Intermission-1 炊キ出シ
お待たせしましたッ!
「Intermission」 → 「幕間」
……てなわけで、ようやく待ちに臨んだ小休止回!
そんなこんなで今回、結構パロディ的な物を盛り込んでますが……。
私がそう書くのは、オマージュやリスペクトを込めてだからこそです! えェ! 断じてッ!
あっ、そして”PV数”「8万3千」人! ユニーク数「2万」人突破!
ありがとうございますッ!
えぇ……こんなノロノロ小説ながらも、長々とお付き合い頂き、本当に有り難いです……!
ボス達の強い姿を見たい! ……と言う方本当にすみません……ッ!
ボスを含め、全ての仲間の完全武装の構想は、既にほとんど出来ていて、私も早く描きたいのは山々なんですが……だからといって、ボス達の気持ちを蔑ろに描き、”生きていない”姿で描いてしまうのがど〜しても嫌なんです……。
こう書くと、私の”我が儘”に聞こえて申し訳ないですが……
その分、人気小説上位……書籍化も出来るよう、面白い小説を書く事に精進致しますので……。
これからも”ノロノロ更新”ながらも、末長くお付き合いできれば……! ……と、願っております……!
それでは、長くなってしまい申し訳ありませんでしたが……どうぞ、初の和み回! お楽しみ下さいッ!
5 Days later……
18:37 PM
城塞都市マケット 元処刑場 中央広場
「ボスゥ! おかわりィッ!」
『兄さん、お代りをお願いします』
「おい、ボス。お代りだ」
「……お前ら、どんだけ食うんだよッ!?」
……唐突なコントのように始まった一幕。
巨大な寸胴鍋と、夏祭りの夜店で見かけるような鉄板の向かいに、下っ端海賊のようにバンダナを巻いたボスに、それぞれの皿を突き出すボスの仲間達……。一体何があったというのであろうか――?
まぁ、それは、”世界が滅ぶ”ような騒ぎたてる程重要な事ではないが、事の経緯を語るため、幾分か時計の針を巻き戻さなければならないであろう……!
……About 5 hours ago……
「ハァァァ〜やっと終わった〜ッ!」
――ポキポキと肩と首を鳴らし、背中を一伸びさせながら中央広場へと現れたボス。
だが、意外な事にその姿はいつもの「深緑のスポーツジャケット」な姿ではなかった……。
群青色のジャンプスーツを腰近くまで豪快に開け、タンクトップの白シャツを着て、両手にゴム製の黒い長手袋を嵌めている……と言った風貌である。
”疲れた”と言う一言と、腰のジャンプスーツを締めるベルトに刺した”SAA”、体やジャンプスーツの所々に、土埃と赤黒い血のような汚れがある事から察するに……夕食の獲物を狩りに行ってたのだなッ!
……護身用だ。狩れなくはねェけど、だったら”コーチガン”の方をまだ使ってるって……! ……どこぞの逆転の”名”探偵ホームズさんような、的外れな”推理”ご苦労〜さん……。
「あっ! ボスゥ! お疲れ〜ッ!」
――そんな一幕の間に、これまた……ボスと同じような汚れを身に纏った”オルセット”が、元気に彼に手を振りながら駆け寄って来るのであった……!
「……オルガ、オレが渡したツナギを何で着なかったんだよ? 今日でもう3日目だぞ?」
「え〜? ボスが心配してくれるのは嬉しんだけど……。
今ボスも着てるオレンジのブカブカ……動きにくいんだよね〜」
「でも、オマエはいつも”クサイクサイ”って言ってたじゃあねェかよ!?
特に、今日は事件から1週間以上経ってんだから、特に死臭が酷くなってきてるハズもあって出してんだぞ?」
――おや? 死臭とは……! 何やら”殺人事件”的な匂いが……!
……否定はしないが、狩りの獲物でも……時間が経てば死臭ぐらいするだろ?
……
――黙って実況してな、ヘボ探偵さん?
……ムキィィィィィィィィィィッ! 今だけ私は猿になってやるッ!
……勝手にやっとけ。
「え〜でも……」
「……オレの事を心配してんのかもしれないけど、使ったツナギは燃やして処分するし……。
石鹸とかの入浴用品を出す費用も心配しなくっていいって、オルガ」
「……ボスゥ……」
……とまぁ、顔を背けつつも横目に軽く惚けるオルセットは放っておいて……。
真面目な話で言えば、ボス達が行っているのは狩りでも何でもなく……今回の「マケットの反乱」後の”戦後処理”をしていたのだ。
……無論、ボス達だけではなく――この戦後処理に首を傾げてた、街の人達総出でだ。
その理由は、死体遺棄により起こる――敗血症、天然痘、破傷風、食中毒などなど……。止めに、死体を貪ったノミやネズミを媒介に、当時の中世ヨーロッパ人口の三分の一〜二程の人々が、犠牲となったと推測され猛威を振るった”黒死病”などを警戒してだ。
そのため、ボス達が倒した私兵や三匹の豚共の息が掛かっていた衛兵……それ以前から放置されていた、無実の罪で犠牲となった罪人……重税による飢えで行き倒れた人などなど……死体や腐敗臭漂うゴミの数々を――街全体から締め出し、火葬し大地へと還していたのだった……!
そ〜そ。そうやって厳粛な朝のニュースキャスターのように、マジメに実況してればいいんだって。
……何ィ?
「それよりもボスゥ……終わったら集まれって、コールで聞いたけど……何するの?」
「あぁ、やっと作業も終わった事だしな?
お前達への労いも兼ねて、話を聞いて手伝ってくれたこの街の住人達に、お礼しようと思ってな?」
「お礼? ボク達にも?」
「あぁ、そうだ。
だが……その前に、まずはお互い”服”を着替えるぞ、オルガ」
「えェ〜ッ!? どうしてェッ!?」
「いや、こんなバッチィもん着てたら、お互い病気になるかもしれないだろ?
それに……これから、オレが料理するんだ。オルガにも手伝って欲しいからな?」
――いいだろう!
そのイチャイチャな会話! 私への宣戦布告だと受け取ったッ!
なら”死体”を軽視する君達に! 私がその危険性と言う物を、ハッキリ分かりやすく説明してやろうじゃあないかッ!?
……おい、何どこぞの”頭のおかしい爆裂娘”風に喧嘩売ってんだよ?
――てか、軽視してないんだから片付けて……?
――まず、人は死亡すると急激に体温が下がっていき、体内で活動していた細胞も死滅して行きます……。
……おい、話聞けよ。
何故細胞が死んで行くのかって?
それは酸素が赤血球と結びつく事で、細胞を動かす”エネルギー”を作っているからだ。
体というネットワークを運営する細胞諸君が、「エネルギーがな〜い!」……と、給料を一切貰えず、一斉にストライキを起こせば……当然、生命活動の要である”肺”や”心臓”が運営できず、必然的に”OFF LINE”となってしまう訳だ。
(まぁ、それ以前に……ボス達が敵の”頭”や”脊髄”を撃ち抜けば、体を動かす”指令”が全身に行き渡らなくなり、そもそも操縦不能……詰みな状態となってしまうので、どうしようもない訳なのだが……)
「えェ〜ッ!? じゃあ……ボスゥ……この服も燃やしちゃうの……?」
「……仕方ないだろ? クサイクサイ言ってたのはオルガ自身なんだし……。
それに、3日も着ていて病気にならなかっただけ、奇跡なんだぞ?」
そして、細胞達のストライキで彼らも段々と弱っていき死亡……それにより、胃酸から自身が解けないよう中和させる粘液を分泌していた胃が溶け出し……その他諸々の体内のありとあらゆる液体が、体の内臓と言う”袋”から、ドンドン漏れでてゆく……!
この時、死体が仰向けなら、血液を中心に流れ出た液体は背中側に集まって行き……背中は真っ赤、それ以外は血の通わない”青白い蝋人形”のようになっているハズである……。
更に、その死体が死後から2〜3時間過ぎれば、既に”死後硬直”は始まっており、半日もすれば上記のような、蝋人形が出来上がってるかもしれないのだ……!
「……だって、これ……ボスからもらった物だし……ビョーキは、リルちゃんにお願いすれば……」
「……大事に思ってくれるのは嬉しいが、それでも安易にリフィルの”再生魔法”頼ろうとするのは良くないぞ?」
この時点でもう、ホラー映画の領域に片足を突っ込んでいるかもしれないが……残酷な事に、まだ続きがある。
なんと! 野晒しにしていた死体は、人であろうとなかろうと……最終的には爆発するのだッ!
これは、キチンと科学的にザックリと説明できる事であり、突き詰めて言えば「体が風船」な状態になっているのである。
細胞がストライキを犯し、体の運営も行わず、ボロボロダラダラのシッチャカメッチャカになってしまった体内では、細胞達が暴走……! そう、世は世紀末……! 「マッド◯ックス2」や、「北◯の拳」のヒャッハー共の如く、種籾や体内の細胞達を食い潰して行き、食い潰された細胞達から魂の如く”メタンガス”や”硫化水素”などのガスが昇って行ってしまうのだ……!
そして、そのガス達が、体の耐久力の限界まで出ていくと……パァァンッ! 耐えきれなくなった体が破裂し、周囲に溜まっていたガスを撒き散らしてしまうのだ……ッ!
「えぇ〜でもぉ……」
「……気持ちはわからなくねェよ。
でも……自分で出来る事をしなくて、相手に頼ろうとするのは良くない事だし、カッコ悪いぞ?」
因みに”硫化水素”について補足をしておくと……。
まず、この気体は強烈な”腐った卵”のような匂いがし、基本的には無色である。
想像できなければ、箱根温泉へと行き「黒たまご」が販売される近くから噴き出る”火山ガス”を軽く嗅いで欲しい……。
そして、この気体は”有毒ガス”に分類されており……その濃度が、まだ「黒たまご」を”買いに行ける”濃度であれば、多少は大丈夫だが……”売店が閉鎖される”濃度であれば、真っ先にその場から離れるべきである。
嗅ぎ続ければ発症する例だけで、メジャーそうな”肺炎”や”気管支炎”……眼に至っては、”痛みや痒み”は勿論――充血やら、結膜炎やら、目が膨張などなどの……”ヤバい事態”が起こってしまう始末なのである……!
更に、最も危険なのは濃度が”1000”に迫る時である。
その症状が、良くて呼吸停止……悪くて死亡である。
それ以上の”5000”近い濃度だと、有無を言わさず即死らしい……!
