Side-LA1 俺ノ声
大変お待たせしましたッ!
2週間近く、お待たせしてしまい申し訳ありませんッ!
書き方が毎度変わる、実験的な執筆とクオリティ向上を目指す性か――1週間投稿が中々出来ずにすみませんねェ……。
さてさて……ところで皆さん、劇中ラフィル君の「心の声」って、聞いた事あるでしょうか?
今回は、一時的にかなり時系列が巻き戻りますが・・・そんなシスコン(?)騎士、ラフィル君の回になります。
俺はラフィル。
ラフィル・ホープティアだ。元奴隷だが、心は今でも騎士だ。
だが――そんなことはどうでも良い。俺はもう直ぐ、自然に還る……。
母さんは無理だったが、”リフィル”はどうにかして守りきる事が出来た。
20人以上の迫り来る人間の屑共を、奴ら自身が後悔する程に叩きのめして来たからだ。
母さんか父さんが居たら、褒めて貰いたいが――俺の家族はもう「リフィル」だけだ……。
ダークエルフの使命は「エルフ達を守る事」。
数千年にも及び伝わって来た運命だ……。
だが……彼女はまだ助かるなどと思っているが――アレはもうダメな状況でしかなかった……。
母さんは”種”となる覚悟をしたんだ――だから彼女を託した――暖かな腕の中で……。
ー 二人とも……本当に苦しい時が訪れたら、きっと……きっ……と、貴方達を助けてくれる人が、出てくる筈よ……こんな――こんな私達”エルフ”を――受け入れないような……”クソッタレ”な世界でも……! きっと……! ー
いや――そんなのは幻想だ。
あの状況下、このお互いが死に懸けの現状で――どこに助かる”希望”があるんだ?
現にそうだ、行く宛てがないがために森の中を歩き続ける内に、見える”希望”……。
霞み始めた視界の先に”明かり”と”暖かな食事”の香りが流れ込んでくる……。
だが――仕方なく歩を進める先に待ってる事は、捕まって”八つ裂き”と言う事しかないだろう……。
何故なら、十中八九あの明かりの元にいるのは人間――屑共しかいない。
エルフ達は料理をするぐらいなら、生の方が何万倍も良いと言い切る程に"火"を使わない……それがいい証拠だ。
しかし「自然の守り手」――というが、母さん達から聞いた食生活で、本当に生きていけるのか毎回疑問に思う程にだ。
だが――そんなことはどうでもいい。
むしろ、こんな状況だと――父さんの教えでさえも馬鹿馬鹿しく思えてくる……!
「常に前を見て動け」――父さんがそう教えたように、現実は常に非情だ……。
もう何度”覚悟”した事か――何度乗り越えようが、希望の兆候など見えず、いつも来るのは”屑共”ばかり……。
ほら見てみろ、また人間と……獣人? ……しかいない……なら……!
「・・・・・k・・i・・m・・・・・・y・・・k・・・o・・・・・・・s・・・・・・・e・・
(食い物を・・・寄越せ・・・!)」
〜 ドサッ! 〜
「ッ!? (倒れた”少年”へと駆け寄り)おいっ! しっかりしろ! おいっ!」
――ハハッ、情けない……声を出し切る前に……力を出し切る……って……。
それよりも……分かり切ってる事なのに……なんで俺は……態々、”屑共”の元に擦り寄ったんだろう……?
俺は”騎士”だろう……? 俺一人だけでも・・・家族を守れるハズだろう……?
父さんに、母さんとリフィルを守る「深緑の誓い」を立てた時に、”涙”なんて捨てたのに……。
なんでだよ……無性に泣きたい……自分を殴り続けたい……!
父さん……母さん……リフィルまでも……最後まで守りきれなかった自分を……殺したい……ッ!
「怪我人だ。しかも、状態が二人ともかなり”ヤバそう”だ・・・
オルガ、オレは”回復※※”をか※※から、オ※※の方は、”救※箱”と、※※した際に”※※※せる物”を用意※※※※・・・・」
感覚が霞んで来た……。もう……抗えないのか……。
この後……無理矢理……回復させられた後……良くては嘲笑われるだけ……か……
悪くければ……魔物の……餌か……こいつらの……玩具に……!
チクショウ……! リフィル……リフィルだけでも……! 助けて……ッ!?
いや……馬鹿だな……俺は……。何を考えて……。
……寒い……もう……寝るしか……。
――ラフィル……ラフィル……!
「……ウッ……ハッ!? 姉ちゃんンッ!?」
目を覚ました瞬間、まず思ったのは「夢で良かった」事だ。
なんてひどい夢だったんだ……。だが、安心した。
俺の目の前には生きた「リフィル」が居た。
――本当、あの悪夢のままでなくて良かった……。
『しーっ、このまま静かにして下さい……ラフィル……』
しかし……解せない。
意識と共に、今の状況も思い出せたのだが、あの謎の襲撃者から俺はリフィルを守れた。
それは覚えている。だが、今のように抱き合ったまま、ガッチリ口を塞がれる理由が、どうしても解せない。
「もごご、もぐごごご……! (姉ちゃん、何して……)」
『しーっ……お願いです、リフィル。私と同じように、今は心の中で喋って下さい』
……状況は理解しているんだ、リフィル。
だから、今すぐにでも行かせてくれ。
このまま寝ていたんじゃあ、いつあの襲撃者の糞野郎が君を襲うか判らない……。
「もぐごッ! もごごぐごごもぐごッ……! (行かせろ! あのクソ野郎をはやく叩斬らないと……!)」
『しーっ……お願いしますよ! リフィル! 兄さん達が大変なんです!
