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ヒーローズカースト  作者: 明智
3/15

その男、A級

 紘太郎は、厳かな雰囲気の生徒会室に一人立たされていた。生徒会長の椅子の背後の窓から見える中庭の景色はいつ見ても綺麗だ。

 木に停まる小鳥、ベンチで戯れる女子生徒たち。楽しそうにしている彼女たちが羨ましい。何故か自分だけがこの放課後に呼ばれ、今や遅しと生徒会長烏森の登場を待っていた。

 これから、彼のしでかしたことについての罰を決定されるのだ。いや、正確に言うならば言い渡される。

 それが恐怖の対象で、内心震えている。

 生徒会室の内装は(ごう)()(けん)(らん)、黒い革のソファーにガラス張りのテーブル。そこはどうしても生徒会室には到底見えない。

 座り心地の良さそうな生徒会長席。背もたれが高く、校長席に負けず劣らず立派だ。机の上は書類が大量に積まれてあるが、左右にしっかりと分けられている。紘太郎はその前に立たされている。

 そこから書類を(のぞ)くと、どうやらハンコを押しているものとそうでないものできちんと分かられているようだ。

 これだけ見るだけで、ここに座る人物はとても几帳面なのだと(よう)()に想像出来る。

 生徒会はただ生徒の取り締まりをするのではなく、企画作り。模擬戦闘訓練の相手の選択、そしてミッションの斡旋(あっせん)に受諾できる階級分け。

 生徒から提出された壊れたバングルの修理、スーツの改造のデータを整理。それを実際のスーツに反映させるシステムの管理までもしている。

 最近は違法にスーツを改造する者がいるので、データの管理も生徒会が取り締まる対象になった。

 そもそも変身の原理は案外単純でバングルに内蔵されているチップに記録されているスーツのデータを通して、その情報をヒーロー粒子が想像力を介して具現化されるのだ。

 ポイントと呼ばれるものが存在しており、ミッションの成功や模擬戦闘訓練での勝利で獲得できる。それを使いスーツを強化改造する。

 緊急ミッションは普段のミッションより数段高くポイントが設定されていて、学生ヒーローの意欲を沸立ている。

 だが、それは正当に受諾した場合だけだ。

 今回の紘太郎は、忍の仕業によって緊急ミッションを対象外の階級ながら受諾し、見事に成功させた。が、それが意図とせずほぼ全校生徒に知られてしまい、当然生徒会の厳罰対象になった。

 紘太郎はため息を吐きながら、普段入らない生徒会室を目に焼き付ける。

 横を見てみると、そこには戸棚があり様々な資料が置かれている。壁には歴代生徒会長の写真が飾られていた。床は(じゅう)(たん)になっていて、随分踏み心地が良い。

 ここが校長室だと言われても間違うレベルだ。実際に、新入生はここを校長室と間違う人が多いようだ。

 紘太郎も実はその一人だった。

 なんて、彼が一年生の懐かしい記憶に浸っているとようやく烏森生徒会長が現れた。

「待たせたな。すまん、新聞の取材が重なってしまってな」

「いえ、全然大丈夫です」

 烏森は生徒会長席に座る前に紘太郎の目の前に立ち、じっと彼の事を下から上まで品定めするかの如く見つめていた。

 が、それは()しくも烏森を見下してしまう形になってしまう。

 改めて紹介しよう、彼の名は(からす)(もり)(かず)()。大猛学園の三年生、そしてこの学園の数少ないS級ヒーローの一人であり、生徒会長で規律(ルール)には非常に厳しく、いつも生徒たちの先頭に立ち、正しい方向へ導く。

 身長は一六五センチ程度しかなく、格下であろうが、ほとんどの男子生徒に意図とせずに見下されてしまう構図になる。

 黒縁の眼鏡をしており、その奥の瞳は常に正しさを見定めている。

 制服は規律にある通り。生まれてこの方、彼は規律を犯したことはない。しかし、常に人より正しくあろうとする姿が学生ヒーローの心を打ち、その体に見合わないほどの溢れるカリスマ性で一年生の時から生徒会長に任命された。

