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ヒーローズカースト  作者: 明智
6/15

桜が見た才能

 地下に足を踏み入れると、言い争っている声が聞こえる。この場でこんな状況になるのはあの人たちしかいない。

 忍の方は馬鹿とかアホとか、小学生が精一杯考えたような罵詈雑言を浴びせている。

 慎也は子どもを叱る親のように厳しく言い聞かせるように話し、その言葉をぬらりくらりと躱す。

 これじゃあまるで親子だな。と半笑いしながら地下室の扉を開ける。

「んだと? お前には私の努力が目に見えねぇってか!?」

「ああそうだ。この部屋のどこを綺麗にしたんだ? 僕の目が確かならペットボトルや紙くずをゴミ箱に捨てただけじゃないか!」

「これが私の全力の努力だ!」

 忍と慎也は紘太郎が入ってきたことのも気付かず、今も仲良く口喧嘩をしている。

 紘太郎はどうやったら自分の存在に気づいてくれるのだろうかと、真剣に悩んでいた。

 しかし、この口喧嘩に終止符を打ったのも彼だった。

「すいません、二人ともどうして口喧嘩を?」

 慎也は振り向くことなく、紘太郎の目を床の無造作に散らかるゴミの大地を指差した。それを見て、彼はどうしてこんなことになったのか想像がつく。

「いつにも増して酷いですね……」

「そう思うだろ? ほら紘太郎もこう言ってるんだし、女の子としてもこの部屋は掃除したほうが良い!」

「それじゃまるで私が不潔みたいじゃないか! 淑女(レディー)に向かって失礼だぞ。こう見えたって風呂は毎日入ってる。備え付けのだけど」

 まずちゃんとした淑女(レディー)はこんなに汚い部屋には住みませんよ。と危うく声に出しかけたが、彼女の反論の方がどうしても怖くなってしまい口をつぐむしかなかった。

 周りを見てみると、一段とゴミの量が酷い。

 ペットボトルとお菓子のゴミがうず高く積もっている。

 この小さな部屋でしかもゴミだらけときた。当然三人もいると狭くて身動きが取れない。

 不衛生極まりないのは事実だ。

 この状態になるまで放置していたのは、当然彼女の責任なのだろうが、この地下室から出られないことをふまえると、仕方がないと思ってしまう。

 よく虫とかがわかないものだ。

 しかし、この不衛生極まりない場所に年頃の女の子を済ませておく訳にはいかない。

 ――ここは俺が一肌脱いで、この部屋を片付けよう。ゴミを捨てるついでにあの事を慎也先輩に訊こう。二人きりで腹を割って。

「それじゃ、片付けましょう! 女の子にいつまでもこんな汚い部屋に住まわせるわけにはいきません。慎也先輩! 手伝ってください!」

 彼は縦に大きく頷く。

「そいつは妙案だ! 良し、僕も手伝うよ」

 男どもが片付けで盛り上がっているところを、怪訝そうに横目で見て両手を上げる。

「勝手にしろ。私はゲームでもやってる」

 ヘッドホンをつけ、パソコンに電源を入れようとするがそれを慎也が止める。

 忍は意外な彼の行動に目を丸くした。

 今までこんなことをしたことなかったのだ。慎也と紘太郎が本気だということは、火を見るよりも明らかだ。


「今回はお前も手伝え。物をゴミ袋に入れるだけでいいから。あとは、僕と紘太郎が捨てるから」

 忍は諦めたように溜め息を吐き、くるりと椅子を回転させ、紘太郎たちを正面に見据える。

 長い茶色い髪を後ろにまとめ、どこからか持ち出したゴム手袋とマスクを装備し、ここぞとばかりにやる気を見せる。

「ったく、めんどくさいんだからな。さっさとやってさっさと終わらせるぞ。おら、てめぇらやんぞ!!」

 この鶴の一声により、地下室の時季外れな大掃除が始まった。

 要らない物をどんどんゴミ袋に入れていき、始まってまだ五分程度だがさすがに三人でやると滞りなく進む。

 紘太郎は、スナック系のお菓子の袋を何も考えずに機械的に捨てていたが、見慣れない色を取ったことで動きが止まる。

