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ヒーローズカースト  作者: 明智
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ネガティブ・ガール:序

 授業の終わりを告げるチャイムが学校中に鳴り響いた。紘太郎は欠伸を一つし、身体を伸ばした。後ろの席で見ていた徳一郎は笑いながら、彼自身の号令で起立する。

 先生に礼をして、帰りの準備をし始めた。

 模擬戦闘訓練で負った傷は縫千花のおかげで完全に治癒し、昨日の日曜日。紘太郎と雪冠、慎也と一緒に祝勝会をした。

 忍は参加していない。地下室から出られないとういうこともあったが、人前に姿を見せることが嫌だとか言われ、断られた。

 彼女は気にするな、と言って手を振り送り出してくれた。その後、学校に戻りチップス系の限定版を大量に買っていくと、大喜びされ、頭を撫でられた。その感覚は今も思い出せば蘇る。

 あんなに喜んだ忍は見たことが無かった。それほど嬉しかったらしい。

 帰りの会を無事に終わり、紘太郎は何も考えずに地下室に歩を進めたが、雪冠に呼び止められた。

「どうした?」

「少し前から気になっていたのだが、どうして君はいつも帰りになると楽しそうなんだい? そんなにミッションをするのが楽しいのかい?」

 一瞬だけ心臓がドキっとしたが平静を装い、わざとらしく笑い。そんなところだ。と答えた。

「ふむ。なによりだ。では今日も頑張ってくれ。紘太郎」

「ああ」

 すぐには気が付かなった。呼び捨てにされたことを。別にそういうのが嫌いではなくて、何の脈絡もなく呼ばれたので、反応が遅れた。

「ん……いま、呼び捨てした?」

「なんだ、悪いか? 私と君は友人だろ? 別にそう呼んで気に食わないことが? あぁ分かった。もっと恋仲のように呼べば良かったかな?」

「止めろ。分かった、好きに呼んでくれ」

「なら私のことは雪菜、もしくは雪菜ちゃんとかでも呼んでくれ。これからも頼むよ、紘太郎。いけない、部活に遅れてしまう。では」

 (きびす)を返して彼女は悠々と剣道場に向かった。

 実際、紘太郎は雪冠、いや。雪菜のことが分からなかった。彼女はいつも真顔で冗談を言い、本人はそれが仲良くなると思っている。そして本気かどうか分からなくなる。

 別に悪い気はしなかったし、それで仲良くなれるならそれに越したことはない。

 雪菜との会話が終わり、今度こそ地下室に向かって歩を進める。

 コンビニ強盗撃退に加え、昨日の模擬戦闘訓練での活躍。紘太郎はまたしてもこの学園に話題の風を吹かせた。

 ひとたび彼が通れば、興味本位で後を追う者も現れた。

 さしずめ彼の強さの秘密を知りに後をおっているのだろう。

 おかげで地下室に向かうにも一苦労だ。目が付かぬようにわざと遠回りし、誰もいないこともを確認しなければいけない。

 周りを見渡し、誰もいないことを確認して地下に入る。

 地下室の扉を開けて、不意に中の様子を伺うと彼女は珍しくヘッドホンもせず学園内、市内の監視カメラで覗いていない。

 パソコンを見つめ、集中していた。

 一体何をしているのだろうかと、近くに歩み寄ると凄まじい速度でタイピングしていた。データだろうか、膨大な何かを繋ぎとめているような気がする。

 忍の名を呼ぼうとしたが、邪魔をしてはいけない。適当に座るところを探して椅子に座り、自分で買ってきた限定品のチップスのお菓子の袋を開け、一つ口に入れた。

「……うまい」

 今のお菓子はここまで進化したのか。と脱帽し、忍がこれを見て大喜びしたのが理解できた。

「何だ来てたのか」

 パソコンを打つのを止めて、くるりと周り紘太郎を見つめると驚きの表情を浮かべる。

「てめぇ、それ私に買ってきた奴じゃねぇか! 勝手に食ってんじゃねぇよ。たく」

「それで忍さんは何を?」

「ん、これか? 私がハッキングを疑われたことは知ってんだろ。烏森にそうじゃねぇって伝えると、素直に謝ったよ。それで何があったか聞くと違法改造だってか? そのデータはバングルのチップ内に修復不能なぐらい小さくなってんだけどよ。その修復を頼まれたんだ」