「ネクタイが緩んでいる。大猛学園の生徒たる者、規律を守らねばならぬ。以後気を付けろ」

 紘太郎は急いでネクタイを締めて、背筋を目一杯伸ばす。これ以上、彼の気に(さわ)ることはなるべくしたくはない。

 ここで少しでも好印象を与えなければ。

「すいません。以後気を付けます」

「ああそうしてくれ。さて、今回お前を呼んだのは他でもない。分かるな?」

 今度こそ、生徒会長席に座り足を組み、机の上に積み上げられている書類を一枚一枚確認しながら紘太郎を問いただした。

「分かっています。あの事件のことですよね?」

「その通りだ。俺もあの動画で確認するまではお前だとは気が付かなかった。いいか、お前は何故この学園が階級(カースト)で分けられているか理解しているか?」

「えっと、それは……」

 直ぐに紘太郎は答えられなかった。烏森の威圧に負けた訳ではない。自分の考えに確信を持てなかったからである。

「実力とかですか……?」

 おどおどとしながら、彼は答える。

「実力。確かにそれもある。だが、一番の理由は安全のためだ。実力の無い者が対象外のミッションに出たとしても双方が危険になるだけだ。特に今回の事件だとな。ヒーロースーツは、俺たち学生には行き過ぎた力だと言う意見もある。それで大事(おおごと)になった件は幾つかある。

 だがな、その力を上手く操れてこそ俺たちはヒーローなのだ。被害者も加害者も殺すことなく、犯人を最低限の傷で確保するため、その実力がある者を選定するためにポイント制が設けられている。しかしお前のような存在がいると今までの全てが無駄になる」

 黙って聞くしか他なかった。特に大声を出して荒げることもなく、ただ静かな声で説教というより、言い聞かせているようだった。

 しかし強くはっきりと、烏森の想いが込められている。恐らく、誰かを救いたいと想う気持ちは忍と紘太郎にも負けていない。

「俺だって誰かを助けたいと強く思っている者に行かせたい。それではいかんのだ。先代から引き継いだ正しさを貫き通さねばならん」

 そう言って烏森は、手に持っていた書類を一旦置き、指を組み机に両肘を乗せる。

「今回の事件は奇跡的に怪我をした者は少なかった。だが、今度は奇跡を起こす女神はお前が対峙してる犯人に微笑むかもしれん。奇跡とは信じた者にしか訪れないというが、この世で最も期待してはいけないのは奇跡だ。よく覚えておけ」


「……」

 何も言えなかった。確かにその通りだ。今回は奇跡的に無事だったが、犯人があのまま紘太郎の挑発に乗らずに、人質の頭を撃ち抜いていたら?

 そう考えると、背筋がぞっとした。愚かな真似をしたと激しく後悔する。過ぎたことだと自分を納得するのも馬鹿馬鹿しく感じる。

 自分自身、あれが正しい選択だったのか解らなくなってきた。あの時はあの方法しかなかったのだろうか? 自分に能力があればもっと別に可能性があったのかもしれない。

 自分の無力に徐々に腹が立ってきた。

「これからお前に処罰を言い渡す」

 烏森の冷たい言動で、紘太郎の心をさらに冷たく突き放した。

「停学……と言いたいところだが、事件を迅速に解決したことは評価せざる負えない。それに被害者女性から感謝の手紙が本校宛に届いて来ている。ネット上の声もそうだ。批判の声もある中、その勇気ある行動を称賛する者もいた。それに加えてあの時はほぼA級、S級は出払っていた。その状況を踏まえて考えると――」

