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ヒーローズカースト  作者: 明智
9/15

ネガティブ・ガール:破

 烏森は人目につかぬように、生徒会室を出てある場所へと向かう。資料を片手に腕時計を見ながら足早に歩く。

 時刻は四時半。彼はこの後、長谷部圭の取り調べが待っている。その為にはバングルのチップ内に散らばった違法データの回収を急がなければならない。

 それはある人物に頼んでいる。地下室に幽閉したヒーロー。あの事件さえなかったら彼女は優秀なヒーローになったのかもしれない。

 だが、過ちを犯した者は平等に罰せなければならない。辛い決断だったがこれは生徒会長である彼の唯一の汚れ仕事。

 どれだけのヒーローに憎まれてきたことか。友人に憎まれたこともあった。殺してやる、一生恨んでやる。胸が張り裂けそうな想いだった。感情をひたすら鉄仮面の下に封じ込めて来た。これだけは他の人物に任せてはいられない。

 最初は、重圧に耐えきられなくなって逃げ出したいと考えた夜もあった。表情もすぐに顔に出た。しかし彼は突き通した。

 己の正義を。

 正義とは何か? 何人かに訊かれたことがある。ある者には規律だと答え、ある者には己に問い続けるものだと答えた。

 正義に明確な回答は無い。だからこそ厄介なのだ。

 誰から見ても悪だと、言い切れるのだが本人からすればそれは正義となる。正義を殺すには正義を武器にしなければならない。

 ある者に言ったことがある。「人を傷つけるために正義を使うな」と。その者は笑ってみせた。

 おぞましく、背筋が凍った。

 その二の前になりそうだった者も何人もいた。退学者、登校無期限停止にされた者。幽閉された者。それを未然に防ぐ義務が彼にはある。

 ふと、彼女のことが気になった。正確には彼女らか。 

 アトランティスはしっかりとこなしているだろうかと。彼女は人前に出ると何も話すことが出来なくなり、思考停止状態になることが想像できる。

 ――それを上手く相馬がフォローできるかどうか。

 信頼はそこそこしているものの、あのコンビは一抹の不安を覚える。意外性のあるS級と、恐らく面喰って驚く紘太郎。

 しかし、その予想をいい意味で裏切っているのはまだ彼は知らない。

 アトランティスという人物は生徒会長である烏森も良く知らない。あまり話したことが無いし、顔を合わせるのも片手あれば足りるだろう。

 そんな彼でも、ネガティブだってことは見た瞬間理解できたというか、見せつけられた。だが仕事ぶりには少なからず信頼している。

 火災の鎮火は彼女に任せておいていいだろう。

 外見も良いし、性格も卑屈な部分を直せばいいと言えるだろう。それだけに彼女は惜しい存在だと言える。

 地下室に着き、扉を開ける。そこにはお菓子を頬張りながらアニメを見ている忍がふてぶてしい態度で座っている。

「おい、お前。データは修復できたか?」

 烏森は藪から棒に訊いた。

「ん? 九割がたな。これ以上は無理だ。これを作った奴、相当だぞ。なんせお前ら生徒会の管理システムを欺いたんだからな」

「何が言いたい?」

「んや、お前らのシステムに欠点があったとかじゃねぇぜ? ただ相手の方が上手だったことだよ。根に持つな、お前にはちょっと難しい話しかもな」

 忍の棘の含んだ言葉に、内心苛つきを隠し切れなかったが、ここは我慢して平静を保つ。

「だけど、自動消滅プログラムがあったからこそ相馬紘太郎は勝てたんだろうな」

「まだ関係を否定するか? もはや明白だぞ。さっさと認めてしまえ。別に咎めはせんさ」

 意外な発言に、ニヤニヤしながらそう言うならと。紘太郎との関係をつらつらと話し出す。

「確かに、あのままだったら紘太郎は負けてたろうな。運が良かったとしか言えないな」

「運が良いとはいえ、今回は相馬の功績が大きい。しかし入手ルートはまだ分からない。あいつが、長谷部が口を割らんのだ」

「意外と強情だなそいつ。いっそのこと拷問したほうが楽なんじゃねぇのか?」

「冗談は顔だけにしろ。そんなこと出来る訳なかろうが」

「悪かったなお前みたいに鉄仮面じゃなくてよ。ほらお前も笑ってみろよ。さぁほら」

「五月蝿い。お前と話すと論点がずれて話にならん。ほら、データを寄越せ」

「いつにもなく高圧的だな。そんなんじゃ、女の子にモテねぇぜ? 折角顔は良いのに、勿体ないとか思わないのか?」

「ええい、黙れ。何故お前はそうやって人をからかうようなことを言う」

「それが私の性分でね。ほら、これがデータだ」

 メモリカードを雑に投げ、再びパソコンに向かいアニメを見始める。

「たく」

 メモリーカードを受け取り、烏森は地下室を後にし、腕につけている時計で時間を確認した。

「もう、講習会は終わったか。あいつらは無事に成功したのか?」

 

