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異界の傭兵団~現代スキルで世界統制を目指す~  作者: North.s.Traveller(ノーズトラベラー)
第二章 三匹の”ブタ”
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EPILOGUE - 2S 蝶ノ聲

 ……無数の漫画や作品を経験しなければ、登場人物の心情を事細かに考えられないこの”ぼっち”な状況……!

 誰か……夢をも実現できる様な……強い”繋がり”が欲しいと願いつつも、これを書いてます……。


 フェェッ!? え……Nさん(・・・)ッ!? と……唐突に後ろから話しかけないで下さいよッ!


 良いご身分ですね……誰のおかげ(・・・・・)で、貴方をここまで残らせたと思っているのですか?


 ウゥゥゥ……。


 やれやれ……それに、貴方の手元にある台本(・・)通りに途中から進めず……貴方の私情丸出し(・・・・・)でナレーションを進めるとは……感心しませんねェ……?


 ウゥゥゥゥゥ……。


 ……そんな不真面目な仕事じゃあ、貴方が途中呟いていた”お願い”を叶えるかどうかも……ねェ?


 ……あ、貴方だって、今までボスさんに対して……不真面目な仕事(・・・・・・・)をしてたじゃあないですかッ!


 ……私に与えられた義務なんですよ。

 無理矢理、やりたくもなく……! ……だから、真面目に語り部をする最中……愚痴代グチがわりに彼をイジりたくなるモンなんですよ……。


 ……あの……すみません……Nさん……。


 ……まぁ、貴方も私情の中で、あれだけ”冒険”にあこがれていたのですから、似たような境遇きょうぐうなのでしょうね……。

 それよりも、これ以上私達が話すと、この物語を見ている者達(・・・・・・・・・)に取って、好ましくない物になりますからね……。


 えッ? 私達を見ている人達(・・・・・・・・・)……!?


 ……ハァ……貴方は気にせず、この最後の仕事に戻って下さい。

 そうすれば……この仕事までは、何をしようと残らさせてあげますから……。


 ほ……本当ですかッ!?


 あくまで、この仕事まで(・・・・・・)……ですよ。

 ……ホラ、貴方の娘さんが、恋人一歩手前ムード(・・・・・・・・・)になったのを見て――

堪えきれなくなった息子さん(・・・・)が、隠れてた裏庭の入り口から出て来ましたよ?



 「……つまり、オマエは母さんの死を馬鹿にし(・・・・・・・・・・)てなかった(・・・・・)……って事か?

 人間……?」


 えッ!? えッ、はッ、あッ、ウンッ!? ちょ、ちょっと待って下さいッ!


 ……ハァ、貴方が望んだ以上……ちゃんとしっかりやって下さいね……。


 「ゴ…ゴメン、ボスゥ……。

 ラル君……庭から銃の音(銃声)が聞こえた後……急に大剣を抱えて「やっぱあのクソ人間、ブッ殺してやるッ!」……って叫んでボスの所に行きそうだったから……抑えてたんだけど……抑えてた庭の周囲の変な木達が急に枯れ始めて、裏庭に急におっきな木が生え始めたから……その……ビックリして……放しちゃって……」


 「あぁん……良くやったよ、オルガ……」



 お……落ち着かないと……! 落ち着かないと……! ……ウゥンッ!

 ……ボスさん達が、お互いのおこないに感謝し合っている最中……実は途中から…その……Nさんが言っていた通り、領主館の裏庭への入り口裏で、腕を組みつつ壁にもたれ掛かりながら……私でもビックリするぐらいに……ボスさん達の話を、ラフィルは静かに(・・・)聞いていたようです……。

 それも、その行動に困惑してオロオロしていた、オルセットさんを抑えながら……!

 そして、二人の話が終わったところで、二人が密接な…状態に……なっている事を見て……我慢ならなくなった彼は、私が困惑している最中、先程のように言った……という訳です。



 「……で? どうなんだよ、人間……?」


 「……そもそも馬鹿にしてんだったら――最初から、お前達兄妹も助けてないよ……ラフィル」


 ――ボスさんは、半ば呆れつつもいつくしむような声で、彼に返事を返しました……。


 「……何で……何で、そんな事が出来るんだよッ!? 人間のクセして出来るんだよッ!?」


 ……理解できない物でも見たかのように……ラフィルは声を荒げて返します……。


 「……助けたくて助けた事に、理由がいるか?」


 「ッ!? ふ……フザけた事言ってんじゃあねぇぞッ! 人間ッ!」


 ――真面目に言ったんだけどな……彼の言葉に、若干心の中でねてしまうボスさん……。

 ですが、このやり取りを聞いていたリフィルは、額に付けていた彼の両手を一旦下ろすと……顔を上げ、彼に耳打ちするかのように……そっと「コール」で語り掛けました……。


 『兄さん……ラフィルは、私以上に人間の悪意(・・・・・)に触れてきたんです……。

 はぐらかしたり、誤魔化すような話し方は……”奴隷時代”を思い出させると思うので……むしろハッキリとした風に言(・・・・・・・・・・)()方が、良いかと思います……』


 『……そう言っても効果なかったように思うけど……。

 出来れば……それ、アイツと喧嘩ケンカする前に言って欲しかったな……』


 ――左手で両眼をおおいながら、軽くめ息をらしてしまうボスさん……。


 『本当に……すみません……』



 ――再び、顔を落としながらラフィルの言った事に対し謝罪するリフィル……。

 ……ですが、その一方でラフィルの行動に、彼の背後でオロオロしていたオルセットさんが、彼の物言いと、それに対し黙るボスさんを見て不満を抱いたようで――彼の横にズカズカとおどり出ると、彼の目線を合わせるよう肩を引いた後にこう言い放ちました……。



 「ちょっと、ラル君ッ! ボスはちゃんと理由を言ったじゃないッ!

 あの理由のどこがフザけてる(・・・・・)っていうのッ!?」


 「黙ってろ! 猫女ッ!

 平気でオレらを拐って、平気で奴隷として売り飛ばすのがこの世界の人間共(・・・・・・・・)だって言うのにッ! 平気であんな善人ぶった事を言える(・・・・・・・・・・)なんて……逆に疑わしい(・・・・・・)じゃあねェかよッ!」


 「でも、ボクだって!

 襲われそうになっていた所を、あの理由(・・・・)で助けてくれたんだよッ!