「え、でも修復不可能なんですよね? それにハッキングはどうやって……」

「私のスーツの性能だよ。今は取り上げられたけど。残念だったな、もう少し早く来れば変身姿見れたのにな。ハッキングの件は分からねぇ。少なくとも、私と同じかそれ以上だな。以下ってことはねぇ」

「そう……なんですか。忍さんのスーツの性能って?」

「来るべき時に教えてやるよ。そうだ、お前ポイントは見たか?」

「はい。八千ポイント受け取りました」

 説明しよう。手元に千ポイントは二つあったとしよう。もう一つは改造用。もう一つはランクを決めるためのポイントだ。

 このポイントはミッションによりや模擬戦闘訓練で加算することができる。改造用のポイントは使えば減るが、ランクを決めるポイントは使うことはおろか、減らすことも出来ない。

 だから長谷部から八千ポイントを勝ち取ったとしても、彼のランクが下がることはない。だが厳罰として下がることはある。

「デバイス貸せ。良いから早く」

 忍は手を出し、デバイスを出すように催促する。紘太郎は疑問にすら思わなく、彼女に差し出す。

「ここをこうやって、これでよしっと。ほらよ」

 投げられたデバイスをポケットに戻そうとするが、その前にと忍に止められた。

「お前のスーツ強化しておいたから。脚部強化。まぁそこそこの性能だ。きっとお前の役に立つはずだ」

「え!? なにしてんですか!!」

 急いでスーツの状況とポイントの残りを見てみると、やられたと頭を抱えながらさすがにこれはと、忍に文句を言おうとする。

「大丈夫だ。あの闘いは監視カメラから見せてもらった。お前は足技が得意そうだったからな、お前の長所を伸ばしたんだが、都合でも悪かったか? お前なら短所を隠すために変なところを強化しそうだからな。いいか、短所を隠す前に長所を伸ばせ!」

「いや、そういうことなら。分かりました」

「あっ、そうだ。お前は小さい子ども好きか?」

 唐突な質問にあっけをとられてしまい、首を傾げながら――。


「ええまぁ、普通ですけど」

「よしなら、お前このミッションを受けろ」

 忍のパソコンから送られてきたメールをデバイスで確認すると、『現役ヒーローから学ぼう自分の身の守り方や、交通安全。受注者はジャージ持参』と書かれていた。

 なんじゃこりゃ。と思ったがそのままの意味かと納得する。参加人数に目を止めると二名と記載されており、残り一名となっていた。

 紘太郎より先約がいる。

 疑問に思いながら、予想してみると雪菜はまず排除される。とすれば慎也の可能性が高くなる。

 こういうことを見過ごすことがなさそうだったからだ。

 一応彼は忍に尋ねた。

「これは慎也先輩と一緒にやるんですか?」

「んなわけないだろ。あいつはもう違うミッションを受注してるよ。今回の相棒は、名前ぐらい聞いたことあんだろ。アトランティスって知ってるよな?」

 アトランティス。頭の記憶を(さかのぼ)ってみるが、そんな名前は、いやあった。一度だけ聞いたことがある。

 本名は限られた者しか知らない。これは本校の都市伝説の一つでもある。

 色々な説が論じられている。

 本名が特殊すぎるとか、実は本名なんて無いんじゃないかとか、アトランティスという名前自体が名前なんじゃないかとか。

 紘太郎や、その他の者からすればどうでもいいことだが、学園一の美女。ということもあってか一部の熱狂的なファンが騒いでいるらしい。

 S級ヒーローで主に、火災現場に現れては必ず鎮火する。消防署から絶大な信頼が寄せられている。

「聞いたことはあります。確か、火災鎮火のスペシャリストだって」

「そうだ。それプラスこの学園の誰よりも美人だ」

「そんな人がどうして?」

「まぁ外面は良いし、あいつは優しい。子どもには大人気だろうさ。それだから恐らく烏森辺りに行けって言われたんだろうな。このご時世ヒーローもイメージが大事だからな。S級ヒーローだと、子どもの興味も引けるだろう」

「いや、それは分かりましたけど……そんなのにどうして俺が?」

「私はこの仕事を引き受けた代わりに、このミッションを必ず受けさせろ。って言ったんだ。勿論、快くオーケーしてもらったぜ。それで、お前にこれを受けさせるのは簡単だ。またとないS級と一緒にミッションを受けれるチャンスだ。お前の成長にも繋がるだろうさ。受注はしておいた。甲斐幼稚園に行け。そこにもういるから」

