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短編小説

喜怒哀楽

作者: Nagare〆

子供の頃は、よく泣いたり笑ったりしていたはずなのに、

いつの間にか喜怒哀楽の感情の表現の仕方を忘れてしまった。


大人になったからだという言葉をよく聞くけれど、

いい大人になっていても表情豊かな人は、結構いるもので、

さらに、表情豊かということがマイナスになっているとも

思えない場面が多々あったりする。


顔に表情を表さないことは、冷静沈着だという人もいるけど、

さて私は、本当に冷静沈着といえるだろうか?


毎日が、判で押したように同じように過ぎていく。


時には、それがたまらなく怖くなったりもするけれど、

だからといって今の生活を変えるつもりもない。

それって、きっと、多少の不満はあっても、

満足しているんだと思う。



今日もまた、特に変わった事もなく1日が過ぎた。

いつものように、車を止めている職場の駐車場へと向かう。


すると……


あれ?子供?


3才くらいだろうか?

小さな女の子が車の前で泣いていた。


「どうしたの?」


子供の目線と同じくらいの高さになるようにしゃがみこみ、

声をかけてみた。

すると女の子は、さらに大きな声で泣き出した。



えっ?どうして泣くの?


親切心で声をかけたのに何だか面倒な事になりそう。

でも、私の車の前にいるんだもの

声をかけない訳にはいかなかったわけで……


私は、女の子の機嫌をとろうと必死でたくさん話しかけた。

でも、女の子は、なかなか泣き止まない。


もう、どうして?

私が何をしたっていうの?

この子供、一体、どこの子なのよ!



つい、イラっとして


「いい加減にして!」


と、大きな声で言ってしまい、

しまった……と、あわてて女の子の顔を見ると、



…………なに?


女の子の顔の皮膚が、どろどろと溶けていって、

骨のようなものが見えだした。

そして、何を聞いても答えないで泣いていた子供が、

苦しそうに声をだした。


「かなしいんだよ。泣きたいんだよ。苦しいんだよ。」


「ダレカタスケテ……。ホウカイスル……。」



どんどん溶けていく女の子の言葉に、

私は、はっとして思わず

子供のように泣きながら強く抱きしめていた。



「ごめん。ごめんね。気がつかなくて。

消えなくていいんだよ。ここにいていいんだよ。

悲しかったね。つらかったね。苦しかったね。

大丈夫だよ。ここにいていいんだよ。」



この子は、忘れたはずの幼い日の私。


3才の時に事故で両親を失って

私のこれからについて親戚達がもめてる場面を見て、


『私は、今から大人になる。』


と、強く誓って置いてきたあの時の私。



悲しかった。


泣きたかった。


不安だった。





でも、あの時は、泣ける場所がなかった。





もう、いいんだよ。

今の私なら、あなたをたくさん泣かせてあげれる。


もう、大丈夫だよ。

今の私なら、あなたを守ってあげれるから。








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― 新着の感想 ―
[良い点] 心に訴えかける主題と唐突なストーリー展開が本当に僕自身を揺さぶってくるのを感じました。 [気になる点] もっと平和な日常の表現に重きを置いて書いてみると安心感が出てきていいんじゃないかなと…
[良い点] ファンタジー要素も入っていましたが、全然、違和感なく読めました。主人公の思いが心にスッと入ってきて、胸があたたかくなりました(^^)
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