 それのどこがおかしいって言うのッ!?」


 「不用心ぶようじん過ぎんだよ! 猫女ッ! ……口では何とだって言えるんだよッ!

 あの人間がそう言おうとも……心のどこかじゃあ、強いテメェを利用するだけ利用して……都合が悪くなったら捨(・・・・・・・・・・)てよう(・・・)って考えてるかもしれねェんだぞッ!?」


 ――これが彼女の琴線きんせんプッツン(・・・・)させたのか……彼の顔に迫りつつ、先程まで大きかっただけの声を、ジョジョに怒声へと変化させて行くのでした……。


 「もうッ! どうして、ラル君はボスの事を悪く言うのッ!?

 どうして、ボスの事を信じられないのッ!?」



 ――迫られた際に、押しつけられた額を押し返しながら……彼女は彼以上の声で怒声を浴びせます……。

 その一方……この様子を見ていたリフィルは、”止めましょう!”……とボスさんに進言するも、彼は”ラフィルの本音が聞けるかもしれない”……と、二人で短いコールを済ませ、座ったまま二人の方へ向き直り……熱の上がって行くラフィルとオルセットさんの行く末を、静かに見守るのでした……。



 「お前は馬鹿かッ!? 猫女ッ!

 さっきも言っただろッ!? 騙すんだよッ!

 初っ端から騙し通そうとするから信じられねェんだよッ!」


 ――押し返された事に負けじと、オルセットさんも額を押し返しながら叫びました……。


 「どうして、最初から疑うのさッ!?

 疑ってばかりじゃあ生きていけないんだよッ!? 

 一人じゃあ生きていけないんだよッ!?」


 ――再び押してきた彼女の額を押し返しながら、彼は叫びました……。


 「じゃあ、お前は知ってるのかッ!?

 奴隷になった苦しさをッ! 家族を守る過酷さをッ!

 そして……その家族を守りきれず、責任も捨てて良いと言われ突然、”自由にもなって良い”と放り出されたオレの苦悩(・・・・・)が分かるって言うのかよッ!?」


 ――再び押してきた彼の額を押し返しながら、彼女は叫びました……。


 「ラル君だってッ! ボクが家族を覚えてない事や、ボクが、ボスに会うまで一人で生きてきた事を知らないじゃあないかッ! 一人で生きるのが大変な事も知ってるって言うのッ!?」


 「知るかよッ! クソ猫ォッ!」


 

 ――そう言うと、彼は再び押してきた彼女の額を押し返さず……両手で突き飛ばし(・・・・・・・・)ながら彼は叫んでいました……。

 オルセットさんは、突然の事に足がもつれそうになりますが……何とか踏ん張り、突き飛ばした彼をキッとにらみました……。

 一触即発……! しかし……叫び過ぎた影響か、少しの間――二人はハァハァと呼吸を整え、お互いを睨んでいましたが……最初に口を切ったのはラフィルでした……。



 「……じゃあ、何なんだよ……?

 オマエは、騙され続けた挙句あげく……唐突とうとつに捨てられたって良いのかよ!? クソ猫ォォッ!?」


 「ボクは”クソ猫”なんて、名前じゃあないッ!」


 ――唐突に質問の答えになってない事(・・・・・・)を叫ばれ、一瞬狼狽うろたえてしまうラフィル……。


 「いい加減にしてよッ!

 ラル君だって、”クソエルフ”って名前じゃあないでしょッ!

 ボク達の名前を、チャンと呼んでよッ!」


 「信用できない奴らの”名前”なんて、どうだっていいだろッ!?

 それよりもチャンとオレの質問に答えろッ!」


 「どうでも良くなんかないッ!」


 ――彼女のより大きな叫びが、再び、ラフィルを一瞬呆けてしまいます……。


 「見知らぬボクを助けてくれて……何もなかったボクの名前に……”勇気”と”意味”を持たせてくれた、ボスが言ってくれた名前を……どうでも良いなんて、ボクは見過ごせないよッ!」


 「……ハッ! じゃあ、そんな名前をめたようなぐらいで……お前はあそこの人間を信じるって言うのかよッ!?」


 「……信じる」



 ――少し間を開け、彼女は両手の拳を握り締めながら――重く……静かに言い放ちました……。



 「ラル君が何度違うって言っても……ボクはボスを信じる……!

 それだけの事(・・・・・・)を……ボスはボクにしてくれたんだ……ッ!」


 「……何だよ、お前らは一体何なんだよ……!」


 「……そこまでにしておけ、二人共」



 ……オルセットさんの言葉を聞き――握り、振りかぶろうとしていた右拳を広げ……ラフィルは頭をむしって困惑こんわくしていたが、そこにボスさんが”待った”という声を掛けました……。

 勿論、これはラフィルが拳を振り上げた後の展(・・・・・・・・・・)()に、彼女とでならない様に配慮はいりょしたのもそうですが……。

 彼……ラフィルの叫びを聞いていて、ボスさんは聞きたい質問が浮上したみたいです……。



 「う…うん……分かったよ、ボスゥ……」


 「……何だよ、人間……?」


 「ラフィル……俺の答えはさっきまでと変わりはないが……一つだけ聞きたい事がある。

 ……何で”自由になった”のに、苦悩(・・)……迷いを抱いているんだ?」


 ――少しの沈黙の後……彼は俯いていた顔を挙げると――掻き毟っていた右腕と、前髪の隙間から横目でボスさんの事をめ付けながら、うらみがましげな声で彼に告げました……。


 「……142年……」


 「?」


 「142年……ずっと、家族を守る使命のためだけに、生きて来たオレが――使命を無くしたら……何を使命に生きれば良(・・・・・・・・・・)()って言うんだよ……ッ!」


 「……ッ!」


 「……なぁ? 言ってみろよ、人間……!

 ”もう姉ちゃんを守らなくて良い”……って言われたオレは、どう愛せば良い(・・・・・)んだよッ!? ――どう生きて行けば良いって言うんだよッ!? オレはァッ!」


 「……ッ!?」



 ――彼の私怨しえんがましかった声は、一言……また一言と紡がれて行く内――ジョジョに私怨は薄れ、純粋に限りなく近い”助けて”と言う様な泣き声へと、変化していたのです……!

 ……非常に変な暗殺者との戦いの中……リフィルにさとされた影響なのでしょうか……!?

