
だからこそ……自分達の利権を守るためにすり寄って来たギルド達と言う”利権”と”建前”を――”王国”と言う、巨大な権力が見逃す筈がない。
王国は、諸侯にギルドが存在する村や街を守るように命じると同時に、その諸侯が存在するところでは、必ず”冒険者ギルド”を設置するよう、義務付けた。
表向きは、経済循環のための<素材採取>と、盗賊撲滅のための<様々な仕事の斡旋>目的とした<総合派遣警備会社>であり……。
スタンビートなどの”災害”が発生した際の”王都への報告”や、”軍隊の到着までの時間稼ぎ”を円滑にこなす為の”予備役”としての役目があるのだが……。
その実体は「各”村”や”都市”が王国に対し、反乱を起こさないか見張る事に特化」した……”諜報機関”であったのだ。
そもそも……「一杯のコーヒーに、何粒のコーヒー豆が使われた事を数える」のが無理なように……。
一つの王国と言う”目”だけで、国中の諸侯達が裏切らないかどうかを同時に見張るのは、どうしても無理があるのだ。
その為、王国は冒険者ギルドと言う”職業の安定”、”商品の為の原料調達”、”緊急時の兵役”を表向きに持った諜報機関を、各村や街に設置。
……冒険者達が発する”何気ない一言”までに、態度に出さなくとも――常に熱心に耳を傾け、何処かに”反乱の兆し”や、”王権を揺るがす脅威”がないかを逐一、調べているのだ……!
……勿論、そんな勢力が合った際には、速やかに”処理”が行われる……!
そんな”裏の顔”を各ギルドが把握しているまでは定かではないが……。
少なくとも……ギルドやそのギルドに所属する商人達は、「冒険者ギルド」には頭が上がらないのだ。
見限られたが最後、”商品”を作るための原料を調達するのならば、魔物共が跋扈する危険地帯に赴き”己の命”を賭けなけねば……収入を失い、待つのは”飢え死”だけなのだから……ッ!
だからこそ、商人達は”経済の歯車”が止まりそうな案件があれば、即報告!
それこそ商人達が”冒険者ギルド”から受けている暗黙の了解でもあったのだ……!
……と、こうなるのは少なくともこの”ウォーダリア”の「冒険者ギルド」ならではの話である。
「……そんな、陰謀論めいた事まで知っているとはな……驚きだぜ……!」
「……あの「3匹の豚」共の弱みを探る段階で、偶然知れたのよ。
まさか、常に監視される程……王国は私達”諸侯”――領主達はおろか、その下に仕える”騎士”までも――信用していないなんてね……」
彼女が落胆するのも無理はない……。
……実質、「3匹の豚(野郎)」共が”王国を裏切ろう”とした実例が――つい最近あったばかりなのである。
……このような事が、より諜報機関としての”冒険者ギルド”の必要性を証明している。
実は、こういった裏切りに走る可能性は、「現実の歴史」にもあったりする。
日本の鎌倉時代、世の中は「御恩と奉公」の関係により成り立っていた……。
これは、雇い主である”鎌倉幕府”が、後述の”奉公”に対し……”土地の所有権の保証”と”成果によって新たな土地を与える”事で、給料……すなわち<御恩>を与える事に対し……。
労働者である”御家人(将軍直属の武士。後の戦国時代では、戦国大名直属の武士を指す言葉になった)”は<御恩>目当てに――幕府の名によって、様々な”兵役”に従事していた事を<奉公>と言うのだ。
これも非常に、細かい説明や違いを含め――ザックリとはしているが……このような関係が、中世ヨーロッパの「王様、諸侯(領主)、騎士」の間でも成り立っていた――と言う前提で話を聞いて欲しい。
国家元首(もしくは会長、社長)である”王国”の下に、諸侯……。
地方都知事(もしくは専務や常務)である”諸侯”の下に、騎士……。
市長や町長(もしくは中間管理職)である”騎士”の下に、雑兵……。
……と、上司が部下に給料を与え、そこに”住む事”や”住居の安全”を保障していたのだが……。
その全ての”諸侯”や”騎士”が、王国への<絶対的な忠誠>を誓っていた訳ではないのだ……!
「だからこそ……カルカの”反逆”行為は、国に筒抜けだと?」
「そうよ、貴方もね?