お願いですから、今は堪えて……「コール」を……兄さんのスキルを使って話を聞いてください!』
……なんであのクソ人間をまだ信用しているんだよ……。
――リフィルと六年ぶりにまともに話せるようになった事は、確かに嬉しい。
感謝すべき事だと、頭では理解している。
だが、たった6年の筈の”経験”が、今でもけたたましい警笛を頭の中で鳴り続けさせている……。
――そんな善意なんて全て嘘だ――って……。
屑共が俺らを嘲笑うための下拵えに過ぎないんだって……!
今回だってきっとそうだ。この戦いの後か、そうでなくてもそのずっと後か……。
裏切られて、嘲笑われて……その後始末を俺が全部やって、またどこかに逃げる。
そんな事を今に至るまでの6年の間、屑共共に嫌という程にやられたというのに……
何で、リフィル……君は――懲りないんだ……?
『……俺とは”絶縁”じゃあなかったのかよ……』
……だから……つい、言ってしまった。
目を背けて――俯きながら――吐いてしまった……。
――今までのオレの”愛”は無駄だったのかと?
『……それが本当なら、まず、街の中で貴方を叱ったりしませんよ、ラフィル』
……とりあえず、オレの”愛”が無駄ではなかったようだ。
リフィルが両手を俺の顔の側面に添え、目を合わせて言ってくれた。
すまなかった。いつもなら多少、君の事を怒っても即座に思考を切り替え、
目の前の問題に対処したり、敵を排除して君を守らないといけないのに……。
何で――こんな、感情的? になったんだ? いや――そんなことより、
これ以上は感情的になるな。冷静になれ、俺……。
『それよりもラフィル、これを見て下さい……』
そう言うと、リフィルは俺の額に自身の額を合わせて来た。
何だ? それは君の新しい”愛”の表現方法なのか?
そんな事を考えていると、俺の脳裏に不思議な物が浮かび上がってきた……。
『――何だ、コレは……?』
それは、暗闇の中に無数の白い線が浮かぶ殺風景な場所だった。
しかも、その見下ろすような風景は少しずつ動いて行き、ある場所で止まった。
そこには4……いや、5つの”人影”のような形をした白い線の塊が居たのだ。
『右方向の地面に、私達が居るのが見えますか、ラフィル?』
『あ、ああ……』
――確かに、先程数を間違えそうになった時に、抱き合うように”重なり合った”線の塊がある。
今の俺達の状態に、ピタリと当て嵌まる……。
『……良かった、兄さんの魔法の作り方から、「コール」を応用できないかと考えてましたが、上手く行ったようですね……。ラフィル、それは私がいつも見ている光景です』
『えっ?』
――リフィル、見えていたのか? だから……いつも俺の手を?
『……勘違いしないで下さいね、ラフィル。
貴方がいつも私の眼の事を案じて、私を介助しようとしてくれた事には感謝していますよ』
『ッ!?』
――何で心を読まれているんだ?
『フフッ、ごめんなさいね。今は詳しくは話せないんです……。
とにかく、今は”この光景を見せてくれる精霊”のおかげって事だけは言っておきますね。
それよりも、ラフィル。こちらを見てください』
……色々と尋ねたい事が出てきたが――君のためだ、聞かざるを得ない。
そして、再びその”精霊の視点”? ――が動きだし、回り込むように、
俺達の反対――左側に居た、3人の人影を映し出した。
― グッ、クソォォ……ッ! ―
― ちょっと! ボクとボスを離してよッ! ―
――驚いた、この精霊? とやらは、声も届けられるのか?
今見ている、あの”ボス”とか言う糞人間と、”オルガ”――だったか?
――とにかく、その糞ネコがリフィルを襲おうとした襲撃者に対し、蹴りを同時に頭に叩き込もうとした所、二人の足首が掴まれた。
……そのような光景が広がっていた。
―……悪魔共が……図に乗るなッ!―
〜グッ、ブオンッ! ドバチコォォンッ! ブンッ! ブンッ!〜
……何だ、あの怪力は……!
あの糞人間と糞猫を、数回、襲撃者を中心に振り回したかと思えば――次の瞬間、奴の頭上で二人が重なるように、一瞬で叩き付けられたのだ……!
――俺もやろうと思えば、二振りの大剣を振れなくもないが、流石にあの速さには舌を巻かざるを得ない……!