……とにかく、ここまで補足したように、甘く見ずに”死体の放置”は危険だと認識して欲しい……!
「うゥゥ……」
「……ホラ、意地張ってるとオレが食わしてやりたくても出来ねェぞ?
それに……服の方は、ダースに予備がないか頼んでみるし、なかったら新しくオレから出してやるからさぁ……な?」
そうして話は戻るが……爆発後の死体は何もなければ、ハエや蛆虫などの昆虫達によって食されて行き……最終的に、”死んで骨だけブ◯ックです!!!”……と言う状態になるのである。
そう……何もなければ……であるが……。
「……分かったよ、ボスゥ……」
「よし、分かってくれてありがとな……オルガ」
「……あっ、ちょっと……ボスゥ……!」
「ん? なんで身を引くんだよ……? 好きだろ? 頭撫でられんの……?」
「……いや……その……手ェ…汚いよ……」
「んッ? ……あぁ! スマンスマン! 撫でる前で良かった……。
まぁ、とにかく……このッ、麻袋に入れたシャツとズボンを渡しておくから――あそこの茂みの方で、渡した麻袋に、今着ている服を入れた後に着替えて来い」
「ボスは?」
「オレか? オレはオルガ近くの別の茂みでやるよ。
あぁ! 後それと……こっちの麻袋に入ったタオルを濡らして、軽く体を拭いとけ。
後、アルコール消毒用のボトルも入ってるから、体を拭いた後にもう一枚のタオルの方をアルコールで濡らして、もう一回体を拭いて消毒してから服を着てくれ。
勿論拭いた後は、このタオルも麻袋に入れてな? 後で燃やして処分すっから……」
「……う〜ん、またあのクサイのかぁ……。
でも……ありがと。ボスゥ……。じゃ、着替えて来るね……」
「あぁ、ついでに不公平にならないよう、リフィル達にも連絡しとくな」
〜ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……ザザザッ、ガサゴソガサゴソ……〜
これを読む◯者の諸君の中で、”悪辣”だの”冷酷非道”と呼ばれる度胸や覚悟の持ち主がいるのであれば……異世界に行った暁には、この腐乱死体を投石機などで敵陣に放り込めば、毒ガスである硫化水素を撒き散らす、立派な死体爆弾と化するのだ……!
ただ……生きるのが必死なボスでもこの方法は選ばないであろう。
私も、この方法は中世でなくはなかった”戦法の一つ”として紹介するだけであって、全くオススメできないとだけは言っておこう……!
……おい、オレらが着替えてる最中……しかも、これから料理番組的な事をしようって時に、何お茶の間でご飯を食べる家族が食べてた料理を”リバース”してしまいそうな、真面目な解説を長々やってんだよッ!?
……別に、君にしか聞こえないのだから、構わないではないか?
オレが”リバース”したらどう責任とってくれるんだよッ!?
……身から出た錆なのです……! 自分でケジメをつけましょう……!
いやッ!? オレ以前に、テメェ〜から出た汚ったねェ”錆”の性で、”リバース”しそうになってんだろうがッ!? テメェ〜が”ケジメ”つけろよッ!?
「……ボスゥ、さっきから変な顔ばかりして、何してるの?」
「あっ、いやぁ……何でもねェ! 何でもねェよ……!」
「?」
「さッ! 着替え終わった事だし! 料理作るぞ! 料理ッ!」
……とまぁ、私の溜飲が下がった所で――何故、ボスが料理を唐突に振舞う気になったかと言うと……。ついに、レーションに飽きてしまったのであるッ!
……おい、まだ根に持ってないか?
――それもそのハズ、1週間近い戦後処理中……拷問や大掃除などの諸々で忙しかったボス達が、マトモに口に出来ていたのは、パッと用意出来てサッと食べれた――レーションぐらいだったのであるッ!
……聞いてんのか?
――更にさらに……重税によりまともな食料を口に出来ず、栄養失調気味でもあった街の人達を見兼ねて配給した手前……彼らの知らぬ所で、より良い料理を作り、口にしようも彼の矜恃が許すハズもなく……!
……お〜い、聞いてますか〜?
――毎日食っても良い! ……そう思っていた「まぐろ味付け缶」を……いい加減、地面に投げつけたくなる程……ボスの心と体は、手料理に飢え初めていたのだッ!
「……さてさて、寸胴鍋に大型鉄板……包丁やピーラー等の調理器具一式を出したところで……っと」
――む、無視しないので欲しいのあるッ!
……なら、しばらく黙ってろ。料理に集中したいからな。
……まぁ、調理シーンは全面的に任せたのであるッ!
ハァ……ハイハイ。
さて、今からオレが作ろうとしているのは「豆乳スープ」と「お好み焼き」だ。
ただ、安易に肉を使わない”オーガニック”かつ”ビーガン”なメニューだ。
まぁ……なんでこんな面倒臭い作り方をするかと言えば……”リフィルのため”だな。
何故なら”肉を食ったらリバースしてた”……って、リフィルのお母さんの話がどうも引っ掛かってな……。
肉類も問題なく食ってた事があるラフィルのように――憶測だが……彼女もダークエルフのハーフであるなら食えなくないんだろうが……。
オレは料理を作る以上、食べてもらう相手には必ず”幸せ”になって欲しい――って思ってるからな。
……食ってくれた相手が誰だったか……何故か、思い出せないのが残念だが……。
……さてさて、そんな辛気臭い事は忘れて調理に取り掛かるかッ!
あぁそうだ……「デパートセール」で料理の材料を出し忘れてた……!
あっ、因みに「デパートセール」ってのは、この前新しく支援投下された「レギオンパック」に入ってた――「アウトドアセール」の類似スキルな?
これも「アウトドア」のように、ほとんどの品が品質に関係なく<MP100>程度で購入し放題なんだよな〜!
あっ、因みに今までの”服”や”タオル”も、さっきのスキルで出したモンな?
んじゃあ、「スープ」に取っ掛かりますか……!
まずは、寸胴鍋の底が見えなくなる程度まで、”雑穀”をブチ込んで行く。
入れたら、そこに”ミネラルウォーター”を入れて蓋をする……っと。
こうしておけば炊く前のご飯のように、ある程度”雑穀”が柔らかくなって、火が通りやすくなるからな。
そして、待っている間に材料をカット。
”人参”は皮を剥いて、縦に四等分した後、2等分ずつをまとめて”いちょう切り”に。
”ジャガイモ”も皮を剥いて、半分に切った後に”賽の目切り”に。ただ、角を取るのはメンドーだから省略!
”玉葱”も、皮を剥いで、ジャガイモとほぼ同様の賽の目風の微塵切りに。これは、玉葱が何枚もの皮が重なっているから、ある程度切ってしまえば、炒めたり煮込んだりする際、勝手にバラけて小さくなって行く経験則から……っと。
「ボスゥ〜! 着替え終わったよ〜!」
――そう言えば、”ジャック”って、この街にオレの偽名を浸透させておこうと思ってたんだが……オルセットが何回言っても、あぁ呼んじまうから――いつの間にか、オレも諦めてたんだよなァ……。
「おぉ、着替え終わったか! 着心地はどうだ?」
「うん、悪くないよ。……あっ! ボスゥ! ボクも手伝うね!」
――ウンウン、白タンクトップに、青ジーンズを着たシンプルな装いのオルセットも悪くないなぁ……!
……って、そんな場合じゃあねぇ……! 衣服類の詰まった麻袋をポイ捨てしながら、オレの元に来ようとするオルセットを左腕を伸ばし……「待て」と静止させた後、オレは言った。
「待て、オルガ……。
手伝うなら、こっちの寸胴鍋に火を掛けるための薪を組んでおいてくれ……」
「え〜ッ!? なんでェ〜!?」
――頬を膨らませながら、あからさまに不満を顕にするオルセット。
……そんなとこも、微笑ましく可愛いモンだが……料理を円滑に進めるためにも、ここは心を鬼しなくては……!
「あのなぁ……オルガ? いい加減、自分の不器用さを自覚しなよ……。
今までのキャンプで狩ったボアとかを調理する際、オレが真面に褒めた覚えがあるか?
……お前が何度も、汚い爪で食材を切ろうとしたり……指示しても頼んだ通りにならず、毎回何かをやらかしていた事しかぁ……オレは覚えてないぞ?」
「……」
「……コラ、「ボクは覚えてないよ〜」みたいに、プイッ……って、顔を背けんな。後……出来てないのに、そのカッスカスな口笛を吹くなって……」
「……ボォ〜スゥ〜」
「全く……拗ねんなよ……。オルガがオレのために役立ちたいのは分かる……。
けどな……オレが料理をするように、適材適所って――オルガに合った役立ち方ってのがあるんだよ」
「……それが、焚き火の用意?」
「そう。それに……今度時間ができたら、じっくり教えるし……。
この後に作る奴はお前の大ッ好きな、”お肉”タップリの料理を作ってやるからな?」
「本当ッ!? ボスゥ!」
――oh……3D映画張りに迫りすぎだって……!
「あぁ、本当だって……。
だから……頼んだぞ? オルガ」
「うん! リョ〜カ〜イッ! ボスゥ!」
――そう言って、可愛らしく軽い敬礼をすると――オレの右隣に設置した寸胴鍋の方に行った。
そして、「アウトドアセール」を駆使して”複数の薪”と”卵パック型着火剤”を出すと……オレが予め組んどいた”コンクリートブロック”の窯と寸胴鍋の間に出来た隙間に、焚き火を組み始めたのであった……。
「まだ”クリッカー”使って、火は付けなくていいからな?」
「ハ〜イ、分かってるよ。ボスゥ」
――やれやれ、そうは言ってもやっぱ心配しちまうんだよなぁ……。
言動がなぁ……まだまだ無邪気な子供みたいで……。
……っと、感傷に浸ってる場合じゃあねェ……。
戻した視界の左端で、山積みに待ち受ける野菜供を――徹底的に始末しないとな……!
……何せ、街中の人たちにご馳走するのを見越して170L近い寸胴鍋を出しちまったからな……。後悔まっしぐらだよッ!
……まぁ、そんなこんなで――1時間ぐらいしてようやく、野菜供の軍団を排除し終わった後……。
次は、スープの味を深めるために、野菜供が全滅前に援軍として呼び、横で待機していた――”椎茸”、”エリンギ”、”ブナシメジ”の「キノコ三怪人」、そのクローン軍団に果敢に立ち向かって行く……ッ!
