Side-RE1 私ノ聲
「私ノ聲」→「ワタシノ"コエ"」
旧字で読みにくい方がいると思ったので載せときました。
ただ、「零」というゲームシリーズや、最近だと「聲の○」という漫画を見たりやったりしている人は知っていたんじゃあないでしょうかねぇ?
そして、今更感が強いですが・・・「リフィル」は一切”口”から言葉を発せていません。
物語の中では流暢に喋っているように見えますが、あくまでそれは”コール(念話)”のスキルを通じての事です。
彼女は、全く”口”から喋れていません。(←重要)
失語症になっている人は、”転んでつまづいた”だとか、”100円落とした”だとかの・・・決してヤワな”精神ショック”じゃあならないものだと私は思っています・・・。
私は、リフィル。
リフィル・ホープティア。元・・・奴隷です。
・・・今は何をしているのかと言えば、開かれた窓の先に広がる淀みきった・・・空を眺めています・・・。
この日最も暖かくなる時刻に近づくにつれ、すっかりと変わり果ててしまった空模様が・・・兄さん・・・イヤ・・・私達の不穏を暗示しているのではいないかと・・・少し憂鬱になってしまっている私がいます・・・。
「リ~ルちゃん!」
『・・・ッ! オルガさん・・・』
「ブ~そこは、オルちゃんだよ~!」
『そうでしたね・・・すみません・・・』
「固ッ苦しく言わなくってい~ってッ! ところで・・・モクモクの空なんか見てて、何をしてたの? リルちゃん?」
『・・・少し・・・考え事を・・・』
言える訳がない。
不安になり掛かっているこの心境も言っても、皆の心に掛かる曇り空をより曇らせてしまうでしょうから・・・。
でも・・・兄さんは・・・この窓の先に見える場所で・・・私たちの為に頑張っています・・・。
頼りにならない私でも・・・少しはこの場の空気を陽光の如く照らす・・・そのような言葉を掛けるのが最善の勤めでしょう・・・。
・・・そうとなれば・・・その言葉を掛けるべく、私はこの商会の屋根裏の窓から、態々(わざわざ)私の元まで脅かしに来た、オルガさんがもたれ掛けている柱の傍へと向かいます。
えっ・・・と・・・「オルガさん」ではなくて・・・
『オル・・・ちゃん?』
「んっ? どうしたのリルちゃん?」
掴みは・・・いいですよね・・・?
『なんで・・・兄さんと一緒に旅をしているのですか?』
「えぇ? ボスと旅ィ?」
『はい・・・』
・・・その前に、今はどうしても兄さんには聞けない事を彼女から聞き出してみましょう・・・。
教国で起こると言われる「海が去ってゆく日」と比べても・・・まだまだ浅い関係性ですが・・・気になる事は、確実になくしていかないといけませんからね・・・。
「ん〜ボスが好きだから?」
『・・・ッ!?』
・・・えっ!? いやいやいやいやいやいや・・・お・・・落ち着いてください・・・落ち着いて・・・
人間達に、「亜人」と蔑称され、迫害されている私達なのに・・・好き・・・!?
な・・・何故でしょうか・・・兄さんの私達に対する扱いが明らかに違うのもあるっていうのは、今までの行動から判りますが・・・少しも疑問を抱かないとは・・・
・・・これが「獣人族」特有の「天然」・・・という気性なのでしょうか・・・?
N:・・・ボスの世界では、「脳筋」とも言えなくない事を、少しも顔色を変える事無く「0.1秒」程で思案した彼女も何者なのであろうかッ!
「リルちゃ~ん?」
『・・・ッ!?』
「どしたの? リルちゃん」
『・・・少し・・・驚いただけですよ・・・。躊躇なく・・・そんな事を言えるなんて・・・』
い・・・今の声は何ッ!? だ・・・ダースさんは今、下でラフィルによって拘束されていますし・・・兄さんへの襲撃の際に使っていた「透明マント」も兄さんによって没収されていますし・・・二人からの連絡でもないのにどこから・・・!?