 目の端に移るピンク色。その右手に握る物は、男が持つには予想以上に罪深いものだった。

「え……!?」

 女性物の下着。しかも上に着ける方。

 下じゃなくて心底良かったと思うが、紘太郎に安堵の時が訪れるのはもう少し後になる。

「てめぇ、なんてもん掘り出してんだ!? 返せこの変態馬鹿野郎!!」

 忍の平手打ちが容赦なく紘太郎の頬をぶつ。生まれて初めての女性のビンタは彼に二度とされたくないと思えるほどに、強烈に炸裂した。

 不意に右頬に喰らってしまった全力のビンタ。

 彼の顔は一時的に歪み、視界が高速に入れ替わる。衝撃を流す術などなく、綺麗にした床に勢いよく伏す。

「乙女の純情穢しやがって、この罪は重いからな! 下着はな、ある意味裸を見られるより恥ずかしんだよ!!」

 マスクをしていても分かるほどに彼女は赤面し、その瞳は怒りを灯していた。

「すいません!」

 身体をすぐに起こして、膝を着き下着を献上品の如く差し出す。彼女はそそくさとそれを回収すると、一息吐く。

「忍、片付けないからブラジャーなんて出てくるんだよ。これからちゃんと洗濯して干すんだぞ」

 慎也が指を差して忍に注意する。さすがの彼女も自分に非があると痛感し、小さな声で――。

「……分かったよ」

 この小さな騒動が終わりを迎えると、大掃除も終わりを告げていた。


「全部で六つか。やっぱり多いな。よし、三つずつ運ぼう」

 慎也がゴミ袋を両手に持ち、立ち上がり一足先に地下室を出る。

 それに続き、紘太郎も動き出そうとするが、制服の袖を忍に掴まれた。

「こっち向け」

「はい?」

 ぶたれて熱を持った頬を気にしながら、彼女と向かい合うといきなり頬に冷たいものを貼られた。

「うわぁ! びっくりした……。また叩かれると思いました」

「そんなことするかよ。ほら、動くなよ。テーピングするから」

 患部に優しく手当され、今度こそ行こうとしたが呟くように彼女は何かを言っていた。紘太郎は気になり、耳を傾けてみる。 

「悪かったな、いきなりビンタして……」

 恥ずかしそうに下を俯き、一切目を合わせてもらえなかった。

 素直に謝ってくれた忍を見て、安堵し、フォローのつもりで紘太郎は笑顔でこう言ってみせる。

「大丈夫ですよ、先輩の下着見てもなんとも思いませんから!」

 言ってから気が付いた、完全な失言だと。口を慌てて押させ、忍の方をそっと見つめると、怒りと呆れた混じった複雑な表情を見せた。

「お前は馬鹿か!! さっさとゴミ捨ててこい!」

 忍に怒鳴られ、慎也の後を追うように地下室を出る。

「どうしたんだい? 忍に怒鳴られたみたいけど」

 首を傾げながら、地下を出たところで待っていてくれた慎也にそう尋ねられ、ハハハと気の抜けた笑い声で応答した。

「自分の口下手さにはうんざりしますよ。どうして上手くいえないんだろ」

「その様子だと余計な事を言ったみたいだね。まっ、帰るときにお菓子でも買っておけば機嫌は直るさ。それに忍もそんなに怒ってないよ」

「そうだと嬉しいです」

「行こうか」

 二人で校内を通って、ゴミ捨て場に向かう。

 あの事を聞くにはここしかない。紘太郎はいざ口に出そうとしても、全く関係のないことを言い始めた。

「せっ、先輩! 今日は天気が良いですよね。桜も一気に開花しそうですね」

「そうだね。まさに夏の日差しって感じだ。ここからちょっと遠いけど、鴇が丘に綺麗な桜の木があってね。行ったことある?」

「聞いたことはありますが、行ったことは……ないですね」

「満開とはいかないけど、八分咲きぐらいにはなってるじゃないか」

「そうですね。満開になるのが楽しみです」

 彼は自分自身の口下手加減に嫌気が差していた。どうして言いたいことを言えないのだろうか、訊きたいことを訊けないだろうか、自分の口が自分の物ではない気がしてきた。

 重く、固く、唇は渇いてしまった。目は泳ぎ、息遣いが荒くなる。落ち着けと、心の中で叫び続けるが身体は言うことを聞いてはくれない。

