永久に
目を閉じ、静かに手を合わせる。
「ねぇ、あなた」
いつの間にか妻がこっちを向いていた。
「ん?」
「わたし、どのくらい寝てた?」
「なあに、ほんの少しだけだ」
「そう」
少しだけ微笑むと、ぼんやりと呟いた。
「夢を見てたの」
「夢?」
「ええ、イチョウの並木道を二人で散歩してたわ」
妻は思い出したようにくつくつと笑う。
「あなた、夢の中でも心配してばかりなんだもの。いいかげん直したほうがいいんじゃない?」
「しょうがないだろ、心配性なんだから」
性格は一朝一夕で直せるものではない。それに口調からするとそれほど直してほしいとは思ってないだろう。俺は勝手にそう解釈した。
「ふふっ、でも私も惜しいことをするわね。あと少しですもの」
俺は何も言わない。妻は呆れたようにそっと息を吐いてから続けた。
「たまには会いに来てね?」
「いつでも行くさ」
「たまにでいいのよ。でも、来たときにはお花をプレゼントしてくれると嬉しいわ」
「ああ、ついでに掃除もしてやる」
「ありがと」
妻は本当に嬉しそうに目尻を下げた。
俺はどうしようもなく愛おしくなり妻の痩せた手を両手で優しく包み込む。
「愛してる」
「あら、二度目のプロポーズ?でもあなた、いい人見つけないとダメよ」
妻はおどけて笑って見せるが、瞳は濡れていた。
俺は茶化さずに心の内を吐露する。
「ずっと、愛してるぞ」
やや間があってから、妻は答えた。
「・・・わたしもよ」
数秒か数分か、手を握って見つめあったままでいた。
「わたし、なんだかまだ寝たりないみたい」
「ずっとこうしているから」
「ぜったいよ?」
「ああ」
満足そうに笑う妻の瞼がだんだんと下がっていく。
妻はやがて、安心して眠りについた。
「・・・おやすみ」
静寂が身を包んで放さなかった。
油蝉の鳴く声がする。
目をゆっくりと開いた。
「また来るぞ」
俺は手桶と柄杓を持ち、その場を去った。
唐突に思い浮かんだお話です。
この物語の中では主人公が一年のうちのある期間に何かをしています。
それを読み取ってほしくて書き表しましたw