 ただしかし……ボスさんはその疑問に答える前に、彼の話を聞いている中で浮上してしまった”新たな疑問”に、困惑を隠せずにいました……。



 「ちょ…ちょっと待った、ラフィル。

 愛……す? ”愛す”事ォ? ……お前がとことん姉思いなのは分かるが、お前がマトモに姉を愛した(・・・・・・・・・)様な場面は……残念だが、オレは微塵みじんも見た事がないんだが……?」


 『ホント……どう言う事でしょうか……ラフィル……』


 「ハァッ!? フザケんなよッ!? オレは片時も離れず、姉ちゃんを守る様にしていた(・・・・・・・・)じゃあねぇかよッ!?」


 ――と、真剣な態度で抗議するラフィル。一方のボスさんとリフィルは短い沈黙を保った後……。


 『……なあ、リフィル?』


 『……何でしょうか?』


 『……スゥ(軽く息を吸う)

 アンタさぁ…6年以上前から……ラフィルがアンタを警護する(・・・・・・・・)って事以外に、こう……ラフィルに親切にしてもらった(・・・・・・・・・)……って的な事はあるか?』


 『……どう言う事ですか?』


 『例えば……ホラ、リフィルが何かしらで落ち込んでいる(・・・・・・・)なら、励ます(・・・)とか……。

 重い物を持ったら進んで(・・・)ラフィルが持つとか……。

 アァァ……ホラッ! 姉弟ならではの、”姉弟愛”的なモノだよ!』


 『……いえ、”何が来ても良い様に”……と、私の傍を片時も離れず……警護していたのですが……?』


 『……ハァ、OK。

 お前達が、スンゴイ(凄い)特殊な環境(・・・・・)で育った……って事は良〜く分かった』


 『?』


 ……ボスさん、気づいてしまいましたか……。あの人の方針に……。


 「おいッ! いつまで黙りこくっているつもりなんだよッ!?

 ……て言うか、前々から言おうと思ってたけど、お前ばかり姉ちゃんと話してんじゃあねェッ!」


 「……ボクも、リルちゃんとお喋りしてるんだけどな〜」


 「黙ってろ! クソ猫ッ!」


 「ボクは、クソ猫じゃない! オルセットだよッ!」


 「やめろッ! 二人ともッ!」



 ――ボスさんの予想外の怒声に、思わずビクッと、体が硬直してしまう二人……。

 しかし、オルセットさんは納得が行かないのか、しおらしい声を上げます……。



 「ボスゥ……でもぉ……」


 「……良いんだ。有り難いとは思ってる。……だが、今はそれが重要なワケじゃあない」


 「……でも」


 「分かってくれ、オルガ。

 本当に有難いけど……それは別に時間が必要な事なんだよ。

 今、重要なのは……ラフィルの疑問を解決する方が先なんだ」


 ……少し不服そうな表情で項垂れながらも――彼女は”うん”と小さくうなずき、納得するのでした。


 「おい……いつまで、クソ猫に構っているつもりなんだよ……?」


 「分かった分かった、今から言うよラフィル……」


 「フン……」


 「……ただ……その前に、お前達に話しておきたい事がある……」


 ――軽く右手の人差し指を伸ばしながら、真剣なさまで話すボスさんに……この場にいる一同の頭に一斉に”疑問”の二文字(?マーク)が浮かび上がりました……。


 「ボスゥ……話しておきたい事って?」


 「……なんか、裏庭の入り口あたりからお前達二人が出てきて……どっかからオレらの話を聞いてた(・・・・・・・・・・)んだろ? ……なら、ちょうど良い機会だと思ってな?」


 「……で? 話しておきたい事って何だよ……?」


 『……』


 ――ボスさん以外の視線が、一斉に彼に集まる中……彼はドッシリと胡座をかいて構えた後……静かにこう切り出しました……。


 「……ラフィル、さっきお前はオレにこう聞いたよな?

 ”どう生きて行けば良いのか”……って」


 「……あぁ、だから?」


 「ラル君ッ!」


 「まぁ、待てって…オルセット……。

 ……ラフィル、その答えを出す前に……まず、オレがお前達から見る異世界、”地球”から来たって事は聞いたよな?」


 「……あぁ」


 「じゃあ、オレがこの世界に来た瞬間、お前が言う”使命”を持ってこの世界に現れたと思うか?」


 「……持って来たんじゃあねぇのか……?」


 「……すまない、違うな。

 記憶を無くしていて、ただ呆然と……誇りを持って生きたい(・・・・・・・・・・)……。

 それだけ(・・・・)を胸に、ただ我武者羅ガムシャラにこの世界を生きてきたんだ……」


 「……それだけ? 使命はあったじゃねぇか!?」


 「そう、それだけ……持ちはしたけど、お前の言う使命はなかった(・・・・・・・)んだよ……。

 ただ生きるだけ(・・・・・・・)……それ以外は、今のお前と同じ様に……”使命を無くした”……生きる目的のない(・・・・・・・・)、空っぽの状態だったんだよ……」



 ――この一言を聞き、三人は三者三様の態度を見せていました……。

 質問の張本人であるラフィルは、握っていた両拳が緩むのを感じながら目を見開き……。

 そのとなりでボスさんを見つめていたオルセットさんは……フフッ、分かりやすいぐらいに、ラフィル以上に驚いており……。

 ボスさんの隣で、彼の方に顔を向けていたリフィルは……胸に右手を当てながら、悲痛な表情で俯いていました……。

 多少、ズレはあれど……3人が思っていた事は「これだけの事をして来たのに……!?」……という驚愕に近い感情でいる事に、違いないでしょう……。



 「そして……お前達に出会い、過ごして行く内に……オレにも生きる目的が出来た……」


 「ねぇ…ボスゥ……どんな、どんな事なの……?」


 『兄さん……どんな事でしょうか?』


 「……どんな”使命”なんだよ?」


 ――せっつく様な物言いをするラフィルの言葉の後……ボスさんは軽く息を吸った後、こう切り出しました……。


 「……それはな、"理不尽"を見逃したくない……って事なんだよ……」



 ――重く……決意めいて言うボスさんでしたが、再びこの場にいる一同の頭に一斉に”疑問”の二文字(?マーク)が浮かび上がっていました……。

 無論、ボスさんはその言葉だけで終わらせず……言葉を紡ぎ始めました……。



 「お前達に初めて会った時……そして、その先に起こる事柄に会う度……お前達は自分の力じゃあどうしようもできない”理不尽”にって来ただろ?