 唾を飲み込み、心の底から祈った。今の紘太郎にはそれしか出来ない。

「ミッションの受諾を十日間禁ずる。それがお前の処罰だ。いいな?」

「え、あっ……はい!」

 生気が顔に戻り、安堵の息と汗が出る。

 ミッション受諾の禁止はまだ軽い方の処罰だが、本当に停学処分など重い処罰ではなくて良かった。

「相馬。まだ時間はあるな?」

「え?」

 彼は椅子から立ち上がり、黒い革のソファーに座る。腕を組み、(あご)で座れと目と態度で指示していた。

 紘太郎は正直、ここいらで立ち去りたかったが機嫌を損ねて重たい処罰に変更されるのを恐れたのか大人しく座ることにした。

「さて、まずは茶を淹れようか。すまないがここに紅茶しかしかない。紅茶は飲めるか?」

「ええ、はい。多少は、飲めると思います」

 烏森は戸棚から、紅茶を淹れるお(しゃ)()な装飾の白いカップを取り出し茶を淹れる準備をし始める。

 まさかここで生徒会長にもてなされるとは思っていなかったので、ぎこちなくソファーに座ることしかできない。

「お前に話さなければならない事がある。さすがに事細かには教えられないが、多少長くなるからな」

「どんな話ですか?」

「この学園で実際に重い処罰を与えられた者の話だ」

 紘太郎以上に重たい罪を与えられた者。彼にも興味がある話だ。

「ポイント制が出来たきっかけでもある。俺が入学する何年も前の話だが、この学園のシステムも確立されてはいなかった。ある時、凶悪な事件がこの市で発生した。

 今回のような人質事件だった。それに挑んだのは、まだ自分のスーツの性能を上手く扱い切れない奴だったそうだ。だが犯人の凶悪な立ち振る舞いで怒りを覚えたそいつはその力で犯人を再起不能まで叩きのめした」

 そう言いながらも、彼は紘太郎のカップに湯気が出るほどの熱々の紅茶を淹れる。()(こう)(かす)める茶の良い匂い。

 ほぼ初めて飲む紅茶だが、せっかくなので冷めないうちに飲むことにする。

「当然、そいつは退学処分となり一時期ヒーローの存在が危うくなった。だが当時の政府の人間がそれをもみ消した。金を使い全国に創ったこの学園を結果も出さずに、潰す訳にはいかなかったのだろう。こうして実力の無い者に高難度のミッションを受諾することを制限した。いや、成功できる人間を選定するためにポイント制を設けた」

「そんなことがあったんですか……」

「正義感に溢れた男だった。しかし、俺たちが目指すのは安全な世界。この力をただ人を打ちのめすために使ってはいかん。先ほども言った通り、最低限の傷で犯人を確保し、人の安全を守る。それが分かったら、謹慎が終わったら地道に努力に(はげ)め」

「どうして俺にそんな事を教えてくれるんですか?」

 烏森も自ら淹れた紅茶を一口飲みながら、紘太郎の目を見てしっかりとその素朴な疑問に答えた。

「似ているからだ。正義と悪は表裏一体。一歩間違えれば、(おのれ)が語る正義も他人(ひと)をあだなす悪と成るだろう。暴走した正義はただの悪よりたちが悪い」

 経験があるような口ぶりに紘太郎の疑問がさらに増えるが、それを口に出そうとしようとする前に烏森が――。

「少し話し過ぎてしまったな。すまないがこれから定例会議がある。お前はもう行け」

 彼が今までとは違い、饒舌ではなくただ静かに紅茶の濃い色を見ながら紘太郎にそう告げた。


 紘太郎が去った後、烏森しかいない生徒会室にもう一人、背の高い女性が入ってきた。

 彼女の名前は(ほう)(せん)()(たき)()。彼女は生徒会副会長で烏森が色々と忙しい時に、右腕として如何なくその実力を発揮した。

 身長は一六七センチ。体重は生徒会でトップシークレットに管理されている。モデルのような体形で手足は長く、出る所はしっかりと出ている。

 黒い腰まで伸びている髪、前髪をピンで留めている。色白肌でその()(ぼう)は周知の事実で、学園祭で行われるミス大猛では毎回上位に食い込む。

 A級ヒーローで、S級ヒーローに近い実力を持っているが多忙な生徒会長の手伝いを欠かさずしているのと、生徒会に入ったことによりあまりミッションを受けていない。

 その縫千花は客人用の茶を淹れるティーカップがテーブルの上に出ていることに、見て疑問を感じた。

 ――確か、今日は来客の予定は無かったはず。

 記憶している予定表を改めて、頭の中で整理してみるが彼女の思う通り、そんな予定など無い。ここで彼女は推理した。

 いや、今日は一人だけ在学生が来る。その人物に茶でもてなしたということか。あの生徒会長が? 罰を与える生徒に?