「っていつの間に!? もう、分かりました。行ってきます!」

 地下室を出ていき、先輩を待たせないように急いで走り出す。

「あっ、そうそう。気を付けろよ。あいつ――って聞いてねぇか」

 

 アトランティス先輩とはどんな人物だろうか。学園一の美女と言われるほどだから、きっと誰よりも気品に溢れて自信を持っているに違いない。

 気難しい性格なのだろうかと不安を覚えながら、甲斐幼稚園に歩を進めている訳だが、いかんせん彼女の姿が想像しきれない。

 紘太郎が知っているS級というのは、少し否、大分絡みにくい人物だらけだ。烏森に雪菜、一人は完全に壁を作っているし、もう一人は完全に壁をぶち壊してくる。

 彼女はどんな人物なのか。

 期待と不安を胸に甲斐幼稚園の門に足を踏み入れた。

「あっ、大猛学園の生徒さんですか?」

 男性の保育士が明るい笑顔を浮かべて、手を振って近寄る。

「そうです。相馬紘太郎です。あの失礼ですが、お名前を聞かせてもらっても?」

「あぁすいません。ぼくの名前は斉木です。よろしくお願いします。もう一人は着替えていますので、男性更衣室にどうぞ」

「はい。分かりました」

 幼稚園内に入り、ジャージに着替えはじめる。ここから出ればようやく彼女に会える。そして、更衣室に出てみんなが待っているグラウンドに向かう。

 同じジャージ姿の女性がいる。黒く艶やかで長い髪、腰まで伸びている。

「すいません、遅れました……」

「いえ、大丈夫です」

 振り向くと、そのあまりの美貌に開いた口が塞がらない。

 透き通ってしまいそうな白い肌、長いまつげに、しなやかな体つき。胸が小さいのは本人だって気にしている。

 だがまたそれがいいとファンから絶大な支持を受けている。

 紅い唇。潤んだ瞳。生唾を飲み込むほどの容姿に魅入っていた。ジャージが少し大きいようで袖が余り、そこを不安を隠すように握っている。

 大和撫子。容姿端麗。これほどこの言葉たちが似合う人物に出会ったことが無かった。忍も、雪菜も縫千花も胸を張って美人だと言い切れるが、彼女らとは一線を画した美しさだ。

 ファンクラブが出来ていても、なんらおかしくない。

 これがS級ヒーローアトランティス。紘太郎の想像を遥かに凌駕し、目の前に立っている。

「どう、しました?」

 困ったような顔をされて、だらしない顔を覗きこまれると急に我に返り、姿勢を正しくして緩くなった表情筋を元に戻す。

「いえ、なんでもないです」

 通常運転に戻り、何食わぬ顔で応答すると彼女は俯き、溜め息を吐いた。

「いやですよね私なんかと。すいません。烏森さんに頼まれてどうしてもって……足引っ張んないように頑張りますので、よろしくお願いします」

 あれれ? なんか思ってたのと違うぞ? とこれもまた紘太郎の予想を裏切った。

 もっと自信があって、行き過ぎた考えだがもっと偉そうにしたりしても良いのだけれど、彼女は紘太郎が見てきたどのS級にも属さない。気弱で、どこまでも低姿勢、挙句の果てには自分のことすら卑下し始める。

 一言で言うなら、ネガティブ。二人は今日顔を初めて合わせてみたが、そんな印象を与えられた。

 こんなヒーローは初めて見た。

「はい、よろしくお願いします」

 彼も彼女に負けないように、なるべく低姿勢で接することに決め、早速ミッションに取り掛かるとする。

「では、始めますか」

 何も言わずこくりと頷くと、園児と保護者の前に行くとそこにはもう先生方が必要な物を準備してくれていた。

 幼稚園児に解りやすく、最低限の自分の身の守り方や交通安全。これは先日の無人トラックの暴走の影響を受けたからだ。

「はーい、みなさん。お静かに! 今から現役ヒーローから学ぼう。自分の身の守り方と交通安全教室を始めたいと思います。まずは、この甲斐幼稚園に来てくれたヒーローたちに自己紹介をお願いしたいと思います」