200人もの敵を物ともせず、この街を救ってくれた”英雄さん”?」
「……やめろ。オレは英雄じゃあない。
それこそ……お前だって、反逆した国に対してどう思っているんだよ? 成り立て”領主さん”よぉッ!?」
――先程の意趣返しをされた事に、ボスは噛み付くように彼女の思いを聞くのであった。
……しかし、話している最中に、いつの間にかボスと対面するように――彼が出していた椅子に座っていた彼女は、目線を机に落としながら――こう語るのであった……。
「……私は妾から生まれた庶子よ。
マケットの人達は……あの豚共が散々杜撰な統治をしていたおかげで、私の統治がまだマシだと思って――私を支持してくれたと思うだけど……。
……私は男爵家の生まれでも、全く権力がないも同然の存在……。
仮に、今回の”反乱”に国のお咎めが無くとも……私はもう、王国への帰属意識は”微塵にもない”わ……」
「……帰属意識? 忠誠心の事だよな?
王との主従関係が前提の、”貴族”であるって言うのにか?」
……そう。
今現在、彼女の意志のように……「王様、諸侯(領主)、騎士」。
これらの関係は、「アンタに惚れて……!」……と言った”義理人情”や”仁侠的”な<絶対的忠誠>の元に成り立っていた関係なのではなく……。
あくまで、現代的な例として前述に書いた「”雇用主”と”労働者”」の関係のように、単なる<利害関係>でしかなかったのだ……!
乱暴に言うのならば――「王国さんよぉ〜? オレらが満足する”金”や”役職”、”土地”をくれないんならぁ……お前らに対して働いてやんねェ〜よッ! ケッ!」
……と言った考えを持つ「諸侯や騎士」を、「王国」などの”国”は雇い入れていた……と言う事になるのだ。
更に言えば、当時の”諸侯”や”騎士”達は、複数の王に仕えていた事なんてザラであった。
これは、例えるなら……”フランス”という一つの大地の中に、「A国」と「B国」などの複数の国があったとする。
その中で、「アップルズ領主」と彼に仕える「バター騎士」が居たとしよう。
彼らは、非常に待遇の良い「A国」に仕えていたのだが――ある時、「B国」と戦争になった。
忠誠心の高い「アップルズ領主」は、「A国のためにィィィッ!」……と、命を賭して戦場に向かうのだが……!?
何とビックリ! 戦場で同じ「A国」に仕えて居た、盟友であった筈の「チャーリー領主」と――刃を交える事になってしまったのだッ!
そして、「A国のためにィィィッ!」……と、涙を飲んで「チャーリー領主」を討ち果たした彼は――信じられない事実を、死の間際であった彼の口から耳にする……!
何と何とビックリな事に……「アップルズ領主」に仕えたハズの「バター騎士」は、「B国」がこの戦争の戦局をひっくり返せる”秘密兵器”があると聞くや否や……あっさりとB国に寝返ってしまっていたのだ……ッ!
そしてそして、戦局は逆転。「A国」は滅び、「A国」に仕えて居た「アップルズ領主」、「チャーリー領主」は共に討死……!
「バター騎士」は、上手く”勝馬の見込み”がある「B国」に鞍替えし――「A国」の機密情報を持ち帰った功績も出来た事で、「バター騎士」改め――「バター領主」に昇進!
だがしかし、この”裏切りと勝馬に乗る味”が忘れなかった「バター領主」は、次に戦争の見込みがある「C国」の「ダフ領主」と密会……!
「戦時にB国の機密情報を持ってくるから、”C国の諸侯に迎えてくれ”よぉ〜」……と、「A国」と「B国」の二カ国に”二足草鞋で仕えて居た”「チャーリー領主」と、同じような運命を辿るのであった……!
……とまぁ、このようなちょっとした叙事詩のようになってしまったが……。
このように、”フランス”という一つの大地の中で、国と国との国境線が曖昧だった事もあったのだ。
そうした事もあり、諸侯や騎士達は”己の利益”を優先して勝馬となりそうな国に仕えるため……複数の国と「契約関係」を結んでいたと言うのが、当時の実態だったのだ……。
騎士の誇り? ……そんなもの、当時の騎士達の間で「騎士道」が存在しなかった頃――そこらの肥溜に投げ捨てられていたようなモノであったのだ。
それよりも、第一章の「チャプターボス」のような……<強盗騎士、盗賊騎士>なんて言葉がある程に――当時の彼らは素行が悪く、騎士のフリをした”傭兵”や”ゴロツキ”までもが居た始末だったのだ。
「……ボスさん、あなたへの感謝がどれほどの物か分かってる?