 (はなは)だ疑問だが、これだとこの状況に理由がつく。

 自分自身の答えに満足しながら、烏森生徒会長に話しかける。

「ただいま戻りました会長。どうして来客用のティーカップが?」

「ああ、少し相馬と話をした」

 相変わらずの鉄仮面ぶりに感心しながら、自分の考えが当たったことを喜ばしく感じた。

「会長がお淹れに?」

「そうだ。何か変な事でもあるのか? 茶の味が変わるわけでもあるまいし」

「それが変わるんですよ。私あと一歩早かったら、彼にも美味しいお茶を淹れてあげられたのに。それで何をお話に?」

「他愛ない昔話だ。そう言えば、この学園にもいたな。暴走した正義を持った奴が」

「あの人ですか。私はあれほど歪んだ正義を見たことがありません。今思い出しても、嫌な感じがします」

「我々生徒会の仕事はあの事件を二度と引き起こさないように、正義を制御すること。歪んだ正義を破壊すること。その為には今学園を浸食している違法改造の元を正さねば」

「十分承知しております」

 深々と縫千花は頭を下げ、烏森に忠誠を誓った。


*****


 その頃の紘太郎と言えば、忍がいる小汚い地下室に向かっていた。気が重くなりそうな雰囲気を纏いながら(ほの)暗い地下を歩く。

 ミッションが受諾できないのはS級ヒーローを目指す者からすれば、かなりの厳罰な処置だと言えるだろう。

 溜め息交じりで地下室を開けると、そこはいつも以上に明るかった。

 急に襲いかかる光をうざったそうに目を(つむ)りながら、忍の姿を捉えようとするがその前に背の高い男が立っていることに気が付く。

「えっと、キミはどちらさまかな?」

 身長は紘太郎よりも高く、一八〇センチ。爽やかな笑顔、細い体つきだが適量に筋肉はついている。目尻はほんの少し垂れていて、初対面に抱く警戒心を解いてしまいそうになる優しそうな雰囲気。本人は無意識にそれを醸し出しているようだ。

 ここにいると言うことは、忍の関係者なのか?

 そしてこちらが質問する前にあちらから質問されてしまう。

「俺は二年B組、相馬紘太郎です。そういうあなたは?」

「僕かい? 僕は三年C組の依代(よりしろ)(しん)()。キミは忍の知り合いかな? ここに来るってことはそうだよな。おい忍、僕に彼のことを教えてくれたっていいだろう」

 そう言って彼は画面に夢中の忍に尋ねるが、当の彼女はパソコンのゲームに夢中になっていて、今はドラゴンを仲間と闘っている途中だった。

 ヘッドホンをしていてこちらの声は聞こえているのか、そうでないのか全く分からない。

「ごめんね。ああなるとあいつは話を聞かないんだ。暇だし、終わるまで話でもしようか」

 頷き、彼と紘太郎は適当に座る。

「忍さんとはどういう関係なんですか?」

 いきなりこんなことを聞くなんて()(しつけ)だとは思うが、これを訊いておかないと彼がどういう人なのか分からないままだ。

「うーん……三年間同じクラスであり、協力者だったのかな? どういう関係かって言われるとちょっと答えずらいな。キミは忍とはどこで?」

「俺はここで会いました。あの噂を聞いて……」

「あの噂。あぁ、あの噂ね。良かった、誰か来てくれて。これで僕も忍にどやされなくて済むよ」

「誰か来てくれて?」

 首を傾げて紘太郎は聞き返す。

「うん。あいつ結構気難しい性格でさ、長く付き合ってるけど考えていることがよく分からないんだ。どんな理由かは知らないけど、誰かの手伝いをするために僕が噂を流したんだ」

「そうなんですか。先輩も大変でしたね」

「でも良い奴なんだよ。曲がったことは嫌いで、誰よりも人のためになれるのが好きだった。素行は悪かったけどね」

 ハハ、と笑顔で答える依代に不思議と好感を覚え、次第に警戒心を解いていった。

「有ること無いこと言うんじゃねぇよ。誰かを助けることに喜びなんて覚えた記憶はない。お前は記憶を美化するのは悪い癖だぞ」

 どうやらゲームの中で見事に仲間とともにドラゴンを倒したようだ。満足気にヘッドホンを取り、水分と食料を補給しながら唇を尖らせ、彼に文句を言う。

 忍は髪を搔き上げ、紘太郎の存在にようやく気が付いた。

「お前来てたのか。こいつと会うのは初めてだったな。あれの事は言ったのか?」

「あれ、ですか?」

「あぁ、こいつはA級だよ。丁度良い、今日お前どうせ暇だろ? 一日こいつについて行け」

 二人を行き来するように指を差し、紘太郎に指示をする。

「え?」

「身近で感じてみな。格上ヒーローの実力ってやつをさ」

 突拍子の無い忍の言葉に、戸惑いと驚愕を隠せない紘太郎であった。

依代慎也の実力はいかに!

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