そして奴は、再び二人を振り回すと、”糞人間→糞猫”の順に投げ飛ばした。
―イタタタ……ハッ! ボスゥ!―
糞猫が素早く意識を取り戻す中、あの糞人間は投げ飛ばされたこの裏庭の入り口近くで伸びていた。
そして、奴は、両足を引きずりながら――ゆっくりとクソ人間の方に近寄っていく……。
―ハァ、ハァ、ハァ……貴方には……いや、貴方方には……ハァ、ハァ、天に昇る程の感謝をせねばなりませんね……!―
―やめて! ボスに何するつもりッ!?―
―安心して下さい、同じ痛みを分かち合うだけですよ……―
噛みつくように、奴の背後に投げ飛ばされたクソ猫が叫ぶ中――奴は首だけを振り向けて返事を返した後、数歩先に落ちていた物を拾った。
「SAA」……だったか? あの糞人間が言っていた、弓矢以上の速度で鉱物の礫を飛ばす、「ジュウ」という特殊な武器を拾い上げ、その矛先を糞人間の方に向けたのだ。
―ッ! やめろォォォォォォォォッ!―
〜パァンパァンパァンパァンパァァァァンッン!!!〜
――奴が「ジュウ」を向けた瞬間、糞猫の「ジュウ」が素早く5回――奴に向かってハッポウしていた。
――自慢じゃあないが、俺は高速に飛翔する矢を”トロく動くトレント”のように、見てから易々と躱す事ができる。だが、そんな事がちゃんちゃら可笑しく思えて来る程の光景を目の当たりにした。
奴に、「SAA」の礫が当たった瞬間、「ブモオォウッ」と俺が気絶する前……
あの糞野郎に当てた筈の剣が、滑るように地面に流れた時の音がしたかと思えば――次の瞬間、「パチンッ!」……と鋭く何かが弾けるような音がした……!
〜チュイン、ガッ、ビビビスッ!〜
―アァッ!? 痛ッ! 痛ァァァァいッ!―
……そして、飛んで行った礫の一部が、一瞬で地面の小石と、植木の枝を粉砕すると――彼……いや、糞猫の元にも戻って行ったのだ……!
――一瞬、夢かと思ったが、右脚、左腕、下腹部に礫を受けて転げ回るクソ猫を見て、現実だと思わざるを得なかった……。
そして、不覚にも……少し恐怖した。
もしアレを、俺が奴に初めて大剣を振った時に行われていたら……? ――と、思うと……!
―……そうそう、少し気が動転してしまい、私も言い忘れていましたが……。
私が早急に貴方方を”救済”したいと思えば……こうやってずっと 「ウィドラマ・ウォーラ」を全身に張り続けて……貴方方自らの手で、神の元へと向かうこともできたのですよ? ……無論、魔力の無駄でしたから、行わなかったのですがね……―
『……ッ!? ラフィルッ! 突然何を動き出そうとするのですか!?』
――許せねェ……ッ!
礫を弾き返した後、糞野郎の言い放った言葉を聞き終わった瞬間――思ったと同時に体が動いていた。
……あの糞野郎は、糞人間が戦う以前から――俺を含めて、糞人間達の事を舐め腐っていた……!
ずっと本気でなかった……! 遭遇した瞬間から、今に至るまで……ずっとだッ!
だが……落ち着け。
――何で俺は、価値のない糞供を助けようと思ったんだ?
……いや、違う……! 俺は……俺は、誤認していた。
アイツは……アイツは、初手から即座にリフィルを殺せる程の、危険な糞野郎なんだ。
リフィルを守るため……だから、即座に排除せねば……! ――そう思って体が動いただけだ……!
『いや……何でもない……』
『……』
俺は彼女を安心させるため、謝罪した。
一瞬、合わせたリフィルの額が少し下にずれた気がするが、この余計な事を何とか悟られず済んだようだ……。
―……ウッ、イテテ……クソッ、何がどうなって……ッ!?―
―痛ァァいッ! 痛ァァァァいッ! 痛いよォォッ! ボスゥゥゥゥゥッ!―
―オルガッ!? ッ!?―
―動かないで下さい……―
やっと起き上がった糞人間が、ようやく周囲の状況を把握しやがった。
糞猫の声を捉えた途端、即座に糞猫の方に首を向け、糞猫の方に飛び出して行こうとしたが……
その視界は片手で「ジュウ」を糞人間に向ける、糞野郎に阻まれる事になる。
―へェ? オレの真似か? キチンと頭を撃ち抜けまチュかね〜?―
―……貴方、いい加減にしませんか? 流石の私でも呆れを通り越して、怒りが湧きそうですよ?―
――認めたくないが、俺も糞野郎に同感だ。
あの糞人間は、どこまで相手を馬鹿にすれば済むんだ?
仮に「相手を冷静にさせない」という戦術だとしても、戦いというのは「命の奪い合い」……。
一瞬で自身は勿論――家族でさえも、失いかねない「真剣な物事」だ……。
だから、俺は己の使命のため、全ての戦いを常に真剣に挑み、戦っている。
――だから……俺の使命を馬鹿にするような……あの糞人間が「戦いを侮辱する行為」が許せない。
――けど……何であの糞人間は、形勢が逆転し、糞猫がもがき苦しむ中なのに……まだ平然と軽口を叩けるんだ……!?