キノコ供は基本……固い石突きを切り取り、傘下のゴミを摘まみ取って、傘と柄をサイコロぐらいの大きさに切って行く……!
纏った”ブナシメジ”供は、丁寧に手で剥いで、結束力を無くして行く……ッ!
……だが、チキショウッ! 新開発の冷凍光線銃で一日凍らせておけば……!
普通に倒すよりも、より深い味わいで叩きのめせたのに……ッ!
……ハァ、こんなふざけた妄想でもしてないと、仲間や街の人達のためとは言えど……どれも100前後ある食材の仕込みなんて、一人でやってられるかよ……。
……おっと、ボーッとしてたら指を切りそうだった……。危ねェ危ねェ……!
「……ねェ、ボスゥ……やっぱ手伝おうか?
ボクもう、組み終わっちゃったよ……」
「おわぁ!? ビックリしたァッ!?」
「ヒヒィ、やったぁ。ボスを驚かせちゃったぞ!」
「コラ! オルガ……急にテーブルの下に潜り込んで、話しかけてくんなよッ!?
さっき驚いた拍子に、仕込んだ食材が落としてたら……お前はどう責任をとるつもりだったんだッ!?」
「……ゴメン、ボスゥ……」
……ハァ、そんな悄気んなよ……。
……あぁん、もう! 全くゥッ!
「じゃあ……オルガ、この後作る料理用に、”キャベツ”と”玉葱”をたっぷり切っといてくれ。こっちは、もう少しで終わりそうだからな……?」
「お肉たっぷりのォォッ!?」
〜 ゴンッ! 〜
「……痛ッたい……」
「……だから、潜って話すなって言っただろ……!
全く……ホラ、頭抑えてないで……机用意してやるから……こっちの方で、大人しく材料を切っててな?」
頭突き上げられた衝撃で、ボウルに種類別に積み上げられ……食材の山から逃亡した敗残兵供を、「デパセ」で出した最新の捕獲装置でサッと捕獲した後……。
オルセット用の机を出し、その上にまな板、包丁、大容量ボウル2個に、食材の山をドンと出して後は任せ……再び出現した野菜とキノコ軍団相手に、オレは泣く泣く特攻して行くのであった……!
……そういえァ、前にスープを作ろうとした時には、洋風だからって「ブラウンマッシュルーム」を使って、スープを作ろうとしてたよなぁ……。
キノコに付いた泥をクッキングペーパーで拭き忘れたり、切った野菜がヒタヒタになるまで水が足りなかったり、水が多すぎて肝心な豆乳の味がかなり薄味になったりと……失敗も色々あったが、結果的に美味いのができたのはいい思い出だな……。
まぁ、けどその後に「椎茸」と「ブナシメジ」で作った今回のスープの方が、断然美味かったと言う……なんとも骨折り損的な話があるけどな……。
……とまぁ、脱走した奴らの分を含め――何も一口サイズで済むようにカットしたら、材料を煮込んで行く。
そのため、鍋の前に移るのだが――左の方に行ったオルセットは……よしッ、ちゃんと渡した包丁とまな板を使って切ってるな……? ……ただ、その妙な鼻歌どこで覚えたんだ……?
……まぁ、とにかく……「クリッカー」で指パッチン! ……っと、火を付けつつ――寸胴鍋内の水が沸騰してきたら、先程100人異常斬りしてきた野菜供を、釜茹での刑に処す訳だが……。
ここで基本中の基本かもしれないが、「釜茹でする順番」を間違えないようにしないといけない。
基本的には「硬い物から順番に」……だ。つまり、今回は根菜である「人参」や芋類の「ジャガイモ」なんかの火の通りにくい野菜を先に鍋に入れて、その後から「玉葱」を入れて火に掛ける。
ほんで……先にふやかして置いた雑穀が焦げないよう、業務用のデカイお玉でかき混ぜて……。
かき混ぜて……かき混ぜて……かき混ぜて……かき混ぜて……ハァ、異世界に来て”筋力”が上がってるとはいえ……170L近いスープの素を混ぜるのは、まだまだ大変だわァ……!
「あっ! ボスさんだッ!」
「ホントだ! お〜い! ボスさ〜んッ!」
――気の遠くなりそうな”かき混ぜ”作業中に、とある兄妹の声がオレに掛かる。
その声の掛かる方に顔を向けると……領主館の方から駆けて来る……。
「おう、ジート、エティ! 今日の仕事はもう、大丈夫なのか?」
「うんっ!
あのね、カルカ様が”きゅ〜け〜”してイイ〜って、言ったから来たの!」
「ハハッ……ダース様が死にそうな顔をしながら仕事をしてたのですが……。
まだ本当はもうちょっと、手伝いたかったんですけどね……。エティが飛び出してしまったので……」
――とまぁ、助けたけど印象が薄かったから忘れ……じゃない!
んんッ! 改めて……オレがこの街を3豚から救うキッカケの一つであった、処刑寸前だった女性の息子と娘、”ジート”と”エティ”だ。
商会と、狩猟小屋それぞれの件で微力ながらもオレらに協力してくれた後、領主がカルカに変わってからは、彼女が彼らを引き取り専用従者として、色々な仕事を頑張ってるらしい。
引き取った理由については、オレら傭兵団との関わりが強かったのは勿論、”母親を助けられなかった責任”として……彼らだけでなく、似たような境遇の子供や人を積極的に雇っては、様々な仕事を手伝ってもらってるらしい。
まぁ……あの3豚が帝国に鞍替えする腹積もりで、私利私欲のままこの街の市民だけでなく――執事やメイドとかを解雇したり、殺しまくっていたからな……。
猫の手もとい……幼子の手でも借りたいぐらいに、慢性的な人手不足なんだろうな……。
「そら、大変だったな……。
ところで……二人はここに何をしに来たんだ?」
「……いや、それが……」
「あっ! オルガお姉ちゃん! いっしょにあそぼ〜!」
「ん〜? あっ、エティちゃ〜ん! 遊ぼ遊ぼ〜!」
――と、刻んでいたキャベツと共に包丁もほっぽり出して、エティの元へと駆けて行きそうだったオルセットとエティの間に、オレは割り込み”待った”を掛ける。
「……待て、オルガ。任せた仕事はどうするんだ?」
「エッ!? だって……エティちゃんが……!」
――そう、モジモジしながら顔を背けて可愛らしく言おうが、もう許せないぞ……!
「厳しく言う様で済まないが……オルガ? これで何回目だ?
この街までキャンプして来た時もそうだが……何回、突然来たボアを狩りに行ったり……今の様に、エティちゃんが遊びに来たりしたら、それに感けて……処理作業とかの仕事を! 何度、ほっぽり出せば気が済むんだッ!?」
「で……でも……」
「……でもじゃあない。
遊んであげるのが”悪い事”って言ってるワケじゃあないんだ。
……コラ、オルガ――オレの眼を見ろ……! そっぽを向くな……!」
――心底不服そうな表情をするオルセットを見て、少し心が痛みそうになるが……。
済まない、オルガ……。教師を目指していた手前、オレは悪いと思った事は直さないと気が済まない質なんだ……。
だから……両方のこめかみを掴み、無理矢理オレの眼と合わせている事も含めて申し訳ないが……料理の完成を余り待たせる訳にもいかない事だし――厳しく行かせてもらうぞ?
「あのなぁ……オルガ?
オレが悪いって言ってるのは、お前の”直感”と”本能”なんだよ……」
「えェ……ッ!?」
「あぁ……ちょっと言い方が悪かったか……。
……言い直そう、お前の戦闘での”直感”と”本能”はむしろ非常に助かってる……。
だけど、日常の中でそれらを発揮するのは、出来る限り控えて欲しい……ってのが、オレの言いたい事なんだよ……!」
「……んん〜? ボスがボクの”直感”と”本能”をホメテくれてるのは分かるケド……。
……結局、どう言う事?」
――チョコンと可愛らしく首を傾げながら話すオルセットに、”可愛い”と不服に思いつつも……まだまだオツムの弱い彼女に対し、オレは左手を彼女の肩に落としつつ、顔を右手で拭った後……溜息混じりにこう答えた……。
「まぁ、つまりだ……。
任された仕事は、最後までほっぽり出さず責任を持ってやれ! ……って事だ。
……ホラ、オルガだって仕事をほっぽった結果、生焼けのおいしくない肉しか食べれないよりは……今の仕事もキッチリ終わらせて、美味しいお肉たっぷりの”お好み焼き”を食べれた方がいいだろ?」
「お肉たっぷりの”オコノミヤキ”ィッ!? ……って何? ボスゥ……?」
……また、3D映画張りに顔近いって……!
本能の赴くまま興奮して迫るも……即座に思った疑問に首を傾げながら聞くオルセットに対し、オレは彼女を軽く押し除けた後……何とか彼女の心に残る様に語った。
「今……オルガが切っていた材料で作る”料理”の名前だよ。
いいか……? オルガが”直感”と”本能”の赴くまま勝手にエティちゃんと遊びに行こうモノなら……”お好み焼き”をオルガは一生食べられないし……さっき連絡したリフィルやラフィルは勿論、この街の人達にも迷惑が掛かるんだぞ?」
「えぇッ!? ”オコノミヤキ”が食べれないィィッ!?」
「そう。それに、その”勝手な行動”がこれからの戦いの中で、オレ達傭兵団が……死んでしまう様な運命を引き寄せるかもしれないんだぞ?
さらに言っちまえば、今のオルガは――この街を救う前の自分勝手な”ラフィル”そっくりになってるぞ? ……お前自身も嫌がってたのに、それでも良いのか……?」
「うぅ……!」
――よしッ! 何とか伝わったか……!?
……そう願いつつも、オレはオルガの両肩に手を掛けつつ、彼女に確認を問い掛けた……。
「……どうなんだ?
……オレにそう言われ続けても、今エティちゃんと遊びたいのか?」
「……分かったよ、ボスゥ……。
遊びたいけど……ボク、ガマンするよ……」
「偉いぞ、オルガ。
だけど……ちゃんと覚えときなよ? 仕事に対し、責任を持つ事……。
勝手な行動は仲間に迷惑を掛けて……死なせるかもしれない事……。
そして、少しずつで良いから誰からも信頼される人に成れる様に――な?」
「……信頼される人?」
「あぁ、例えば無防備な”オレの背中”を、安心して任せられる仲間とかな?」
――両肩に手を掛けながら、諭すオレに対し――シュンとしていたオルセットだったが……急に豹変した。
今の”オレの背中を任せる”……辺りの下りで、急に目を見開いて……こう、何というか……意欲的と言うか……向上心と言うべきか……ものっそい憧れを抱いた様な……熱い、キラキラとした眼差しをオレに向けて来てるんだよ……!?
