表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

ゾンビニ! 二話

 ゾンビだらけの街なのに、意外と客は多い。一番多いのが自衛隊のパトロール分隊だ。厳戒態勢中は毎日同じミリメシで飽きるのだそうだ。それにマンガや雑誌はコンビニでしか買えないので暇つぶし用によく売れる。

 次にインフラを支える人達。ガスの供給はストップしているが、水道も電気も利用者は激減しているものの、ゾンビを一掃出来た時のために撤退はしない方針らしい。たまに携帯用のアンテナを補修する人も立ち寄る。

 警察も閉鎖された署は多いが、不法入国者の警戒などにあたっているので、サブマシンガン片手に巡回中によく立ち寄って行く。

 あとは様々な理由で退去勧告に従わなかった一般人。今更避難しても仕方がないとハッピーな人生を諦めた人。ニート。アウトロー。奇人変人。ゲーム感覚でゾンビをハンティングしようとする阿呆。

 彼らは最初の頃は人数が多かったが次第に減っていった。何故かは言わずもがな。こなくなるのは別にいいのだが、コンビニ受け取りの荷物が、受取り手が現れずに結局回収されて行くのはなんだか寂しい。

 客以外には、一日一回は搬入トラックがやって来るし、清掃局のゴミ収集車も自衛隊に守られて二週間に一度回収にやって来る。

 運営コストに見あった売り上げはないが、ゾンビに敗れて全面撤退するのは政府にとっても体裁が悪いので、日本が世界に誇るコンビニ文化が橋頭堡となって対ゾンビ戦線を支えているのだ。コンビニチェーンの親会社に払うロイヤリティーは免除らしいし、補助金も巨額らしいので、こんな状況にもかかわらず店長は喜んでいる。

 搬入した商品を並べていると店の裏の入り口の方からかすかにチャイム音が聞こえた。聡が腕時計を見ると4時40分、朝のシフトの者は6時からだ、こんな時間に突然やって来るのは店長しかいない。

「やあ、おはよーさん原田君、劉君」頭頂部まで後退した額の前線をさすりながら、ファミリーマーケット湾岸泉佐野店の店長がレジの奥から現れた。独身で49歳、脱サラしてコンビニ店長を始めた苦労人だ。このところ運動不足なので下腹がかなりせり出してきている。

「夜中に目ぇ覚めてもーて、することないから出てきてもーたわ。そやから原田君はもう上がってええよ」

「あ、はい。じゃあお言葉に甘えて。劉さんお先ぃ」と言って、店全体の売り上げの半分を占める武器弾薬のコーナーを整頓していた劉に声をかけた。

「お疲れサマ」武器携帯許可証のない者にはお売り出来ません! と黄色地に黒で書かれたPOPの角度を直しながら笑顔で右手を上げた。

 政府はゾンビがいるエリアで活動する場合に限り、犯罪歴の有無を調べた上で、ペーパー試験と簡単な実技試験のみで臨時の許可証を発行していた。銃本体は警察署でしか販売されていないが、弾薬はすぐに手に入らないと困るだろう、ということで軍用サバイバルナイフ、特殊警棒、金属バットなどの近接武器とともに拳銃からライフル銃までの弾丸のコンビニでの販売が許可された。チェーンソーも取り寄せ可能だ。

 武器が簡単に手に入るからと言って安易にコンビニ強盗でもしてやろうなどと考えない方がいい。銀行はすでに汚染地域から撤退しているので、ほとんどの支払いは電子マネーかクレジットカードのみになっているし、店内のATMは空っぽなのでまずリターンが少ない。それに警報ボタンを押せば警察署だけでなく最寄りの自衛隊駐屯地にも一報が入るし、店内の様子は通報と同時にコンビニ本部や自衛隊にもモニタリングされることになる。それにセキュリティ上おおっぴらに出来ないが標準装備の散弾銃以外にも強力な武器が多数用意されているし、強盗がコンビニの店員を威嚇するだけでも手痛い報復が待っているのに対して、コンビニ側が人間を撃ち殺したところでゾンビだった、感染者に見えた、と一言言えば簡単に無罪になるのだ。おかげでクレーマーも減ったと店長は喜んでいる。アウトロー気取りで悪事を働きたいのならホームセンターやショッピングモールにでも行けばいいし、だいいち強盗が発生してコンビニが閉店にでも追い込まれれば一番困るのはそこで生活する自分たちなのだ。冷静に考えればコンビニ強盗がどれだけ割に合わないか理解できることだろう。


 聡はレジカウンターからパイプ椅子が四脚と折りたたみ式のテーブルのみの狭い事務所に入り、タイムカードを切った。そして頑丈な扉の横のカード読み取り器に名札をかざし、ロックを解除して扉を開けて外へ出た。