 そして紘太郎はと言うと。

 無事にミッションを成功に納め、甲斐幼稚園の男性更衣室でジャージから制服に着替え、一足先にこの場を去ろうとしていた。

 彼女の事は全てに関して予想外だったが、なんにせよ子どもたちが楽しそうで、親御さんたちも納得のいく内容にできて良かった。

 どうにも彼女と上手く話せていない。それだけが気がかりで、忍に言われたS級の仕事ぶりも拝見することはできなかった。

 幼稚園の門をくぐろうとすると、紘太郎よりも先に着替え、鞄を胸に抱えて誰かを通るのを待っているようにアトランティスがぽつんと立っている。気になるが、お疲れ様ですと頭を下げ通り過ぎようとしたが、彼女に制服の袖を強く握られた。

「はい?」

 何かを話そうとしているが、もじもじしていてこれから進展がない。

「どうしました……?」

 ぼそぼそと呟くように紘太郎に対して話す。

「……今日はごめんなさい。私何もできなくて。あなたに迷惑をかけてしまって、本当に……ごめんなさい」

 ただひたすら謝罪の言葉を述べている。

「大丈夫ですよ。無事に終わりましたし、先輩もお疲れ様でした。実演も良かったですよ?」

「その。あの、ですね……お詫びをしたくて。この後時間でもありますか? 無理に誘ってごめんなさい。断っても全然平気です。きっといやですよね、私と一緒に歩くなんて」

「え!? いや大丈夫ですよ! 分かりました、一緒に帰りましょう。ね?」

 なだめるようにアトランティスを説得し、こくりと恥ずかしそうに頷くと、彼女は紘太郎の後を追うように歩き出す。

 何故、彼女はここまでネガティブなのだろうか。歩いている最中ずっと思考を巡らせていた。きっと話したくないことがあるのだろう。

 お詫びをすると言われたものの、紘太郎の後ろにいてはどこに向かうか全く分からない。

 彼女は慎ましく、実際に彼の三歩後ろを歩幅を合わせるように歩いている。

 五分経つが両名無口。この痛いほどの沈黙に耐えかねた紘太郎は自ら話を切り出す。

「先輩、俺なにか失礼なことしちゃいました?」

 振り向き、真面目な顔をして彼女の白い肌と、吸い込まれそうな黒い瞳を見つめると彼女は驚きながら目を逸らす。

 この可愛らしい仕草は、意図とせずに容赦なく紘太郎を傷つけた。

「そうじゃないの。ただ男の人と歩いたり話したりするのが苦手で……ごめんなさい」

「謝らないでくださいよ。そういうことだったら、安心しました。嫌われてないんですね。あー、良かった」

「嫌ってないです。これで、どうですか?」

 とことこと、駆け足で紘太郎の隣に立つとこれ見よがしに肌が触れ合いそうな距離まで近づくてくる。離れているよりはいくらか話しやすくマシだが、どうやら彼女は極端な性格らしい。

 身長一五五センチの美少女の彼女と、一七五センチの冴えない彼。ただ一緒に歩くのならまだ良かったのかしれないが、問題は二人の距離である。先程も言った通り、肌が触れてしまいそうなぐらい近づいているので、仲睦まじいカップルに見られている。

 歩くたびに、一人でいる男子高校生に殺意の籠った視線で睨みつけられて、女子高生たちからはひそひそと陰口を叩かれている。

 決して見せつけている訳ではない。誤解だけはしないでほしいと心の底から願う。

「あの、この近くに美味しいケーキ屋さんがあるんです。そこでお詫びを」

「ええ、分かりました」


 ケーキショップに到着すると、店内は可愛らしく装飾されており、まるでおとぎの国に迷い込んでしまったアリスの気分だ。

 彼女に腕を引かれるがままに窓際の席に座ると、すぐさま店員が来てメニュー表を手渡し、頭を下げて去っていく。

「何にします? 私のおススメはですね、このチョコレートケーキです。チョコレートパウダーが美味しくて! 私はいつもこのチーズケーキを食べてるんですけど――」

 どうやら常連客らしく、饒舌に楽しそうではきはきと喋る彼女は今までとはあまりの違い、驚きを隠せなかったがちゃんとした女の子で安心したのか声を出して笑ってしまった。

「ハハハハハ。先輩ってそんなに話せたんですね。安心しました。これで仲良くなれそうです」

「変、だったよね?」

 彼女は申し訳なさそうにメニュー表で顔を隠しているが、時々紘太郎を覗く仕草で耳まで真っ赤にしていることが分かる。

「いえいえ、楽しそうに話していて可愛かったですよ? いつもそうやっていれば良いのに。勿体ないですよ、美人で優しくて」

「可愛い? それに美人に優しいって。私には勿体ない言葉かな。もっと相応しい人はいるのに、瀧子ちゃんとか、忍ちゃんとか」

 彼女の口からその名を聞くとは思っていなかった。

「忍さんを知ってるんですか!?」

「うん。知ってるよ? でも忍ちゃんはかっこいい人かな。私憧れてるんだ。気が強くて、逞しくて人を引っ張ってく才能が有って。私には到底できないよ」

「先輩は、忍さんのことどのくらい知ってるんですか?」

「……? どのくらいって言われても、二年生の一学期しか一緒にいなかったから。でも、困った私をいつも元気つけてくれた。根暗で、被害妄想が激しい私のことをある意味想像力があるじゃねぇかって言って、笑ってくれたんだ。それから頑張ってこの性格を直そうとしてるんだけど……難しくて」

