Last Enemy-37 街ノ”闇”-1
大変長らく……
待たせたなッ!
――ハイッ、改めて大変長らくお待たせしました。
四ヶ月近く、お待たせしてしまい、本当に申し訳ありませんッ!
平成終了、令和開始記念に更新できず、すみません――。
実は……仕事が忙しかったのもそうなんですが、6月頃に急に会社との契約を切らねばならなくなり、7月の中頃から新しく入った仕事先のとある番組制作会社で……実は、パワハラを受けていたんで……。
エェ、参ってました……。ホントに……。
それも兼ねて本当更新できず、すみませんでした……。
ただ……後の章で使えそうな、中々ない体験だったので、ほぼ受けた形に近い物で、とあるクズい悪党に実演して頂こうと思います。
(結構、先の章になりますが・・・)
そして、簡易的ですが――”Mr,N”さんから、ついに、文章中の「N:」表記の<Off-Line>を頂きました――。
今まで表記に煩わしく思っていた皆さん、申し訳ありませんでした――。
そして、もしも毎回期待されていた方がおりましたら、そちらもすみませんでした――。
ある意味――自身の心の弱さというか――何というか――。
まァ、書く環境が大幅に代わり整ったと言うのが大きいのでしょう! うんッ!
新時代になっても、恐らく不定期スローペース、試行錯誤の連続でしょうが、完結させるまで頑張りたいと思いますのでよろしくお願いします!
(一応、「ホント終わんの?」――と不安に思う方がいると思うので、ぶっちゃけますが、この物語の結末まで、大まかなプロットは書けています。
キチンと骨組みを整理し、細かな肉付けをするのが、不定期スローペースになる程、大変なんです――(汗))
あっ、それと今回長すぎた”特別な回”なので、これまた実験的に2話続きの話にしました。
これを投稿日の、”昼と夜”に予約投稿しようと考えています。
このやり方や文章の書き方など、ツイッターや感想等で、是非及び、アドバイスを頂けたら有り難いです。
「迷える魂に、救済を……」
……ちょっと待った、この不気味な声の主については後回しにしよう。
さて……それは、丁度ボス達が逃走した赤き豚を追い駆け、領主館内を虱潰しに探し回った後、最後に向かった領主館裏に広がる”庭”らしき広場へと訪れた時だ。
『ここ……お母さんと別れた場所……』――幾つかの奇妙な植木が乱立する中、その中で奥に見える裏門らしき所の傍にそびえ立つ――一際違う雰囲気を放つ2本の”桜”のような木を見つめながら、ポツリと呟くリフィル――。
「マジかよ……」――思わず声が漏れるボス。
『――忘れたくても、忘れてはならない……お母さんの”声”を聞けた最後の場所……』――何を思ったのか……彼女はトボトボと庭の中央へと歩いて行き、虚ろに天を仰ぐ。
『この庭の中央に立っても……もう、温もりも……空耳ですらも……感じはしない……別れる寸前の記憶……』――彼女は目を閉じ、ドライゼ銃を握らぬ左手を胸に当て、黙祷するかのような仕草を取るリフィル……。
『あぁ……私の涙さえも、あの者達に奪われてしまったのでしょうか……』――どうやら彼女は、自身の母親に対し涙を流したかったようだが――それすらも叶わない程に、あの豚共にとことん心を踏みにじられた事を、表現したかったようだ……。
「随分と詩人なモンだな……」――さながら、演劇を見たかのような感想を漏らすボス。
「なんか……キレイだったね……リルちゃん」――続くように感想を呟くオルセット。
「いや……姉ちゃんの悪い癖だよ」――鈍い痛みが残っているのか、まだ左脇腹を押さえながら疎ましげに表情を曇らせながら呟くリフィル。
「おい、今がまだ”ヤバイ状況”なのは判るが、アレの何がいけないんだ?」――こんな状況でなければ、彼女を舞台女優として推してもいいんじゃあないかと、チョッピリ思ってたボスは、少し語気を強めてラフィルを咎めた。
「――現実逃避だよ……無防備になるほどのな……」――溜息を漏らすように彼は言う。
「――姉ちゃんは悲しくなり過ぎると、ああ言う風な事をして自分を慰めようとするんだよ……。だが人間――アレをもっと聞きたいのか? オレらの父さんが亡くなった日なんて、三日三晩近くアレをやってたとしてもか?」――続け様に、呆れた表情で吐き捨てるように言うのであった……。
「おい、少なくともお前は”弟”だろ? なんだよ、その言い方は!? 姉ちゃんが可哀想だと思わないのか?」――更に語気を強めながら、ラフィルを咎めるボス。
「本当、甘いんだよ……人間……テメェはな……」――彼の目を睨みながら、ラフィルは語る。
「オレが――いや、オレらがアレに、今までにどれだけ苦労してきたのか……解りもしねェクセして……ッ!」――その苦労が想像を絶する物だったのか、ボスを見る目がキッと鋭くなる。
「――ラフィル……」――迫真とした自身の苦労を語る彼を前に、思わず申し訳なさそうな声を上げてしまうボス。
「ボスゥ……ラル君? そろそろリルちゃんを呼んだ方が……ッ!?」それぞれ二人に顔を向けつつ、少々オドオドと呼びかけようとしていたオルセットだが――彼女の鼻が何かを捉える……!
