成長と変化を秘めたる、ただの洞窟
「いったいぜんたい……なんなのか」
遊び人。
それは何の意味があるのか。
何の意味があるのか、まったくわからないクラスである。
特別なクラス補正が掛かるわけでもないし、何の特典もない。
攻撃力も、防御力も、まさに並み以下のクラスであり。
繰り返すが、そのクラスに何の意味が。
3月7日。
4パーティ目。斧中戦士LV55。荒野武士LV52。遊び人LV50。踊り師LV57。
3月9日。
4パーティ目。境剣士LV58。強戦士LV50。遊び人LV54。魔物師LV60。
お気づきだろうか。
遊び人が紛れていることに。
中上級パーティの中に、遊び人がちらほら紛れている。
こいつら何なんだ、と実際に戦ってみても、本当に弱かった。
前衛も後衛もつとまらないやつが、なぜか「にぎやかし」でいた。
何の意味があるのかわからないが。
こちらには意味があった。
育成に大変に役立ってくれるクラスだった。
レベルを上げるときに、こういうふうな遊び人を動けなくして、味方に倒させるというのは簡単だった。
危険がない分だけ、そういうレベル上げがしやすかった。
キキや軍曹などに、経験値稼ぎに倒させたりしていた。
「……それにしても」
しかし、伝崎には大いなる疑問があった。
遊び人LV50。
遊び人LV54。
結構なレベルなのに、まったくクラスチェンジしていない。
おそらくこのクラスは初期職業なはず。
職業とすら呼べないものなのかもしれないが、50レベル以上あるのに転職していない。
それこそ、本物の遊び人ということなのだろうが。
働きたくないでござるなのかもしれないが。
まったく不可思議なクラスもあったものだ。
そんなこんなで、遊び人などを軍曹やキキに倒させて、味方のレベルが結構上がってきていた。
ただの洞窟の軍曹の様子を見てみる。
「お前たちぃ、こういうときはこうだ!」
軍曹は自分の部隊に対して、叱咤激励を飛ばしていた。
隊員たちは整列していて、顔をななめにしながら聞いていた。
ゾンビの腐った脳みそにはあんまり響かず、意味がなさそうだった。
軍曹のステータスを見てみた。
ここ数日間で倒した冒険者たちのおかげでステータスが上がってきていた。
軍曹のステータス(ゾンビネスLV38→43)
筋力B- → B
耐久CC+ → B-
器用EE → D-
敏捷DD+ → C
知力C++ → CC
魔力D+ → D++
魅力C- → C+
槍E → EE+
罠解除C-
伝崎のコメント。
レベルが5上がったことで、ステータス全体がかなり上がってきているな。
それに倒した冒険者の質も高いから、吸収したステータスが良かった節もある。
伝崎はとりあえずモンスター大全を見て、ゾンビロードのステータス条件を改めて見る。
・ゾンビロード
ゾンビのスーパーエリートである。
レベル45で進化。
筋力C+以上必要。
知力B-以上必要。
魅力C++以上必要。
進化すると全ステータスが二段階上がる。
全ステータスの成長限界も飛躍的に向上。
人間と同じように各種訓練でステータスが向上するようになる。
取得する新スキル
「ゾンビ化」
「脅威」
筋力条件はすでに達成している。
あとは知力と魅力をあげないといけない。
レベルも43になってきて、そろそろステータス条件を満たさないとやばい。
もし、ゾンビロードのステータス条件を達成できずに45レベルになったら、ゾンビジャーになってしまう。
つまり、ただのゾンビのソルジャー化してしまうということだ。
それすなわち、「ゾンビ化」のスキルが取得できないことを意味する。
ゾンビロードに進化すると、ステータス補正とかもやばいぐらいに良い。
さらに人間と同じように訓練したら、ステータスが上がるとかすごすぎる。
アンデット系のマイナスポイントがまったくなくなる。
ゾンビロードは、もはやアンデット系とモンスター系の良いとこどりみたいな節がある。
ゾンビ化で部下も自分で増やせて、知力も高いから指揮もできる。
理想的な指揮官になるだろう。
知力と魅力をなんとか上げてやらないといけないだろう。
魅力はあと一段階上がればいいだけだから、このままいっても可能性はある。
問題は、知力。
現在の知力CC
条件の知力B-
あと、二段階も上げないといけない。
まだ軍曹はゾンビネスで、アンデット系特有の訓練ではステータスを上げられない状態。
つまり、知力の高い冒険者を倒して、そのアウラから知力分のステータスを吸収しないと上げられない。
ただ、知力が高い冒険者がかなり少なく難しい。
こちらの知力が高くて、相手の知力も同じぐらいだと倒してもアップしないみたいだ。
相手のほうがかなり知力が高いときに、それを倒してはじめてこちらも上がるわけだ。