……おッかしいなぁ、さっきオルセットに焚き火を組ませる際に”ステータス”を操作して「デパセ」を使える様にしてたけど……その際「洗脳」みたいなスキルは、どこにもなかったんだけどなぁ……?
……教師になりたいとは思ってたけど……大丈夫かぁ……?
……とある死の支配者さんとかの”勘違い系”の話みたいに、憧れてるのを利用して使う的なの……オレ、嫌だよ? オレ自身、悪党だの何だのって言っちゃってるけど……使うとしても、まっすぐ仲良くなって「お願いします……!」的にやりたいからなッ!? オレはァッ!
……けど、この眼差し……実は”分かってないけど何かスゲェ!”……的な感じだったりしたら……根気良く教えていくしかねェなぁ……。
「ねぇ……オルガお姉ちゃん……! いつになったら遊んでくれるの……?」
――おっと、いけねェ……!
割り込まれた後、しばらく後ろで放置していた末に、ションボリとしていたエティちゃんに対し、エティちゃんと視線合わすため、片膝の状態になると……オレはフォローの言葉を掛ける……。
「あぁ、ごめんな、エティ……オルガお姉ちゃんは、エティやこの街の人たちに美味しい料理をご馳走したいって……今、お仕事をしている最中なんだ……」
「お仕事……?」
「そう。
お姉ちゃんがオレの仕事をど〜しても手伝いたいって言うから、お仕事の手伝いをして貰ってたんだ。
でも……エティちゃん? エティちゃんが、カルカの仕事を手伝ってる最中、遊びに行こうとした時はどうなった?」
「……カルカ様とダース様に、おこられちゃった……」
「だろ? そんな落ち込んじゃう程なんだから、今はゴメンだけど……これともう一つの料理が出来たら、オルガ姉ちゃんと一緒に、オレも遊んであげるから……な? 今はゴメンな?」
「本当ッ!? ボスお兄ちゃんも、あそんでくれるのッ!?」
「あぁ、ホントさ。
それよりも……出来たら、料理が出来るまでの間に――カルカやダース、街の人達をこの広場に呼びに行ってくれないかな? ”ジャックさんが美味しい料理をご馳走したい”……って。……出来るかな?」
「うんッ! 私、できるゥッ!」
――強いなぁ……。
まだ小学生にも満たないぐらいの歳なハズなのに、向こうで妹の態度にどう声を掛けるか分からず――オロオロしているジート君に対して……両親を亡くしたと言うのに、この気丈さ……。
ホント……幼いながらに感服モンだよ……!
「よし、じゃあ任せたぞ?
特に、カルカとダースは必ず引っ張ってきてな? アイツら、ホント働き詰めだからな……」
「うん! 分かったよ〜! ボスお兄ちゃ〜んッ!」
「あぁ!? ちょっと! エティッ!
あぁ……すみませんッ! ボスさん、ちょっとここで失礼しますね! おい! エティッ! エティ〜ッ!」
――オレの言葉を受けて、元来た道へと走り去って行くエティを見たジートが、一瞬狼狽るも、オレに一礼した後……彼女を追いかけにこの場を後にした。
……やっぱ、偽名の浸透はもう無理かぁ……。
おっと、それよりも”まだまだ子供だな”……とそう思う、去っていく2人に対し、オレは立ち上がりながら声を掛けた。
「ジート! お前の分もちゃんとあるからぁ! 悪く思わず、エティちゃんを手伝ってやれよぉ〜」
――そんな彼は声を上げる暇もなく、ジートは途中にあった曲がり角へと――エティちゃんの後を追いかける様に消えて行った……。
「ボク達が、食べちゃってたらどうするの? ボスゥ〜?」
「お前は、食いたいなら――口じゃあなくて手を動かしに戻れ……」
「ハ〜イ、ボォスゥ〜」
悪戯っぽい笑みを浮かべながら、いつの間に後ろから話し掛けて来たオルセットを、軽く遇らいつつ作業に戻るも……この束の間の”平穏”を味わえてる事に、思わず口角が緩んでしまう。
ただ……今は……なんだよな……。
……いや、だからこそなんだ。この世界に来て……力を貰ったからこそ……オレが”アイツら”に降りかかる理不尽をブッ潰して続けてやるんだ……ッ!
……そうだよ、異世界があるなら……元の地球の並行世界の何処かで、「大いなる力には、大いなる責任が伴う」……って、どっかの蜘蛛男も奮闘してるんだろうしな……。本当、好きだよ……アイツ。
……さてと、話してる間に結構経っちまったかな?
掻き混ぜていた寸胴鍋の中に視線を戻すと……その中身は80%近く埋れていたのが、水分が蒸発し半分近くまでの嵩まで減っていた。
用意していた竹串で、具材の煮込み具合を確かめて……っと。……うん、中の人参とジャガイモを刺してもスルリと通る柔らかさまで、煮込まれてるな。
チョッピリ底から焦臭……気にした方が……気にしないでおくかぁ……。
ウゥンッ! さて、そうなれば、ここからはスープのメインとなる”豆乳”を入れて煮込むんだが……忘れちゃあいけない事がある。
1L入りの”豆乳パック”を鍋が溢れるギリギリまで、入れまくった後……有機素材だけで作られたベジタリアン向けの、”オーガニックなブイオン”を入れてスープの下味を強化しとかないと……っと。
これを入れておかないと、完成後に”水で薄めた生温い豆乳”を飲むような味になって……その時はテンションだだ下がりだったよな……。
そして、豆乳を入れて冷めちまった鍋がまた沸騰するまで煮れば……とりあえずの完成だッ!
おっと、焚き火は火を調整しにくいからな……忘れずに消して……っと。
……改めて出来たパッと見の見た目は、<色の薄くなったブラウンシチュー>……って、とこだな。
これはたぶん、最初に煮出した雑穀に入ってた「あずき」とかから出た色だろうな……。
例えるなら、豆乳に「お汁粉」をブッ込んで、混ざった的な……。
『兄さん、お待たせしました……』
「おい、ボス。来たぞ」
――穏やかな鳥のさえずりの様な声が脳内に響いたのに続き、素っ気無くも爽やかな声がした方向に目を向け……ッ!?
「うわッ!? うわッ!? うわッ!? うわアァァァァ〜ッ!?」
『どっ!? どうされたのですか!? 兄さん!』
「……何だよ?
奇怪な叫びを上げながら、コッチに駆け寄って来やがって……?
……って、おい? 何でオレらの前に立ちはだかる事に
必死になってんだよッ!?」
――オイオイオイオイオイオイオイオイッ!?
何でそんな目のやり場に困る格好をしているのに、2人して平然としてられるんだよッ!?
「どうしたもこうしたあるかァッ!? ラフィルはともかく……その……何で2人は、ほぼ真っ裸何だよッ!?」
『……どうしてって、言われても……そもそもここに来る前に……着替える服がなかったですし……』
「……後、オレらどころか、エルフにとってはコレが普通だからな?
……何だよ? そんな難しい顔をして? 文句あんのか?」
「……いや、リフィルに「デパセ」で選べる様にしてても――使い方とか、服の選びや着かたを指示してなかった事はオレが悪いし……人間とあんまし関わらそうな環境だったからってのは……何となく想像付くから分かるんだけど……」
「……だから何だよ? 呼んだ癖して、こっから出て行けとでも言うのか?」
――ダァァァッ! クソッ! またラフィルと拗れそうになってきてるよッ!?
「とッ! とにかくッ! 人間の中にいる時は……ホラッ! 今、通りすがりにチラッと”リフィル”を見た男の人とかの表情が、変に歪んだだろ?」
「……おい、ボス。止めるんじゃあ、ねェぞ?」
「待て待て待て待て待て待て待て待てェェェッ! 持ってた大剣を肩に担いで行くなァッ!
そう言う事じゃあねェからッ! 2人には済まないけど! 頼むから、ここでは服を着てくれッ!
あぁ……ホラッ! そこで材料を切ってる”オルガ”みたいにッ! 簡素なのでもいいからッ!」
『……兄さん……ゴメンなさい……えっと、兄さんには黙ってて申し訳なかったのですが……今まで兄さんに頂いて着て来た服は……その……息苦しくて……』
「……姉ちゃんの言ってる事は分かんねェけど……。
いいか? 今まで、ボスが出して服を着ていたのは仕方なくだ。 いいか? まともな防具もない緊急時で、仕方なく着てたんだぞ?」
――OK、2人への配慮が足りなかったのは、分かった……。
だがなぁ、ラフィル……見えにくい位置で手を繋いでんのに、何が”聞こえない”だよ……?
なぁ、何で急に妙なツンデレしてんだよ? 声聞けるのが嬉しい事は分からなくないけどな? ……だったら「バディバンズ」結べよッ!? お前に用がある時、一々リフィルに負担を掛けてる事を自覚しろよッ!?
「えぇ? 何か呼んでたァ? ボスゥ?」
「ちょうど良い! オルガッ! 2人に服を着せる説得の援護を頼むッ!」
――それを聞いたオルセットは、包丁を動かす手を止めると……何かを考える様に唸り声を上げながら周囲を見回し始めた。
そして、”理解”と言う言葉の成否にどっちつかずになってしまった様な……何とも微妙な表情をこちらに向けた後、はにかみながら答えるのであった……。
「ねぇ……リルちゃん、ラル君……?
ちょっとボク……ボスの仕事を手伝ってて……聞いてなかったから分かんないダケド……。
ボスがさっきから必死になってるんだし……聞いてあげたらどうかな……?
リルちゃん達だって、ボスが作る料理を楽しみにしてココに来たんでしょ?」
――途中、オルセットの発言にリフィル達も一瞬”ズッコケ”た様に見えたが……?
……ともかく、2人は納得はしてなくないようで、リフィルがオレに顔を向けるとすっかりお馴染みになった「コール」を用いて、オレの頭に語りかけて来た……。
『……分かりましたよ、オルちゃん。
でも……息苦しくないのを見繕ってくださいね? 兄さん』
「……分かったよ。
……で? どんなのが良いんだ? 2人共?」
「どんなのって……身軽に動ける物だろ?」
『後……布が少なくて……肌を多く見せれる物で……』
「……」
――oh……正面から突然”ストレートパンチ”を喰らった様な気分だよ……ッ!