 外へ出てすぐ正面には高さ二メートルほどの、上部に鉄条網を張り巡らせた鉄製フェンスに守られた幅一メートルほどの通路が左右に伸びている。フェンスの向こうには四階建てのマンションのベランダ側が見え、そのうち三階のひと部屋には明かりが灯っている。右に行くと店の南側の、フェンスに囲まれたゴミ置き場にたどり着き、左側は店の北側から回り込んで駐車場に出られるようになっているのだが、放置自転車や原付バイク、廃材などを高く積み上げて通れないようにしている。

 聡はフェンスの北側の終端部分にあるブロック塀との三十センチ程の隙間に身体を横にしてよっこらせ、とつぶやきながらフェンスの向こう側、マンションの裏側に通り抜けた。そしてマンションの入り口側に歩いて行く。道路に面したマンションの入口側はフェンスと鉄条網が張り巡らされ、道路側から完全に隔離されている。このマンションは一棟丸ごと政府が格安で借り上げ、コンビニの寮として無償提供されているのだった。現在聡を含めて十名がここに住んでいる。

 フェンスが邪魔で、高さ50センチ程の花壇を乗り越えなければ入り口には着けない。花壇に登ってフェンスの向こうを眺める。まだ夜明けには時間があるが薄暗い道路上の方々にゾンビが四、五体のっそりと歩いているのがぼんやりと見えた。そのうち一体が臭いに反応したのか気配を察知したのかはわからないがこちらに向かってきた。聡は腰のホルスターからコンビニからの支給品のニューナンブを取り出してゾンビの頭部に一旦は狙いをつけたが、ここで撃ち殺してしまうと通る度に異臭を嗅がなくてはならなくなるので撃つのは思いとどまった。ニューナンブをホルスターに戻し、花壇を下りて入り口から中へ入り、エレベーターはメンテナンス会社が来られないという理由で使用禁止になっているので階段で四階まで上がってきた。どの部屋を選んでもよかったのに、眺めがいいかな、と思って四階を選んだのだが、今は息切れしながら少し後悔していた。

 一人で暮らすのには広めの2LDKの部屋に入り、まずエアコンのスイッチをいれた。梅雨が明けてすぐで、窓を空ければ日中でもエアコンの必要はまだないのだが、腐臭が漂ってくるのでいつも窓は締め切ったままだ。洗濯物も布団も干せやしない。ファミリーマーケットの制服を脱いでTシャツとハーフパンツの楽な格好になった。家財道具は以前住んでいた人が使っていた物がそのまま残っていて、自由に使って良いといわれているが、服は自前だ。残された家具や衣類から推測して、夫婦と男の子が一人の三人家族が住んでいたようだった。避難したのかゾンビとなったのかは聞かされていなかったが、前者ならいいなと聡は思った。


 聡は寝る前にリビングのソファーに身体を沈め、横に置いてあった衛星放送のチューナーのリモコンを取り上げ、57インチの液晶テレビに電源を入れ、何か面白い番組はないかとチャンネルを操作した。

 先ほどの店長のように、人員に余裕があっても店に出てくる気持ちはわからなくもない。なにせ娯楽が極端に少ないのだ。よく自宅と会社の往復だけで遊ぶ暇がない、などと表現するが、ここの生活は文字通り自宅と会社以外、何もない。通勤途中で立ち寄るゲームセンターも居酒屋もファーストフードも本屋もない。目の前に海はあるが釣り糸を垂らしている間に後ろからゾンビに襲われかねないし、ゾンビ映画のワンシーンのように屋上やベランダからゾンビを狙撃する練習をしたりもしたが、あっという間に飽きてしまった。聡がコンビニとマンション以外の場所に行ったのは、業務の一環として一泊二日の火器取扱研修で陸上自衛隊信太山駐屯地に二度行っただけだ。

 なので余暇を過ごす方法は読書とテレビとゲーム、インターネットぐらいしかない。人によっては羨ましいと思うかもしれないが、常に命が危険に晒されている緊張感でどれも心底からは楽しめないのであまりオススメはしない。アルバイトの一人は他にすることがないからとスマートフォンのソーシャルゲームで常に上位に位置するほどに金と時間を費やしている。同じ境遇の者達で強力なギルドを組んでいるとか言っていたが聡はソーシャルゲームには興味がないので、それが面白いことなのかどうかよく知らない。

 チャンネルをニュース専門チャンネルに合わせ、そのまま寝てしまおうと目を閉じた。兵庫県の方でショッピングモールに篭城する模様をネットで生中継していた一団が全滅したと報道しているのが聞こえた。原因はネットアーカイブで捜査中らしい。どうせゲームか映画みたいに空気の読めないバカがいたんだろう……



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