「軍曹!」
伝崎がそう声をかけると、軍曹が振り返って聞いてきた。
「なんですかぁ?」
「これからは俺が指示しない限り、ゲイボルグの槍を投げないようにしてもらいたい。あと、とどめを刺さないようにしてくれないか?」
「わ、わかりましたぁ」
ゲイボルグの槍を投げさせていると、とどめを必要以上に刺してしまうからだ。
今の軍曹に冒険者のとどめを刺させて、レベルを上げるのはすごいリスクなので、それをやめさせることにした。
とにかく知力の高い冒険者がやってきたら、それを倒させるようにしないと。
ゾンビロードの夢が挫折してしまう。
逆に言えば知力の高い冒険者がやってきて、それを倒させればそのときに軍曹はゾンビロードになれるというわけだ。
かなり、注意が必要だが。
(ワクワクしてきた……)
やっと、軍曹がゾンビロード手前まで来ている。
そのことを考えるだけで、伝崎の中にただの洞窟の未来が開けていくような気がするのだ。
倒した冒険者をすべてゾンビ化すれば、どうなるだろう。
伝崎は両腕を広げて、ただの洞窟を見渡した。
まだ見ぬこのダンジョンの未来がはっきりとイメージできる。
最高に明るい未来があるようにしか見えなかった。
「ん……?」
すこし奇妙な光景が見えたような。
中央の宝の山。
積み上げた金貨の高さが、二倍以上になってきていた。
きらきらと輝く金貨が、リリンの作り出した光玉の明かりを反射している。
その宝の山の前に置いてある財宝。
竜の卵が、がやがやとちょっと揺れたように見えた。
見間違いか?と思って目をこすってから見たら、すでに竜の卵は微動だにしなかった。
ミラクリスタルは紫色に怪しく光っていた。
ガラクタの機械兵は相変わらず、その目を光らせることもなく、すべてのエネルギー源が絶たれたように静かに鎮座していた。
宝の山の後ろに回り込むと、魔王の間に繋がる通路で気がかりな仲間が横たわっている。
白狼ヤザンだった。
白ゴブリンのじいさんの手当てを受けて、葉っぱで身体の周りを包まれている。
ワラの上で横たわって、牙をむき出しにしながら「くぅー」と鳴いて、うなされるように「はぁはぁ」と寝込んでいた。
まだ、ダメージが回復していないようだった。
獣人キキは宝の山のすぐ側で紋章を地面に描いて、棒状の電撃の柱を立てていた。
紋章を地面やそこらに書くのはあまり見たことがなかった。
何の魔法かはわからなかったが、ノモンの黒魔術書の省略魔法を研究しているようである。
確か対人戦闘向きの魔法書だから、省略術式を描いて速く魔法を撃てるようになる方法が書かれていたはず。
それを学んでいるのかもしれない。
ここ数日間、冒険者を倒すことでレベルが上がったキキ。
キキのステータス(獣人LV10→21)
筋力FF → E+
耐久E++ → D+
器用D++ → C+
敏捷C+ → B
知力CC → B-
魔力B++ → BB+
魅力DD → C-
詠唱DD+ → C+
伝崎のコメント。
かなり強くなってる。成長が顕著なのは、敏捷だな。
獣人らしく、ジャッカルみたいに走りが早くなっているようだ。
今もただの洞窟の一本道を走らせると、ぐんぐんストライドが伸びていくのが見える。
詠唱速度もぐっと一回り上がった感じだが、目に見えてこうだという変化はまだわからない。
レベルが11も上がったことで、全体的に能力が開花してきている。
一番ありがたいのは成長限界がかなり上がっているだろうから、これから魔法の訓練を積むことで魔力がぐんぐんとさらに上がっていくことだろう。
キキの見た目にそんな変化はないけど、頭の藍色の髪の中に白髪が一本増えたような気がしないでもない。
前は一、二本しかなかったのに、今は三本ある。
これがどういう変化を意味するのかはあんまりよくわからない。
小悪魔リリン(LV39→42)の基本ステータス。
筋力FF → E+
耐久D+ → DD
器用C+ → CC
敏捷B → B++
知力C++ → CC+
魔力B++ → BB
魅力BB → A-
詠唱B+ → B++
伝崎のコメント。
実はリリンが地味に強くなってる。
確か、小悪魔は悪魔に50レベルで進化するはず。
手元のモンスター大全の「悪魔」への進化条件を見てみる。
・悪魔(レベル50以上で進化)
この段階に達してこそ、本物の悪魔である。
魔力B以上必要。知性CC以上必要。
進化すると魔力と知力が一段階上がる。
取得スキル「魂契約」「変身」
ステータス条件をすでに満たしているから、このまま50レベルになれば悪魔に進化するだろう。
小悪魔で十分に役に立ってくれているけど、取得スキルが面白そうだ。
魂契約? あの悪魔の魂の契約的な何かか?