たった4人で、その50倍近い”200人の徒党”を相手に……一つの街を占領する程の戦果を挙げているのよ……!
普通では、絶対に”ありえないような戦果”を……ッ!
それに私は……大好きであった街を、何の説明もなしに”10年近くも放置していた王国”よりも……出来るなら、”貴方に仕えたい”……! 忠誠を誓いたいと思う程に……! 私は感謝しているのよ……ボスさん……ッ!」
「……オレに……忠誠?」
「……そう。
それ程までに……貴方を”信用”してるって事でもあるのよ……!」
――「本気の事よ?」……と言わんばかりに、真摯に彼の目を見つめながら語って居たカルカ。
しかし、今度は彼が――彼女から視線を逸らす番であったのだ……。
「……やめてくれ、忠誠だなんて。堅ッ苦しい……」
「……ボスさん、言わないようにして来たけど……。
貴方、自身の事を卑下にし過ぎじゃあない?
ボスさん……貴方はもっと、誇っていいのよ!? 貴方が成し遂げてくれた事は、それ程に値する事何だからッ! それこそ……貴方が、この国の新たな王に……ッ!」
「……だから、やめてくれ! オレは英雄なんかじゃあない。
王様でも……神様でもない!
……これまでも、これからも……”変わらない事”だ……」
――ボスの唐突な怒鳴り声に、思わず萎縮してしまうカルカ……。
しかし彼女には、以前から気になっていた事が一つ――あったのだ。
「……ねぇ? その――”英雄じゃあない”……ってのは……。
貴方が褒められる度によく聞くけど……何かあったの?」
――しかし、ボスはすぐに返答を返さなかった。
だが、それから五分ほど経っても彼女がその”熱い視線”を送るのをやめなかった事に観念したのか……渋々と語り出すのであった……。
「……戒めだよ。
自身の力に酔いしれて……自惚れて……つまんないミスを犯して……自分や仲間が死なないようにするためのな……」
「……そうだったの……でも……!」
「でもも、こうもあるか。
チョーシに乗ってれば死ぬ。オレが居た世界でも……それは変わらない事だったんだからな……」
――謙遜を美徳とする。
……そんな日本の文化はいつの時代に出来たのであろうか……?
それと対局する様に、海外のほとんどはでは「Yes We Can!」……と言わんばかりの肯定的な文化の元、彼らは育って行く。
異世界人とは言えど……そんな”世界の違い”も、またここにあったのだろう……。
だが、彼が言った<チョーシに乗ってれば死ぬ>……と言うのは、元の世界も含めた――二つの世界で言えた事だ。
彼は”社会的に”……と言う主語を付け忘ていたのだが、それでもこの異世界で、二度も死に掛け、同時に仲間も失い兼ねない事態を味ってきたのだからこそ……この言葉を大事にしているのであろう。
<オレは英雄じゃあない>……かの”伝説の傭兵”も語った、この言葉を……!
「……そう。でもお願い!
貴方に仕える事は出来なくとも……この街に残って、”食糧調達”や”スタンビート”対策のために――ゴブリンなどの魔物を狩って欲しいのよッ!」
――と、顔の前で合掌し、頭を下げるジェスチャーでボスに頼み込むカルカ。
「いやだから……オレらも忙しいって言っただろ?」
――しかし、ボスは渋る。
「お願いよぉ! 信用できない奴らだったけど! 貴方達が豚共の私兵を倒し過ぎた性で、本当に”街の守り”に衛兵を回すだけで精一杯なのよッ!
それに! 貴方達以外の”傭兵”に頼もうにも宛はないし! それどころかあなたが言ったように、頼む資金すら本当にないのよォォッ!」
「……いやだから、忙しいって……」
「お願いよぉッ! 本当、貴方達以外に頼れる”傭兵団”は居ないのよぉぉぉッ!