 オルガは敗残兵に追われ、八つ裂きにされそうになり……リフィルとラフィルは、奴隷狩りに殺されるか……畑の養分にされる運命だった……」


 「……こう聞くとボク達、みんなヒドイ目に遭ってるね……」


 『私も……右に同じくです……』


 「……ホント、クソ人間共を叩き斬ってやりたくなるな……」


 「(ラフィルに指を刺しながら)それはオレも同意だ。

 他人の事を考えない悪党には、”フザけんな”……って、パンチを喰らわせたくなるよ……」


 ――これを聞いたラフィルは、そっぽを向きつつ”フンッ”……と悪態(あくたい)づいていましたが、その口元はわずかにゆるんでいました……。


 「だが……それは地球にいた頃のオレが、此処ココに居たら……パンチどころか、声すらも(・・・・)上げられなかっただろうな……」



 ――暗い表情で、軽く俯いてしまうボスさんに対し、傍に居たリフィルが……

 ”それはどう言う事でしょうか……?”……と、彼の顔をのぞき込む様にたずねたのでした……。



 「あぁ…ん……出来れば……これを聞いて、怒らないで欲しいんだが……。

 もし……オレが”地球”にいた時のまんま(・・・・・・・)だったら……多分…オレは……ここまで生きている事はないだろうし……。

 最悪、生きていたとしても……お前らを見て見ぬ振りして(・・・・・・・・)……見捨てていただろう……」


 「……ッ!? どう言う事! ボスゥッ!?」


 「……記憶がないから、定かじゃあないが……オレは……オレはこの世界に来る前に、”これでいいや”、”関わらなくて良い”……って、そんな…そんな……たくさんの理不尽から目を背けて(・・・・・・・・・・)来て(・・)……何か……助けられるハズの「理不尽」を………たくさん……見逃してきた(・・・・・・)気がするんだよ……」


 「フザケんなよッ! クソ人間ッ!」


 「……不可抗力だったんだよ、ラフィル。

 地球にいた頃のオレは……本当に、お前よりも弱っちい人間様だったんだよ……!」


 「何が不可抗力だ! 何が弱っちいんだよッ!?

 何でテメェが”正しい”って思った事をやらなかったんだよッ!

 ……やっぱ、母さんを馬鹿にしなくても……結局テメェは、クソ人間だったって事じゃあねェかよッ!?」


 「ラル君ッ! 今はボスが話してる最中だよッ!?

 訳分かんない事を言って話を止めないでよッ!」


 「黙ってろよッ! クソ猫!」


 「だから、やめろ! 二人共ッ! 落ち着けッ!」


 ――再び、ボスさんの怒声が二人のいきどおりを沈めます……。

 しかし、その後の彼は平行線に続く二人の関係に、少し頭を痛めたのか……うつむきつつ両手で頭を抱えながら語り出しました……。 


 「分かってる……ラフィル……分かってるから……。

 今更だけど……思い返してみると、頭も心も酷く痛む事だよ……本当にな……」


 『でも……助けたと言う事は、”何か”をキッカケに変わられた……という事ですよね?』


 「あぁ、だが……そうはしなった。それは何故か……? ……答えはこれだ」



 ――そう言うと、ボスさんの右手が赤く光り(・・・・・・・)……消えたかと思えば、そこには彼が今回の事件でよく使っていた武器である、”SAA”が握られていました……。

 そして、それを他の3人に見える様……自身の顔の傍に軽くかかげた後、再び話始めました……。



 「……神さんの悪戯か、贈り物かは知らないが……この世界に来たオレは、この不思議な”銃”などを呼び寄せられる力(・・・・・・・・)で……生きる事が出来たし、お前達を助ける事が出来た。

 いや、地球じゃあ出来なかった……”助けたい”と思う気持ちに、素直になれた(・・・・・・)んだろうな……」



 ――軽い愚痴グチこぼしつつも、まるでその能力スキルに対し……”お礼”を言う様な物言いで語るボスさん……。

 その一方で、話を聞いていた3人は明らかな強弱は違えど、「助けたい気持ちは、本当なんだ……!」……と、再び同じ思いを抱いていたのでした……。



 「この”力”を貰えたからこそ、お前達を助けらたんだ。

 逃げ回ってたオルセットを助けた事しかり……。

 お姫様なエルフの美少女と、そのお姫様を守るヤンチャなダークエルフの騎士が、死に欠けで現れた事然り……。

 一つの街が、悪徳領主の”三匹の豚共”に苦しめられていた事然り……!」


 「……おい、”ヤンチャ”って何なんだよ……!?」


 「ラ〜ル〜くぅ〜ん?」


 「……チッ」



 ――ボスさんの怒声にウンザリしていたのか、ラフィルはオルセットさんに注意され迫られても、騒ぎ立てる事なく……再び、両腕を組み――そっぽを向いて舌打ちする程度に、悪態付くのを抑えてました……。

 その光景を、彼らの上げた声を聞いた時に見たボスは、微笑ましかったのか口元を軽くほころばせると……自身の胡坐をかく太もも辺りにSAAを置いた後、3人の方に顔を向き直らせながら……静かな、ですが……明るい口調で、こう語るのでした……。



 「……フッ、だからな……。

 ――こう、出来て来たんだから決めたんだ……もう理不尽からは逃げ(・・・・・・・・・・)ない(・・)……って……!

 戦略上、逃げる事はあっても――"心"は決して、解決すると決めた事には……諦めずに立ち向かう(・・・・・・・・・)ってな!」


 『……ボスさん……!』


 「……ボスゥ……!」


 「……フンッ」


 ――ボスの言葉に感銘かんめいを受けている二人に対し、ラフィルだけは”本当に出来んのかよ……?”とでも言いたげに、鼻を鳴らしていました……。

 しかし、ボスさんはその態度にしっぺ返しでもするかの様に……。



 「さて……こうしてオレは使命(生きる目的)を見つけられた訳だが……。

 今の所、オレの最終目的は……「姉を守る事」が全面的に”無性の愛”だと勘違い(・・・)しているラフィル君と違って……オレはお前達に、安全に暮らせる場所(・・・・・・・・・)を作りたいと思っている……」


 「安全に暮らせる場所ォ……?」


 『ッ! 助けて頂いたと言うのに……兄さん……!』


 「ちょ、ちょっと待てよッ!