―へぇ、そうかい。それよりも、その一丁前に構えた”魔道具”、アンタに扱えるのか?―
―……―
〜チキキキカチッ ググッ、キンッ!〜
―……ッ!?―
〜ダッ! ザッザッザッ……!〜
「スピン・ブロウォォォッ!」
糞野郎がボスに向けた「ジュウ」は、乾いた金属音を響かせ、礫を飛ばす事はなかった。
あの糞人間が仕組んでいた戦術の一つなのか? そうと思ってしまうように、糞人間は響いた音を聞いた瞬間、奴に向かって全速疾走して行く。
そして、走りながら例の妙な魔法を左拳に発動させる。
あの傍迷惑な――いや、拳にマナを蓄積させ、ぶつけた瞬間に一気に風魔法として一点放出させる、「スピンブロウ」とか言った妙な名前の魔法だ。
~ドドドドドド……ブモオォウッ~
例の魔法を発動させた糞人間の左拳は、糞野郎のおそらく応用であろう「ウィドラマ・ウォーラ」に遮られるが、ジョジョに減り込んで行く……!
しかし、それでも奴は慌てる素振りが微塵もなかった。
むしろ、突破を試みる糞人間の首へと、空いた左手を伸ばそうとしていた……!
〜スッ――ブンッ!〜
……気に食わないが、糞人間はとことん抜け目が無いようだ。
糞野郎が糞人間の魔法を防ぎ、首に手を伸ばそうとする最中……。
糞人間も、空いた右手を腰の背面に付けたポーチから、ナイフを抜き取ると、一気に奴の首筋目掛けて振り下ろした。
〜ブモオォウッ……パキンッ! パチンッ!〜
しかし、その目論見は容易く崩れ去ってしまう……。
理由は簡単だ。恐らく、全身に纏った糞野郎の風魔法によってナイフが折られ、その折れた切っ先が、先程糞猫の放った「ジュウ」の礫が弾き返された時のように、糞人間の元へと高速で飛翔して来たからだ。
〜ガッ、クルン――ガサゴソ……ゲシャァァッ! ズザザザザァァッ!〜
――何でこんなモヤモヤとした気持ちなるか、解らないが……糞人間は助かった。
折れた瞬間、即座に首を動かし、右頬を撫でる程度の切り傷で済んだのだ。
しかし、それで糞野郎が再び狼狽える事はなかった……。
むしろ、ほくそ笑むような声が一瞬聞こえた後、奴が伸ばしていた左手を、糞人間の曲げ伸ばした首に掛けると、「ジュウ」を持った右手も、掛けた左手とは逆位置の肩に掛け、一瞬で糞人間を反転させた。
そして、露わとなったポーチに、素早く手を滑り込ませ――何かを取り出すと、同時に糞人間を前方に蹴り飛ばす。
ポーチから金属音と共に、無数の小さな何かが飛び散る中、3、4回程転がった後、糞人間はようやく、領主館の両扉近くで止まった。
―アゥ……何だよ、このチート性能はッ!? 奥の手もダメだったなんて、巫山戯んなよッ! ……って、ウアアァァッ!? SAAの弾がァァァッ!?―
うつ伏せの状態から起き上がり、自分が転がった跡の方を見て、両手を頭に抱え、残念な叫びを上げる糞人間。
恐らく糞人間が言う事から、転がる最中――派手に飛び散ったのは「ジュウ」の礫の元なのだろう。
そんな中、糞人間はリフィルも良く見せるようになった、首に人差し指と中指を当てる、奇妙なポーズを取った後、少しして悔しそうな声を漏らし、再び奴に視線を戻した。
……しかし、リフィルの視点は表情が全く描かれないのが、難点だな。
人や物の動きは、ハッキリとした白い輪郭で描かれ、音も離れた視点だろうと、その場に居るかのように聞こえてくるのだが……何故か表情だけが無い。
普段俺は、あまり人の表情など気にしない方だが、こうも見え続けて無いと、何故かもどかしくなるな……。
〜キリキリ……チチッ――シャコッ、チチッ――シャコッ、チッ――シャコッ……〜
―おい……何で、テメェがリロード出来てんだよッ!?―
―フム……全て見ていたつもりでしたが、意外と難しいものですね……―
なんて事だ……! 糞野郎が糞人間のポーチから奪った物は「ジュウ」の礫の元だったのか……!
最初はぎこちなかったが、その指捌きはジョジョに正確かつ素早い物になって行く……。
―しかし、やはり悪魔は姑息かつ陰険な真似をしますね……。
空となった魔道具を私に投げつけて、使わせるだなんて……―
―……何の話だ? むしろ、お前が確認しなかったのがいけないんじゃあないか?―
―……やはり、貴方には同じよりも、それ以上の痛みを知ってもらう必要がありますね……!―
〜……チッ――シャコッ……カチッ――チッ、カチッ――チッ、カチッ――チッ……〜
『ラフィル……』
糞野郎が「ジュウ」の礫の元……の殻? を出し終え、盗った礫の元を入れ始めた時――
リフィルのどこか悲しげな声が聞こえたかと思った瞬間、視点が暗転したかと思えば、額を離した君の顔が眼前に現れた。
彼女は、俺の右頬に添えていた手を離すと、再び頭の中に語り掛けて来た……。
『貴方は……起きてから今までの事を見て来て……何か、思うことはなかったのですか……?』
『(……なんだ、そんな事か)――別に。あの人間達がどうなろうが知ったこっちゃねぇよ。
それよりも姉ちゃん、あの人間達にクソ野郎の意識が向いている隙に……』
――が、俺が言い終わる前に冷たい何かが、俺の喉元に突きつけられた。
そして目の前のリフィルは何故か俯向き、全く表情が見えなくなったが……それが妙に恐ろしく感じた。
――何故だ、何で俺が感じた事もないような、そんな冷たい雰囲気を醸し出すんだッ!?
