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ゾンビニ! 四話

 聡と劉が深夜シフトで勤務していた時のことだ。

「ちょっと、オカシイよ、原田サン」

 劉が床をモップ掛けをしていた手を止め、店内から外を見つめて言った。

 聡はレジ内でパイプ椅子に腰掛け漫画を読んでいたが、立ち上がって漫画を椅子に置き、カウンターのから出て劉の横にやってきて外を見た。

 駐車場にゾンビが大勢集まり、建物から十五メートルほど距離を置いて取り囲むようにこちらを向いて立っている。

 ゾンビは普通なら明るい光を嫌うので、薄暗い駐車場の前をうろつくことはあっても、中に人の姿があっても煌煌と明かりのついた建物に寄って来ることは今まで滅多になかったのだが、今晩は何やら様子がおかしい。ゾンビ達の表情は一様に虚ろで感情がまるで読めない上に音も立てずにコンビニ店内の方を向いてじっと見つめられているのだ。

「こりゃあ店長に一報入れようか」

 聡はポケットからスマートフォンを取り出し、店長を呼び出し始めた。

「緊急通報はドウシマスか?」

 劉はレジカウンターの下から散弾銃を取り出した。

「あ、劉さんちょっと待って、店長っすか。急いでネットで定点カメラの映像を見てください。駐車場に大量のゾンビが集まってて、今にも襲い掛かってきそうなんですよ……ええ……」

「大変ネ、コッチに近づいて来タヨ」

 劉が緊張した声をあげ、散弾銃を入り口の方へ向けて構えた。扉の前までゾンビが満員電車のように密集して押し寄せて来ている。

「じゃあ店長、全員非常招集でお願いします。通報ボタンも押しますから」

 聡は通話を切ってレジカウンター下の赤いボタンを押した。入り口の外側で赤い回転灯が回り出し、非常ベルが鳴り響いた。

 聡はカウンターから散弾銃を手に取り、予備の弾薬を乱雑に掴んでズボンのポケットに押し込めながらすばやく事務所の防犯モニターを見た。外の看板の高所に取り付けた俯瞰視点の広角カメラは、駐車場にスクランブル交差点のように集まっている大量のゾンビだけでなく、周辺の道路から続々と店を目指してやって来るゾンビの群れを捉えていた。散弾銃だけではとても心細くなってきた。

 聡は劉の横へやって来て、「どうなってんだ今日は? ドラクエかなんかの発売日だっけ?」焦る気持ちを落ち着けようと劉に笑いかけた。

「日本人ゾンビになっても行列好きだね」

 劉も少し緊張がほぐれた様子でニヤリと笑った。

 ゾンビは入り口や窓のガラスをドンドンと叩き、あるいは体当たりを始めた。防弾強化ガラスなので割られることはないと思うのだが、圧力がかかるとアルミの枠が破壊されるかもしれない。

 今までのゾンビは、個々が独自のパターンで動くところしか聡は見たことがなかった。それが今夜はまるで誰かに操られているかのように、集団でコンビニを襲撃するという行動をしているように見える。これは一体どういうことだろうと考えていると、裏口からドカドカと中澤店長や井上幸穂ら他のスタッフが、拳銃や自衛隊払い下げのH&K社製MP5サブマシンガンを手に店内に入って来た。

「原田君お疲れさん。なんでこんなにゾンビが集まってるんだ?」

 店長が外を険しい目つきで見ながら言った。

「わかりませんが、かなり危機的状況っす。自衛隊はどれぐらいで来てくれますかねえ」

「恐らく三十分は掛かるんじゃないかな」といって店長は集合したスタッフを見回した。

「よし、二手に分けよう、原田君は一階の防衛指揮を取って。で、小池、宮部、大和は俺と屋上にいくぞ」と店長は言って店内のトイレへ小走りに駆け寄り、洗面台の下の用具入れの扉を開け、銃座のついた機関銃を引きずり出してきた。

「まさかこいつが必要になるとはな。こんなこともあろうかと本社に発注しといてよかったわ。小池と宮部は先に屋上に上がってコイツを引っ張り上げてくれ、大和、脚立と弾薬忘れるなよ」となんだか嬉しそうに言いながら、屋上へは外からしか上がれないので裏口から機関銃を四人掛かりで慎重に運んで出て行き、店内には聡と劉以外に女性が三人残された。

「おっし、じゃあコッチは什器を動かして入り口にバリケードを作ろう。井上さんは外を警戒しておいて、俺らが什器動かすから……」と言ってマルチコピー機や什器を動かして入り口付近に少々頼りないが壁を作った。

 作っている間も外のゾンビは入り口のドアに殺到し続け、先頭のゾンビの腐った部分が後方のゾンビからの重圧で押し潰され、赤黒い血でドアを汚していた。

いきなりリズミカルな甲高い発射音が外で炸裂し、駐車場のゾンビの一列が綺麗になぎ倒された。屋上からの銃撃がようやく始まったようだ。

 しかし、入り口の扉の枠がとうとう重圧に耐えきれなくなってきたのか目に見え歪みはじめ、ピッタリと閉じていた扉に隙間が生じ、徐々に扉が内側に向かって傾きはじめた。

「ヤバイ、ドアがこじ開けられるぞ」

 聡は扉の人間の頭ほどに拡がった扉の隙間に狙いを定めて散弾銃の引き金を二度引き絞り、先頭のゾンビの頭を吹き飛ばしたが、後方のゾンビが更に扉に身体を預けて来て、いよいよ扉が枠から外れて内側に倒れこんでしまった。

