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第27話 風が如く




 今この瞬間、私は初めてクレアさんに感謝の念を抱いていた。


「やーい、怒られてやんの」

「うるさいな!」

「お前はガキか!」


 囃し立てればナツメに突っ込まれるが、そんなものは気にしない。

気取った美形の顔が崩れるのを見るのがひたすらに愉快だった。


 遠巻きにして見ていた魔女っ子たちは、幾ら美形といえどケチな男はお断りのようで、「何あれ~?」と残らずドン引きしていた。

これで彼も暫くは商売出来まい。


「ですが、一歩そこから出ればギルドの管轄外ですわ」

「なっ……!」


 足取りも軽くギルドを後にしようとしてクレアさんに思わぬひと言をもらい、ニヤリとサイラスの唇が弧を描くのを見てサッと飛び退く。


「お前が調子に乗るから、ほら言わんこっちゃない……」

「クレアさんは私の味方じゃなかったの!?」

「私はどちらの味方でもありませんわ」


 つくづく食えない人だと思った。

味方のような発言をしたかと思えば、ひらりと掌を返してみせるクレアさん。

あくまでギルドは中立を保つ姿勢だと言いたいようだ。


「これじゃ帰れないじゃないの! どうするのよ?」

「それもこれも、全部お前のせいだろうが! ……いいか、シャンヌ。この線を一歩踏み越えたら、全力疾走だ。風のように駆け抜けろ」

「任せて。ラピットキングほどじゃないけど、足の速さには自信があるわ」


 遂に迷宮探索で鍛えたこの黄金の逃げ足を衆目に晒す機会が訪れたらしい。

ナツメがギルドの入り口から見える通りの先を指差す。

後はタイミングの問題だけだった。



「ところでサイラス様は本日はどのようなご用件で当ギルドにお越しですか? まさか、また女性を鴨にしに来られたのではございませんわよね?」

「ああ。実は、人を捜していてね」


 飛び出す時宜を今か今かと待ち構えてサイラスの様子を見守る私の耳に飛び込んできたのはそんな会話だった。

取り繕うも何もあったものではなく、はっきりと胡散臭そうな視線をクレアさんはサイラスに投げ掛けている。

そのぞんざいな扱われ方に、微妙に親近感を覚えるのが嫌だ。


「【異端の求道者たちヘレティカル・シーカーズ】という探索パーティーの者たちを捜しているんだが……」

「あら?」


 全神経を尖らせていた私は、ふいに飛び込んできたサイラスの口から語られたそのパーティー名に虚を突かれる形となった。


「こういう偶然って、あるもんなんだな」


 覚えの有り過ぎるその名前に、ナツメも思わず反応してしまっている。


「【異端の求道者たち】なら、彼らがそうですわよ」

「おや?」

「げっ……」


 こちらの事情などお構い無しにあっさりとバラしてしまうクレアさんに内心で恨み言を唱えたのは致し方無い。


 【異端の求道者たち】とは私たちの事だ。


 同時に振り向いたサイラスとバッチリ目が合い、じりじりと後退る。


「君たちが【異端の求道者たち】なのか?」

「え、いや、その……」


 ズンズンとこちらに向かって容赦なく突き進んで、問い詰めてくるサイラスに、私は言葉にならない声を発する。


 何かヤバイ感じがするのだ。

正直に答えてはいけないような気がする。


「どんな人たちかと思ったら、案外凡庸だな」

「悪かったわね、凡庸で!」

「おい!」


 繰り返すが、正直に答えてはいけないような気はしていたのだ。

だから警戒もしてはいた。

だが、それでもうっかりという事はある。


 ナツメに肘で突っ込まれて初めて、己の失言に気付いた。


「どうしよう?」

「こういう時はな……三十六計逃げるにしかずだ!」

「何よ、それー!?」


 絶叫しながらギルドを飛び出し、ナツメと競い合うようにして風のように街中を駆け抜けた。




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