N:おっと失礼・・・これで良し。
今の一連で何となく推測が立ってしまうかもしれないであろうが、どうか○者の皆様には、見て見ぬフリであって欲しい。
「フ~ン フツーの事だと思うけどな~」
『・・・少なくとも、私たちエルフの間では、そう易々と他人に自身の好意を伝えはしませんよ・・・』
「そ~お~?」
『・・・えぇ・・・。<”森閑”こそエルフの美徳>・・・的確かつ、必要最低限の言葉で相手に自身の意思を伝えるのが、私達エルフにとって好ましい事なんですよ・・・』
「・・・”シンカン”?」
『”物音もせず静まり返っている様”の事ですよ・・・。「静寂」とも言えますね』
「フ~ン・・・ボクは”エルフ”じゃあないんだけどな・・・」
『・・・ッ!?』
い・・・いけない、さっきの謎の声についても思案していた性でしょうか・・・
人間は勿論・・・他の種族にもあまり私達の情報を教えてはいけないと、お父様によく言われていたのに・・・。
「ねぇ、今度はボクから質問してもいいかな?」
『え・・・えぇ、私に答えられる事でなら・・・』
「ん〜と・・・じゃあ〜リルちゃんは、なんで「ボス」の事をなんで「兄さん」って呼ぶの?」
N:一瞬、ボスから渡された帽子とサングラスによって表情は読取りづらかったが、彼女は確かに驚愕し、同時にオルセットから目を逸らす。
しかし、それも一瞬。先ほどの”コンマ1秒”クラスの高速思考を終えたのか、床を見つめながら彼女に思念を送るのであった・・・。
『そ・・・それは・・・言えません・・・』
「え〜? ど〜して〜?」
『も・・・申し訳ないですが・・・先程の事が失言だったからです。
こ・・・これ以上の事は・・・助けて頂いた”兄さん”の仲間である”オルガ”さんでも・・・』
「リルちゃん・・・! (諭すようなチョッピリ張った声)」
『あっ・・・す・・・すみません・・・”オル”・・・ちゃん・・・』
「そ〜そッ。 ・・・でっ? 結局はどういう事なの?」
『・・・幾ら何でも、厚かましくありませんか・・・? オル・・・ちゃん?』
「・・・別に今は”暑く”ないけど? (キョトンと、軽く首を傾げつつ)」
『違いますよ! 恥ずかしい、図々(ずうずう)しいって意味の方ですよっ!』
「あぁっ、恥ずかしいって意味なんだね!
そりゃそうだよ。だってボク達、「仲間」でしょ?」
『・・・えっ!?』
「驚く事かな〜? ボスが認めてたんだし・・・
それに、”仲間”なら、どんな事を言っても恥ずかしい事なんて何もない!
・・・って、ボスが言っていた気がするよ?」
『えっ・・・いや・・・なんで・・・』
N:「そっちの意味じゃあないのに・・・!」
そう、内心に思う彼女であったが、奥手な部分があるのだろうか・・・何故かそれを心から喉へと搾り出す事ができなかった故に、微妙な返事を返してしまったのである。
しかし、それに対し、オルセットの返事は彼女の予想を、斜め45度以上にひっくり返す物であった・・・。
「・・・ボクね、記憶がないんだ・・・」
『えっ? 記憶が・・・ない!?』
「うん。ボスと会う前の事、全部。」
『そ・・・そんな大事そうな事・・・私に話していいんですか・・・?』
「ボスには、怒られそうだけどね。
けど、これでお相子でしょ? リルちゃんの聞いちゃいけない事、ボクは聞いちゃっているからさ」
『・・・・・
(表情には出ていないが、床から顔を上げ、非常に驚嘆し、彼女の顔を見つめている)』
「ボクはね、スゴイと思っているんだよ? リルちゃん。
突然誰かも分からないような人に攫われて・・・6年も自分の帰る場所に帰れなかったのに、今、こうしてボスに助けられた後でも、お母さんの為に逃げずにいるって事が」
『・・・・・』
「ホントにスゴイ事なんだよ?
ボクはボス以外、大切に思える人がいるなんてのは分からないし、これからずっと・・・思い出す事もないかもしれないんだよ?
