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第35話 企業秘密




「何でお前まで驚くんだよ?」


 聞き返す自分たちの声に混じって似たようなリアクションを取るイライジャに、ナツメは正確無比な突っ込みを入れた。


 この状況で置いてきぼりになっているのが、サイラスだ。

私たちがラピッドキングを討伐したという事実は噂話で聞いて知っているけれど、その時は自分が当事者で無かったが為に、目の前の人物が鑑定をしたと聞いても「ああそうなのか」くらいにしか思えないみたいね。


「すまぬ。だが、君たちが先日のあの巨大な兎を倒したという、探索者パーティーなのか?」

「え? ええ、まあ……」

「何と! こんな偶然もあるのだな。私は君たちに聞きたい事が山ほどあるんだ。君たちはどうやってあの魔物を倒したんだ? 全身に満遍なく打撲による鬱血が見られたが、どうやってあの素早い魔物をあそこまで叩きのめした? それに恐らくあれはトドメだろうが、あの星形の深い傷痕は何をどうやったらああなる?」


 謝りつつ、それでも好奇心を抑えきれない様子でイライジャは訊ねてくる。

最初の質問についうっかり答えてしまったのが運の尽きだった。

肯定するや否や、イライジャは身を乗り出し、こちらの手を取って私たちを質問攻めにする。


「あの打撲は……えーっとそうだな。俺のスキルでテキトーにだな……」

「スキルとな? それはいったいどのようなスキルなんだ?」

「それは……あれだ。企業秘密だ」

「秘密……。どうしてもダメなのか? 教えてはくれぬのか? それは天地が引っくり返るような重要機密なのか?」

「いや……、ぶっちゃけ説明が面倒なだけなんだが」

「ならば何卒、何卒……!」


 イライジャの熱意は凄まじかった。

うっかり面倒だなんて本音を洩らしてしまったナツメに、それはもう果敢ににじり寄り、這い寄り、詰め寄っている。


 拝み倒され、涙ぐまれ、嘆かれる。

何が彼をそこまで突き動かすのかは解らないけれど、一つ自信を持って断言出来る事は、イライジャが変人であるという事だった。


「参ったな、こりゃあ。シャンヌ」

「嫌よ。私に押し付けないで。元はといえば、ナツメが口を滑らせて余計な事を言うからでしょう? だいたい、説明なんて私には向いてないもの」

「……仕方ないな。こういう時こそ僕に任せろ」

「いいのか?」

「悪いわね」


 しがみついて離れないイライジャに窮し、どちらが説明をするかという問題を互いに押し付けあうナツメと私に代わって名乗りを挙げたのはサイラスだった。


 後にして思えばやけに気前の良い発言だったけれど、その時の私たちは説明の煩わしさから逃れたい一心でそれに気付かなかった。


「イライジャ、だったかな?」


 そう言って、サイラスは錬金術師と向き合った。


「いかにも」

「いいかい? 世の中には道理というものがある。そして掟というものも同時に存在する。そんな中でも、物にはそれ相応の対価が必要という万物共通の絶対の掟があるが、君はラピッドキング討伐の情報をタダで寄越せと言っている。虫の良い話だとは思わないか?」

「……確かにそう言われてみればそうだな」

「解ればいい」

「して、いくら払えばいい?」

「100万で手を打とう」

「よし、払おう」

「毎度! じゃ、説明宜しく」


「いやいやいや、ちょっと待ちなさいよ!」

「おい!」


 黙って聞いていて、途中から話の流れがおかしいとは思っていた。


 もっともらしく言ってはいるが、サイラスの言葉を端的に説明・要約するなら、「金出せやコラァ!」だ。


「待てって、しっかり料金を徴収してあげただろう? 何をそんなに慌てている?」

「誰もそんな事頼んで無いわよ! 説明して来いと頼んだつもりなのにどうしてお金を巻き上げてくるのよ!?」

「だいたい、お前もお前だよ! 何でそんな大金を持ち歩いている? 何でそうも簡単にポンと出せるんだ? 金持ちかっ!」


 おそらく金貨がジャラジャラと詰まった袋の中身を改めつつ、見当違いな発言をするサイラスに私が堪らず叫べば、ナツメはナツメでイライジャに突っ込む。


 100万ゴールドというサイラスの言い値が妥当かどうかはともかく、普通なら何の躊躇いもなく支払える金額ではない。

我が家のような財政難の家庭でなくとも、だ。


 しかし、今回に限っては常識外れなイライジャの謎の財力によって、トントン拍子に話が進んでしまい、止めに入ろうとした時にはもう遅かった。

こんな騒ぎの最中でも、クレアさんは我関せず沈黙を守っている。

ギルド外でのトラブルには干渉しないという言葉は本当のようだ。


「100万ゴールドなど、私の錬金術にかかればどうという事も無い。それよりも早く例の件を」

「って言われてもな……。俺のに関しては口で説明するより、実際に見てもらった方が早いんだよな……」

「ならば、ちょうどいい。私はこの辺りの薬草を採取する予定だったのだ。適当な魔物を相手に見せてくれればいい」


 こちらの都合はまるで無視なのかという言葉が喉元まで出掛かったが、飲み込む。


 お金はサイラスが受け取っている。

これで教えなければ詐欺だ。


「そうと決まれば、まずは腹ごしらえね」


 何をするにしても、まずはお腹を満たしてからが基本だ。


 十数分後、ナツメが焚き火で焼いてくれたスニーク・スネークの蒲焼きを頬張る私たちの姿がそこにはあった。



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