 何、今サラッとオレが馬鹿にされた事(・・・・・・・)に対して、無視しているんだよ二人共ッ!」


 「……そう言えば、ボスゥ……”無性の愛”ってナ〜ニィ〜?」


 「……お前は知らなかったのかよッ!? 猫女ッ!」


 「だ〜か〜ら〜ッ! ボクはオルセットッ!」


 「落〜ち〜着〜けッ! 二人共! チャンと話すからッ!

 ……それじゃあ、お前に聞くがラフィル? お前の言う”無性の愛”ってのは何なんだ?」


 「ハァ!? 決まってるだろッ! 姉ちゃんを守ることだよッ!」


 ――余りにも真面目に言う怒声に、ボスさんは少々たじろぎそうになりましたが……なだめる様な声で彼に返答しました……。


 「……まぁ、そこまで本気マジに言うなら……一つの…”無性の愛”の…形…なのかもな?」


 「当ッたり前だろッ!? それの何処がおかしいって言うんだよッ!?」


 「……それ自体がおかしいとは言ってないぞ? ラフィル……オレが言ったのは”勘違い”だ」


 「はッ!?」


 「じゃあ、聞くがラフィル……? お前が与えている”無性の愛”は、”100%”――お前の姉ちゃんが欲しがっていた物(・・・・・・・・)なのか?」


 「ッ!? ……え!?」


 「……どうなんだ?」


 「そ……そんな……!? な、なぁ? 姉ちゃん!

 オレが……オレがぁ、姉ちゃんを守っていた事に……姉ちゃんは満足していたよな?

 なぁ!? 140年近く……満足していたよな?」


 ――しかし、そんなラフィルの期待も虚しく……リフィルは彼が嫌と言い(・・・・・・)そうな程に、首を大きく()に降り続けました……。

 その後、首を振るのをやめた彼女は、そのままボスさんの方へ向くと……「コール」で話しかけたのか、彼がうなずいた後、ラフィルにこう切り出しました。



 「これで分かっただろ? それに、お前の姉ちゃんは……

 ”守り始めたのは、私達が”20”になった時からですし、それに付け加えれば今まで今の様な感想を求められた事は、一度もありませんでしたよ……。私が嫌がっていた時も知らずに……!”……って言ってるぜ?」


 「……う……嘘だッ! 騙してるんじゃあねぇよッ! クソ人間ッ!」


 「……疑うなら、リフィルと直接、手を繋いで聞けば良いだろ?

 ……最も、聞いたとしても同じ答えだろうがな……?」


 ――ボスさんの言葉に、リフィルが大きく……何度も頷きます。

 その様子を見て、ラフィルはあからさまに狼狽うろたえ始めていました……。


 「そ……そんな……!?」


 「良い加減理解しろ、ラフィル。

 これでも……お前の姉ちゃんの言葉を”嘘”だと決めつけるのか?

 お前が命をして、守りたいと言い張ってる”姉ちゃんの言葉”をッ!?」


 「……ウゥゥ……」


 ――追い討ちの如く放ったボスさんの言葉に、ラフィルは左手を額に押しつけながら、ダラリと上体を俯かせ……ついに意気消沈しょうちんしてしまいました……。

 これに、”少しやり過ぎたか”……とボスさんは思ったのか、諭す様な――優しげな声で彼に語りかけます……。


 「ラフィル……お前が姉を守りたいって言う”無性の愛”を持っていた事は、スゴく良い事なんだ。

 だが……それを”押し付ける”様にする事と、”臨機応変”に、耳を傾ける事をしなかったのが、オレはいけないって、言ってるんだ……」


 「……」


 「今まで、お前が散々”人間を信じるな”って言っても、リフィルが聞かなかったのは……

 それ以前に、お前がリフィルの聞いて欲しかった事(・・・・・・・・・)や、やって欲しかった事(・・・・・・・・・)を無視し続けた性じゃあないのか?

 ……そうだなぁ、簡単に例えるなら、リフィルは120年近く”緑茶”を欲しがっていたんだ。

 だが、それに対しお前は”姉ちゃんは赤飯(・・)を欲しがってる!”……って、思い込み(・・・・)――無理やり食べさせようとし続けた……って言えば、分かるか?」



 ――”嘘であってくれ……!”……ラフィルはそう願いながら、震える拳を握り締め――地面に向けていた視線を、再びリフィルの方へと戻しました……。

 すると、その視線に気づいたのか、彼女はゆっくりと……大きく彼に対し頷いたのでした……。

 それを見た彼は、全身を震わせながら……額に当てていた左手で触れていた髪を抜けんばかりに握り締め……その場に崩れ落ちてしまいます……。



 〜ガッ、ガッ、ガッ……〜


 ――そして……残った右拳で、地面を殴り付け始めながら……。

 ボスさん達が今までに聞いた事ない様な、覇気のない……怯えた様な声を上げるのでした……。


 「オ……オレは……俺は……!

 リフィル(・・・・)に……140年近くもの間……リフィルに……ッ!

 俺は……俺はどうすれば良いんだよッ!? こんな短いハズ(・・・・)なのに……テメェや……あの青いクソ人間に負けて死に掛けた(・・・・・)時よりも……ッ! とてつもない罪悪感(・・・・・・・・・)を今、感じている事にッ! 俺は……! どう、リフィルにびれば良いんだよッ!?」


 〜……ドガッ、ドガッ、ドガッ! 〜



 ――リフィルは、黙ってこの光景を見ていました……。

 次第に殴る勢いが強くなろうと……殴った勢いで右手の第二関節と、第三関節――そして、返す刀で振るわれる”裏拳”によって――手の甲の皮膚(ひふ)までが、みるみる剥けて(・・・・・・・)行こうとも……。

 ……ボスさんをなぐさめた時の様に、彼の元へ行き……抱きしめたい思い(・・・・・・・・)を必死にこらえながら……見ていました。

 ラフィルの成長を願い……ボスさんに教えてもらった”割り切る”強さを信じて……。



 「……それも含めて探すのが、お前の母親が望んだ”自由”なんだろ?」


 ――そんな不意な一言に、地面へと目を向けていたラフィルは顔を上げました……。

 ……まぁ、見るも無惨むざんな程に、両の頬がビショビショになる程、彼は泣いていたのです……。


 「それに……間違って”悪い”って自覚できんなら、もうけ物だ。

 後はソイツをじっくり……直していけば良いだけの話だ……!」


 「ッ!?」


 「そして……どうしても分かんないって言うなら、一緒に来い。

 今は無理だが――いつか選べられねェ程、見せてやるよ……守る事以外の生き方(・・・・・・・・・)ってのをな……?」


 「……」

 

 「それに……オレはお前達3人を助けた”責任”もある。

 簡単に言い換えれりゃあ……おこがましいかもしれないが――オレが仲間だと思っている奴は……ソイツの保護者(・・・)……”親”も同然だとオレは思っている」

 

 「……」


 「後……今回の一件で、嫌と言うほど知っただろ?

