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RTS――リアルタイムストラテジー。
シミュレーションゲームのサブジャンルとされたりもするけれど、そこに含めるには異質だろう。ゲームとしては敷居が高く、玄人好み。国家や軍隊を戦略的・戦術的に操作して、戦争を勝ち抜くことを目的とする。このジャンルのゲームには、実際の史実を元にしたものが多くあり――モンゴル帝国の出身も、そうしたゲームのひとつである。
結論から云ってしまえば、モンゴル帝国も同じだ。
原汐莉や虐殺鬼畜兵器と同じく――。
難攻不落。
モンゴル帝国は強すぎた。
そして、彼の不幸は、ラスボスとして余りに理不尽な強さを誇ったため、それが原因でゲーム自体にクソゲーの烙印を押されたことだ。もちろん、モンゴル帝国も、それが仕方のない事とは理解している。プレイヤーがどれだけ入念な計画を建てて、完璧なプレイをしたとしても、モンゴル帝国はイナゴの大群のように押し寄せて、全てを無に帰すのだから。
しかし、どれだけの悲しみを背負っても――。
そんな生き方しか、モンゴル帝国はできない。
本能のようなものだ。
本当は、手加減したい。
ラスボスとして、適正な強さを示したい。
でも、無理なのだ。
静かに、泣く。
その日も、ごくわずかなプレイヤーが奮闘してくれていた。クソゲーの烙印を押されたこの世界に、それでも留まってくれている人達。モンゴル帝国は、深い感謝を覚える。それなのに、彼らに対してできることは、重装騎兵を突撃させることぐらいだ。
それだから、モンゴル帝国は声を殺して泣く。
しかし、例えば――。
空を見上げる。
モンゴル帝国は、淡い日差しに目を細めた。
どこか別の世界に、こんな自分が生きていても良い場所があるのではないか。
ただ生きることが罪になるような自分に、誰か、〈変化〉を与えてくれないか。
そんな風に願った次の瞬間――。
大型トラックが、モンゴル帝国を轢いた。
「閑話休題」
汐莉は宣言する。
出会ってしまったラスボスが三人。自己紹介の必要がない程度には、それぞれ名は知れている(もちろん、悪い意味で)。背景事情の説明が必要ないから、互いの心情を敢えて確認する必要もなかった。
三人は、何もない真っ白な空間で、車座になって向き合っている。
ウィンウィン、と。
鬼畜兵器が、ちょっと五月蠅い。
もちろん、モンゴル帝国は、地表の四分の一を掌握した程の大帝国であるから、この空間には、少なくとも地上の四分の一が存在している。また、その分だけの人口も現出している。つまり、異空間はモンゴル人で満ちている。そのため、本来は何も存在しないミステリアスな空間のはずが、まるで、十三世紀にタイムスリップしたかのような雰囲気になっていた。
とにかく、それはさておき――。
「さあ、鬼畜兵器さん、モンゴル帝国さん――ラスボスに付き物のアレに、私は思い至りました。私達は難攻不落。誰にも、攻略されなかったラスボス。それだから、ラスボスならば定番のアレも必要なかった。でも、私達が目覚めることに――第二形態に〈変身〉することを、誰が邪魔できるでしょうか? 誰が異論を挟めるでしょうか?」
変身。
ラスボスは一度、二度倒されて、真の姿を見せるものだ。それは、ラスボスらしさのひとつ。もちろん、RPGではないのだから、〈原汐莉〉も〈虐殺鬼畜兵器〉も〈モンゴル帝国〉も、本来、変身という技術は有していなかったけれど――。
「変身、と……」
汐莉は告げる。
「そう言い訳して、私達は……」
邪悪に、ひたすら邪悪に――。
ラスボスらしく、彼女は笑んだ。
「世界を入れ替わりましょう。そして、見せてやるのです。ラスボスとしての生き様を。私達を忘れ去ろうとするものに、突き付けなければいけません。混沌を。破壊を。終わりが訪れないならば、世界を、私達が滅茶苦茶にするしかないのですから」