〜バッ! ザッザッザッザッザッザッ! 〜
「リルちゃん!」
唐突に二人の間を割るよう一目散に、リフィルの元へとオルセットは飛び出してゆく!
何事かとボスとラフィルは一瞬、困惑するが、未だに黙祷を続けるリフィルの方を見た瞬間――彼は駆け出さずにはいられなかった……ッ!
「クソッ!? 言った傍から――姉ちゃん!」――少なからず無理があるのか、左脚を引きずりつつも痛む体に鞭打ち、下段に構えた大剣を引きずりながら、彼女の元へと続くラフィル!
「おい! ラフィルッ! 無茶すんなッ! アァ――クソッ!」――オレじゃ間に合わない……! そう思ったボスは、ジーンズのポケットに突っ込んでいた”SAA”を抜き、リフィルの頭上に迫りくる者に狙いを付ける――ッ!
その銃口の先にいたのは――ッ!?
〜 パァァァァンッン!!! 〜
リフィルの首筋目掛け、鋭利なナイフを振り下ろそうとし――
〜 フッ――スカァ……〜
突然、空中で前から強烈な突風を浴びたかのように、後転――ボスの弾丸を顎ギリギリで掠めるように躱し……!
「リルちゃんから離れろ! ――ガッ!?」
カエルのような身のこなしで着地、そのままの低い姿勢で”後ろ蹴り”を、爪を伸ばし、迫るオルセットの腹に叩き込み……!?
「このクソ野郎ッ! ――ゴホッ!?」
オルセットが、ボスの近くへと吹き飛ばされて行く中――駆けつけたラフィルの片手での袈裟斬り上げを、低い姿勢のまま回転しつつ難なく躱し――流れるように起き上がりつつ、順手に持ち替えた右手で、彼の頬を”回転鉄槌”で殴り飛ばした後――ッ!?
「オルガッ! ラフィルッ! ――ッ!? クソッ!」
颯爽とボスの元へと向かって来る……ッ! 恐れもせずに!
迫るこの敵に気づいたボスが、残るSAAの”5発”全てを連射したのにも関わらず、右へ左に跳び躱して全弾避け、再び逆手に持ち直したナイフを携え――向かって来るのであるッ!
〜ザッザッザッザッザッ、バッ!〜
「迷える魂に、救済を……」
そして、冒頭へと繋がる言葉は……ボスの銃弾を全て躱し切った瞬間に飛び上がり、その跳躍の頂点にて、彼の首筋目掛け――自由落下を活かした一撃を見舞おうとした時に、呟いたモノなのであった……!
〜フゥオォォォォンッ! ガッ、ガッシィィ!〜
――が、タダで命をくれてやるかッ! ……と言わんばかりにボスは、振り下ろされた右腕を、SAAを持つ右腕を掲げ、何とか防ぐのであった! しかし……その力は拮抗していると言い難く――ジョジョにボスの右首筋へとナイフの先端が迫りつつあった……ッ!
「拒まず……受け入れなさい……さすれば、貴方は救われる……!」
眼前に迫る影のような黒フードから、聞こえて来るその声は……霞の如く、朧げで儚く……だが、怨霊のような呪詛めいた声で……気を抜けば恐怖に押し潰されてしまいそうなモノであった……!
「訳――分かんねェ事、言ってんじゃあねェ――よッ!」
歯を食い縛りつつ、途中、押されつつあった右腕に、柱のように手首を掴み補強していた左手を、腰に着けたウェストポーチへと手を伸ばす……! その先には、冒険者ギルドでの戦いの直前、2話に渡って存在を忘れ去られていた"帽子"と共に投げられた際に落とし、その後回収していた水平二連散弾銃”コーチガン”のグリップが、ポーチから顔を覗かせていたのだ……ッ!
ガッシリと掴み、素早くポーチから引き抜くと――!
「クソッタレ野郎がァッ!」
躊躇なく! 相手の腹に突きつけた瞬間ッ! 二つの引き金を同時に引くのであったッ!