俺は君を守る策を言おうとしただけなのにッ!
自身の焦りを悟られないよう、先程突き付けられた”何か”を確認するべく、視線だけを下に向けると……
それは「ドライゼジュウ」……だったか? あの糞人間がリフィルに与えて以来……今まで弓や弩すら、使う時以外は捨てるような扱いをしていた彼女が、肌身離さず持つようになった初めての武器だ。
そんな使いにくい物でしかない武器を、何で俺に……ッ!?
『ラフィル……貴方は、どこまで恥を晒す気なんですか……!?』
『は、恥? な、何の事だよ!? 姉ちゃん!』
――そうだよ、何が恥なんだよ!? 俺はただ使命として、君を守るために――
『……使命? ……私を守る? 私が大切にしたいと思う物を壊して来て、何が私の騎士ですかッ!?』
――何だ……この……聞いた事もないような君の叫びは……ッ!?
『ダークエルフとしての貴方の使命は――私だって、母から教わりました……。
だけど……それが今、何の役に立つのですかッ!? 私だけを守って何になるのですかッ!?』
『ね……姉ちゃん……落ち着いてくれ……! 頭が……頭が割れそう……』
『助けてくれた兄さん達の恩を無下にして……助けてくれなくていいと虚勢を張り……その挙句、母を助けられなかった責任を兄さん達に押し付けて、殺そうとまでした……!
一体、これらの何処が! 私のためになるというのですか! ラフィルッ!?』
『……そ……それは……』
〜 パァァァァンッン!!! 〜
―な……何だ……? 体が……急に……痺れて……?―
―……それでも躱す貴方に驚きですけどね……ですが、ようやく効いてきましたか……―
糞野郎の「ジュウ」の発砲音がした瞬間、俺は再びリフィルによって、先程の「白線視点」へと舞い戻る事になった。
……急に額を合わせられて、地味に痛いが……。
そんな事より、再び目の前に現れた光景と、耳に流れてくる声から察するに――全ての弾を込め終わった奴が、糞人間に向けてハッポウし始めたようだ。
……見たまんまだがな。
だが、ここで重要なのは糞人間の「痺れて」という発言だ。
どうやら奴は、糞人間に刺したナイフか何かに、痺れる類いの「毒薬」を塗っていたようだ。
俺は始めに気絶していて、正確な凶器は分からないが、つまりは今後、奴がハッポウする礫を糞人間が躱す可能性は、限りなく低くなって行く事……
〜グイッ!〜
「ウッ!?」
『……ラフィル、今だってそうですよね……?
貴方は、恩人を助けようともせず……それどころか、その恩人が殺される事を望んでいる……。違いますか?』
『……姉ちゃん、何で……何で、そこまであの人間共に、拘るんだよ……!?』
『話を逸らさないで下さいッ! 今は一刻を争うんです! 私達が言い争っている間にも兄さん達は……!』
〜 パァァァァンッン!!! 〜
―どうした? 1発目は……マグレ…当たりか……?―
―ふむ……弾込めよりも難しい物なのですね……しかし、次は外しませんよ……!―
―ハァ、ハァ、ハァ……―
『早く! ラフィルッ! 貴方も逃げようとせずに協力して下さい! 兄さん達を助けるには貴方の力が必要なんですッ!』
~グググッ……~
――グッ!? さっきよりも……深く「ドライゼジュウ」が押し込まれた気がする……!
それよりも……まず、納得できないのは……!―
『ま、待てよ! 姉ちゃん! 説明もなしに、人間共を助ける事なんて出来ねェよ! この声を出さずに喋る状況も含めてッ!』
『……すみませんでした、ラフィル。私の気が急きてました……。
兄さん達に会って以来、貴方に説明しなかった事だけは謝ります』
……だけ?
『兄さんがより負傷するかもしれない中、事態は差し迫っています……。
ですから手短にしますが、その前にラフィル……貴方も私の質問に答えて下さい』
『……何だよ?』
『貴方は……どうしてそこまで……頑なに、誰かに助けを求める事を拒むのですか?』
『ッ!?』
『……使命のためですか? 使命のために……助ける手を払い除け、何十、何百と大勢の無関係の人を「私のため」……と手に掛けるような事をして、それでも……貴方は、お母さんも守る事が出来なかった……!』
『あのクソ人間共が啖呵切って、失敗した事だろッ!?』
『貴方はお母さんを救えなかったッ! 貴方はそれ以前に、失敗しているのよッ!
そして、私も拐われ、私まで失う所だったッ!