だけど、リルちゃんには、「ラルくん」がいる・・・。助けようとしている「お母さん」がいる・・・。
まだまだ臆病なボクよりも、ずっと、その人達のために行動できている・・・そんな”スゴイ”リルちゃんと、トモダチ・・・ボス風に言えば、ずっ~と! 「仲間」でいたいって思うのは・・・ダメかな・・・?」
『・・・・・
(しばらく彼女の目を見続けた後、ゆっくりと体育座りに座り直し、再び地面を見つめる)』
ー人間と仲良くだと? バカバカしいッ!ー
ーはっ! 仲良くしたい!? お高く留まったエルフ様が何を言ってんだか!ー
ーじゃあ・・・俺と友達になろうか! ・・・今度、俺の友達を紹介するよ・・・ー
-あ~イミコだ~イミコだ~ー
ーおいっ! イミグロもいるぞ~! 早く離れないと、あの剣に真っ二つにされっぞ~-
ー禁忌から出来た、出来損ないが何を言う! 貴様などには”エルフ”は愚か、”人間”でさえも誰一人として”友”ができると思うな! この恥さらしめがァッ!ー
ー・・・悪いな、今後会う他の友達とも仲良くしてくれよな。・・・友達である俺を助けるために・・・ー
ー友達? 仲間? 奴隷の貴様が何を言う・・・?ー
ー(犬のような獰猛な獣の声が聞こえる中)さ〜て、これがお前の新しい”仲間”達だ。まぁ・・・精々食い殺されないよう、しっかり世話しろよ〜ー
ーデゥフェェ〜恥ずかしがらないでよ〜。僕たちは〜ナ・カ・マッ! でしょでしょ〜? 野蛮人ちぅぁゃ〜ん?ー
ーすみません・・・すみません・・・ご主人様・・・あの子達は悪くないんです・・・!
N:走馬灯の如く出ては消え、彼女の中を渦巻いてゆく「仲間」に関する記憶達・・・。
記憶の中の彼女の視線には、罵る彼らの明確な姿は映されず、誰もがぼやけているか、姿なき声が無機質な文字と共に、出ては消えていくのであった・・・。
・・・いや、失礼。この二つに共通して映っているのは「口」だ、「唇」、「口」である・・・。
それだけは、彼女にはハッキリと見え、今でも目を瞑る彼女の周囲には無数の唇が浮き、容赦ない罵倒を彼女に浴びせ続けているである・・・。
「私に・・・仲間・・・?」
痛み、恐れ、期待・・・この彼女の心の中に浮かぶ一言が、未だ答えられずにいる彼女の中で渦巻く感情達が、彼女の心の扉を硬く閉ざしていた・・・。
一言・・・一言・・・ジョジョに思い出す度に、両腕の中に顔を埋めてゆく彼女に、”一歩”踏み込む事を躊躇させていたのである・・・。
「怖い・・・怖い・・・怖い・・・!」
大丈夫だよ・・・。
・・・エナ?
何を言ってるんだよ? 僕達以外の新しい「仲間」ができるチャンスなのに、何で戸惑っているんだい?
・・・アラナ?
N:・・・忠告しておこう。
これは、決して彼女の幻聴であったり、妄想などではない・・・。
彼女が生まれてから常に付き従っている・・・彼女にしか見えず、聞こえず、感じ取れない・・・そんな友人である小さな”二人”だ。
その二人が、彼女の耳元に浮かびながら、語りかけているのだ・・・。
大丈夫だよ・・・あのニンゲンと、ジュウジンには、リフィーとラフィーをイジメてきたヤツらとはチガうモノをカンじるよ・・・。
・・・分かっていますよ・・・エナ。
彼らが私達に非常に友好的な事は・・・。しかし・・・
もぉ〜しかしもカカシもじゃあないよ! 明らかに今までの奴らとは違うじゃあないか!
・・・分かっています・・・アラナ。
身勝手に近い事をしても・・・私を攻めずに接してくれた彼らの事は・・・ですが・・・
ラフィルがッ・・・何だろ?
・・・・・えぇ。 どうしても・・・伝わらなくて・・・。
・・・しょうがないよ。本来なら僕達が一人ずつ君達に、付き合ってゆくハズだったのに、生まれた頃から今までの事を考えるとね・・・リフィー以外「信じられない」って言うのが・・・。
・・・申し訳ないです・・・。私も・・・ラフィルの事も・・・。
ブゥ〜し〜つ〜こ〜い〜! リフィー、もっとジシンをモってよ〜!