~グッ! ドパァァァァァァンッ! ズザザザザザザッ!~
「ッ!? なんだ?」
しかし、ボスは奇妙な感覚に囚われた。
ゲームや映画などでよく見る”ショットガンを喰らった相手が、派手に吹き飛ぶ”なんて現象は、まず現実ではあり得ないのを知っていたからだ。
実際、今の一撃を喰らったのであれば、一点集中した数十発の散弾によって、突きつけられた部分に”大穴”が開き、あっけないボスの勝利で終わるハズなのだが……。
その現実は起きず――彼の目の前には、約2,3m先で地面に崩れ落ちる事なく……大きくイナバウアーのような姿勢の状態で静止した、黒ずくめの人物が立っていたのだから――!
~グググ……ガバァッ! ボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリィッ――――!~
「アァァァァ! 痛いィィィィィッ! こんな痛みは初めてだァァァァァッ!」
――済まない、流石の私でも引いてしまったようだ……。ウゥゥンッ! (咳払い)
縮んだバネが跳ね戻るように、エキセントリックな体の起こし方をした謎の人物は、起きた途端、ボスに撃たれた腹を掻き毟りながら、耳障りなキーキー声で叫び出した。
先程のスライド移動の影響か、顔を覆い隠していたフードが取れたその男――いや、”男”……と言うのか? 叫びまくっている時はパッと見、”男”と決めつけていたが……段々と荒い呼吸に整ってきた奴をよくよく見てみると、”女”とも見間違えてしまいそうな――そう、端的に言えば"中性的"。
しかもかなり整った顔つきをしていたのだ。
そんな奴の身長は、ボスよりかは低く、オルセットやエルフ姉弟達よりかは、高いだろうか。
また、その他の容姿をこれまた端的に言えば、突風に薙ぎ倒された作物のような、金と赤がグチャグチャに混ざった短髪。
柔らかな皮のような生地出来た、素肌素足を覆う、足首まで届くフード付きチェスターコート風の服――。
そして極め付けは……その特徴的な耳と、顔の右半分から顔全体を覆い潰さんばかりに広がる、赤黒く丸い――奇妙な形をした紋章のような焼印が押された褐色肌の顔だ。
「なッ、何だコイツ……!?
あのサド野郎や豚野郎に続いて、新手の変態か……?」
――いや、何でソッチの方に感想が行くのかね? ボス君?
フツー、耳や髪の方に――
――もう見ているからだよ……。お前は黙っとけ……!
「ゲホゲホッ、ボスゥ……大丈夫……?」――腹を蹴られた痛みからか、少しフラつきながらも彼の安否を心配し、右斜め後ろから近寄ってくるオルセット。
「ッ! オルガこそ大丈夫か!?」――彼女の無事な事にホッとしつつも一瞬キッと、襲い掛かってきた謎の人物に睨みを利かすボス……。
「何とかね……」――右手で腹を抑えつつ、苦笑いをするオルセット。
「そうだ、リフィルはどうしたんだ?」――ハッと、思い出したかのように尋ねるボス。
「何とか無事だよ、後ろを見て」
そう聞いたボスは、彼女が指差した方向、左斜め後ろに抱き合うように吹き飛ばされてたエルフ姉弟が居た……。
どうやら、オルセットに構っている間に彼女を抱きかかえ、下がろうとした所を殴られたのであろう……。
着地の際に回転したのか、ボスが見る方向からでも共に眠るような顔つきの中、痛々しく腫れたラフィルの左頰がハッキリと視認できた……。
彼らを見たボスは一瞬険しい顔つきした後、こうオルセットに指示を飛ばした。
「オルガ、二人に”メディケア”をかけといてくれ」――エルフ姉弟を見つめつつ、横目に語るボス。
「――ボスはどうするの?」――心配そうな表情で上目遣いに、ボスの横顔を見つめるオルセット。
「――一応、向こうの奴さんに、話を聞かないといけないからな……。行ってくれ、オルガ」――そう言いつつ、首を横に振って促す。
「でも……ボスゥ――」
「助ける順番を間違えるな、オルガ。……頼む」――少し厳しい口調で咎めた後、頭を下げ、彼女に頼むボス……。
「――分かった。すぐ行くね、ボスゥ……」――そう言うと、彼女は駆け足に後方のエルフ姉弟の元へと向かって行くのであった……。
「(今は傍にいてやってくれ……)
さて……待たせたな。オレの仲間を殺そうとした理由……!
ご大層な物があるなら聞こうじゃあないかァ?」
謎の人物の方へと振り返りながら、丁寧な質問を心掛けるボス……。
だが、ウェストポーチに仕舞わず、右手に持ち替えた”コーチガン”のグリップを握る手は、今にも割れそうな勢いで強く握り締められていた……。
「アァァ……ありがとうございます!
私めにこのような素晴らしい”痛み”下さり、ありがとうございます!」
「――ハァ?」
――ドSの次は、ドMか?