「どんどん撃てっ!」他のスタッフが一斉に手にした武器を撃ちはじめた。聡も素早く弾薬を詰め直してろくに狙いを定めずにぶっ放しては装填という作業を繰り返しはじめた。

 開け放たれてしまったドアからは機関銃が駐車場に弾丸をばら撒く音が断続的に聞こえてくるし、入口付近には次々と屍体が積み重なっていくのだが、ゾンビはあとからドンドン押し寄せ、バリケードに取り付き、什器棚のお菓子やカップラーメンを床に撒き散らしながら不器用に乗り越えようとしてきた。

「シャッターとかないの?」

 井上がレジカウンターにニューナンブを両手で構えながら仁王立ちして、店内に侵入してくるゾンビに次々とヘッドショットを決めながら叫んだ。

「閉めたことないからわからん。みんなは?」

 誰も返事をせずに黙々と銃を撃ち続けている、おそらく誰も知らないのだろう。

「まずいよ、弾が売り切れるよ」

 劉が売り物の弾を棚から持ってきて包装を解きはじめた。

「発注担当は誰だよ、売れ筋は切らすなっていつも店長言ってただろ」

「散弾はあまり売れないからネ」

 一般人が持つ銃は9mmの弾がほとんどで、散弾は昔ながらの猟銃を使う人にしか需要がない。そして店舗の備品は大規模な襲撃を想定していなかった。

「九ミリ弾も少なくなってきたわ」井上がニューナンブのシリンダーに弾丸を押し込みながら言った。

「発注定数増やしてもらおうな」

 聡は弾の尽きた散弾銃を逆さに持って什器を乗り越えようとするゾンビの頭を力一杯殴りつけ、銃身の曲がった散弾銃を放りだし、腰のホルスターを外してカウンターの井上の足元に置き、自らは武器の棚に駆け寄り手斧を引っ掴んだ。そしてバリケードに駆け戻りながら包装を破り捨て、什器越しにゾンビの頭めがけて振り下ろした。鈍い手応えがして刃がゾンビの脳天に喰い込み、血と髄液が溢れ出してきた。聡は手斧を握る掌に伝わる粘り気を帯びた感触に吐き気を覚えたが我慢して手斧を引き抜き、次の標的を待ち構えた。

「まずいよ、弾切れだ。どこからこんなに大量のゾンビが集まって来たんだよ」店長たちが裏口から入って来た。

 そして店内の入り口に設けたバリケードが、殺到するゾンビの圧力で床を擦りながら押されはじめた。聡や店長達は必死に什器を押し返す。

「そろそろ店から撤退した方がいいんじゃ無いんですか?」

「いや、救援がくるまでなんとか持ちこたえよう。店をたたむようなヘマをしたら俺はクビになっちまう。危険手当てアップするからさ、みんなも頼むよ!」

「雇われ店長も大変っすねぇ」

 聡はちらりと腕時計を見た。まだ警報ボタンを押してから十五分ほどしかたっていなかった。

 その時、警笛を轟かせながら搬入トラックがゾンビをなぎ倒しながら駐車場に突入してきた。トラックはゾンビを踏み越えて車体を激しく揺らしながら駐車場を一回りして入り口を塞ぐように店の前で停止した。

「なんだ? 今日はプレステかなんかの発売日か?」と言って運転手の豪が窓を開けてMP5を掃射した。助手席の窓からは誰かが車の屋根に登り、自動小銃を三点バーストで撃ちはじめた。トラックからわずかに遅れて装甲車が二両、機銃を乱射しながら駐車場に入ってきた。


 あらたなゾンビの流入をトラックが防いでくれたおかげで聡たちは店内に入り込んだゾンビをなんとか倒すことができた。

 聡は手斧を携えてバリケードを乗り越えて店の外へ出た。トラックの陰から出て辺りを見回すと、形勢は一気に逆転した模様で、駐車場のゾンビはほとんど自衛隊の強力な火器によって打ち倒され、屍で足の踏み場も無いほどだ。聡は立ち込める腐肉と血と火薬の匂いでむせかえってしまった。

「危ないヨ!」聡の後ろをついてきていた劉が叫んだ。聡の足元のゾンビが急に起きあがり、首筋に噛みつこうと襲いかかってきた。


タタタンッ


聡は一瞬死を覚悟したが、銃声とともに目の前のゾンビの頭が勢いよくはじけ飛び、聡の顔に血と髄液が降りかかった。

「よし、カップラーメン奢りね。まだ給料出てないから助かるわ」

 トラックの屋根から女の声が聞こえた。

 聡が顔の血を拭って声のする方を見ると、ファミリーマーケットの制服を着た少女がこの場にそぐわない明るい歌を口笛で吹きながら89式小銃の弾倉を慣れた手つきで交換していた。胸には「研修中」と書かれた黄色い名札をつけている。少女は弾倉交換を終えるとゾンビの屍体を踏みつけるように飛び降り、まだ残っているゾンビを撃ち倒すために駐車場の中央へ躍り出た。