いや、根本から”種族の違い”があるってのは分かるけど……分かるけど……ッ!
……よりによって、何でそんな露出度の高い服を好むんだよッ!?
さっきの防御力が、どうのこうの話はどうなったんだよッ!?
「……まぁ、分かった。
分かったから……その……服を出すまでの間……2人とも、その”ドライゼ銃”や”大剣”で……上と下の大事な部分を隠しておいてくれないか……?」
『「?」』
「”どうして?”……って顔をしないでくれよ! 2人共ッ!?
ホラァッ! あっちのオルセットも着替えてた茂みの方に行って待っててくれェッ!」
――ハァ、疲れる……。
地球にいた頃、”海外の友人”を作った覚えがあるかハッキリしないが……きっと付き合って行く内に、こう言った”文化の違い”で色々と苦労するんだろうなぁ……と思うわぁ……ッ!
憧れがあった事は、何となく覚えてるけど……なぁ……。
まぁ、とにかくだ。「露出度の高い服」……だよな? う〜ん……そうなると、必然的にノースリーブの服や、”ショート”や”ホット”パンツ的な物になるよなぁ……。
袖アリ……メッシュ生地的な物で、妥協してくんねェかなぁ……。
着るモンのタイプが少なくなるんだよなぁ……。
……仕方ない。とりあえず今日だけはもう、オルセットと同じタイプの「袖なし、ショートパンツ」的な物にするかぁ……。
ハァ、今後の戦闘で防具を付ける際、マジでどうすりゃ良いんだよ……!?
〜ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……ザザザッ〜
「ホラ、2人共持って来たぞ。この麻袋に入ってるからな?」
『……お気遣い、ありがとうございます……兄さん』
――リフィル……悪くは言いたくないんだが……もう少し羞恥心を持って、木の後ろ的な所に隠れて欲しいなぁ……ッ! 彼女の近くの木の幹に堂々ともたれ掛かっている”ラフィル”と一緒に、オレの事も気遣ってくれ!
「……前より”マシ”何だよな?」
「あぁ……戦闘しないなら、何倍もマシだ」
「何ィッ!? おいッ、ボスッ、テメェ! 姉ちゃんの事を……」
「……そういう話は、また今度にしてくれ」
――グイグイと”ダビデ像”の如き、筋肉美を見せつけながら迫るラフィルに対し、オレは”麻袋を持つ右腕”を伸ばして再びの”待った”を掛ける。
「服の事は、ちゃんと考える。
……だから、お前達の苦労を――オレの料理で労わせてくれ」
――一方は、オレに向かって微笑を浮かべ……もう一方は苦い表情をしながらも、麻袋をひったくる様に取ると、微笑を浮かべた彼女の元へと戻って行くのであった……っと。
その様子に、「着替え終わったら来てな!」……と声を掛けた後、調理場となる広場の中央に戻った。
「……ハァ、ラフィルと「バディバンズ」を結ぶのは……ホッント前途多難だなぁ……」
「……ボクより難しいけど、チョットずつ頑張ってくしかないよぉ……ボスゥ」
――「デパセ」で追加で出した紙丼に、こぼれないうようシチューの様なトロみがついた”スープ”を装うオレに対し、オルセットが続けて「終わったよ」と言いながら、お好み焼きの材料を切り終わった事を告げて来た。
……どうやら、オレがお取り込み中の間も、健気に切っていてくれたらしい。
彼女が居たテーブルの2つの巨大ボウルにこんもりと積み上げられたキャベツと玉葱……後、恐らく玉葱の性か――少し泣き腫れた眼が、彼女の苦労を容易に物語らせていた。
とりあえず、この後来るリフィル達を含めた”3人分”を装い終わった後、彼女に声を掛けようとしたところ……三度、3D映画貼りの近さで顔を迫らせて来た彼女に、先を越される……。
「けどボスゥ? あの白丸いのを切るの、とても大変だったんだから――この後作る”オコノミヤキ”が美味しくなかったら……ボクもラル君みたいになっちゃうかもね?」
――少なからず根に持ってるのか……悪戯な笑みを浮かべながら、そう語るオルセットに対し……オレは苦笑いを浮かべながら答えた。
「悪りィ悪りィ……説明不足でゴメンな、オルガ……。
けど、その苦労に見合う期待はしまくって良いぞぉ……?」
「……ホントォ? ボスゥ?」
「本当にマジ、大マジよぉ!」
――そう聞くと、オルセットはオレから少し離れた後……。
「フフッ、じゃあ期待してるね。ボスゥ!」
「あぁ、とりあえず……お好み焼きが出来るまで、そこの紙丼に入った”スープ”でも食べておいてくれ」
――そう言いつつ、オレは先程の「デパセ」の際に出していた「お得用プラスプーン」の袋から、4つ分のスプーン取り出し、その内”3つ”を紙丼に添えて彼女に食べる様、促した。
残りの一本は、味見のためだ。
出来立ての湯気を立ち込め、並々に作られた寸胴鍋のスープ表面を掬い取り――オレの口に放り込みつつ、オレはお好み焼きの準備に取り掛かった。
……うん。出来立てを口に放り込んだ”お約束”で、一瞬火傷しそうになったが……味は美味い。
……だが、正直に言えば――物足りないと言って良いほどアッサリしているが……それでも美味い。
何せ、口に含んでいる内に入れた「しいたけ」や「ぶなしめじ」のキノコ達が生み出す、ジワジワとした濃厚な旨味がのし上がって来る感じは実に良い。
下に絡む豆乳スープは、最初こそ本当に「スープ」だが、よく煮込み続けたおかげか――「シチュー」のようなクリーミーな舌触りになる……。
そして、最初に欠点的に上げてしまった「アッサリさ」だが、逆にこれが良い。
この「あっさりさ」があってこそ、一口サイズに切り入れた「人参」や「ジャガイモ」、雑穀に入った「あずき」などの食感がじっくりと楽しめる。
それに口に入った「ぶなしめじ」なんかは、もう食感から、一瞬「鶏肉」と錯覚してしまいそうな程、良いアクセントになっている……!
〜ブォォォォォォォォォォ〜
「……う〜ん、なんかパッとしない味だなぁ……」
「まぁ、予想はしてたよ……。
肉好きなオルセットにとっちゃあ、素朴どころか地味過ぎる味だからなぁ……」
〜バシャバシャバシャバシャ……〜
「え〜じゃあ、ボクのためじゃあないのォ〜? ボスゥ〜?」
「野菜タップリで、体には良いんだから食っとけ。
……だがな? それはリフィル達用だが、オルセット用のはこれから作る”お好み焼き”だったろ?」
〜ゴリゴリゴリゴリゴリゴリ……〜
「ところでェ……さっきからボス、何してるの?」
「何ってェ……お好み焼きの生地作りだよ。
しかも――お前達だけの、栄養満点の特別製をなッ?」
――オルセットが気にしていたオレが擦っていた物……それは「自然薯」だ。
最初に”バーナー”でヒゲ根を炙った後、ない水道代わりにペットボトルの天然水を溜めておいたバケツ内で、水洗いをしてから……すり鉢の中で擦っている。
小麦粉ベースの”関西風お好み焼き”の方が、もうちょっと手間は省けるんだろうが……オレはあえてこの擦った皮付き自然薯ベースで作るぞぉッ! ……作り方は材料を”あらかじめ”ごちゃ混ぜにする、関東風だけどなッ!
「ハァ……擦るの疲れた。大ボウルに纏められないのがツライ……」
『兄さん……改めて、お待たせしました』
「フンッ、本当に着替える必要があったのかよ……コレ?」
――とまぁ、材料を切り終わって暇していたオルセットが、オレのテーブルの反対側から……ジッと膝立ちの状態で、頭と両手だけを覗かせて自然薯を擦る姿を見ていた中……。
礼儀正しく――黄緑色のノースリーブと、デニムのホットパンツを着てきた……マイアミビーチ近くを、ジョギングしてそうな女性風の”リフィル”と……。
不満を漏らす――淡いオリーブドラブのタンクトップと、淡いウッドランド迷彩柄のショートパンツ着てきた……前線基地内で寛いでいそうなアメリカ兵士風の”ラフィル”が、再びオレらの前に現れた。
……しかし、服のチョイスは完全に俺の趣味なのは”ミンナニハ ナイショダヨ”だが……。
やっぱり、こう…元気な姿を改めて見てみると、2人共スラッとしてモデル並みにスタイル良いなぁ……!
……流石、異世界。……流石、エルフッ!
内なるオレのテンションが上がるゥッ!
〜ネチョネチョネチョネチョ……トロォ〜、ジュワァァァ……ッ!〜
「……あっ、やっと来たんだ〜バカエルフ」
「……んだと? クソ猫ォォッ!?」
「やめろ、2人共。
……もし、これからジャレ合いをおっ始めようモンなら……今、焼いてるお好み焼き諸々含め、マジでこっから出てってもらうぞ?」
――鉄板横の開いたスペースで第一陣となる、オルセット用のお好み焼きを用意しながら――そう脅すよう言うと、2人が渋い顔でお互いを睨んだ後……ビックリするぐらいに素直に俺の方に向き直ってきた。
……こう、ちょっと――いきなり首が動いて目が合うホラーな人形みたいに……。
「な、何だかんだで楽しみなんだな? 2人共……!?」
「そ〜だよ、ボスゥ。早くお肉食べさせてよォ〜!」
「……作るんなら、さっさと食わせろよ……」
『アハハ……二人共、楽しみなのは分かりますが――兄さんが困ってますから……落ち着きましょう……?』
――苦笑いしてるような表情で、二人の肩に手を置きながら「コール」で諭すリフィル。
……いや〜本当助かる。どっかの残念な美女三人に囲まれた最弱職の冒険者さんみたいに、問題児がこれ以上増えるのは……たまったもんじゃあないからなぁ……。戦闘では頼りになるけど……正直、疲れる……!
〜ジュワァァァ……ッ!〜
「おッ? そろそろ焼けたみたいだぞ? オルガ」
「ホントォッ!? ボスゥ!?」
「チッ、クソ猫が先かよ……」
「……ゴメンね〜。
ラル君が文句言うから、ボクが先に”オコノミヤキ”貰っちゃたよォ〜!」
「んだとぉッ!? クソ猫ォッ!」
「やめろ、二人共。
ラフィルの悪態も、オルガのからかうのも……!