呆れつつも思わずボスが、心の中で漏らした言葉これだ。
それもそうである。今だに撃たれた腹を掻き毟っていた相手が、声を掛けた途端、急に丁寧なお辞儀をしながら爽やかな声で”土手っ腹に散弾をブチ込んだ”事に対して、お礼を言ってきたのだから……!
――私も奴を変態を認めざるを得ない……。
認めようが認めなかろうが、別にお前はいいだろッ!?
まァ……奴の変なペースに巻き込まれない内に、「スキャン」でどんな能力があるか調べとくか……。
……ッ? 何だ? スキャンエラー!? 能力が確認できないッ!? どう言う事なんだよッ!?
「――神に愛された私めを、覗き見ようとは――不届きな人ですねェ……?」――瞬間、ドス黒い雰囲気が溢れ出し、鋭くボスの「スキャン」を見透かしたような事を語る――謎の変態……!
「ッ!?」――思わず怖気付き、左目付近のこめかみに当てていた左手を慌てて離す……!
「フフッ、しかし……不問にしておきましょう……私は貴方に感謝しなくてはなりませんから……」――先程のドス黒さが嘘のように晴れ、柔和な笑みと共にボスへと語りかける、謎の変態……!
「――何だ? ”殺し”をお礼にくれるって言うのか? 暗殺者さんよう……?」――挑発的な返答で、流れる冷や汗を誤魔化そうと努力するボス……。
「そう、怒らないでくださいよ――」――手の平を前に出し、宥めるように語り掛ける謎の変態。
「私は、苦しむこの街の民達に”救い”を施す中――貴方方を今までずっと見守り、貴方方に起こった続け様に起こる不幸を憐れに思った私は、貴方達にも”救い”を施そうとしたのですよ?」――悪びれる気もなく、散歩中の挨拶でもするかのように、爽やかな笑みで――平然と言いのける謎の変態――!?
「ッ!?」――「ずっと見守ってた……? 救い……?」瞬間、その発言に、底知れない悪寒を感じ取るボス。
「それに……私は、果たさなければならない”約束”がありますからね……」――謎の変態は、逆手に持つナイフを自身の眼前に掲げ、こびり付く血錆の中、朧げに映り込む自身の姿を見つめながら言う。
「”約束”……?」――動揺を隠すかのように、少々語気を強めながら言うボス……。
「あの方のためにも――”約束”は守らなければならない物……。
この残酷な世界で……私に”生きる意味”を教えてくれたあの方のために……
何よりも、”約束”は大事と教えて下さったあの方のために……!」
謎の変態は、まるで祈るかのようにもう片方の手を胸に当て、逆手にナイフを天に向けて掲げた後……一気に振り下ろした。
そして、振り下ろした際に共に伏せていた頭を上げると――屈託のない笑顔で次のように言うのであった……!
「苦しみ生きる者達を救うため――この手に握る救いを……貴方方の胸に突き立たせて下さい!」
「――救い? 何でそのナイフが”救い”なんだよ!?」――あからさまに”真っ当ではない”理由に、思わず語気を荒げてしまうボス……!
「あぁ……恐れないでください。痛みは一瞬です……。ですが……その後にすぐにでも、この世の苦しみから貴方方は解放されるのですから……」――ボスの質問など耳にせず、憐れむように優しく語りかける変態……!
「おい! 話聞いてんのかよッ!?」――”和解は無駄”と脳裏を横切るも、何とか話を紡ごうとするボス……。
「ええ、聞いてますとも。このナイフこそが”救い”……! それ以外の説明など、ありませんよ……」――ナイフを見せ付けながら、ニコニコと語る変態。
「それに――この地の領主様に、”貴方方に救いを与えよ”と……約束を承っていますからねぇ……。約束は尊く――大事ですから」――再び、満面の笑みで答える変態……ッ!?
この一連……と言うより、一方的なやり取りでボスは恐怖した。
この謎の人物からは”邪気”と言える感覚を全くと言って良い程、感じ取れないのだ。
「スキャン」でステータスを覗き見ようとした時以外、全ての言葉から彼らに対して本気で”助けよう”、”救おう”としか感じられないような口調と、声色なのだ……!