あと、変身はさりげに応用がききそうな能力というか。
伝崎はさらっとリリンに聞いてみる。
「リリン、改めて聞くけど、魂契約のスキルってなんなの?」
小悪魔リリンは悪だくみの微笑みをにじませて言う。
「クスス、取得してからのお楽しみデース」
全然、楽しみじゃないのはなんでだろう。
契約、絶対にしたくない。調教されまくる未来しか見えない。
逆らえなく、なる。
白ゴブリン(ゴブリンLV31→32)
筋力E++
耐久D+
器用B → B+
敏捷C+
知力B+
魔力C
魅力C- → C+
弓C → C+
栽培の神様A+、薬草術B。
伝崎のコメント。
白ゴブリンのじいさんは、ほとんど非戦闘員に近いけど。
ちょこちょこ戦闘参加してくれて、一応レベルが上がっているな。
魅力が微妙にあがって、ちょっと見た目が若返っているような気がする。
じいさん曰く、目標があると精が出ますわい、とのことだ。
区切りついたら、農業もちゃんとやらせたい。
白狼レベル14。
筋力E+
耐久E-
器用C
敏捷B++
知力D
魔力F
魅力A
伝崎のコメント。
白狼は怪我をしてから、現状維持だな。
しかし、魅力がめちゃくちゃ高いな。
さりげに育てたら、強くなりそうな可能性を秘めてるような気も。
早く回復してくれることを祈るばかり。
・ただの洞窟の部隊情報。
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第一軽槍歩兵団(部下平均26LV)
指揮官、金髪軍曹タロウ(星潜竜の長槍、ゲイボルグの赤い槍、崖赤の大盾、黒騎士のフルアーマー)
7匹のゾンビ。装備(白竜鉄の槍、白竜鉄の鎧、白竜鉄の盾)
軍曹の指揮により、整列した動きで破壊的な白い槍攻撃を吐き出す。
ほとんどのゾンビが、ゾンビネスに進化して顔つきが変わってきた。
といっても、顔の肉付きやウジがちょっとマシになっただけだが。
動きも微妙に良くなっている気がする。
訓練度は100。
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第二骸骨槍兵団(平均25LV)
指揮官、リリン。
10匹のスケルトン。装備(白竜鉄の槍、白竜鉄の盾)
リリンが、サン、ハイというと白い長槍を誰も出遅れずに突き出す。
前よりも言葉を微妙に理解している感じかもしれない。
スケルトネスになる条件は35レベルだから、まだまだ進化するスケルトンはいない。
カンカラ、と嬉しそうに体を動かしている。
訓練度は100になった。
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第三白弓兵団(平均21LV)
指揮官、白ゴブリン。
10匹のゾンビ。装備(白竜鉄の弓、白竜鉄の矢)
白ゴブリンが指示を出すと、ゾンビたちは狙った一点に矢を当てる。
かなりゾンビネスに進化しているメンバーも出てきたようだ。
だが、ゾンビとゾンビネスの違いは微妙なので、どっちでもいいような気もする。
訓練度は100になった。
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第四魔法師団(平均1LV)
指揮官、キキ(ノモンの黒魔術書、クテカ山の竜の赤布)
1匹のゴーレム。装備(無し。装備不能らしい)
キキが指示を出しても、ゴーレム一体は寂しそうに突っ立っているだけだった。
時間差で自主的に「ぶいや!」と言って両手を振り下ろす。
まだ、指揮をとれている感じではない。
ゴーレムのレベルも全然上がっていない。
これからの課題だな。
訓練度は2。相変わらず。
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