そ〜だよ。生まれた頃から誰でも「信じる」事を疑わない心を持った君だからこそ、僕達兄妹の力を使いこなせているんだろ? だからこうして君には、声が聞こえる。
そして、あの「ボス」って奴が、ここの領主の一人をブッ飛ばしてきたって事も伝えられる。
・・・ッ!? 「兄さん」が・・・!?
そ〜だよ〜!
あのデブが、ブッ飛んで行く様は、中々傑作だったよな〜。
こう・・・スカッとするような、後味爽やかさがね〜。まぁ・・・オレはエナじゃあないけど。
・・・クスッ。
なんのハナシ〜?
んっ? まぁ、エナにはど〜でもいい話だよ。
へぇ〜。
さてッ、これでもまだ悩み続けるつもりか? リフィー?
・・・引き続き・・・兄さんを見守っていてください・・・。
オッケ〜。んじゃあ、行くぞ、エナ。
うんッ!
N:淡い黄緑色に光る小さな二人が、リフィルが開けていた窓から飛び立ってゆくのを、彼女は感じていた。
そして、オルセットの体感的には、1分程ぐらいであったが、彼女には数時間にも感じられたこの間の後・・・彼女は一つ、深呼吸をした後、少しばかり顔を上げオルセットの方に向けた。
『・・・・・少し・・・先程の”呼ぶ理由”を・・・話すのであれば・・・』
「・・・?」
『過ぎ去りし時を、懐かしまずにはいられなかった・・・兄さんの行動に、”兄さん”と呼ばずにはいられなかった・・・とだけ言えます・・・』
「・・・過ぎ去りし時?」
『こ・・・これ以上は、駄目ですッ!
これ以上は・・・私でも・・・先程のオルガさん以上に・・・厚かましく・・・とても愚かしい理由を言わざるを得なくなってしまいますからね・・・』
そう・・・兄さんはもういない。
あの頃の兄さんは・・・
〜グゥゥゥゥゥゥ〜
N:一つ、言っておこう。
この音は、この商会内で眠りこけている者の音ではない。
今し方、軽く腹を摩りながら、ほんのチョッピリ赤面している”オルセット”が鳴らした音である。
ただ、彼女のプライバシーを守るために、何の音かは割愛し、彼女が舌をチョロっと出した後に語り始めたとだけ言っておこう。
「へへっ、なんだかお腹空いちゃったね・・・」
N:そう言った後、彼女の両手が”黄色”に輝き出し、消えたかと思えばいつの間にか彼女の両手には、とっくの昔に食べ終えたはずの「缶メシ」が握られていたのだ。
驚愕の表情を隠せないリフィルを余所に、彼女は近くに置いてあった大型バックパックから、それぞれ持ち手にオレンジと、黄緑色のビニールテープが巻かれたスプーンを取り出す。
そして、唐突に爪を伸ばし、それを缶に突き刺して缶切りの如く開け始めたのである。
『えっ・・・ちょ・・・ちょっと! オルちゃん!?』
「んっ? リルちゃんも食べる?」
『な・・・なんで、オル・・・ちゃんも”兄さん”の召喚魔法を使えるんですか!?』
「アレッ? 言ってなかったっけ? ボスの「バディバンズ」を受けた人は、ボスの能力を借りる事ができるんだ。
ボクの回復魔法で、リルちゃんとラルくんをボスが治療したようにね」
『あ・・・あんな高度な回復魔法が・・・兄さんの物じゃあない・・・!?』
「そ〜だけど?
・・・あっ、そう言えば・・・ボスはさぁ、ボクに会うまで”クリッカー”の魔法も使えなかったんだよ〜」
ス・・・スキルの貸し借り・・・ッ!?
て・・・提供だけでなく・・・供給までして貰えるなんて・・・
益々、兄さんの持つスキルがどんなものなのか・・・常識破り過ぎて・・・り・・・理解が追いつかなくなりそうです・・・!
・・・それはそうと・・・
『そ・・・それはそれで衝撃の事実ですが・・・リル・・ちゃん?』
「んっ? なぁに?」
『そ・・・それ以前に・・・兄さんに、爪でその・・・”カンヅメ”というものを開けてはいけない・・・と言われましたよね?』
「ベ〜つにイイ〜んだよ。(そう言って缶を開け始める)
ボスは、「エイセイ」だの、「ビョウゲンキン」だので、これをしているとお腹を壊すぞ〜!