……限定的な仮定だが、何も知らない人であれば、そのナイフさえ見せなければ容易にその甘言に乗り、”救い”とやらを受けてしまうかもしれないだろう……。
しかし、ボスは僅かに感じ取っていた奴の”不気味さ”から、甘言に飲み込まれずにいた……。
――いや、正確にはそれ以前に”仲間を傷付けられた”事による怒りで、今にも右手に握る”コーチガン”をあの変態目掛けてブッ放したい衝動を、何とか抑え込んでいると言うのが正しいだろう……。
そして、会った瞬間から感じる――一つの質問のためにも……。
「――ハァ……分かった。受けよう」――半ば呆れ、諦めたように”首の頚動脈に左手を当てながら”言うボス。
「おお! そうですかッ! そうですかッ! ではでは……!」――揉み手をする商人を幻視しそうな勢いで、嬉々としてナイフを頭上に構え、スタスタと近寄ろうとする変態。
「だが! その前に答えてくれ!」――近寄る相手に警告するような口調で、強く言うボス。
「――何をでしょう?」――意外にも律儀にその歩みを止める変態。
「まず、一つ目だ。アンタ――名前はなんて言うんだ?」――右手の人差し指を立てながら聞くボス。
「――名前?」
「これから旅立つんだ。お礼を言う相手の名前を知らないなんて、失礼じゃあないか?」――と、両手を横に広げ、少々戯けるように言うボス。
「――これは失礼しました……。確かに、良い手向けになるでしょうね……」――目的に関する事に盲目的なのか、何故か納得する変態。
「では、僭越ながら言わせて頂きます……。私は、”ジャネバ”。
貴方方に、救いを齎らすため、遥々教国からやって参りました……宣教師です……」――言い終えた後、「ボウ・アンド・スクレープ」と呼ばれる、ヨーロッパの貴族社会における伝統的な男性のお辞儀に似た仕草で、挨拶する変態――改め、ジャネバ。(……フゥ、やっと言えた……)
「あっ、これはご丁寧にどうも」――と、日本式のお辞儀で返す何とも奇妙な光景になっていたが、お辞儀中のボスは”教国出身”と言う言質を偶然取れた事に、ほくそ笑まずにはいられなかった……。
「じゃあ……ジャネバさん。仲間やこの街の人達に救いを――って事は全部アンタの意思でやってきたのか?」――と、敵意を見せないよう注意しつつ、ジョジョに語気を強めながら聞くボス。
「――いいえ、神の御意志の元に――私はこの救いを布教しているのです……!」――少々、恍惚とした表情で語るジャネバ。
「じゃあ――何だ? アンタは救いだとか言っているが、”人を殺している事”を、嫌だとか思っていないのか?」――眉間に力が入り始めるボス……。
「何をおっしゃいますか……。これが唯一の救いなのです……」――済まし顔で答えるジャネバ。
「お前……エルフだろ……!? 何言ってんだよッ!?」――リフィルから聞いた「エルフの価値観」にそぐわないジャネバに、驚愕を隠しきれないボス……!
「――エルフ? 関係ありませんよ。私は、ハーフですから」
「――ハーフ?」――一瞬、眉間の力が抜けるボス……。
「ハーフという卑しい存在であった私を――救ってくれたあの方と、神に――何故背く必要があるのですか」――と、胸に手を当て祈るようにボスを俯き気味に見ていたが、その眼には、先ほど見せたドス黒さが垣間見えていた。
その黒さを見た瞬間、ボスは歪みきったドス黒いクレバスを覗き込むような”恐怖”……だけでなく、そのクレバスを溶かし尽くさんばかりの”怒り”のマグマが、ゴボゴボと、堪えきれない程に昇ってくるのを感じた……ッ!
「じゃあ、聞くが――商会に居た女性を救ったってのは、お前か!?」
その一言を期に、ボスの脳裏には、ある風景が蘇り始める……。
「ええ――そうです」
オルセットに言われ、ダース商会へと走り戻るボス……。
「その”救い”を望んでいたって言うのかッ!?」
見え始める商会の入り口、同時に見える不自然な――
「いいえ……ですから、救済を施したのです……」
――巨大な”蓑虫”……。
「違う……!? じゃあ何で、あんな”逆さ吊り”なんて、酷い殺し方をしやがったんだッ!?」
もとい、それは”吊された男”ならぬ……裂かれた腹から真っ赤に染まった……
「彼女は”悪魔”に取り憑かれていたのです」
”吊された女”が……ッ!
「――悪魔だぁ!? 何を根拠にそんな”クソな事”を言ってやがんだッ!?」
そして……入り口の壁面いっぱいに、”王国の言葉”で赤々と描かれた――
「――ほら、貴方も現に、悪魔に取り憑かれかかっています……」
――”救い”と”裁き”を……
「私を信じて……その”心”があれば、貴方は悪魔に屈さず――この世の苦しみから……」
――そして急いで入った店内中に、同じように無数に描かれた……
「――じゃあ! さっきの答えを改めさせてもらうけどよォッ!」
――”領主館”と言う文字……。
「少なくとも……その馬鹿げた”救い”をッ! オレらに押し付けてんじゃあねェよッ!」
<Final Round>ッ! Fightッ!
〜カアァァァァァンッン!〜
(第二章、ラストゴング!。勿論、ボス達には聞こえていないッ!)
〜ブンッ! フォンフォンフォンフォン――ガッ、ファサァ〜
――エェッ!? 良いスタートだったのに、何で初っ端”SAA”自体を投げつけちゃってんのッ!?