 一人でやる事にも限界はあるんだ。……もう、何でも一人で瀬追い込もうとすんなよ……。

 だから……お前が仲間になれば……困ったときは、すぐにでも助けてやるよ……」


 『……兄さん……!』


 「そ〜だよ、ラル君!

 ボクだって、ラル君を助けたいから……今までラル君に色々言ってきたりしたんだよ?」



 ――ラフィルの右肩に左手を掛け、無邪気な笑みを二カッと見せながら語るオルセットさん……。

 それを彼は一瞬振り返って見るも、軽く顔をしかめた後すぐにボスの方に向き直ってしまいました……。

 ……あっ、オルセットさんがちょっと不服そうな表情をしています……。



 「どうだ? ラフィル? 改めて……オレらと一緒に来ないか?」


 「……わかった」


 「……おッ? じゃあ……!」


 「でも……認めない」


 「……?」


 ――ラフィルはズボンに付いた土埃つちぼこりと、肩に掛かったオルセットさんの手を払いつつ立ち上がりながら、ボスさんを右手で指差しながら言いました……。


 「オレがテメェに負けたのは……人間だからって油断していたからだ。

 だから……テメェを完全には(・・・・)認めない」


 「……どう言うことだ?」


 「俺は……正々堂々と戦う事(・・・・・・・・)が、何よりも好きだ。

 だが……あの勝負の時は、お前はルールを破って卑怯な手(・・・・)で勝った……だから認めない……」


 ――少し顔を背けながら、ラフィルは言います。


 「……すまなかった。

 だが――世の中には、お前の言う事を真正面から受け取ってくれる奴ばかりじゃあないんだぞ?」


 「それでもだよ!」


 ――否定する様に、彼は怒鳴ります……。


 「……じゃあ何だ? 今から決闘でもしろって、言うのか?」


 「……違う」


 「……じゃあ何だよ?

 柔道か? わん蕎麦そば対決でもしろってのか?」


  ――彼の複雑な心情に、いい加減イラついて来たのか……ボスさんは少し茶化しながら彼に問いかけます。


 「違うって言ってるだろッ!?」


 ――しかし、彼の茶化す言葉の意味が分からずとも、再び地面に向けていた視線をグンッと上げながら、噛み付く様に突っねます……。


 「……じゃあ、何だってんだよ……ラフィル?」


 ――呆れ果てる様に問いかけるボスさんに対し、ラフィルは最初はどもりつつも……こう切り出しました……。


 「オレは……オレはやっぱり……使命がなくとも……姉ちゃんを守りたい……ッ!」


 ――無言のまま見つめるボスさんの瞳に、ラフィルは、真っ直ぐな眼差しを返しながら言葉を紡ぎます……!


 「使命でなくなっても、オレが姉ちゃんを守ることは変わらない……。

 それが……オレのずっと変わらない信念で、使命を捨てた今の”覚悟”であり”償い”だから……。

 オレは姉ちゃんを守る……! どんな事があろうと……これからもッ!」


 ――ラフィルは、胸辺りで右拳を握り締める様にして、スゴませながら……その決意をボスさんに表明しました……。それに対し、ボスさんは軽く口元を緩ませ……フッと微笑を漏らすと……。


 「……見つかったじゃあねぇかよ……生きる目的(・・・・・)


 「……えッ!?」


 「……フゥ。……で? ラフィル、お前は付いてくるのか? それとも来ないのか?」


 「……姉ちゃんが行くなら、オレも行く…」


 「……ハァ、お前も早く姉ちゃん以外の事を見つけろよ……」


 「……それになぁッ!」


 「?」


 ――今度は”疑問”の二文字(?マーク)を浮かべる番になったボスさんに対し、何を思ったのか……ラフィルは右半身を見せる様、半身になりながら両腕を組み……恥ずかしげに語りました……。


 「……お前は、母さんの事……ないがしろにしてなか(・・・・・・・・・・)った(・・)事が、さっき判ったからな……」


 「……」


 ――無言ながらも、彼の言葉に初めて微塵の怒りが込もっていない事に驚きを隠せないボスさん……。


 「……だからよぉ……」


 「……?」



 ――それに対し、ラフィルはこの後に話す事が余程、小っ恥ずかしいのか……視線を何度もボスさんの方へと泳がせ、右手の人差し指で頬を軽くかきながら……話し始めました……。



 「……これから……よろしく…な。……ボス(・・)


 「……あぁ、よろしくな――ラフィル……」


 「……フンッ、あぁ……」



 ……半身だった体をボスの方に向き直しながら、彼は少々小生意気に意気込みます……!

 ……良かった、ラフィルもやっと素直になれてきて……。



 ……アムルさん、もう時間ですよ。

 ……いつまで、私の休日出勤を引き延ばす気なんですか?


 えっ? も、もう…そんな時間なんですか、Nさん!?


 ……すみませんね。これ以上のネタバレのし過ぎはちょっと……。


 ネ…ネタバレ……?


 ……気にしなくていいです。それよりも、最後に娘さんと息子さんに言い残す事はないですか?


 そうですね……ん? 



 『あの……兄さん』



 ……すみません、Nさん……宜しければもうちょっとだけ……!


 「ん? どうした? リフィル?」


 ……


 「どうしたの〜!? ボスゥ〜?」


 『あの……すみません……兄さん……宜しければ……二人だけ(・・・・)で……』


 ……(ニヤリ)、良いでしょう。

 ただし、これが本当に最後ですよ? アムルさん?


 「……仕方ねェなぁ……。

 オルガ! ラフィル! 二人は先に領主館に戻っておいてくれ!」


 ――ありがとうございます! Nさんッ!