お願い! お願い! お願い! お願い! お願い! お願い! お願い……」
――駄々っ子のように頼み続けるカルカに、ボスは幾呆れ果て――「明日も忙しいんだ、お前も早く寝ろよ?」……と言うかのように周辺の物を「キャッシュバック」のスキルで売却し、自身の魔力に変換した後――早々立ち去ろうとしたのだが……。
――しかし、ボスは思った。
……彼女は”齢15”で領主になったばかりなのである。
この世界の”成人の歳”について、まだ知識がなかった彼は”決めつけるのは早い”……と少し悩むも、よくよく”現代的”に考えてみれば、「中3か高1と言う、大人にも満たない歳で――町長か市長クラスの内政」を、彼女自身が望んだとは言え……投げ付けられたのも同義だと思ったのだ。
それ故に、「精神的にまだ不安なんだろうな」……と、こちらも”齢19”にして――父性的な感情が湧き上がったボスは、”やれやれだぜ”と思いつつも彼女に返答するのであった……!
「……分かった、分かった落ち着け。
……お前の必死さに免じて、”ゴブリン退治”……その依頼を受けよう」
「……お願いお願いお願……ッ!? ほっ、本当にッ!?」
――この一連の流れに……どこか「青い髪をした駄女神」をボスは幻視しつつもズイッと、身を乗り出してきた彼女を椅子に押し戻しながら――話を続けるのであった……。
「あぁ……本当だ。
依頼は受ける。これに”二言はない”ぞ」
「……良かったぁぁ〜」
――安堵して力が抜けたのか、机に上半身を突っ伏させるカルカ。
「ただし! ”成功する保証”は付けられないぞ?」
「えッ? 何で!?」
「……出来立てホヤホヤの”傭兵団”って言っただろ?
当然、ゴブリンを相手するのも”初めて”だからだ」
「えッ、そんな……ゴブリンなんて、誰でも……ッ!?」
――どうやら、共闘した仲でも……。
ボスはまだ、彼女に自分が”異世界人”だと言う事は――話していないようである。
……しかし、彼は自身の右手の人差し指を、体を起こした”彼女の唇”に軽く押し当てながら……。
「……今はまだ話せない。
だけど……契約した証として、コイツをアンタに預けとこう……」
――そう言うとボスは、顔の横に上げていた右手を”赤く”光らせる……ッ!
その眩さに、思わずカルカは目を瞑ってしまう……。
やがて……その光が収まり、目を瞑っていた彼女が再び彼を見ると――その右手には、自身の街を救ってくれた際に、彼が良く使っていた……”不思議な魔道具”が握られていたのだ!
彼はそれを器用に半回転させると……器用に持ち替え、彼女に”持ち手”を見せるように持った後――手渡すよう、差し出すのであった……!
(……一応、詳しく書くなら”トリガーガード”に中指を掛けて軸にし、”リアサイト”に親指を掛けて押し回した後――銃口側のバレルを逆さになっていた銃を直しつつ、持ち手がカルカに向くよう持ち直すのであった)
「預ける」……と言う言葉に、差し出された魔道具を彼女が握ると……!?
『……いいか?
もし、”冒険者ギルドからの刺客”が来た際は……迷わずコイツをブッ放せよ?』
「えッ!? ボスさん……これって……ッ!?」
――「手も握られていないのに……ッ!?」
唐突に「コール」のスキルで話し掛けられた際、ビックリして銃のグリップ握った瞬間……思わず自分の方に思いっきり引いたのにも関わらず――その銃がボスの手から離されてなかった事に、驚愕した彼女が思った言葉がコレだ。
『とりあえず……冒険者ギルドで話していた時と同じだ。
頼むから、ここから先に話す事は”この方法”で頼む』
『わ……分かったわ。
……けど、こんな立派な”魔道具”……一体どれだけの額を払えば……』
『そいつは預けるって言っただろ? だから、今は”タダ”で良い……』
『えッ?』
『……いいか? そいつは保険だ。
オレらが”ゴブリン退治”に出かけている間、”雇い主”であるお前が暗殺者かなんかに殺されてたら……オレらは”タダ働き”になっちまうからな?』
『……だからこその、ホケン?』
『……そうだ。
それと、そいつはオレらの生命線ともなる大事な”武器”だ』
『……武器? ”魔道具”じゃあなくて?』
『それもまだ言えないが……”弓矢に似た、弓矢よりも強力な武器”だと今は思ってくれれば良い。
だが、そうであれるのは――誰にも知られてないからだ』
『誰にも知られてないから……?』
『……そう。だからこそ、オレらはこの街を救えた。
その”秘密”を――カルカ、まだ仲間じゃあないお前に教えたんだ……。
……この意味は分かるか?』
『私を……”信用”してくれるって事?』
『いや……それより上の”信頼”をしたいんだよ、カルカ……お前にな?』
――それを聞いた彼女は、”冷や汗”が流れるのと同時に……少なからずどこか”喜んでいる”自分を感じた。
だが……次の言葉を聞いた瞬間、彼女は本当の意味で”冷や汗”を流す事になるのだ……!