しかも、眼前であっさり弾かれて、地面の芝生に落ちちゃっているしッ!?
良いんだよ! 至近距離で”コーチガン”の一撃を防がれたんだ。
離れてる今に撃ったら、余計防がれたり、避けられ易いハズだろッ!?
それに――アイツが”無知”なら、あの”SAA”は後々の良い”布石”になる!
「――悪魔に取り憑かれてしまいましたか……残念です……」
「あぁ、オレもそんな”クソな教え”に染まっちまったアンタを、”残念に思う”よッ!」
「……(口元が大きく引きつり、眉間にシワが入る)
図に乗るな……悪魔めェェェェェェェェェェェェェェッ!」
「(軽く俯いた後、呟き声で)――すまない、助けられなくて……」
――その懺悔は、何を意味するのか……それ以前に、その言葉が目の前の”ジャネバ”に届くハズもなく、奴は怒りの咆哮を上げると……ッ!?
おっ、おいッ!? そんな細腕でッ!? 片手でェェッ!? 足元近くに落ちていた「(元)ヴァイオの大剣」を全身を使って――
〜ブオンッ! フォンフォンフォンフォン……〜
「嘘だろッ!? オワァッ!?」
”ハンマー投げ”のように投げ飛ばしたァァァッ!?
〜フォンフォン――スカァッ、フォンフォンフォンフォン……ドガァッ!〜
「――クソォ、アイツ”ダークエルフ”じゃあなかっただろッ!?
何であんな怪力を持ってんだよッ!?」
――とォ、流石はボス。
ここでは終わらず、髪の毛に掠めるよりも早く、飛来する大剣をしゃがんで躱す事に成功。
しかし……大剣は背後にあった領主館の”石壁”に深々と突き刺さり、流石の”ラフィル”でもこれを抜くのには時間が掛かりそうである……。
「ボスゥ! 大丈夫ッ!?」
先程の衝撃の影響か、エルフ姉弟に覆い被さるようにしていたオルセットが、声を張り上げる。
『大丈夫だ! それよりも、こっからは”コール”での会話に切り替えろ! アイツとガチでやり合う事になるぞ……ッ!?』
アイコンタクトと”コール”のスキルでサッと、彼女に無事を知らせるも――再びジャネバの方に素早く視線を戻した瞬間、ボスは目を見張った……。
『おい……オルガ……』
『な……何ィ、ボスゥ……?』
『アイツ――どこに行ったのか……見たか?』
『えッ?』
――そうなのだ、ボスは飛来する大剣を躱すために、しゃがんで地面を見ていた。
一方、オルセットもエルフ姉弟に覆い被さり、ギュッと目を閉じていた……。
更に、周囲の植木に身を隠したような葉が擦れるような音もしなかった……。
そして、その一連の流れは、実に数十秒にも満たない程であった……。
つまり――だ。奴はボス達が目を離した瞬間、”瞬時にその姿を消していた”のだ……!
『ぼ……ボクは見てないよ、ボスゥ。
けど――気をつけて! あの”変なエルフ”の匂いはまだ残っているよ!』
『ノーヒントじゃないだけ、まだマシか……。オルガ、匂いを辿れるか?』
『う、うんッ! でも――動いて大丈夫かな? 今の場所だとボスに近いところしか――ッ!?』
しかし、オルセットは見た――! ジャネバが元居た方向を! 警戒しているボスの背後をッ!
ジョジョに歪み――高々と上げられた、ナイフを持つ腕をォッ!?
「ボスゥッ! 後ろォォッ!」
「ッ!? やっぱそう来っかッ!」
勿論、ある種のお約束のようにボスは驚愕するが、少なからず想定はしていたようだ。
確認した途端、左手の甲に緑色の風が収束し、小さな竜巻を形成した!
「暗殺者だもんなァッ! 喰らえッ! ”スピン・バックブロー”ォォォッ!」
容易く地面を螺旋状に抉る「スピンブロー」、その”裏拳”バージョンで奴の奇襲に対抗しようと振り返りつつ、その拳を振り抜くッ!
〜ブンッ! ブモオォウッ……〜
「ッ!? 何で飛ばねェ!?」
――安心して欲しい○者の諸君、ボスの”スピン・バックブロー”は確実にヒットした。
諸君の耳が奇妙な体験をしているのではなく、一瞬その拳が顔に沈み、跳ね戻ったと聞けば、このマヌケな音に納得がいくであろうか?
「(クソッ! なんなんだよ? このクッションを殴ったような感覚は――!?)
