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第16話 快進撃の始まり



「今日はこいつを換金に来たんだ」


 そう言ってナツメがカウンターに山盛り置いたのは大量のラピッドラビットの毛皮とサベージウルフの素材だった。


「ラピッドラビットの毛皮ですね。小が一枚20ゴールド、中が一枚30ゴールド、大が40ゴールド。小17枚、中13枚、大9枚。それからサベージウルフの毛皮が1枚1000ゴールド。状態が良いので少し色をお付けして……。締めて3100ゴールドですね」


 クレアさんはものの数分で毛皮の検品を終え、お金を渡してきた。

彼女を単なる受付嬢と侮るなかれ。

こういうありふれた素材は彼女がサクッと鑑定してしまうのだ。

毛皮はラピッドラビットの討伐証明部位だから、鑑定する機会も多い。


 ちなみに、ラピッドラビットの肉が換金リストに入っていないのは私が食べると言い張ったからだ。

肉さえあれば、他の食材が少なかろうと気にならない。


 全部食うのかとナツメに呆れた目を向けられたけれど、それも私にとっては些細な事だった。

肉ひと切れを笑う者は肉ひと切れに泣くのだ。


「以上で御用はお済みでしょうか?」

「いや、実はまだあるんだ。つーか、こっちが本題なんだが……こいつの鑑定をお願いしたい」

「と、仰いますと?」

「ああ、悪い。ちょっとそこから出てきてもらえないか? カウンターに乗り切らねぇんだ。俺とシャンヌ二人がかりでも持ち上げられそうにないし……」

「いったい、何をお持ちになられたんですか? そんなに大きな物を運び込まれているようには見えませんでしたが……。それに鑑定なら私などより、ナツメ様ご自身の方が優れていらっしゃるのでは?」

「自分で鑑定して、後で因縁を付けられたくないんでね。一時の利益を優先するなら個人的に買い手を募って売りつけた方が断然儲かるだろうが、ギルドに目をつけられたり、顧客と揉めたりする可能性を考えると最初からギルドを通した方が安全だ」


 珍しいものを比較的見慣れているであろう学者が、勿体をつける物。

それはいったいなんなのかと興味が沸いたらしいクレアさんは、ナツメの言葉に従ってカウンターを出てきた。


 滅多に見ない光景に自然と、ギルドを訪れていた他の探索者たちの視線が集まる。


「やっぱり何も無いじゃありませんか」

「そう急かさないで下さいよ、これから出すところなんで。……ちょっと、その辺りを空けてもらえると助かります」


 受付の順番待ちで私たちの後ろに並んでいた人々に少し下がってもらってから、ナツメは見た目は何の変哲も無い、ところが実際はありふれてなどいない魔法鞄を取り出した。

それを足元に置き、片手を突っ込んで何か中を探るような仕草を見せる彼。


 やがて彼がむんずと掴んで引っ張り出したのは、巨大兎の耳だった。

と言っても、まだ先端しか出てきていないのだけれど。


「何かと思えば、またラピッドラビットじゃないですか。からかわないで下さい」

「いいえ、よく見て下さい」


 早合点して、カウンターの中に戻ろうとするクレアさんを引き留める。

同時に外野からの野次も視線で押し黙らせた。


「よっと……」


 気合いを入れたナツメに引っ張られるのに従ってずるずると次第にその全貌を明らかにしたモノに、周囲は釘付けになった。

あちらこちらから息を呑む声が聞こえ、冷やかしムードだった場の雰囲気が一変する。


「何なんですか、この巨大なラピッドラビットは……?」


 ギャラリーの声を代表したのはクレアさんだった。


「ここから程近い、初心者向けの迷宮に隠し階層があった。そこにいたのがコイツだ。こんな見た目だが、コイツは通常のラピッドラビットなんて目じゃないくらい動きが素早くてな。駆け出しの探索者なら、ひとたまりも無いだろう」


 ナツメの爆弾発言に周囲はガヤガヤとざわついた。


「あの迷宮にはそれこそ何百人という探索者が潜っている。今更新発見なんて有り得ない」

「いや、しかし可能性が全く無い訳では無いだろう?」


 漏れ聞こえる声で一番多いのは、たった今耳にしたばかりの話が嘘かまことかという議論だ。


「隠し階層だなんて、どうやって発見されたのですか?」

「それはタダでは教えられないな。こういう有用な情報は、それに見合う報酬がもらえる筈だよな?」


 誘導尋問をするように訊ねるクレアさんの巧みな言葉にもナツメは騙されなかった。

私だったら、あっさり情報を流してしまいそうな場面で、きちんと踏みとどまって強気に出る。


「他にも、隠し階層のある迷宮が見つかるかもしれない」

「ホラを吹いてんじゃねーよ!」

「そうだそうだ!」


 どちらかというと、否定的な見解を示す者が多かったが、ナツメはそんなものはまるで気にしていない様子だった。

それどころか、不敵に笑んでみせる。


「俺の話を信じるか信じないかは自由だ。だけど、端から疑って掛かったせいで、乗り遅れてお宝を逃して悔しい思いをするのはアンタらだぞ? 俺の話が本当かどうかなんて、自分で例の迷宮に潜ってみればすぐに判る話だろう?」


 ギルド内のあちこちから、ごくりと唾を呑む音が聞こえた。


 新モンスターの発見、迷宮の攻略情報。

これらには情報料と称して、ギルド側から別途報酬が支払われるのだ。

それだけでなく、ギルドに大きく貢献した者としてその名前は積極的に広められ、探索者ランクも内容に応じて上昇する。

ランクが上がれば、それまで立ち入る事の出来なかった迷宮に踏み込めるようになり、より効率的に稼げるようになる。


 次から次へと作り変わっていく迷宮の新情報はともかく、新モンスターの発見などここ数年とんと聞かない。

私たちが持ち込んだ魔物が本当に未発見の魔物だったならば、報酬は跳ね上がるだろうと誰もが予想した。


「もしかしたら、これまで攻略済みとされていた他の迷宮にも隠し通路や秘匿された階層があるかもな」


 ダメ押しをするようにナツメは言う。

ギルドのテーブルを囲んで管を巻いていた探索者たちがこの後とった行動など、わざわざ語るべくもない。


「野郎共! 急げ!」

「五秒で支度しろ!」

「リーダー、それ無茶ッスよ!!」


 我先にと探索者がギルドを鉄砲玉のように飛び出していく。


 これまで最低ランクの探索者と馬鹿にされ、どんなに叫ぼうが相手すらされなかった自分が、多くの者を動かす要因の一端を担ったかと思うと、何だかとても小気味好かった。




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