マジでやめないと……本当の本気で叩きだすぞ……? お前ら……ッ!」
『……まじまじと睨む兄さん怖いです……!』
――リフィル、無意識かつ無自覚だと信じたいが……ギャグ言うのやめてくれ!
せっかく、真ん前で”一瞬ゾッとした表情”にさせた程のリーダーとしての威厳を出せたのに……一瞬、吹き出しそうになったんだぞッ!?
お前達率いる以上、台無しにさせないでくれッ!
……んまぁ、とにかく……これ以上内心で”怒り”と”ツッコミ”をブチ撒け続けてたら、お好み焼きが食えず、焦げそうだし……とにかくオルセットにやるか。
ヘラで掬い上げて……紙皿に盛って、仕上げにソース、格子状にマヨビームッ、最後に恐らく新たにオルセットの好物になりそうな、鰹節をこんもりと掛けて……っと!
「ホラッ、出来たぞオルガ」
「フワァァァァッ! おいしそ〜ォォッ!」
「食う以上、これ以上ラフィルとジャレ合うなよ?」
「……フッ、だとよ? クソ猫?」
「……わっ、分かったよ……ボスゥ……」
――あ〜あ……。
引きつった笑みに、左目蓋の眼輪筋がメッチャ、ピグピグしてるよ……。
よく耐えた方だが……流石に援護してやるか。
「じゃあ、ラフィル? お前は”お好み焼き”いらないんだな?」
「なっ? なんでだよッ!?」
「”なんでだよ”……じゃあ、ねェだろ?
今さっき”クソ猫”って、ジャレ合おうとしたじゃねェかよッ!」
「クッ! 巫山戯んじゃあねェよッ! ク……」
「おっとッ、待った! それ以上言ってみろ……?
マジでお好み焼きを食わせない上に、お前だけ叩き出すぞッ!? ラフィルッ!」
「なッ!?」
「しかも……お前の後ろで睨んでるリフィルの真ん前で、この広場から出ていくまで――何度でも、ケツを蹴り上げてやるぞ!?
そんな痴態……騎士としてどうなんだ? ラ・フィ・ル〜?」
「クッ!? 分かったよッ! 姉ちゃん……!」
――ハァ〜ホント、手間掛かるわ〜問題児クン……。
ってか、リフィルの心労も分かってやれよ……! 今、チラッと確認した後のお前の後ろで、お辞儀しながら「本当にすみません……兄さん」……って、腕組んでやさぐれてやがるお前のために、謝ってくれてんだぞッ!? お前の代わりにッ!?
……ハァ、オルセットの方は……あっ、もう満面の笑みで一心不乱にお好み焼き食ってるな……。
まぁ、もうなくなりそうだし……一応、お代わりを作りつつ――次はリフィルのを作るか……。
あっ、ラフィルの分もちゃんと作るけど――一応、罰として最後にご提供な?
〜ネチョネチョネチョネチョ……トロォ〜、ジュワァァァ……ッ!〜
「二人共ォ、今作ってるから――待ってる間、そこの寸胴鍋に入ってる”スープ”を食いつつ待っててくれ。入れ物も用意しとくから……」
『お気遣い、ありがとうござます……兄さん』
「……」
『ほら、ラフィル……そんな拗ねていないで一緒に食べましょ?』
「……あぁ、姉ちゃん」
「やれやれ……ホント素直じゃねェなぁ……って、ウォッ!?」
「ボスゥ! ボスゥッ! おかわりィッ!」
「アハハ……美味しかったのは分かるが――急に目の前に紙皿を突き出さないでくれェ……」
「ご……ゴメン……ボスゥ……」
――ホンット、大人っぽい見た目に合わず――無邪気で子供っぽいよなぁ……。
……けど、それが良い。それが可愛くもあり……オルセットの立派な個性だろうからな……。
「で? どうだったんだ、味は?」
「スッッッッッッッゴクッ! おいしかったァァッ!
だからボスゥ! ねッ!? ねッ!? 早くおかわりチョ〜ダイッ! チョォォ〜ダイッ!」
「そう言うと思って、今焼いてるからもう少し待っとけ……」
……良しィィッ! 好感触で良かったァァァッ!
一応、受け売りではあるものの、オリジナリティーを出したくて、何回も失敗した末に生み出した雑なレシピではあるが……ある意味当然だ。
なんせ、使っていた食材は……いつもオレの指示に従ってくれる皆への礼を込めて……全て高級食材だもんな。
それも、無農薬・有機肥料・有機素材・手間暇諸々の掛かった……元の値段で毎日買って用モノなら、家計が火の車的な物を出し惜しみなく……な?
例えばオルセットの場合、つなぎの”卵”は一個200円、たっぷり入れた”挽肉”は松坂牛だ。しかも、こんもり掛けた鰹節も……一本8000円近くの最高級鰹節で大サービスだ。
特に、オルセットは嗅覚が鋭いから自然薯の一緒に擦った皮から”土臭い”と文句も言いそうだったから、それを打ち消すぐらい適度な胡椒と醤油を入れて、”味”と”香り”を強くしておいたのも、工夫の一つなんだよな〜。(無論、これらも高級品)
まぁ、慣れすぎると何かしら悪影響が出そうだから……今後作る際は、何か祝う時以外は”庶民的なスーパー”ぐらいの品質にするけどな? ……ただ、”庶民的なスーパー”ぐらいの、高級な品質でな? 日頃の労いにッ!
〜ドサァッ! トサッ!〜
「ッ!?」
「フィ……フィルファンッ!?」
「おいッ! クソ人間ッ! テメェッ!
あの鍋のスープに毒でも入れてやがったのかッ!?」
「わっ!? わッァ!? 落ち着いてッ! ラル君! 落ち着いてェェッ!?」
……何なんだよ、このカオスな状況は……ッ!?
オレが感慨にふけってる最中……急に、オルセットが寸胴鍋の近くでスープを食べてた、リフィルの方に首を向けて叫んだと思えば……その先で歌い切った”ロック歌手”が膝スライディングした後みたいに……。
緩み……きったァ……淫らっぽい恍惚とした表情を浮かべながら、こっちを見てるのに対して……。
それを「毒を盛られた」……って盛大な勘違いの元、オレの首根っこを捕まえようと突進してきたラフィルを、最後の一欠片を食い終わった皿とプラフォークを放り出しつつ――青いオーラを出しつつ、羽交い締めに抑えてくれたオルセットって……。
……オレが言うのも何だが……いつの間に、ここはギャグ時空になったんだよッ!?
なぁッ!? 悪く言うつもりじゃあないけど……ほぼ殺され掛けたりした修羅場を潜り抜けて来たぁ……シリアスなメンバーだよなァァッ!? オレ達ィィッ!?
この状況を何処か”イイッ!”……って、思うけど……何か違和感、感じちまうよおッ!? なあァッ!?
……ウン、考えるのはやめよう。
とりあえず……”リフィル”と”オルセット”の分が焼けたから、仕上げしながら落ち着かせるか……。
「落ち着け、ラフィル」
「何、真顔で「落ち着け」だなんで言ってんだよッ!? クソ人間ッ!」
「ラル君ッ! 落ち着いてッ! 落ち着いてってェェッ!」
「(怒ってるハズなのに、器用にツッコミ入れるなぁ……。
しかも妙にモノマネが上手い……!?)
マジで落ち着け、ラフィル。
オレが本当にスープに毒を入れたんなら――喜んでオマエに首を締め上げられても構わないが……その前に、あそこで惚けてるお姉ちゃんに確認したのか?」
「ハァッ!?」
「また、一人で突っ走ってないか? ……で? どうなんだ? リフィル?」
『……』
「……リフィルッ!?」
『……はッ!? す、すみませんッ! 兄さんッ!
に……兄さんの作ったスープが……余りに美味し過ぎて……その……失神してしまっていたみたいです……。
特に……中に入ってた……”キノコ”が美味し過ぎてぇ……! はッ!? す……すみません……』
……Whaom……!
”風”も”柱の男”も関係なく、久しぶりにその時ぐらいに驚いちゃったけど……。
……確かに、旨味増すために「椎茸」、「エリンギ」、「ブナシメジ」と入れまくりましたど……ッ!?
そうもまた”淫らっぽい”顔になる程、キノコがウケるのかッ!?
この世界(?)……のエルフはァッ!?
”赤い帽子の配管工”が住んでる所の出身じゃあないよなッ!? ”キ○コ王国”とかじゃあないよなァッ!?
……ていうかホント、ギャグ時空に入ってないよなぁッ!? コレェッ!?
「あぁん……ラフィル、今リフィルに聞いたんだが……その……信じられないかもしれないが……」
「何だよッ!? ハッキリ言いやがれッ!」
「……分かった。フゥ……あのな? リフィルは”毒”じゃあなくて、スープが美味しすぎて”気絶”したんだってよ?」
「……」
「いや、そんな真顔で見続けられても、こっちが反応に困るって……。
と言うか、”毒”が入っていたか疑う前に、そう思うなら何で先にお前が”毒味”をしなかったんだよ?」
「……」
――そう言われて何を思ったのか、オルセットの羽交い締めをそっと振り解くと……寸胴鍋の元へ行き、紙丼にスープを装って……。
〜……ズズッ……〜
「……うま……ッ!?」
「お前、ホントいい加減にしろよッ!? ラフィルッ!?
今更、スープの味確かめても遅ェんだよッ!?」
「うっ……うるせェよッ!
こ……今回は勘弁してやるからな!? 分かったか!? ボスッ!」
「……ねェ、ボスゥ……今すぐラル君の顔、メチャクチャに引っ掻いていいかな……?」
「(……今すぐ許可したいが……)
……気持ちは分かるが、これ以上拗れるからやめろ――オルガ」
「えぇ〜でもぉ……」
「……あのなぁ、ラフィル? これはオルガにも言った事なんだが……。
この街を救った後……オレは、真っ当じゃないクズ野菜や肉で出来た、貧相なスープを10年近く回し飲みして飢えを凌いで来たって言うのを、”カルカ”や”ジート達から聞いて――戦後処理もあるが……”見過ごせない”と思ったからこそ、そこの上質なスープを作ったりしようと考えたんだ。
だけどな……? それ以前の理由に、一緒に戦ってくれた仲間であるお前達を労いたいからこそッ! いつものレーション以上の物を食べさせてやりたいと思ってたんだよッ!
そう思ってたのに、今更オレが”仲間”として!
大事な一人としても、思っている”リフィル”に毒を盛るとでも思うのかッ!? ラフィルッ!?」
「そっ、そ〜だよッ! ラル君ッ!