 もし、この質問をしてしまったら友情が壊れてしまはないだろうか。

 不安で質問を心の底にしまい込もうとしていたその時――。

「何か聞きたい事でもあるのかい?」

「え!?」

「だってそんな顔してるから。いいよ、何でも聞いてよ。きっと口下手なキミのことだから言葉を選び過ぎて、分からなくなったんだね」

 この人には隠し事は出来そうにない。とどこか吹っ切れ、深呼吸してあの事を尋ねる。

「先輩は、S級にならないかって誘われたんですよね」

「うん。そうだよ。知ってるってことは、雪菜ちゃんから聞いたんだね」

「すいません。余計なことを訊いてしまって……」

 気まずさを感じ、紘太郎は下唇を噛み締める。

「良いんだよ。自分から言うつもりはなかったけど、訊かれたら答えるよ」

「どうして、S級を辞退したんですか? いえ、どうして雪冠に譲ったんですか?」


「簡単だよ、彼女に早く上の世界を見て欲しかったんだ。あの子なら僕らが抜けた後も、この学園を上手に運んでいける、そう思ったんだ。だから僕はS級を雪菜ちゃんに譲ったんだ。未来を後輩に託したんだ。まっ、今ならキミでも良かったかなって思ってるんだけどね。A級でもやれることはできるし、それに老兵は死なず、ただ消え去るのみってね」

 慎也はにっこりと、心地よい笑顔を向けて紘太郎の疑問を全て払拭させた。

「誰の言葉なんですか?」

「マッカーサーだよ。ダグラス・マッカーサー。知らない? かなり前の人だけど、この言葉が大好きでさ」

「そうだったんですか。歴史は苦手で、あまり覚えてませんが今のではっきり覚えました」

 たったこれだけの会話で、紘太郎の心はこの青空のように晴れ渡る。そのおかげあってか、笑みが自然と零れる。

 ゴミ捨て場にゴミ袋をしっかりと分別して捨て、忍がいる地下室に舞い戻った。

「お前ら帰ってきたか。よし、紘太郎。お前はよく聞けよ」

「はい?」

 きょとんとした顔をして、(ほう)けたようになんとなく忍の話に耳を貸す。

「一週間後に予定されている擬似戦闘訓練。お前、これに出ろ。つかもうエントリーしたから」

 さらっと忍はそう告げた。

 それは紘太郎の意識の外にあり、ミッションの受諾を禁止された十日間を大人しく、録画しておいたドラマでも見ようと簡単な予定を立てていた。

 が、それはあっさりと崩された。地下に住むダークヒーローの手によって。

「えぇええええええ!? ちょっと無理ですよ。半年のブランクもあるし……それに俺は――」

「大丈夫だ。お前に禁止されているのはミッションの受諾だけだ。模擬戦闘訓練は関係ない。誰もお前が勝てるなんて思ってない、でもそんな奴が勝ったら面白いだろ? それに加えて文字通り訓練になる。お前の自信にも繋がるし、ブランクを無くすることもできる。まずはこのメニューを当日まできっちりこなせ! いいな?」

 忍が提示した練習メニューは、丁寧な字で紙に書かれておりそれに難しい顔をしながら近づけると、恐ろしいほどの量だった。

 腹筋三十分。腕立て伏せ、背筋スクワット同じく。体力づくり市内一週。慎也による戦闘の極意。

 それだけはではない。

 食生活についても書かれているではないか。

 その細やかさに眩暈(めまい)まで生じてきそうだったが、きっとこれはまだ優しい方なのだろう。

「さっきも言った通り。これはあくまでもお前の身体の勘を元に戻すための練習だ。市内一週はお前が鴇馬市を正確に覚えるのにも役に立つ。メニューは立てたがこういうのは私の領分じゃないからな、慎也。こいつを鍛えるのお前に任すぞ」

「任された」

「よし、お前ら今すぐジャージに着替えて市内走ってこい!」

 ニヤリと悪魔も顔負けの意地悪な笑みを浮かべ、忍は彼にそう宣告した。この時、どれだけ紘太郎は半年のブランクを恨んだがは想像を絶する。


「はぁっ、はぁっ!」

 元気な太陽が人々を今日も照らすために、光り輝いている。大地を照り付け、アスファルトに熱を持たせる。歩く人は季節外れの熱気に誰しも汗をかき、ハンカチなどで拭いている。