『オレの住んでいた世界のとある国に居た”トーマス・フラー”って、神学者はこう言った……。
<見えないところで友人の事を良く言ってる人こそ、信頼できる>……と。
……今は、お前の忠誠を受け取る事も……オレの事を詳しく話す事もできないが……。
オレらの仲間になりたいのなら……その握っている”秘密”と共に、”自分の命”も守り通して見せろ……!』
『自分の……命も……!?』
『あぁ。だが……”命”は守れても、”秘密”を守れないようなら――殺す。
例え、生き延びていようが殺す……! うっかり、無くそうが殺す……! 無くしたり、盗まれたりした事を知られたくないからと、地の果てまで逃げようが……探し出して、必ず殺す……ッ!』
『……ヒィィッ!?』
……その時の、ボスの”鬼”とも”般若”と言えない……とても形容し難い形相を直視していたカルカは――その恐ろしい光景を生涯、脳裏に焼き付けていたと言うが……それはまた別の話である。
とにかく、彼女はとてつもなく頼りになると同時に、とんでもなくおっかない人物と「契約関係」を結ぼうとしている事を、泣く泣く”再認識”せざるを得なかったのである……ッ!
『……いいか? オレは”神さん”なんて信用しちゃあいないが……。
”信頼”を”侮辱”される事に関しては……どんな事であろうと”ムカッ腹”が立って仕方ねェッ!
例え……それが偶然、アンタに”唾を吐き掛け”られようが、”足を踏まれよう”がな……?
信頼していたんだ……? 命を賭けて”償って”もらう事には……オレは容赦はしないからな? 味方であろうと、関ッ係ッなく……ッ!』
――終始、ボスが話す”ねちっこくも鋭くドスの効いた口調”に……「怖い怖い怖い怖い怖い……ッ!」
……と、カルカは思い――思わず銃を握っていた手を放しそうになってしまったが……!
「ま……マケットの……みんなのために……!」……と、”震える指”をより銃に喰い込ませる事で、何とか堪えた……ッ!
『そう言った「契約内容」を踏まえて……カルカ?
アンタはオレら傭兵団と”契約”したい……って、言うんだな……?』
――続く怖さの余り、返答するのを逃してしまうが……ボスの目を直視し続ける事で、自身の意志を示すカルカ。
『……一応、ビビり過ぎて返答に困ってるようだから――言わせて貰うが……。
オレがこうも厳しく言うのは……全て”仲間”を守るためだ』
『……』
『オレの仲間は言わずもがな……人間じゃあない。
獣人にエルフとダークエルフ……全てがこの世界で、”亜人”と”侮辱”された仲間ばかりだ……。
……この世界の人間共にな?』
――再び、カルカは先程よりも多くの”冷や汗”が流れるのを感じた……!
『だからこそ……オレは基本、人間は信頼どころか――信用すらしていない。
……カルカ、アンタは初めから――オレの仲間達を”侮辱”しなかったからこそ……共闘しようとも思えたし、今みたいに信頼すらもして良いと思い始めているんだ……。
……アンタは”人間”だからこそ――オレが言っている意味は分かるよな……?』
『……は……はい……ッ!』
『……良し。じゃあ、改めて聞こう……。
カルカ・ディシード? 今さっき言った事も踏まえて……オレら傭兵団と”契約”したいんだな?』
『……』
『……どうなんだ? やっぱり怖気付いちまったのか?
……それとも、マケット領主としての”誇り”は、出来立ての傭兵団に脅されて――尻込みしちまう程、安っぽくて薄っぺらい物なのかぁ……? カルカ・ディシードさんよぉぉ……?』
『……ッ!?』
〜グッ! バッ! ガタンッ! チャキンッ!〜
「上等じゃないッ! そんな簡単な事ォォッ!
このカルカ・ディシードには夢があるッ! この荒れ果てた城塞都市マケットを……10年前の活気ある最盛期に戻すためなら――街の人達の笑顔を取り戻せると言うのなら……ッ!