良い!? 幾ら貴方が泣き喚いて暴れようが、これは変えられない事実なのですよッ!』
〜 パァァァァンッン!!! ビスッ!〜
―グアァァァァァァァッ!―
―まずは、貴方を動けなくしましょうか……私が初めて負傷したように……!―
―ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……―
……糞人間が、負傷したか……。
一方でリフィルは、思いの中で話していたハズなのに、軽く息を切らしていた……。
確かに……俺は母さんを守れなかった……。
そして……君も失いそうになっていた……。
君に言われてしまっては、認めざるを得ない事だ……。
しかし……だったら……だったら、どうすれば良かったんだよ……!?
俺はどうすれば……母さんを助けられたっていうんだよッ!?
どうすれば、あの時――あの糞野郎に負けずに、君を拐われる事なく守れたって言うんだよッ!?
たったの6年……たったの6年で――君以外を信じられなくなった俺はッ! 誰に助けを求めれば良いんだよッ!?
いや……戯言は後だ。
今は……リフィルを抑えて……守る事が優先だ……。
落ち着け……落ち着け……! 何としても、俺の使命を全うするんだ……!
……そして、君は……糞人間の方を一瞥すると、再び俺の脳裏に語りかけて来た……。
『ラフィル……自分の事――認められた?』
『……あぁ、どうしても――認めたくないけど……』
『……本当は認めてから話したかったのですが――時間がないので話しますね。
良いですか? ラフィル。これを聞いたら、協力してくださいね?』
『……話によるな』
『……仕方ないですね……。
ラフィル、私が何でこの「ドライゼ銃」を――片時も離さず、持ってるか分かりますか?』
『……いや、分からねェよ』
『これは……私の”覚悟の証”だからです』
『……覚悟の証?』
『ラフィル……お母さんとの最後の別れを覚えている?』
『……あぁ、忘れたくても忘れられねェよ……』
『あの時……別れて森へ向かう瞬間、ラフィルは何を思っていた?』
『えっ? ……姉ちゃんを守らなきゃって……』
『母さんを助けようとは、思わなかったの……?』
『……』
『ねぇ! ラフィルッ! そう思わなかったのッ!?』
『……』
〜 パァァァァンッン!!! ビスッ!〜
―グゥアァァァァァァァッ! グッ、フゥ! フゥ、フゥ……―
―どうですか? 私もその右足に、想定外に撃ち込まれて……とても痛かったのですよ? ―
―……どうしようも……ない……ド…変態…の……イカれ…野郎……の…痛みなんて……知るかよ……! ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……―
―……―
……どう言えば良いんだよ……! 俺が既に諦めていた何て、君に言える訳ないだろッ!?
『じゃあ、ラフィル! あの別れ際の時、お母さん何て言ったか覚えていますか?』
『えっ? あぁ……<リラックスして行ってね! 二人共!>
……だったよな?』
『違う! それはお母さんが涙を飲んで、言い直した事! 本当はこう言ったのですよ!
<リフィル……ラフィル……私に構わず、自由に生きて……! 使命にも……運命にも……縛られずに……! どうか……自由に生きて……!>
……そう言ってたんですよ……! 母さんは……最初から……死を……種となる事を……覚悟していたんですよッ!? 私達のためにッ!』
……泣いてはいないが、リフィルの今にも泣きそうになってくる声が響く度に、胸が痛くなってくる……!
しかし――俺の耳はとんだ笊耳だったな……。
……けど――自由か。
皮肉だな、それを自分の事も守りきれない、使命対象に言われるなんてな……
『だから……それを聞いた私は――あの時は、どんな手段を講じても、私はお母さんを救いたかった!
だけど、言葉を失っていた私には出来なかった! 話し合って、母さんを解放してもらうなんて事は出来なかった!
私の信念を捻じ曲げてでも……暴力に訴え出る、覚悟さえもなかった!
そして、何より……諦めた貴方に手を引かれ……共に逃げる事しか出来なかったッ!』
『……何だ? まだオレを責めるつもりか、姉ちゃん?』
『自暴自棄にならないで下さいよ! ラフィルッ!
あの時はお互いに”助ける力”がなかったから、母さんを救えなかっただけです! 仕方がなかったのは私も分かります! だけど……今はお互い、兄さんに助けられて”力”を頂けるじゃあないですかッ!?』
『……それは、姉ちゃんだけだろ?』
『――貴方が兄さんに嫉妬しなければ、いつでも使えるんですよ!』
『……オレが――嫉妬?』
『母さんが捨てろと言ったくれた貴方の”下らない使命”の性で、貴方はずっと嫉妬をしていた!
私を守ってくれる対象が現れる度にッ!』
『……』
『ラフィル、私は覚悟したのです。
だから……私は、私の信念や誇りを捻じ曲げてでも……生きるために――私は、この兄さんから承った「ドライゼ銃」を肌身離さず持っているのです……。
これは私の覚悟の証なんです!