「大したもんだあの子は。とても勤務初日とは思えんな」

 豪がトラックの運転席から降りてきて聡の傍らに立ち、ポケットから煙草を取り出し火をつけた。

「自衛隊での危険地域勤務者用射撃研修を歴代最高の成績で終えただけのことはある。それに女のくせにゾンビを全くビビったり気持ち悪がったりしない。頭のネジが何本ぶっ飛んでるんだか……」

「豪さん、ありがとうございました。もうちょっと遅ければやばかったですよ」

 聡はとりあえず礼を言った。

「ああ、走っている途中で緊急通報が入ったからな。お前さん達は運が良かったな」豪は煙を一息に吐き出した。

「先輩、後は自衛隊に任せちゃってオッケーですか」

 少女がライフルを肩に担いで二人の前にやってきた。

「オッケーどころか自衛隊からスカウトが来るかもな」豪は笑った。

「な……何者なんすか、この子?」

 聡はまじまじと目の前の少女を見つめた。

 身長は150cm足らず、歳は十八歳ぐらいだろうか、髪は後ろで一つにまとめて黒縁眼鏡をかけているが、きりっとした形の良い眉に大きな瞳と形の良い鼻がとても際立つ美少女だ。聡はどこかで彼女を見たことがあるような気がした。

「金城ミコト、今日からこのエリアを回ることになりました。よろしくお願いします」

 少女が微笑みながらぺこりと頭を下げた。

「ラーメンは醤油系の生麺タイプがいいわ、在庫あるかしら?」

「ああっ! もしかしてアイドルの金城ミコトちゃん!?」

聡はまだゾンビが発生していなかった頃にテレビで時々見かけたことがあるのを思い出した。

「あら、私の事知ってる人がこんなところにいるなんて嬉しいわ、よろしくね」と言って右手を差し出してきたので、聡は興奮しながら握手をした。

「なんでわざわざこんな危険地帯に……もしかしてそういう企画の番組か何かっすか? でもカメラマンとかプロデューサーはいないみたいだけど」

「うーん、最近は自粛自粛で芸能界のお仕事が少なくなっちゃったんでマネージャーにバイトでもしてこいって言われちゃって。それにゾンビゲーム大好きだから面白そうかなって」

 駐車場は自衛隊が制圧してしまったようで、新たにゾンビがどこかから集結する気配は今の所聡には感じられない。店内ではスタッフが片付けと屍体の撤去を始めたようで、店長は壊れてしまった入り口のドアの破損状況を確認しながらスマートフォンで上司と何やら話している。聡の見たてでは、アルミの枠が歪んでいるだけなので、施工業者を呼べば修理は簡単に済みそうだろうけれども、問題は汚染地帯にやってくる施工業者が見つかるかどうかだ。もしかしたらスタッフごと他店舗に移動になるかもしれないし、何日かは自衛隊の協力を得てこの状態で営業するのかもしれない。でも臨時休業の線は無いかなと聡は心の中で笑った。大地震だろうが台風直撃だろうが働き続けるガッツ溢れる日本人だし、この程度で休んでいたのならそもそも汚染地帯でコンビニエンスストアを営業したりしないだろう。

 聡は店内の屍体をズルズルと引き摺って何度も外へ運び出していると、金城ミコトが駐車場の真ん中にライフルを肩に担いでひとり立っているのに気づいた。芸能人に今まで会ったことがなかった聡は何か声をかけようと後ろから屍体を避けつつ近づいて行くと、いきなり彼女は振り返って聡に89式小銃の銃口を向けた。

「ヘっ? 待って、俺はゾンビじゃ……」焦って言い訳を始めた聡には構わずに、金城は聡からほんの少しだけ銃口を上方にずらして引き金を絞った。発射音と共に弾丸は聡の頭上を越えコンビニの屋根の方へと飛んで行った。すると聡の後方でグアアッと何かの動物の断末魔の叫びが聞こえ、続いてバサバサと鳥が複数飛び立つのと、ドサッと何かが地面に落ちる物音が聞こえた。

 聡が振り返ると、弾は屋根に置きっ放しになっていた機銃の方へ飛んでいったようで、視線を下に移すと、大きな烏が地面に落ちていた。

「なかなか気配を消すのがお上手だこと」金城はそう言って烏の屍体に近づいて行った。

「今まではバラバラに動いていたゾンビが、最近集団でコンビニなんかの拠点を襲う事件が時々あってね、誰かが操ってるんじゃ無いかなと思ったら案の定だわ」

 金城は烏の両方の羽の付け根を掴んで持ち上げ、聡の方に広げるように突き出した。

 体長60センチ程の普通の烏に見えたが、驚いた事に脚が三本もあった。





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