 女子高生は大猛学園の近くにある、喫茶店『レスト』で美味しそうにアイスクリームを頬張っていて、学生ヒーローはこんな日でも誰かのために働く。

 急激な温度の変化に音を上げるものもいれば、黙って己のやることをこなす人もいる。こういう天気だとインドア派の人間はさらに籠るだろう。

 今時の部活動は、外を走るなんてことはしない。トレーニングルームでランニングマシーンでただひたすらに一人で走る。

 そのせいか、紘太郎たちが必死な顔で外を走っていると物珍しそうに見られてしまう。

 視線はもとより気にしていないが、日差しが気になる。

 この天気がもう少しマシになればどんなに走りやすいものか。

 走ってものの十分で息が上がり、二十分で足が重くなる。

 三十分で喉が張り付き水を欲する。四十分でどうして走っているのだろうと意味の無い自問自答を繰り返す。

 五十分で腕を振って走ることすら億劫になる。視界が回る、足が棒のように動かない。

 だがそれでも、走り続けた。途中、慎也の心遣いで小休止を挟むがそれも一時間に一度。

 運動靴が擦り減り、アスファルトに走った証だけが残る。

 汗をかいているのどうかすら分からなくなり、ジャージは濡れるところがないほどに濡れて肌着が肌に張り付いて気持ち悪い。

 何度もよろけて倒れそうになったが、踏ん張りを利かせ己を奮い立たせた。

 悪いことだらけでは勿論なかった。この市を正確に覚えることができたし、何より平和だということが分かった。

 遊ぶ子どもは笑顔で、サッカーボールで駆ける少年は無邪気で、友人と話す学生はその時間を大切にしている。

 ここまでして何故、皆走っているか。否、努力しているか思い知らされる。

 誰かのために奔走するのも悪くない、そう思えたからこそだからこそ足を止めなかった。どれだけ自分が立ち上がっても、歩き出しても、走る努力をしなければ誰にも追いつくことなど出来ない。

 後ろを振り返る自分はもういない。横を見れば仲間がいる。前を見れば道はある。後ろからは過去の自分が何も言わず押してくれる。

 模擬戦闘訓練に抱いていた不安感も、いつか無くしていた。

 どこかに忘れていた気がする努力をする大切さ。それだけが、紘太郎を突き動かしていた。

 そして最終目標の鴇が丘桜自然公園に、覚束ない足取りで到着する。

「っはぁぁあああ……!」

 公園に着くなり、紘太郎は人工芝に背中から倒れ込むようにして休憩をとった。息を激しく吐き、空っぽになった肺に空気を取り込む。

 空気を欲した次に水を欲した。魚のように口をパクパクとさせ、水を乞う。

「今、そこの自販機で水買ってくるからちょっと待ってて」

 慎也は限界まで走った紘太郎に、せめてもの労の労いとして水を買うために自販機まで歩いて行く。

 空を見上げていた。気持ちの良い空だ。雲もなく、風が汗で濡れる身体を撫でては過ぎ去っていきを繰り返す。

 走っている間、紘太郎は考えさせられた。何のために努力をするのかを。

 人を助けるためだと、途中の人々を見て思い出した。その為には這い上がらなければ。慎也や、雪冠に追いつかなければならない。

 疲れ切った紘太郎の鼻先に、一枚の桜の花びらが乗る。そう言えばここは桜自然公園だったな。

 と思い出し、あまり物事を考えずに無理に身体を起こして舞っている桜の花びらを追う。

 それはまるで紘太郎をどこか、人里離れた場所に誘っているようで少々身震いがする。

 追いかけたその場所にいたのは、竹刀を振るう女性の侍だった。

「雪冠……」

 舞っているように見えた。

 桜の木々から散る花びらに交じり、竹刀を振るうようにして踊る。天女が如く美麗な舞だった。それに心奪われていた紘太郎は彼女に穴が開くほど、見つめていた。

 止めていた足を再び歩き出すと、急な坂に気が付かず転げ落ちた。

「どあぁぁあぁあああっぁぁ!?」

 叫んで転げ落ちた先で、雪冠に珍妙なものを見るような顔で覗かれる。最初こそは警戒していたものの、紘太郎の顔を見て片膝を着いて話しかける。

「相馬くん、君は余程私の剣道を見るのが好きなのか?」

「ちげぇよ……。行く先々でお前と会うだけだよ。なぁ雪冠、なんか飲むもの恵んでくれないか?」

「お茶でいいならあるぞ? 待っていてくれ」

 水にありつけると知っただけで、体の底から喜びが沸き上がる。

「ほら、飲めるか?」

 竹の水筒を持ち寄り、飲みやすいように頭を上げ、優しく口にお茶を入れた。

 勢いよくそれは胃の中に吸い込まれ、水筒の中身が無くなる頃には十分に水分補給を完了していた。

「随分、飲んだな。どうだ、楽になったか?」

「ああ、ありがとう。おかげで助かったぜ」

「お役に立てたなら結構だ。それで、君はなぜこの公園に? しかも汗だくで。私ので良ければタオルを貸そうか?」

「ちょっとな。特訓ってやつだ。なぁ雪冠、お前に言っておきたいことがあるんだ」

「私に?」

「そうだ。先輩のことだ。お前がえらく気にしてるもんだからよ、俺が直接聞いた。お前に早く上の景色を見てもらいたくて、お前に譲ったんだってよ。お前なら学園を上手く運べるだろうってな」