……ラフィル、貴方は「使命を捨てて良い」と知った今……。
貴方は何を覚悟して……何を証として――今、持っているのでしょうか……?』
〜 パァァァァンッン!!! ビスッ!〜
―グゥアァァァァイィィアァァァッ! グッ、フゥ! フゥフゥフゥフゥ……―
―……ここからは、私以上の痛みです……。ですから、どこに撃ち込むか選ばせて上げましょうか? ―
―……悪趣味…な……モン…だな……撃た…れた…俺…が…痛がる……様を…しば…らく…観…察…してから……また…撃ち…込むって……! お前…”ドM”の…ハズだろう……?―
―……減らず口を……!―
……証……か。
そうだな……父さんから貰った大剣は奴隷になった時に、即折られたし……。
正直気持ち悪くて仕方なかった、あのクソ領主の剣も――今は手元になく、「白線視点」でチラッと見た通り……領主館の壁の中に減り込んじまってるしな……。
『ラフィル……お願いです。
もし、まだ私の騎士だと言い張るのならば――もうこれ以上、私を含め……誰であろうと、貴方の”恥”を見せないで下さい……!』
『……もし断ったら?』
『その時は……』
〜スッ……グイッ〜
――ッ!? おっ、おい! 姉ちゃんやめろッ! 何で自分の喉に「ドライゼジュウ」を突きつけて……ッ!?
『……貴方を殺して、私も兄さん達の後を追い……自害します……!』
『な……!? 姉ちゃん、やめろッ!』
『やめません、これも私の覚悟であり、”自由に生きろ”とお母さんに言われた――私の最後かもしれない……生き様なのですから……ッ!』
『……』
『そして……これは遺言になるかもしれない、独り言ですが……。
私は……本当は……生きたい……!』
『……ッ!?』
『例え……贄となるしかない運命を持ってるとしても……!
私は……兄さんと……本当の兄さん達と生きたい……ッ!』
『……』
『だから……お願い……! ラフィル……! 兄さん達を……助けて……ッ!』
「さて……この魔道具、6回でしたっけ? 礫を発射できるのは?
今までに5回は引いたはずなので、少々失言をしてしまいましたが……宣言通り貴方の望む場所に撃ち込んであげますよ?」
「……」
「おやおや、可哀想に……。
ついに麻痺毒が完全に回りきってしまいましたか……。
……フフフ……そんなにグッタリと、領主館の壁にもたれ掛かってしまったのなら……
もうこれ以上、貴方の減らず口を聞けなくて残念だ……フフフ……」
「じゃあ…聞かせ…て……や…ろうか……?」
「ッ!?」
……全く、本当にムカつくぜ……。
「おやおや? 左足の甲と、右脚の付け根、そして右肩を撃たれて、まだ喚く元気があるとはッ!
これだけ活きのいい悪魔は、初めてですよ……」
「オレ…を……魚…扱い……すん…なよ……!」
その太々しい程の戯れ言も……
「何が魚ですかッ!? 貴方は悪魔なのですッ! 本来は今すぐにでも、裁かれるべき存在なのですッ!」
「さぁ…な……? 何…でも……かん…でも…悪魔と…して……片付け…ようと…する……テメェの…方が……オ…レ…は……悪魔…に……見え…るん…だがな……?」
大国の一つである、「教国」の暗殺者に恐れ無しに喧嘩を売れる、その図太さも……
「黙れ! 悪魔めッ! 貴方達が成そうとしている事は――この世界中、どこの誰もが見ようと立派な国家反逆罪なのですよ!?
奴隷解放、罪人の解放、この城塞都市を収めるご領主兄弟閣下方を襲撃し、亡き者にしようと画策した……本当はこのような下品な言葉、言いたくありませんが……これだけの大罪を犯してきた、クズで畜生以下の貴方方の何処に、悪魔と呼ばれない所以がありますか?」
「……ハッ、笑わせる……!」
「……んっ?」
「そっくり…そのまま……その…上っ面の…出来事…しか……見れない……クソエルフの…テメェに……返してやる……ッ!」
「な……何故だ、何故なんだ!? 巨大魔獣でさえ昏倒する「エングリデス・ビーの麻痺毒」を塗った私の投げナイフを、足に受けたというのに何故ッ!?
何故ッ! 未だに諦めずに、喋れるのですかッ!?」
「ヘェ……? そんな…ヤバいのを……塗ってたのか? (「メディケア」仕事しろよ……神さん…!)
喋りにくく…なるだけで……意外と…大した事…ないな……」
驚く程のしぶとさに……
「それと……言わせてもらうが……!」
「クッ! 喋れるだけで、何になるのです……」
「テメェのような…クズ共や……! 世界が…どれだけ否定しようが……! オレが…”助けよう”と……! 思った事の……! 何が……悪いんだよッ!?」
「ヒッ!?」
……甘っちょろ過ぎる、お人好しの良さ……
「奴隷にされて……父親を殺され…天涯孤独になって……!
最後の…希望だった……母親すらも…テメェらに殺されて……!
それでもな……? アイツらは……アイツらは…泣き言を言わずに、嫌いじゃ済まないオレに頭下げてまでも……! アイツらは……必死に…”生きよう”としているんだよッ!」
「そんな必死に……!
”生きたい”と…思う……強い意思を…持つ……奴らの…何処が……!