悪魔みたいな条件を吹っ掛けるアンタ達傭兵団に――泣きついたり、”魂”すら売る覚悟がある……ッ!
マケット新領主としての地位を――かなぐり捨てようともねェェェッ!」
――そう言っていた彼女は、初めに握っていた銃を握る手に力を込め……ひったくるように持った瞬間ッ!
椅子を倒す勢いで立ち上がると、ボスが行っていた”銃の動作”を見様見真似で再現し、一瞬にして彼へと撃鉄が起こされたSAAの銃口を、”ボスへと向けていた”のだッ!
「……OK、契約成立だな。だが……ッ!」
「ッ!?」
〜グッ、スカッ! ガタンッ! シャランッ! ブンッ! ピタッ!〜
「ハァ……ハァ……ハァ……!?」
――ボスが突然立ち上がった事に動揺し、誤って引き金を引いてしまったカルカだったが……。
そのSAAから弾が発射されることはなかった。
むしろ……彼女が引き金を引くよりも早く、ボスは彼女のSAAのバレルを下から掴み上げた”ッ!
そして、腰に装着していた”大振りのサバイバルナイフ”を……残した左手で逆手かつ、瞬時に”彼女の首”へと振り抜き――薄皮一枚の幅で”寸止め”をしたのである……ッ!
「……オレに銃口を向けるのは”100年早い”……ッ!」
「ハァ……ハァ……ハァ……」
「それに……弾が入ってちゃあ、こんな場面で撃つのは”弾の無駄”なだけだし……こんな夜中だ。
……こんな”良い街”で、近所迷惑も良いところだろうからなぁ……?」
――そう、地味に驚くべき事はボスは”弾ナシの銃を供給”できる事も地味に注目すべきところであるッ! あの「変態暗殺者」戦では、やや失敗に終わったが……それでも有効だと思った末に、出せるように”成長”したのであろうか!?
「ボスさん……一体、貴方は……何者なんですか……ッ!?」
「……言っただろ? 今は言えない……って。
だが……今のやり取りで、テーブルや椅子を――お互いひっくり返しまったんだ……。だから――今言える事は……」
――そう言いつつも、ボスは周囲の倒れた椅子や机を元に戻し始めた。
その光景に思わず呆けたまま、唖然としてしまうカルカ。
しかし……それらに加え、包丁やまな板にボウルなどの”調理器具”と、新たな机を”黄色く”輝く両手から――次々に出したかと思えば、「座ってまってろ」……と、彼女に席に座るよう促すのであった……!
「さて……オレが言える事……。
それは、”契約祝い”をしようじゃあないかッ! ……って事だ。」
「……えッ?」
「だからカルカさんよぉ……ひっくり返した”オレのお好み焼き”の事は気に病まなくて良い……」
「……あっ!」
――やっとこさ、彼女は気づいたのだ。
自身の足元付近に……大振りな海老や帆立、カットされた烏賊や蛸が散乱した――歪に欠けた丸い物体がある事にようやく気づいたのだ……ッ!
……自身の”誇り”を貶され――思わず勢いでやってしまった事だったが……。
彼女は、ボスが次に何を言うのか――血の気が引いて仕方がなかった……ッ!
「それよりも……一緒に”お好み焼き”でも食うか?」
「……はっ、はいッ!」
――ボスの気分を害さないためにも、条件反射で返事をし、席に着いた彼女であったが……。
……どうやら、彼女の”取り越し苦労”であったようだ。
キャベツ等を切り始めていた彼が、首だけを動かして見せた横顔は――気持ちの良い程”ニカッと歯を見せた笑み”であったのだから……ッ!
「だが……この祝いも含め、後でまとめて”請求”させて貰うからな?」
「えぇッ!? そんな事言ってませんでしたよぉぉ! ボスさんッ!?」
「あれッ? 言ってなかったっけ……?」
「言ってませんでしたよぉぉッ! 何でボケてるんですかぁぁッ!?」
「……じゃあ、今言ったぁ……」
――そう言いながら、調理に戻るボス。
「テキトーに言わないでくださいよォォ! 後、放置しないでぇぇッ!」
「放置して当然だろ? お前は料理しない”客”なんだしぃ……」
「じゃあ! 教えてくださいよぉ! この”秘密”の使い方も含めてぇッ!」
「分かった、分かった……。
とりあえず、座って待っとけ……! 全ては飯を食ってからだよ……
腹が減っては戦はできん……! どんな世界だろうが――同じように言える事だからなぁ……!」
――そうして、数十分後……。
ボスが作ったお好み焼きに、二人は盛大な舌鼓を何度も鳴らす事になるのだが……。
これもまた……別のお話である……!