「忍さんって今も昔も変わってないんですね」

「忍ちゃんの居場所が分かるの?」

「えっ、俺はその」

 教えていいのだろうか、これだけは本人に訊いてみないと分からない。何故忍は地下室に幽閉されているのか、二年生だった時の彼女に何があったのだろうか。

「ゲームで知り合って。それで仲良く」

 咄嗟に嘘をついてしまった。

 どうしてか、これははいそれと教えてはいけない。もしかしたら忍さんに迷惑をかけてしまう可能性だてあった。

「そうなんだ。元気でやってるといいな。そうそう、相馬くんはどんなケーキが好きなの?」

「えっとですね。先輩のオススメにします」

「じゃあ私はいつものでいいかな。注文しちゃうよ」

「はい、お願いします」

 

 注文して数分後、チョコレートケーキとチーズケーキが運ばれてきたがその他に何故かワッフルも運ばれてきた。

 二人は顔を見合わせ、首を傾げる。

「お客様が来店して初めて、男の人を連れて来たのでカップルサービスっということで。このワッフルをプレゼントさせて頂きました」

「そうじゃないですよ! この人は仕事仲間って言うか、学友と言うか、そんな仲なんです!!」

 彼女と紘太郎は共に強く否定を慌ててするが、それがかえって真実味が増してしまう。店員はクスクスと笑いながら頭を下げて下がっていく。

 互いに顔を赤めながら、俯き持って来てくれた美味しそうなケーキを見つめる。しっかりと美味しそうに作られていて、食欲を大いにそそる。

「先輩、取り敢えず食べましょうか」

「そうだね」

 フォークをケーキに食い込ませ、一部分を刺し、ゆっくり口に運ぶ。

「美味しいですよ! すげー、初めてこんな甘いケーキを食べましたよ!」

 子どもの用に無邪気に喜び、紘太郎は夢中で口に運び続ける。気が付けば、彼女はクスクスと手を当て可愛らしく笑っていた。

 しまった。と、ケーキを食べる手を止め、申し訳なさそうに苦笑いを浮かべた。

「すいません、ついはしゃいじゃって」

「ううん、そうじゃないの。そんなにおいしく食べてもらえると、見てるこっちも嬉しくなるの。あっ、ここにチョコついてるよ」

 テーブルの端に有るナプキンを手に取り、口の周りについているチョコレートを綺麗に拭き取ってもらった。身を乗り出し急に寄せられた顔に視線を逃がすことができず、まじまじと見つめてしまった。

 最初は彼女は自分のやっていることに気が付かず、きょとんとしていたが紘太郎の赤い顔を見てはっとして顔を赤く高揚させ、あわあわと焦りながら自分のケーキを食べ始める。

「先輩って意外と大胆ですね……」

「もう、わざわざ言わないで! これは、この性格を直す練習なの!」

「なんか、嬉しいです。先輩が普通に話してくれて」

「馴れるのに時間がかかっちゃうけど、人と関わるのがきらいじゃないの。本当はみんなとお喋りしたい」

「先輩なら大丈夫ですよ。なんなら、俺がその練習相手になりますよ。好きな物を何か話したり、どんなことしたいとか。先輩は何が好きなんですか?」

「私は……」

 数秒の沈黙の後、小さな口を精一杯動かして答える。

「私ね、動物が好きなの。だから動物園とか水族館に行くのが好き。あとはスイーツ巡りとかしたい」

「良いじゃないですか。なら今度、俺と行きますか? きっとたの――」

 自分が何を言ったのか、彼女の反応を見て理解した。今とんでもない約束をさらっと口約束してしまったのではないのかと、彼女の気を害してしまったのではないのかと後悔した。恐る恐る表情を伺ってみると、こくこくと何度も頷いていた。

「こんな私でよかったら、いつでもいいよ……」

 甘いケーキを扱う店で負けず劣らずの甘いやりとりを店員や、その他の客に見られ聞かれていた。

 程なくして店を出て、夕日が最後の力を振り絞って、燦々と輝いていた。夕日の前を通る烏の群れ、帰路へ着く人々。いくつもの人間模様を目に焼き付けて帰ろうとした時、事件は発生した。

 鳴る電子デバイス。

 緊急ミッション。二人はデバイスを確認すると――。

「私の出番。行かなきゃ」

 彼女はデバイスを強く握り、黒い狼煙が立っている山へと踵を返し、駆け出す。紘太郎も置き去りにされてしまいそうになりながら、走り出す。

次話、ネガティブ・ガール編は終わります!

アトランティス先輩は自らの役割を果たすため、走り出す。

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