 斉木先生が上手く園児を静かにさせ、興味を惹かせた。この手際は流石はプロと言ったところか。

 まずはアトランティスが自己紹介をしようとするが、声が隣にいる紘太郎にすら聞こえない。この場全員が耳を傾けるが、誰一人聞こえるものはいなかった。

 ――ここは俺がしっかりせねば。


「俺の名前は相馬紘太郎です。それでこっちがアトランティス先輩。この人はねぇ、すごいヒーローなんだよ。ちょっと恥ずかしがり屋なんだ。みんな最後まで仲良くしてね!」

「はーい!!」

 園児が元気よく返事をする。このぐらい素直な子たちだとこっちもやりやすい。後は隣にいる彼女だけなのだが。

 緊張してしまっていて、俯いてしまっている。

「それじゃあまずは……これかな」

 斉木先生から手渡された台本に目を通しながら、紘太郎が司会進行役をかってでた。それしかこのミッションを成功させる方法が無いからだ。

 彼女の心の緊張がほぐれるまで相当時間がかかりそうだ。

「みんな、誘拐事件ってのは知ってるかな? 悪い人が飴をあげるからついておいで。とか言って車に乗せて君達のお母さんやお父さんにお金とかを請求する悪い事件だ」

「それ知ってるよ! ドラマとかで見たもん!」

 最前列の坊主頭の男の子が、はきはきと元気よく手を上げて話題に食いついてくる。男の子の声に引っ張られ、次々に見た。とか知ってるよ。とか声が上がる。

「それで、その誘拐事件とか悪い人に襲われないようにするためには、お父さんやお母さんの言うことを聞くこと」

「もし、そうなっちゃったら?」

 先程の男の子が聞き返す。

「そうなったら、隣にいるお姉さんと一緒に助けに行くよ。でも、そうならないほうが平和で俺たちは良いかな。分かったらみんな返事は?」

「はーい!」

「よしよし、続いては交通安全だ。起こってしまったら俺たちヒーローにはどうにも出来ない。そうならないために自分たちで気を付けるように」

 今まで黙っていた彼女に耳打ちで。

「ここは俺が説明しますから、先輩は実演をお願いします」

 コクコクと何度も頷き、石灰で作られた簡単な横断歩道と、画用紙に書かれた信号機。三枚ありそれぞれ赤を濃く塗ったり、黄色や青の場合も同じだ。

 彼女が所定の位置に立ち、目で大丈夫と訴えていた。

「まずは信号が赤から青に変わるのを待ちましょう。そして青になったら右を見て、左を見てもう一度右を見て車や自転車が来ないことを確信してから、手を上げて進みましょう。重たい荷物を持っているお婆さんがいて手伝いをしたら、尚良いでしょう」

 説明が終わると、アトランティスが実演を始める。

 どうやら喋るのが苦手らしいが、実演するには何にも問題はない。

 右を見て左を見て、念のためにもう一度左を見る。そして来るはずもない車や自転車が通らないことを確信してから手を上げて歩き出す。

「はい。ありがとうございました。それでも、突っ込んでくる車や自転車がいます。それは君達のような小さな子でも守れるのに、大きな大人は守れない人がいるからです。大人、いや、人としてこれ以上に恥ずかしいことはありません。みんなはそんな恥ずかしい大人になったらだめだぞ。あっ、あとは点滅しているときに無理に渡っちゃいけません。安全に渡り切りましょう。えーっと、あとは質問がある人?」

 紘太郎の手短な演説が終わるとアトランティスが帰って来て、隣に慎ましく、何故か申し訳なさそうに袖を握り立っている。

 するとまた坊主頭の彼が手を上げ、とんでもないことを質問してきた。

「はい、二人は付き合ってるんですか?」

 無垢な子どもだから出来る必殺技とでも言えばいいだろうか、年頃の男女にもっともしてはいけないだろうと思われる質問を平気でしてくる。

「いやいやいや。そんなことないよ。うん、今日初めてあったんだ!」

 紘太郎が全力で否定すると、そっと彼女の顔を覗くと真っ赤なリンゴのように赤くなっていて、さらに俯いて袖を強く握っている。

 否定することなく、ただただ沈黙をしている。沈黙は金と言うが、この時ばかりは話して否定してほしいと強く願う紘太郎だった。

アトランティス先輩登場です!

ええ、頑張って可愛く書けるように尽力致します。

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