 「えェ〜? どうしてェ〜?」


 「リフィルが、どうしてもオレと二人だけで、話したいんだとさ!」


 「えェェ〜? 別にボク達がイイ事でしょ〜?

 それに……ボスが言ってた”ボク達が安全に住める場所”……って事、詳しく聞いてないよォ〜?」



 ――チョッピリ駄々をねるように言う、オルセットさん。

 それに対し、途中から背中にあった世界樹に寄り掛かるよう胡座あぐらをかいて座っていたボスさんが、ズボンに付いた土埃などをはたき落しながら……彼女達に近寄ると、二人の肩にそれぞれ両手を置きながら、こう話し始めました……。



 「ごめんな、オルガ。

 今日はもうしゃべり疲れちまったのもあるんだよ……!」


 ――そう言うと、彼の体から青いオーラ(タフネス発動)が立ち上り始め、肩に掛けていた手で用いて一瞬で二人を領主館の入り口に振り向かせると……二人の背中を力一杯押し始めたのです……!?


 「ちょ、お、おい! 何でオレも押すんだよッ!?」


 「そ、そうだよ! ボスゥッ!? 別にボク達が残っていても……!」


 「リフィルは”二人だけで”……って言ってるんだ!

 仲間の意見はちゃんと尊重しないとダメだ……ぞッ! ……っとぉ!」


 「うわァァ!?」「おわぁッ!?」


 〜ドドサァッ! ギィィィ〜バタンッ!〜



 ――ラフィルとオルセットさんは、突然の事に戸惑いながらも必死に踏み止まろうとしましたが……不思議な事に、今回の一件でボスさんのレベルが相当上がった……のでしょうか……?

 ……とにかく、踏み止まろうとする二人をグイグイ領主館へと押しやった後、二人を扉の内側へと押しやり、入り口となる両扉を閉めてしまいました……。



 「済まないなぁ! 二人共ォ!

 このまま話し続けてたら、知らない敵か誰か(・・・・・・・・)に聞かれる危険もあるからなぁ〜!

許してくれ〜ッ!」


 「イタタ……もうッ! だからって突き飛ばす事はないでしょォォッ!? ボスゥッ!?」


 「テメェ! 覚えとけよッ!? クソ人間(・・・・)ッ!」


 「ッ! ラル君ッ! さっきちゃんと”ボス”……って、呼んだのに何で呼び方が戻ってんのッ!?」


 「ハァ!? 突き飛ばされたんだから、ムカついて言うのは当たり前だろッ!? クソ猫(・・・)ォッ!」


 「ッ!? また”クソ猫”って言ったァッ!

 ボクは、”オルセット”だって言ってるじゃあないかッ!?」


 「うるせェッ! テメェの名前が”誇り”だとかどうとかの話は、今はどうでもいいんだよッ!」


 「いい加減にしてよッ! ラル君ッ! そんなことばかり言ってると……ボクもラル君の事をずっと”クソエルフ”……って呼んじゃうぞッ!?」


 「テメェこそ、いい加減に突っかかって来るんじゃあねェよッ!

 と言うか……バカな(・・・)クソ猫如きに呼ばれたかねぇよッ!」


 「ッ! もう……! また言ったァァッ! しかもバカ(・・)ってッ!」


 「うっせェッ! 事実(・・)を言っただけだろうがッ!」


 「ッ! もう……! ボク怒ったァァァッ!

 やっぱり! しばらくの間、ラル君の事”クソバカエルフ”って、呼ぶ事にするッ! 絶対するッ!」


 「上等だッ! じゃあオレは”クソバカメス猫”……って呼んでやるよッ!」


 「じゃあボクは、”クソバカバカバカ(・・・・)エルフ”……って呼ぶ事にするゥッ!」


 「じゃあオレは”どうしようもない(・・・・・・・・)、クソバカバカバカバカバカ(・・・・・・・・)メス猫”……って呼んでやるッ!」


 「ッ! もう……! じゃあボクも……ッ!」



 ……と、二人の可愛らしい言い合い(・・・・・・・・・)をもう少し聞いていたかったのですが……。

 ……後ろにいるNさんが……割愛カットしろ……と申し立てるので……仕方なく……。

 その一方でボスさんは、二人を思わず突き飛ばしてしまった事を申し訳なく思いつつも、二人が扉の向こうで……ジャレ(取っ組み)合って……? ……いる姿を想像したのか、微笑んでいましたが……彼の予想以上に激しくなって行くジャレ合いの騒音(・・・・・・・・)に、心配を隠せなくなって来ました……。



 「……ハァ、前途多難だな……こりゃあ……。

 二人とも〜? ジャレ合うのは程々にしろよ〜!

 後ォ〜ジャレ合うはずみで、屋敷を壊すなよ〜ッ!?」



 ――立ち上る青いオーラ(タフネス)がもうない中、止めに行くのは下策だと判断したのか……ボスさんは、ジャレ合う二人にも聞こえるように、扉に向けて大声で言った後、リフィルが今も座って待つ……世界樹の元へと歩き戻って行きました……。



 「……さて、待たせたな。リフィル……。

 お前が言いたい用件ってのは、何なんだ?」


 ――そうボスさんが言うと、リフィルはズボンに付いた土埃を軽くはたきながら立ち上がり……ボスさんのすぐ傍まで、歩いて行きました……。

 すると、キョロキョロと少し怯えるような素振りを見せた後、少し俯きながら彼にこう尋ねました……。



 『あの……兄さん。

 この後……私が行う事が……どんなにみっともなくても……笑わない(・・・・)……って、約束してくれますか?』


 「ッ? どうして何だ?」


 『……どうしてもです……。それぐらい……私にとっても重要な事なので……』


 「……そうか。大丈夫、リフィルが”ピエロ”みたいな一発芸でもしない限り、笑わないって……」


 『ぴ……”ぴえろ”? ”イッパツゲイ”?』


 「あぁ……ピエロはぁ……道化師。

 一発芸はこう……コマネチッ! ……とかの、一瞬面白い事をするって意味なんだよ」


 『……あの……申し訳ないのですが……何なのですか?

 その……妙に……下品な(・・・)……仕草は……?』


 ……そうでしょうか? 面白くなくとも、妙に印象には残る仕草だとは思いますが……?

 (……現に、後ろのNさんなんて、笑いをこらえていますし……?)