ボク達、仲良くしてる”仲間”だってのに――ど〜して”毒”何んて入れる必要があるのさッ!?」
「……」
――ラフィルは黙ったまま……苦い顔してオレの眼を見つめながら睨んでいた。
……リフィルは、昔と比べれば――驚くべき速さで、落ち着いてきたとは言って来たが……。
……”人間の悪意”、それに長年毒されて来たアイツの”心の傷”は――まだ途方もなく深く……そしてオレが人間である以上、どうしても割り切れないものが残ってしまうんだろうな……。
デリケートな話題だが……今も根深く続く「黒人の迫害」みたいに……!
だけどな……ラフィル? オレはそれでも……!
「だからラフィル……頼むから! 今日だけは、オレへの”疑心暗鬼”をかなぐり捨てて……ッ!
落ち着いて――揉めずに――オレの――料理で――お前達を――労わせてれッ! 頼むよッ! なぁッ!?」
――少しの沈黙の後、ラフィルは急に後ろを振り向いたかと思うと……持っていた紙丼を大きく傾け、一気かつ豪快にスープを飲み干した後……。
「……スープが無くならない内に、さっさと姉ちゃんのを焼けよ……ボス」
――そう言うと、再び紙丼に並々とスープを入れては食べ……入れては食べ……を繰り返すのであった……。
何とか溜飲を下げてくれたのは良いが……ラフィル? 一応、街の人分まで食べきんなよ!? 気に入ってくれたようで嬉しいけどッ!?
「……あぁ、焼き終わったらすぐにお前の分も作るよ、ラフィル」
「……フンッ」
「……もう、”オコノミヤキ”焼かなくて良いんじゃあないかなぁ……ボスゥ?」
『オルガ、アレでももう仲間なんだから……それこそ、オルガが言ってくれたように”ちょっとずつ”改善してくしかねェだろ?』
「……でも……それじゃあボスが……」
「心配してくれるのは助かる。
けど……今は、焼き上がったコイツでも食って、楽しむ事に集中しろ。なッ? ホラッ」
「ふわあぁぁぁぁぁッ! オコノミヤキだァ〜ッ!」
「……コラ、涎垂れてんぞ……?
後、欲しかったら焼いてやるからゆっくり味わって食えよ? オルガ」
――と、注意するのも束の間……ギラギラと女性がブランド物を目にした時……いや、オルセットなら獲物を狙う食肉類のような目が似合うか。
……とにかく、そんな「待ってました!」……と言わんばかりの目付きで、見ていたお好み焼きをひったくるように素早く取ると、初めと同じように勢いよく自身の口に放り込んで行くのであった……。
……あっ、また猫舌な反応したな、全く……。
「さて……気絶しない準備はできたか? リフィル?」
『……ごめんなさい、兄さん……。
先程の醜態を含め、この芳ばしい香り前に……それを守り切れるとは言い難いです……』
――と、オレの視界の端で幾分放置気味だったリフィルは、何とかいつものポーカーフェイスに近い表情で、鉄板の向かいに立っていた。
……改めて見ると、リフィルって威圧感というか……不気味なような怖さがあるんだよな……。
失語症兼、コールのスキルでしか喋れないから、ほとんど息遣い以外で口を動かす事がないから……尚更、そう思っちまいそうになるんだよな……。
でも、サングラスを外すと意外と可愛いんだよな……こう、儚げな北欧系の美少女……って感じで。
「それは困るなぁ、何せさっきから寸胴鍋の近くに居る君の”シスコン騎士様”が、オレにチラチラ送る視線が痛くて痛くて……申し訳ないが、耐えてくれなきゃ困る」
『……本当、すみません……兄さん』
……おっと、いけない。何とか話出して誤魔化したが……。
オレの方こそ彼女に惚けてないで、さっきラフィルと口論になる前に上げといた彼女用の”お好み焼き”に仕上げしないと……。
このままリフィルを、しょぼくれさせたままにするなんて、罪な事だろうしな……。
紙皿に盛ったお好み焼きに、ヴィーガン仕様の”オタコンソース”を塗り、格子状に卵不使用の”豆乳マヨネーズ”を掛ければ……完成ッ!
鰹節はなし。魚類もアウトな部類に入る可能性があるし、掛けるとしたら高級”青のり”だ。
「ホラッ、お持たせ。
気をしっかり保つ事もそうだが……食事も楽しめよ? リフィル?」
『……私に銃を託した時みたいに、また難儀な事を……。
でも……有り難く頂きますね、兄さん』
――そう言うと、彼女はズボンのポケットから”木製の箸”を取り出すと、慣れた手つきで小さくお好み焼きを切り――自身の口へと運んだ。
……あの変態暗殺者に撃たれた後、慌てて再生魔法を掛けようとしたリフィルに、再生後、”魔法が残存する弾丸を消す事なく傷を治療する可能性”をふと思い浮かんだオレは……彼女にストップを掛けて、急遽”弾丸の摘出”を頼んだんだよな……。
勿論、オレが銃槍の治療法を知ってても、即席で彼女に熟させるのは……幾ら聡明な彼女でも酷な事だと思ったから、麻酔もなしに銃槍から直接弾丸を引っこ抜くって――サバイバル張りの荒療治をしたんだよなぁ……。
その際、箸代わりに彼女が魔法で細い枝を生やして、それをオレが「クリッカー」で軽く炙って即席の消毒を施してからやったんだよなぁ……オレもオルセットも、死ぬ程痛かったし、最後の弾丸を摘出する際は気絶し掛けたけどな……。
それ以来なのかなぁ……リフィルが熱心に箸を練習しだしたのって……。
本人は、「切っ掛けは不謹慎かもしれませんが……ただ、兄さんの住んでいた”ニホン”の文化が知りたいだけですよ」……って言ってたけど……。
「……くっ! んん……っ! ハァ……!」
――んッ? なんか……やたら色っぽいと言うか……艶っぽいと言うか……。
健全な作品なんかでは、流れてはいけないような……”エッ◯な声”が、オレの傍から断続的に聞こえるんだ…が……ッ!?
「んんッ! ……だ……め……! 兄…さ…ん……と……約…束……した……の……に……ッ!
んはぁぁッ! はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
……いや思わず、喋っちまう美味しさだってのは嬉しんだが……!
ま……またか? またなのかァァァッ!?
「だ……だめ……ッ! 耐え…なきゃ……いけない……のに……ッ!
手が……止まらない……ッ! 声も……出ちゃうッ!」
頼むッ! やめてェッ! マジでやめてくれェェェッ!
さっきの、惚けた”いやらしい顔”をしないよう、努力してくれてんだろうが……。
思いっきり逆効果だよッ!? 少しずつお好み焼きを食べる度に、”両腕で胸を締め付ける”し――その度に”エッ◯な喘ぎ声”が漏れちゃってるし……極め付けは、ドンドン内股に小刻みに痙攣しながら角度が狭まっていく、両脚だよッ!
そのモジモジしている体勢がァッ! 今にも文字通り腰砕けにストンと、地面に落ちそうになってるじゃあないかッ!?
そのトリプルコンボが決まり、総じて……その……ムッチャ”エ◯い”わッ!?
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……でも……兄さんが……作って頂いた……物……なの……だから……残しては……駄目エェェッ!」
何をもうッ!? 「世界樹の巫女」だったから、その性で”感受性”とか”霊感”的な物が高すぎて、そんな風な表現になっちゃうとかなのッ!?
不可抗力でしかないのかァァッ!?
「あっ、リルちゃんもボスが作ってくれた”オコノミヤキ”食べてるんだぁ〜ッ!」
「はぁい……。
驚く…程に……柔らかくも……今までに……生の…果実や……焼いた…肉……だけでは……到底…味わえ……なかった……様な……。
優…しくも……複雑で……濃厚…な……美味しさ……が……咀嚼…する……度に……そよ風の…如く……駆け…抜けて……行くんです……!」
「へぇ〜。
……というか、リルちゃんッ!? シャベれたのォォッ!?」
……いや、オルガッ!? 確かに驚く所だけど、今は違うだろッ!?
……後、リフィルッ! 確かにベースの味を強化するために、つなぎに”絹ごし豆腐”の他、利尻昆布と高級椎茸から作った”精進出汁の元”と、さっきのスープにも入ってた「三種のキノコ」達を”ひき肉代わり”に入れていたけどッ!
そこまなのかぁッ!? キノコの偉大さはァッ!? それと、味の解説してくれて助かる気もするけどさぁッ!?
「はい……とても……官能(かん◯う)的で……ッ!」
……と言うか、ツッコミ所満載な事言ってる気がするし――マジでやめてくれェェェッ! さっきから昼ドラの団地妻が心の中で言ってそうな、その背徳的っぽいセリフゥッ!? シリアスの一つなのかもしれないけどォォッ!?
後ろに居る君の弟君の目が静かだけど、もう鬼の様に険しくなってるからッ!? 言っとくが、オレは毒に続いて料理に媚薬(び◯く)なんて入れてないぞォッ!? 断じてオレは無罪だァァァッ!
〜ジュワァァァ……ッ!〜
――ハッ! そ……そうだ! これだッ! これが打開策になるッ! 最後の突破口になるぞォォッ!
「ら、ラフィルゥッ! 焼けたぞッ! お前の分が焼けたぞォォッ!」
――もうカオスだ何だって言ってる場合じゃあないッ!
今は早急に、後ろで獰猛な猛禽類の様な目でオレを逃さないよう睨め付ける……狂戦士に豹変寸前のラフィル君を、このお好み焼きで鎮静化させねばッ!
「……そうか」
……ホッ、良かった。
どうやらさっきまで、オレがラフィル君を見ていた目は節穴だった様だ……!
「これが姉ちゃんを喘がせる程、美味いオコノミヤキやらと何だな……?」
――えッ? いや……何ソレェェッ!?
何でそんな知的っぽい事、サラッと言えちゃってんの?
しかも、なんか爽やかにオレの前に歩いてきて、さっきの麻袋の取り方が嘘の様に……差し出した皿を流れる様に受け取っちゃってんのッ!?
ていうか……申し訳ないけど、君へのオレの第一印象は、融通の効かない単細胞バカ……って、思ってたんだぞォッ!?
「安心しろ、ボス。
これが姉ちゃんの様に、おかしく成れる程美味かったら……さっきまで起こっていた事は、全て気のせいだった事にするからな? 大丈夫だって?」
「……ラル君? オコってない?」
「いや、全然?