・・・なんて、言ってるけど・・・変だよね?
ボクは一度もそんなことになった事ないのに・・・」
『そ・・・それはいけませんよ!
どんな物にも、必ず「穢れ」や「呪い」が付いているんです。
それを、清めた水などで祓いもせずに、食したり使う事は非常に危ないんですよ!』
「・・・それもまた・・・エルフの事?」
『ッ!?(思わず、左手で口を塞ぐ)』
「ハハッ、リルちゃんって、面白いね(ニッと、笑顔に言う)」
『・・・・・(拗ねるように再び体育座りに体を背け)不覚です・・・』
「まぁ、そう落ち込まないで、一緒に食べよ~リルちゃん(開けていない缶を差し出す)」
『・・・・・”お肉”はちょっと・・・(差し出された缶の方向をチラリと向きつつ)』
「えっ!? なんで分かったの!?」
N:狩りをすることはあれど・・・「肉」はエルフが余程の事がない限り、好んで食べる事はないのに・・・と、失言しそうになった彼女であるが、無自覚なのか、彼女の解説が続く・・・。
『それは分かりますよ・・・先程、オル・・ちゃんは、一人で3缶も食べていましたからね・・・。
置く音と、全部が鳥らしき芳香が漂ってきたので、予想は付きましたよ』
「スゴ~イ! あっ! じゃあ”セキハン”出すね!」
『いや・・・ちょっと・・・(再びオルセットの手が黄色く輝き始める)
ハァ・・・オルちゃん・・・』
「ハイ、ど~ぞ!」
N:再び差し出された”赤飯”のカンメシを、両手でぎこちなさげに受け取った彼女は、少し缶を見つめるように、缶の方へ意識を向けるのであった・・・。
「仲間」・・・かぁ・・・。
N:彼女の心が大きく揺らぐ・・・。
それを、先程の彼女の心を覆いつくそうとした言葉で表現すれば、「今は”期待”が”巨大キ○コ”をゲットした」状態であり、今にも残る2つの言葉をジョジョに圧迫させてゆく勢いであるのだ・・・ッ!
そして、既にカンメシ一缶を”幸せそうな表情”で食べきっていたオルセットを横目に感じると、彼女の口角は僅かに上がり・・・昨日の記憶を頼りに、缶詰についた”缶切り”を指でなぞって探し始める・・・。
孤豹族と森聖族・・・外見、習慣、信念、信仰、言語・・・あらゆる点で異なるこの二人の間に、小さくも・・・しかし、世界にとっては大きな一歩である「種族を超えた絆」が・・・
「ッ!? オイッ! お前どこから・・・!? ッ!? オイッ! やめろ! やめろ!!
クッソッ! てめえッ!!! なんなんだぁあああーーーーッ!!」
~ダバッッキオンッ!~
「グワァァァァァッ!?」
N:・・・芽生え始めると思ったところで・・・ッ!
『ッ!? ラフィルッ!』
「待って! リルちゃんッ!」
N:・・・不服であるが・・・不服であるがッ!
ここの状況を説明すると、リフィルがゆっくりとカンメシの缶切りを見つけた直後、1階からラフィルの叫び声が聞こえ、それにいち早く反応した彼女が、ガッチリと掴んだオルセットの制止を振り切らんばかりの勢いで走り出そうとしたのであるッ!
『は・・・放してください・・・! ラフィルが・・・ラフィルが・・・!』
「落ち着いて! リルちゃんがボスより強いのは分かるけど、リルちゃんが助けに行くべき状況じゃあないでしょ!?」
『でも、ラフィルが・・・ッ!』
「落ち着いて! 落ち着いてったら!(何とかリフィルの両肩を押さえつけ、膝立ち状態にさせる)
フゥ・・・いいかい、リルちゃん? ここで・・・待ってて。ボクが・・・見てくるから・・・」
『で・・・でも・・・でもッ!』
「・・・安心して、リルちゃん。ボクはこう見えてもリルちゃんが信じている”ボス”よりも強いんだよ?」
『本当・・・ですか?』
「うん・・・後でボスに怒られそうだけど・・・実はリルちゃんよりも、ボスは弱かったりする」
『・・・えっ!?』
「リルちゃんは・・・弱い人しか・・・信用できないのかな?