ボスゥ……ボォォスゥ? ……ボスゥッ!
「……ハッ!?」
10:45 AM
Forest about 600m northwest from the commercial city of Maquette
(商業都市マケットから、北西約600mの森)
「……ボスゥ、大丈夫?
歩いてる最中、キュ〜に立ち止まってボ〜ッとし始めたから、ビックリしたんだよ?
それに……ゴブリンの奴らにバレないよう――ボスの近くで小さく声を掛けても、全然反応しなかったし……心配したんだよぉ〜ッ!?」
「あぁ……すまないオルガ……。
少し……ぼぉぉ……っとしてたみたいだ……」
「ホントに大丈夫ゥ……? ボスゥ……?
……ラル君に認められたいがために、無理してない?」
「大丈夫だって……オルガ……。
少し……そう、ぼぉぉ……っとしながら……カルカから”依頼された事”を思い出してたんだ……」
……そう、今までボスとカルカの”異世界講義”は、過去は過去でも……ゴブリンの巣を捜索中にボスが唐突に見だした――”白昼夢”であったのだ。
……それも、移動中の”30分間”――何度か”ゴブリンの群れ”に遭遇しつつも、近くに巣があった事を考えて……ナイフと格闘戦による”ステルスプレイ”をし終えた直後にだ……!
「……カルちゃんの事ォ?」
「……あぁ、契約した夜の時の事を――思い出してな?」
「……ふ〜ん、ボク達がいない時にねェ……?」
「何だ? 嫉妬してくれてるのか?」
「別にィィ〜。ボスだから信頼してるんだけどォ〜?」
「……その割には、オルガが”威嚇し始めた時の声”が――今にも聞こえそうだったぞ?」
「……ボスゥ、顔――引っカいて良い?」
「やめてくれ、洒落にならないから……」
――ボスの困り顔に「フフッ」と軽く笑いつつも、小生意気にペロッと舌を出すオルセット。
……そう、からかい合いつつも――二人は森の中で歩を進めていた……。
「ねぇ……ボスゥ?」
「んっ?」
「困った事があったのなら……もっとボク達を頼って良いからね?」
「……一体、どうしたんだ? オルガ?」
「……だってボス、さっきから悩んでいたでしょ?
そんな時は……なんて言えば良いのかな……? ボスからは”悲しいニオい”がするんだぁ……」
――この時、ボスが「鬼◯の刃」を知ってれば「竈門炭◯郎かよッ!?」……とツッコんでそうだが……。
だが残念ッ! ボスが異世界転移した<2016年10月14日>は、まだ「鬼◯の刃」は”ジャ◯プ”で連載されてなかったのである……ッ!
……よって、この時のボスは「嗅覚が発達してるからかぁ?」程度にしか、思ってなかったのであるッ!
うるせぇ……てか、「鬼◯の刃」って何だ? ジャ◯プ……って事は――面白い漫画なのか?
……。
なぁッ!
……ノーコメントとさせて頂こうッ!
おぉいッ! 巫山戯んなよォォッ!? 「鬼◯の刃」って何なんだよォォォッ!?
「ボスゥ、ボスゥゥッ!」
「ハッ!?」
「……ホラ、やっぱり。
周囲にタダうゴブリンのクッサ〜イニオいに混じって……今さっきまで”ワクワク”したニオいと、今さっき言った”悲しい”ニオいが、入り混じった匂いがしてたよ〜?」
「そ……そうなのか?」
「そう。だから……悩んでたら、ボスだけで悩まず――エンリョなくボク達に言ってね?
リルちゃん達と話して……<セッキョクテキに、ダメダメな英雄さんを助けよう>……って、チャンとリョ〜カイもしているからねぇ〜?」
「……リフィルの奴、余計な事言いやがって……」
「だ〜か〜らぁ〜? ボスはボク達”傭兵団”の中で、一番弱いのもあるんだしィ〜?