むしろ、早くこの”オコノミヤキ”とやらの感想をボスに言いたくて、仕方ないよ……オルガ?」
「な……なんか……変だよ……! ……ラル君!?」
……いや、純度100%で、怒ってるだろッ!?
何だよッ!? その”今まで見た事もない”様な……スカッと爽やかな笑みはッ!?
”怒りを通り越すと冷静になる”……って聞くけど、ソレ的な物なのかァッ!?
さっき言ってた「起こってた」が「怒ってた」に聞こえて仕方ないよッ!? お兄ちゃんッ!? オレ、スッゲー怖いよッ!?
〜ア〜ン……パクッ、モグモグモグモグ……〜
頼む! 気に入ってくれッ! 殺される! でなきゃ、殺されるゥゥゥ〜ッ!
〜ア〜ン……パクッ、モグモグモグモグ……〜
も、もう一口行った!?
〜ア〜ン……パクッ、モグモグモグモグ……〜
……何か……スゴく……スピードが早く……あっ、終わった。
「……おい、ボス?」
「なッ!? 何でしょうかッ!?」
「この”オコノミヤキ”に入ってた……”赤い”のと……”白い”具材は何なんだ?
姉ちゃんのとは別だ! ……って事を言う前に、この味に物凄く興味が沸いたんだが……?」
……んッ? 赤と白の具材……?
ソレって……もうネタ的な物でいいやッ! ……って、ラフィルの今まで行動に半ば呆れ始めてたオレが入れた、”トマト”と”モッツァレッラチーズ”じゃあないか……?
無論、本場イタリアの直輸入の最高品質な物で……。
「えぇと……そのお好み焼きは”イタリア”って地球にあった国で、作られていたサラダを参考に作ったんだ。
ラフィルの言ってる具材は、その国で誇りと語られる程の食材である”トマト”と”チーズ”だな。
チーズは、”モッツァレッラ”って言うクセの無い味わいで、独特の弾力ある歯ごたえが特徴的な物を使ってるんだ。どっちも見た事も食った事もないのか? ラフィル?」
「……あぁ、”トマト”も”チーズ・モッツレラ”もな……」
「モッツァレッラ・チーズな? 出来れば間違えないでくれ……」
――スマン、ラフィル……。
出来れば、地球伝来の物の名前を「ダンシャクの◯」的に間違えて覚えて欲しくないんだ……ッ!
「……フ〜ン。で?
その”モッツァレッラ・チーズ”と”トマト”が何でこんなに美味いんだ?」
「えッ?」
「何でこんなに美味いんだよ?」
――いや、知るかッ!?
お前の姉ちゃんの件とかで、科学の「か」の字も理解しない様なお前に、どう科学的な反応が起きて旨味が出てるなんて、説明できるかよッ!?
……というか、それ以前にオレが一時期ハマる程美味かったら――それだけの理由で、レシピも覚えて出していただけなんですけどッ!? あぁ……もうッ……どうすれば……!?
「……なら……元の料理でも食ってみるか? 材料はあるし……?」
「……はッ?」
――えぇいッ! ラフィルが何か言ってる様な気もするが……もう、成るがままよッ!
1cmぐらいに輪切りにした”トマト”の上に、一枚のバジルの葉→小さく千切られた”モッツァレラチーズ”の順に乗せて、オリーブオイルと黒胡椒を掛ける……。
最後に、爪楊枝を刺して……これを食べたい分だけ作れば、完成である。
ハハッ、なッ? 作り方はとっても簡単だろ!?
「ほら、出来たぞ」
「随分と早いな……」
「当たり前だろ? この手軽さもこの「インサラータ・カプレーゼ」って言う、このサラダ……イタリア料理の魅力なんだぜ」
「いたりあ料理……?」
「あぁ、とにかく食ってみろ。オレの密かなお気に入りなんだ」
「ふ〜ん」
〜ア〜ン……パクッ、モグモグモグモグ……〜
そう言うとラフィルは、訝しげな表情を浮かべつつも、新たに盛られたカプレーゼの紙皿から1組、爪楊枝を摘んで口の中へ運んでいった……。
頼む! 鎮まって! マジで鎮まってッ! ……でなきゃ、マジで殺されるゥゥゥ〜ッ!
〜……カッ!〜
「ゥンめええ〜っ!? 何だコレッ!? 何だよコレェッ!?」
うおッ!? ビックリした! 食べた瞬間にラフィルは目を勢い良く見開いて、余りの旨さに大絶叫ッ!
そして、この後自身の肩を掻きまくり――大量の垢が手にベットリと……ッ!?
……なんて、ホラーな展開は、流石に”ヘブンズ・◯アー”に目覚めても、「パール◯ャム」的なスキルを発現していないオレには無理だけどな……。
……とは言えど、フゥ……何とか九死に一生を得たか……。
〜……キュルルル……〜
……あっ、そう言えば……オルセット達の分を作るのに夢中で、オレの分のお好み焼きは全然作ってなかったな……。
……最後にラフィルに提供して一段落しただろうし、オレの分も……!
「ボスゥッ! おかわりィィッ!」
……えッ?
「ちょ、オルガ……ちょっと待ってくんないかなぁ!?
オレなぁ、お前達の分を作るのに夢中で――全然食べていなくて……」
『あの……兄さん、すみません……。
差し出がましいかもしれませんが……私の分も無くなってしまったので……宜しければ……!』
……オレの目の前に、また一つ――皿を伸ばす手が増えた。
「いや……分かってるけど……!
オレも腹が減ったから、お前達の分を作る前に”一枚”自分の分を、作りたくてだなぁ……!」
「おい、ボス。
お代わりだ。さっさと姉ちゃん達の分と一緒に、オレの”オコノミヤキ”と”カプレーゼ”も作れよな?」
……オレの目の前に、また一つ――皿を伸ばす手が増えた。
と言うか、見る目も声も脅迫染みてるんですけど〜? ラフィル君ッ!?
労働者の権利は一切ないのォォッ!? 異世界じゃあァァッ!?
〜タッタッタッタッタッタッ……〜
「ボスお兄ちゃ〜んッ! みんな連れてきたよ〜ッ!」
――えっ、エティちゃんッ!? ……あっ、その後ろからゾロゾロと……!
「ほぉ……? 随分といい匂いだな……! これは商会再建のために……!」
「コラ! ダースッ! アンタの商会再建は二の次だよッ!
この休憩が終わったら、さっさとアタシの仕事を手伝ってもらうからねッ!?」
「いや……商会が栄えれば……この街の崩壊寸前の資金も……」
「言い訳無用ッ! 分かってるけど、あのクソ豚供が”奴隷の売却”とかで儲けた隠し財産で何とかなってるでしょッ!?
ソレよりも王国への税の未払いや、今まで街の人達を助けられなかった慰謝料のやり繰りとかで、書類が山積みになってんだからねッ!?
後、書類仕事が嫌で、チョクチョクボスさん達の所に逃げている事……エティちゃん達から聞いて、バレてるからねッ!?」
――いや〜順調に尻に敷かれてきてるな〜ダースはぁ〜。
……じゃねェよッ!? 一瞬、現実逃避しちまったけど……もう、コレ広場の半分は埋まってきてないかッ!? コレェェッ!?
〜おおっ、ボスさんッ! どんな料理ご馳走してくれるだいッ!?
エティちゃんから聞いたよ! いつも食わせてもらってる”レーション”とやらより美味いんだって?
フワァァァ、堪らない……! 私たちがいつも作る”クズ野菜スープ”よりも遥かに上等な香りがする〜!
これは凄い! この街一番のパンにも負けない香りじゃあないかッ!?
ボスさん、エティちゃんから聞いて――息子達が楽しみにしてるんですよ……どうか宜しくお願いします……!〜
……あっ、アカン……! これはもう……逃げられん……!
包囲網を敷かれたわぁ……ッ!
「ねぇ〜ボスゥ〜、ボケッとしてないでぇ〜早く作ってよ〜!」
『すみません……兄さん……はしたないでしょうが……私も……』
「おい、ボス? さっさと作れよ? 姉ちゃん達が待ってるだろ……?」
「ダァァァァッ! もう分かったッ! 分かったよォォッ!
スープ食って待てッ! 順番は守れッ! ここいる全員分作ってやるからよォォォォォォォッ!」
……と、忙しくも幸せな一時をボス達を過ごして行くのであった……!
因みに余談だが、ここまで読んだ後に”この話”を初めから読み返せば……!
ボスが延々と料理を作り続ける「無限ループって……怖くね?」……と言う構成になっていると言うのは、冗談である……ッ!
いやッ!? 余談も冗談もあるかァァァァァァァッ!?
巫山戯んなよッ!? なぁッ!? 巫山戯んなよッ!?
確かに”シリアスな中、仲良くなってきたい”……的に思ってるけどッ!
その結末が「幸せな一時を”無限ループ”し続けた末に過労死」……とかァッ!?
マヌケな”ブラックジョーク”的に、締めるつもりだったんだろッ!?
……
なぁ!? どうなんだよッ!? なぁッ!?
……被害妄想も甚だしいのである……!
ホラァァァァァァァッ!
やっぱ思ってやがったんじゃあねェかよッ! クソッタレェェェッ!
……繰り返す、被害妄想もッ、甚だしいのである……!
いや、ほとんど変わらず思ってやがんじゃあねェかよッ!
と言うか……最後の最後まで……ギャグ時空でいるとか……ッ!
マジで巫山戯んなよォォォッ!
クソッタレリャァァァァァァァァァァァァァァァッ~~~~!!
以上で、”データ回”を除き……2章の話は終了となります……。
なお、今後のデータ回の更新は”出来次第”になります……。
つまり、3章の途中で急に更新する事があるかもしれない……と言う事です。
一応、データ回はツイッター上で”いつもの文面”とは”違った形の文面”でアナウンスしますので、宜しければ……ツイッター登録して頂けるとありがたいです……!
最後に、”必ず”今後、更新するデータ回は、「キャラクター」、「ステータス」、「◯章登場”武器”」は更新するよう努めますので、今後ともどうか宜しくお願いします……!
(最後に、また長くなる事を含めて”小ネタ”ばらしを……! 「蝶ノ声」のどこかに、”単語”だけで読むと意味のない文章があります! 繋げて読むと、3章の展開が予測出来るかも……しれませんよ!)
……あっ、後お好みで……。
「……そして時は、巻き戻る……!」的に、宜しければこの話を読み返してみてくださいね。