”救済”だなんて……! 腐った考えを…持ってるとでも……思うんだよッ!?」
「黙れ! この悪魔めッ! 救いようのない戦乱溢れるこの世界で! もっとも救済されるのは……!」
「オレら傭兵団は、全員死にたかねェんだよッ! 生きたいんだよォォォッ!」
……そして、その異常とも言える、生きる事への執着心……
〜ズル……ガクンッ〜
「な――何ですか……本当に喋れるだけだったのですね……そんな前のめりに倒れる程に……
まぁ、いいでしょう。貴方の悪魔達が、今まで動かなかった事が多少気がかりですが……。
その前に、この素晴らしい魔道具で、貴方に史上初の至福とも言える救済を……与えましょうか……ッ!」
……そんな、俺にはない”強さ”に嫉妬していたのかもな……。
〜フォォンッ、ジジジジジ………〜
「……ん? 何でしょうか、この何かが燃えるような音は……」
〜ジジジ……ドグォォォォオオオォォォォオオォォォォオォォォォンンンッ!
ブモオォウッ……バァチィィィィンッ!〜
「……ガッ、ハァァ……ガァァァァッ!?」
〜ポタッ……ポタポタッ……ドバドバドバドバババ……〜
「……黙って、寝てろ……クソエルフ……」
「な……何故……!? 背後に……音もなく……!?
私の…魔法を…破っ…て……ッ!? ゴボァァァァッ!?」
〜ビシャアァァァァァッ! バタンッ!〜
……排除完了。
しかし……すごい威力だな。
俺の魔力を媒介にリフィルが出してくれたこの……「カカエ・オオヅツ」だったか?
彼女から受け取る際は、やっぱりあのクソ人間の力に頼らざるを得ないと、屈辱的に思っていたが……。
あのクソ処刑人の剣以上に……悪くない威力だな、ウン。悪くない威力だ……。
……決してクセになりそうな威力だなんて、俺は思っていない……!
「……良く…やった……ラフィル……! 助かった……」
「ハァ……ハァ……ハァ……」
ま……不味い、この「カカエ・オオヅツ」を出すのに、リフィルが俺の全魔力を使ったって、言ってたせいか――少しフラつくな……と、とにかく何か言わないとッ!
「か、勘違いするな!
オレはこの前に倒れている暗殺者のクソエルフの腹を、コレでブチ抜くついでに――ク……いや、テメェの腹も一緒にブチ抜こうとした! それを! お前が前のめりに倒れて、躱されただけだよッ! それだけだッ!」
そ……そうだ! 俺は、俺はな! 人間! 俺はまだお前を認めていないからな!
こ……今回は仕方なくだ! リフィルがどうしてもって言うから仕方なく、助けただけだ! 間違えんなよッ!
「…そうか、とにかく……ありがとな……」
「……(なんだよ…‥調子狂うな……)」
「とりあえず……リフィルを……呼んでくれないか……?
オレと……オルセットの……治療を…頼みたい……!」
「ハァ? お前らで回復魔法を使えよ、使ってただろ?」
「……オレらは……戦闘中に…魔力を……使い切って…んだよ……!」
「……姉ちゃんなら、いねェよ……」
「ッ!? ……どこへ行った?」
「いや……"ウィド・マフラー"……だったか? それをオレと姉ちゃん自身の全身に掛けて、防音対策した後、「私にはやるべき事があるって」言って――「ドライゼジュウ」を持ったまま、どっかに行っちまったんだけど……」
「……そっか…じゃあ……弾丸の摘出と……何かの布で……止血を頼む……」
「……テキシュツ? 何だよソレ? だからお前らでやれって……!」
「お前にしか……頼めないから……言ってんだよ……!」
「……」
「頼むよ! ラフィル!」
「ハァ、仕方ないな……今回だけだぞ。ボ……いや、人間……」
「……あぁ…今は……それで…良い……」
……そうして、オレは「カカエ・オオヅツ」を地面に捨てると、痛みの余り蹲り、呻き続けていた、クソ猫……いや、猫女を先に担ぎ――人間の方に持って行った。
「……お前にしか……頼めない…か……」
「……何? ラル君……?」
「……黙っとけ、猫女。傷が痛むだろ?」
「……フフッ……ありがと……ラル君……」
「常に前を見て動け」・・・か。
俺は「目の前の問題に対処し続けろ」……って、解釈していたんだが……。
母さんやリフィルが聞いていたのなら……そんな解釈じゃあ、なかったのかもしれない……。
その”前”の言葉の意味は……諦めずに立ち向かえって言う、”未来”だったのかもしれない・・・。
口では絶対言いたくないが……こう――なんか……ほっこりするな……。
この状況に……あの人間と猫女の、生き様に……。
初めて感じたような……この感情に……。
エルフの特徴を端的に「寡黙、夢想的、文化系」とするならば・・・
ダークエルフは「やかましい、理知的、体育会系」です。
もっと簡単に言うならエルフは根っからの「学者肌」、ダークエルフは生粋の「兵士、戦士」と言ったところでしょうか・・・。
後、気づいた◯者の方もいるでしょうが、彼、人前で喋る時はバカっぽい演技をしています。
(以外とボスの「戦略」の事に文句言えませんよね)
ただ、ラフィル君の場合は特殊で、他のダークエルフが存在した場合、あんなに演技を徹底しようとする程・・・理知的、合理的ではありません。
もっと体育会系らしいと言うか・・・そんな感じです。
ある意味・・・”ハル”と”デイビット”のように・・・。
※タイトルの一部で、”スペルミス”があったため、変更させて頂きました……。