「……」

「老兵は死なず、ただ消え去るのみ。お前に未来を託したってよ。俺からすりゃ羨ましい話だぜ」

「フフ。どうやら私は色々な物を託されてしまったらしい。ならば、私は期待に応えねばなるまい」

 そっと、紘太郎の傍を離れていき竹刀で舞い落ちる無数の桜の花びらを一瞬で両断する。

「君も這い上がってこい。勿論、そのつもりなんだろ?」

「当たり前だ、ばーか」

「フッ、先に行って通りやすいように道を開けておくよ」

「自分の道ぐらい、自分で開けられるっつの」

 互いが笑いあい、紘太郎が立ち上がろうとすると先ほど彼が通ってきた道から慎也が両手にスポーツ飲料水を持ちながら、現れた。

「こんなところにいたのか! 心配したんだぞ。雪菜ちゃんもいたのか。そうだ、丁度いい。ちょっと特訓に付き合ってくれないか?」

 そこから慎也による戦闘訓練が始まった。


「戦闘では、頭の中を冷静に保つのは難しい。どんなヒーローだって、焦ったりしたら正しい判断が下せない場合があります。巷では今、凶器を使った犯罪が非常に増えていますというより、それがほぼ全部なんだけどね。戦闘中の思考の整理は訓練や慣れが必要です。その為には実際に攻撃を受けながら相手の癖を読んで躱す練習をしましょう。じゃあ雪菜ちゃんよろしく」

「了解しました。では、参ります」

 慎也の指示により雪冠は腰を落とし、居合切りのようにして抜刀。竹刀を振るう相手は勿論、紘太郎だ。

「ちょっと――」

 竹刀が当たる直前に止まる。寸止めされたのだ。

「このように、焦り出すと避けることすら困難になります。癖を読むには敵の攻撃を凌ぐ必要があります。その為にも攻撃を避けることは隙を見つけ、逃げ延びたり、反撃に移ることができる。じゃあもう一度」

 桜の木々に見守られながら、紘太郎は唾を飲む。次はどう来るのだろうか、右か? 左か? そうこう考えているうちに竹刀は振り下ろされた。

 当たる直前、体を左に目一杯ずらす。急に体をずらしたことによって倒れてしっまったが、攻撃は避けることが出来た。

「いって! でも、避けれた!!」

 紘太郎も含めて全員、偶然だろうかと疑念を持っていたが、十回中三回は避けることが出来た。その偶然がそうではないと確信を持てたのは、この次の一本だった。

 振り下ろされた竹刀を見て、左にいると当たると紘太郎は直感的に感じ取る。それは今までとは明らかに違う感覚。

 危機が読み取れた。いや、感じ取れた。と言うべきだろうか。

 今度は転ぶことなく完全に見切る。

「あっ……やっぱり避けれた」

 腑抜けた声を出すと、竹刀の一撃を避けられた雪冠は顎に手を当て、避けられた欠点を探す。間違っても避けられることは無いはずだと。

「やっぱりって言うと?」

 慎也が不思議そうに尋ねる。

「見えたっていうか、感じって言うか。ここにいたら危ないって感じがして。それで自然と避けられたんです」

「こりゃ驚きだ。紘太郎にそんな才能があったなんて」

「偶然ですよ。分かる時と分からない時がありますし、実戦じゃとても使えませんよ」

「いや、そんなことない」

 雪冠が会話に参加し、そう断言した。

「今の一撃はほぼ全力で打った。それを君は躱したんだ。それは才能だよ。危機察知能力、一見地味だがこれを極めれば攻撃はほとんど当たらない。反撃のチャンスはいくらでも作ることができる。偶然を必然にするのにも練習が必要だ。さぁもう一本!」

「え!? ちょっと待ってくれ! ってうわぁぁぁぁぁ!?」

 意外過ぎる自分の才能に気が付き、それから一週間、慎也や雪冠と一緒に特訓に特訓を重ねて待っていた模擬戦闘訓練の当日が来た。

対人戦が始まります!

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