遠慮な〜く言ってよねェ〜? ボクらの”ダメダメな英雄さ〜ん”ッ?」
――と、彼の前にヒョイッと、躍り出ながら……両手を後ろに組んで上半身を乗り出す可愛らしいポーズをしながら、自分らのダメダメなリーダーをからかうオルセット。
「……頼むからやめてくれ――それを言われると、地味に凹むから……。
後……オレは英雄じゃあない! ……これまでも、これからも……”変わらない事”だ……」
「ブゥ〜もっと、誇って良いんだよぉ〜? ボスゥ〜?
ボク達の中で”最弱”でも、ボスにはボク達の事を助けてくれた――”強さ”があるのは確かなんだからぁ〜!
助けてくれたからこそ……ボク達だって、ボスの事を助けたいんだしぃ……?」
――躍り出た彼女を横に押し除けながら、前へと前進し続けるボスに対し……。
頬を膨らませながら後を追従しつつ、文句を垂れるも――彼が”一人で悩みを抱え込まない”よう、自分達の事をもっと頼って欲しいと、語るオルガ。
「……褒め言葉は素直に受け取るよ。ありがとう、オルガ。
だけど……それで”オレは強い”って、威張り腐って――お前達が”無駄に”傷ついたり、最悪……失うような目にあって欲しくないんだ。二度とな……。
それに……オルガだって分かってるハズだろ? オレ達はまだまだ弱い……って」
「……どう言う事? ボスゥ?」
「……オルガだって――オレと同様、あの「ジャネバ」って言ってた”変態暗殺者”に撃たれた経験があるだろ?」
「……あっ」
「ほらな? オルガの中じゃあ「そんな事ないよ!」……って、思ってるかもしれないが……。
そんな”些細な事”から、オレらは死に掛けたんだ……。
(……”アイアンボディ”のスキル使っても――オレは生きた心地はしなかったけどなッ!)」
「……だから……ボク達は、”まだまだ弱い”って?」
「そう……。だからこそ、今の”ゴブリン退治”とかの色んな依頼を通して……。
もっと、”訓練”や”戦闘経験”を積んで――オレ達は誰にも負けないぐらいに”強く”なって行かないと……ッ!」
――”まだまだ弱い”……という事実を思い知り、ショボンと地面の芝生に視線を落としていのだが……。
それに対し、ボスは彼女の頭にそっと右手を乗せ――撫で始めると……。
「……だからこそ、オルガ。お前達が助けが必要なんだ……。
……今回は、ラフィルの事もあってこの後の”ゴブリンの巣での戦い”は――なるべく”オレ一人”で、やる事になると思うが……。
それを見つけるまでは――オルガ? お前の鼻が、”最も頼り”になるんだ」
「ボスゥ……!」
――ボスの言葉に、沈んでいた気持ちと共に頭も上がり……少しウルッとした目で彼を見つめるオルセット。
「じゃあ……改めて聞くが――そろそろ”巣”は見つかりそうか? オルガ?」
「う〜ん……さっきから、ここら辺がイチバン”強いニオイ”がしているから……。タブン……もうチョットで見つかるとは思うケドぉ……」
「……もう一踏ん張りってところか……。
よし、オルガ? ”ゲルガーP08”の残弾数は大丈夫か? 足りないようなら共有してる”バレクリ”のスキルを使って、キチンと”マガジン”や”バラ弾用ポーチ”に弾を補充しておけよ?」
「うん、大丈夫ッ!
ラル君と一緒に戦ったあの後、チャンと”ゲルガーのマガジン”は全部満タンにしといたし、”バラ弾用ポーチ”にも、まだタップリ”9ミリ弾”は入ってるよ! ボスゥ!」
「よしっ、再び周囲を警戒しつつ……引き続き”ゴブリンの巣”を探しに行くぞ、オルガ!」
「うんッ! 任せてェ! ボスゥッ!」
……”過去”と”現在”を意識しつつも、ボスは改めて”決意”を固めながら……更に密集した木陰によって暗くなってゆく”森の奥地”へと、オルセットと共に――歩みを進めて行くのであった……ッ!
参考文献
*Amazon.co.jpの書籍情報を引用しています。
書名:図解 食の歴史 (F-Files)
ISBN-10: 4775310003
ISBN-13: 978-4775310007
書名:公立高校教師YouTuberが書いた 一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書
ISBN-10: 4797397128
ISBN-13: 978-4797397123
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Request name 「ゴブリン討伐、巣の調査、破壊」
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