 「ヴッ? ……アハハハァ……ハァ、仕切り直そう……リフィル……」


 「えッ? ……あ、はい……」



 ――気まずい雰囲気になってしまい、仕切り直しを提案するボスさんに……その急な提案に戸惑いつつも、承諾しょうだくするリフィル……。

 ……まるで初心(ウブ)な恋人同士が見つめ合うように、お互い……服のシワを整え、付いたホコリを軽くはたき落し、リフィルは、横髪を軽く手櫛てぐしイジって整えた後、お互いの瞳を真摯しんしに見つめ合いました……。



 「……フゥ……じゃあ、改めて……オレに言いたい用件ってのは何だ? リフィル?」


 『……本当……笑わないで下さいよ……?』



 ――そう言うとリフィルは、俯いたまま掛けていたサングラスを外し……意を決したように、そのうつろに揺らめく瞳をボスさんに向け……ッ!?




 「……ア……リ……ガ……ト…ウ……!」




 ……グスッ……! リフィル……ッ!

 それは……ボスさんの耳にも辛うじて聞こえる程の……小さく……はかない……しかし確かな……彼女の()でした……ッ!


 「ッ!? リフィル……お前……ッ!」


 ……恥ずかしくなったのか、再び顔をうつむかせながらサングラスを掛け直すと、頬を赤らめつつ目を少しらしながら――首の頚動脈にいつもの2本指を当てた後……再び、”コール”を用いてボスさんに話し掛けます……!


 『……昨日……赤い豚さんの眉間を撃ち抜いた後から……ホンのチョッピリだけ……話せるようになったんです……。けど…まだ……目もほとんど……見えませんし……片言でしか…言えませんが……』


 「……リフィル……ッ!」


 ――ボスさんもまた……うれしそうな声を上げます……!


 『でも……やっぱり……ちょっとでも喋れるようになったからには……ちゃんと……直接……兄さんの”スキル”に頼らず……お礼を言いたいと……今までずっと……思っていました……。

 一時は……私の弱さから……気が迷ってしまいましたが……。

 見ず知らずのエルフである……私達キョウダイを助けて頂いたあの日から……ずっと……』


 

 ……それを聞いたボスさんは、左手で両目を覆うと――瞬時に後ろを振り向いてしまいました……。

 それを見たリフィルは、直ぐに心配になってしまいましたが、彼女の耳に彼が涙ぐむ(・・・)ような声が届くと、少しホッとしたのち――クスリと微笑んだあとに、左手を後ろにして……軽くコテンと首を傾げながら……可愛らしくボスさんに問いかけました。



 『兄さん……どうかされましたか?』


 「……いや、助けたのは間違いじゃなかったんだな……って……。

 そう…思っただけだ……」


 『目から()を流しながら……でしょうか?』


 「なッ!? 泣いてなんかないからなッ!? コ……コレは! ()だ! 汗で濡れてんだよッ!」


 『フフッ……。そう言う事にしておきますね……』


 「ハァ……まぁ、とにかく領主館に戻るか……日も傾いて来たし……」


 『はい、私も気分がスッキリした所為か……急にお腹が空いて来ちゃいました……』


 「……そうか。じゃ、食いに戻るか?」


 「……はい、お願いします……兄さん……!」






 ……こうして、推定死者600名以上の犠牲の上に、マケットには平和が訪れた……。

 一方のボス達は話し終えた後、裏庭を去ろうとする中……一陣の風がボスの足を止めさせ、彼を振り向かせた……。

 すると、一匹の”モルフォチョウ”らしき蝶が世界樹の根元から舞い上がり……”ブルーダイヤモンド”のごとかがやきを放ちながら、裏庭中に…それはそれは、幻想的な色をした鱗粉りんぷんを振り撒き回っていたのだ……。

 一瞬その光景に見惚みほれ、目が釘付けになってしまう彼であったが……それ以上に驚いたことがあったのだ……!

 それは、鱗粉の撒かれた所から、先程の世界樹にまさるとも劣らない成長速度で、ボスの膝丈程に迫る大きさの”白く可憐かれんな花”が無数に咲きほこってゆくではないか……!



 「これは……月見草ツキミソウ……?」



 ボスは、その花の名を――今も世界樹の近くで舞う蝶に問いかけようとするが……。

 それに応える間も無く、蝶は空高く舞い上がって行ってしまうのであった……。

 咲かせた花の真意を聞けずに、その蝶が見えなくなるまで見送っていたボスは、一抹いちまつむなしさを感じてはいたが……見えなくなった頃――無意識に上げていたその右手は、いつの間にか”敬礼”の姿勢をとっていたと言う……。


 ……因みに、ボスが呟いた”月見草”の花言葉は、「無言の愛情」、「うつり気」……である。


 そして数年後……日の上り方によって”黄、白、桃”色に変化するこの花が「奇跡草」呼ばれたり……。

 マケット周辺に出来た巨大な麦畑一面に、冗談抜きで「黄金に輝く麦」が出来る様になったり……。

 咲き誇った後日、「奇跡草」が咲いた経緯を聞き、それを見たリフィルが何を思ったのか……嬉しそうに”泣き笑い”したなどなど……。

 それらを語るのは、また別のお話である……。

対象<RL>から、”+”魂力の流出を検知。




抽出プロセスを開始。

…………………………確保に成功しました。




「TASC」作動。

……………………「TASCプロジェクト」の規定に従い、

「絆」による新たなスキルの作成を試みます。




……………………新しいスキルの作成に成功。




「TASCプロジェクト」に従い、

被験体<BO>に、スキル作成”成功”の報告、

及び、報酬として”支援物資”の投下を

行います・・・。











…z……z…zzZZザザ……zZzZZz……

…ty…o……u…sh………in…i……n

……o……ru…n……a…y…o………

te……n…ns…e……i…………sy…

a………me……!












〜ピロン!〜







【称号〖RL bin`s <50%>〗を獲得しました】


【称号〖Blessing of the shrine maiden〗を獲得しました】

       (巫女の祝福)


【称号〖Oppressor liberator〗を獲得しました】

     (圧政の解放者)





【称号〖RL bin`s <50%>〗を獲得を確認。


【これより、<バンズスキル>

 ”スナイプ”のインストールを開始します】



【称号〖Blessing of the shrine maiden〗を獲得を確認】

       

【これより、<EXスキル>

 ”グルメ”のインストールを開始します】



【称号〖Oppressor liberator〗を獲得を確認】


【これより、”レギオンパック”を

 支援物資として投下します】

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