ボ、ボクみたいな・・・強い・・・人は・・・信用できないの?
(彼女の両腕が小刻みに震えてくる・・・)」
『・・・(口に片手を当てながら、伝えるか迷っている)』
「・・・ボクは、リルちゃんと仲良くなりたいと思っている。
だけど・・・それ以上に”ボス”・・・リルちゃんの言う”兄さん”と、”信頼”関係を結んだように、ボクもリルちゃんと”信頼”関係を強く結びたいんだ・・・
だから・・・その・・・”イッカン”って、言えば良いのかな・・・? リフィル・・・の事を”シタシミ”・・・っていうのを・・・を込めて「リルちゃん」って呼んでるんだよ・・・?」
『・・・』
「お願い・・・ボ・・・ボクを信じて。ボクを信じて・・・ッ!
(僅かばかりだが彼女の震えが増し、俯きそうになるのを堪えながら、必死にリフィルの目を見つめている)」
N:・・・悪い弁解に聞こえてしまうようで申し訳ないが、現状・・・リフィル達の”母親”の安否が定かでない中、彼女にとってラフィルは生まれた時から今日この頃まで、苦楽を共に生き抜き、最も理解ある理解者であり、”一心同体”とも言える欠けがいのない"肉親"なのだ。
だが・・・全く面識のない相手に、”諸君”や”諸君の大切な人”が命の危険に晒された時・・・守ってくれ! ・・・と唐突に助けを求められるであろうか? ・・・その現状が今、正に起きている・・・ッ!
生存本能という”セーフティロック”が、これ以上彼女の心を抉り蝕んでゆく「虚空」を、食い止めようとしているのだ・・・! 「もし・・・助からなかったら・・・?」という事態に備えて・・・ッ!
『・・・・・分かりました・・・・お願い・・・します・・・!』
N:だが違った・・・。
彼女は生まれて初めて「仲間」というものに本気で賭けてみるのであった・・・!
小さくも大きな彼女の賭けだ・・・。
「ありがとう・・・。 絶対・・・絶対、守って見せるね・・・」
『はい・・・お願いします・・・』
N:一階までの距離は10mにも満たない程の短めの距離であったが、オルセットは持ち前の俊足を生かし、さっそうと一階へと駆け下りて行くのであった・・・。
『杞憂であって欲しいのですが・・・』
N:しつこいようだがッ言わせてもらう・・・。
それは、フラグである。 些細な事程、当たる事この上ない、れっきとしたフラグが立ったのである・・・ッ!
『・・・・・・・ッ!(唐突に見つめていた階段から、背後に視線を移し)
誰ッ・・・・レェ・・・・・』
N:彼女が背後を向いた瞬間、何者かに片手で口を押さえつけられ、意識を失ってしまう・・・。
両足の力が抜け、大きな音を立てようと彼女の体が床に猛進するも、それを受け止め抱え込んだのは、先程の”手”の持ち主であった・・・。
「・・・全ては救済のために・・・」
N:小さく・・・大きくにやけた口から言い放たれたその言葉は、低く・・・狂気を孕んだような物言いであった・・・。
読んでいただき、ありがとうございます・・・。
自分の中では、文献や伝承でエルフ達は”知識・文化人”で、あまり人と関わりを持たない”閉鎖的な種族”なら・・・小説内のように”寡黙”に近く、だけども実は色々と心の中では詩人・・・ポエマー的に物事を見て言ってんじゃあないかな?
・・・と、解釈して、リフィルの心情を描いてみました。
(喋らない人は、大抵、頭の中で喋りまくっている・・・的な感じで)
また、宜しければ誤字、脱字がありましたらご報告頂けるとありがたいです・・・。
※2018年7月13日、”リフィル”と”オルセット”のセリフを一部修正しました。
(・・・どうやら二人共、動揺しすぎて呂律が回っていけなかったっぽいですね・・・(汗))
※2018年8月8日、”N”のセリフを一部修正しました。
(エルフ姉弟の絆を熱弁する余り、無意識に舌を噛んでいたみたいです・・・(汗))