――日頃からケアでもしてんのか? ずいぶん柔らかな”モチ肌”だな?」
そう言いつつ、ボスは素早く裏拳を放った拳を戻し、戦闘態勢に戻り警戒する。
「――悪魔の奇行など分かりませんが……”裁き”を前に随分、悠長に喋ってられますね?」
「テメェも、顔半分と腕だけ浮かせておいて良く言うぜ……。そのマジックのタネでも、教えてくれ――よッ!」
〜ブンッ! ブモオォウッ――〜
もう、マジックのタネが分かりきってように、ボスは”ジャネバ”の頭の位置から、奴の左脇腹があろう場所目掛け、右膝蹴りを咬ますも、先程のように一瞬沈み、跳ね戻されてしまう……ッ!
「――無駄ですよ、私の体は別の場所に置いてあります」
「ハンッ! 下手なハッタリかましてんじゃあねェよ!
じゃあ、なんで別の場所に置いてきて、この場にないのなら――体の部分を態々、魔法でガードするんだよ?」
「……」
「――沈黙は肯定――”YES”と同じだぞ?」
「クッ、普段ならこの手で悪魔共は恐れ戦き、裁けるというのに……! (憎々しげに)」
「そりゃあ相手が悪かったな? なら次からは、”透明化”以外のタネも増やしておくんだなッ!」
そう言うとボスは、右ストレート繰り出す瞬間、グッと止まり、入れ替わるよう瞬時にジャネバの顔面目掛け、左掌底のフェイント技を繰り出す! 奴は一瞬ビクッとするが……”ブモオォウッ”と再び間抜けな音がし、彼の掌を押し戻そうとする……。
だがッ! そのままに甘んじず、ボスは、右脚で奴の透明化した腹部辺りに、すかさず蹴りを叩き込むのであったッ!
〜ブンッ! グサァッ! 〜
「グアァァァァッ!?」
「ッ!? ボスゥッ!」
――しかしながら、ボスの脚は透明化しているハズの”ジャネバ”の腹に沈み込む音は出ず――代わりに、鋭く突き刺さったような音を発した。
その余りの痛みに、右足を抱え――地面に転がったボスの足裏には、小振りな”ダガーナイフ”が足の甲を突き抜け、刃の根元近くまで深々と刺さっていたのだ……。
痛みに悶えるボスを前に、直情的なオルセットは、今にも守るエルフ兄弟を置いて、奴目掛けて飛び掛かろうとしていた……ッ!
「く――来るな! オルガッ! まだだろッ!?」――痛みの余りか”コール”を使うのを忘れ、叫ぶボス。
「だって……だってボスゥ……!」――それでも堪えきれないのか、震える右手でベストの胸ポケットから”SAA”を抜き、両手で構える。
「――判ったから、何でしょうか? 悪魔が私に勝てるとでも?」――澄ましの顔まま言い放つジャネバ。
「それに……私のナイフはこの一本だけじゃあ、ありませんから――」
――そう言うと、ジョジョに奴の全身が姿を現して行く……!
一本だけじゃあない――。そう言った奴の掲げた腕ではない左手は、ボスの足に刺さったナイフを、宛も握っていたような形を取っていた――。
「”マジック”だの”タネ”だの――悪魔の戯言は理解できませんが……私の魔法以外にも、まだ”裁きの手”はありますから」――そう言うと、握っていた手を服の内側に滑らせ、3本のナイフを指の間に挟みながら取り出し、見せた後に戻すジャネバ……!
「ヘッ、魔法の同時発動はできないと踏んで、素早くやってみたが――まだ暗殺者グッズを持っているとはな……驚いたよッ!」――そう言いつつ、足に刺さったナイフを悲痛な声を上げながらも何とか引き抜き、”メディケア”を呟きながらヨロヨロと立ち上がるボス。
「邪法で足掻こうが無駄です……」――見下したような目付きで語る、ジャネバ……!
「その戯言も――今すぐ黙らせてあげましょう……!」
『ぼ……ボスゥ? 撃っていい? ボク……もう、撃っていい……?』――震える声で尋ねるオルセット。
『堪えろ、オルガ。後、無理して頭を狙うな』――少し厳しく言いつつも、彼女を宥めるボス。
「――その”魔道具”を使う以前に、私に手を出した瞬間……貴方諸共を裁きますからね……? オルガさん……?」ボスの視線を察したのか、冷やかに言い放つジャネバ。
「ッ!」――思わず、"SAA"を握る両手を胸元辺りに引っ込めてしまうオルセット。
『癪に触るだろうが――それで良いぞ、オルガ』――コールで語るボス。
『で……でもッ!』――悔しいのか、少し荒んだ声を響かせるオルセット。
『安心しろオルガ、ようやく出番だ。――今から作戦を言う』――心の中でニヤリとしながら言い放つボス。
「それで……? 裁かれる準備はできましたか?」――何故か呆れ気味な声で語るジャネバ。
「んッ? おおっ! これはこれは――慈悲を下さるとは何と有難や……!」――そして何故かこちらは、頭の上に左手を乗せ、なおかつ深々と頭まで下げて拝むという……あァァ……オーバーリアクション気味に奴の発言をォ……有り難がるボスゥ……(タメ息)
「貴方様が崇める”クソ喰らえ教”も、人殺し以外に”慈悲”という素晴らしい概念があるなんて! いやァ〜これを貴方に教えた”御クソ野郎”様も素晴らしいッ! まだ世も捨てたもんじゃあ、ないですなッ! ハッハッハッ」――と思ったら、お得意の”煽り戦法”であったようだ。(プププ……)しかもまだ右手は、”首の右側面の頚動脈に当てている”――!
「――”糞喰らえ教”……? ”御糞野郎”様……!?」――この言葉を耳にした途端、突然俯きワナワナと震えだすジャネバ……!
「そ〜うそう! 一つ言い忘れていた事がありましたよッ!」――と、突然手を打つボス。
「先程から”裁く、裁く”煩かったんですけど――それってェ……裁かれるのは、オレらぁ……何ですよね? ”魚”とかァ、”ボア”なんかを”料理”するんじゃあなくて?」――と、ジャネバを指差しながら、何故か惚け気味に聞くボス。
「――悪魔め、悪魔め、悪魔め、悪魔め、悪魔め、悪魔め、裁かれて当然の、悪魔……」――壊れた機械のように俯いたまま、怨嗟の籠った声で呟き続けるジャネバ……ッ!?
「あ〜ご乱心な所、申し訳ないんですけど――裁かれて当然ってのは、テメーら何だよ、クソ野郎ッ!」――と、何故か奴の呟きを遮るように、初めはゆる〜く話し始めたかと思えば――後半は雷鳴の如く! 自身の”溜め込み続けた怒り”をブチ撒けるボスッ!
「クソ領主供含め、テメーら履き違えてんじゃあねェよ! 好き勝手な法を作って! 弱者を踏んづけまくって! 偉そうにッ!」――震える右拳を目の前に持ってくるボス。
「誰かが望んだのか!? エェッ!? 願ったのかッ!? 進んで”死にたい”なんて、この世の”全ての人”が喜んで言う訳ねェだろうがッ!」
「……悪魔が――何を言いたいのですか?」――震える……呪詛めいた声で尋ねる、ジャネバ。
「――偽善だろうが何とでも言え……。
こんなクソな中世世界じゃあ、テメェらはどこにも! 誰にもッ! まともに裁かれないんだろうッ!? だったら……!
裁かれるんじゃあない、裁くのはッ! オレら”傭兵団”だッ!」
――握っていた右拳から、ジャネバを”ビシィッ!”っと、指差しつつ、自身の決意を叫び、表明するボスッ! ――しかし、だ。何”傭兵団”なんて、唐突に名乗るのであろうか……?
――いや、”裁くのはオレのス○ンドだッ!”って、叫びたいじゃん……!
こう言う流れだとさァ――! でも、”オレら”で終わるんじゃあ語呂悪いし――ちょうどオルセット達で複数人いるワケだし――傭兵って、カルカに言ってたから”ノリ”でちょうど良いかな〜? と――。
――貴方が”ノリ”とは軽薄な……
常にッ! 軽薄そ〜な実況している野郎には言われたかねェ〜よッ!
急に真面目腐った雰囲気に変えて言い逃れでもしたいんだろうがッ、こちらとら、毎回生きるか死ぬかの瀬戸際なんだよッ! 意地悪すぎるチー特典の所為でなァッ!?
たまには巫山戯でもしないと、やってられなくなんだよ! クソッタレッ!
――フゥ……では、現実に戻りましょうか――。
イヤッ!? タメ息しないで、オレ達を日本に送りでもしやがれよッ! クソッタレェッ!
To Be Continued →
「Last Enemy」→ボス戦
……と言う訳で、この物語では、章の区切りとなる「ボス敵」を明確に書いていこうと思います。
「Bosu Battle」の方が分かりやすいと思いますが、それだとこの物語の主人公がただ戦うだけ? ……って読み取ってしまいそうなんで……(主人公の通称が「ボス」だからね。 苦笑)
ただ、「区切りにする」と書きましたが、ボス戦後にすぐに次章に入るとは限らないとだけ、言っておきますね。
しかし……ラノベ作品を読んでいると思う事が一つ。
ラスボス早いね~。ご退場が。威厳もクソもない……。
”無双”を前に、強敵達は皆、跪くしかないのか……。(苦笑)
今時、真っ当な「魔王様」達とかの需要ってのが、とことん少ないないのを痛感しちゃいます。
さてさて……与太話もそこそこに、この話の続きは投稿日の”夜20時頃”に投稿しますね。
また仕事が変わり、忙しい関係で更新がまた長くなる可能性がありますが――早く出せるよう努力します――。