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マホトパーティ戦 2

「いや……え」


 ダンジョン内の初めての経験なのだろう。

 反論されたマホトは、目を丸くしていた。

 すぐに表情が厳しくなり。


 紫色の斬撃がほとばしる。

 中央のゴーレム一体の上半身だけが、時間差でななめに倒れ込んでいく。

 瞬間的にゴーレムを倒していた。


 マホトの攻撃だった。

 この場にいる誰もが、ほとんど見えなかった。

 すでにマホトの刀は鞘に収まっていく。


 死んだはずのマホトが切れるように叫ぶ。


「ただの洞窟じゃねぇだろ!」


 伝崎はまた反論したくなって叫ぶ。


「俺が評価決めてるんじゃない!」


 意地と意地。命をかけた攻防が始まっていた。


 中央の残りのゴーレム二体が「ぶいや!」と叫んで大きな両手をマホトに振り下ろそうとしている。

 獣人のキキが指示したというよりは、ほとんど本能に近い反撃だったが。


 その両手が振り下ろされる前に。


「はっ!」


 後方の、氷中魔術師すんのの両手から図太い青の光が解き放たれていた。

 それが中央のゴーレム一体に当たると、ベキベキという大層な音を立てながら、他の二体目にも連鎖するように氷が大きく広がっていく。

 氷結スピードといい、その範囲といい、強力な氷魔法だ。

 両手を振り上げた状態でゴーレム二体が凍結されていく。


 獣人のキキは軽快なステップを踏んで、その氷魔法から逃れていた。

 詠唱を続けながら。


 ドドンダが重そうな足取りで前へ走り、岩のような大剣を振り上げようとする。

 軍曹がもう一方の星潜竜の長槍を思い切り突き出していた。

 その槍が伸びて、どの槍よりも伸びて。

 大剣がそれにぶつかって、両者の攻撃が重なり合う。


 光と光が飛び散る。

 軍曹とドドンダがにらみ合う。

 大剣が長槍の上に叩きつけられるように置かれていた。




 マホトがななめに走り出そうとすると、後方以外のほとんどの方角から槍が一斉に突き出される。

 避ける場所がなくて、マホトは体中を突き抜かれそうになるが。


『相ヌケA』


 マホトが習っていた無住真剣流の秘中の剣だった。

 剣の境地を極めた者同士がお互いに切り合うと、究極は相討ちになって死ぬと考えられていた。

 しかし、実際には同時に攻撃が外れるという不思議な現象が起こったのである。

 無為自然の境地、そこから考案された剣技だった。


 その流儀では、最初自然に太刀を引き上げて真っ直ぐ前に出て下ろすことから始める。

 通常、その場合お互いが相討ちになる。

 だが、次第にそれを延々と繰り返していくうちに、攻撃が外れるという現象が起こるようになるのである。

 それは歩法によって実現されるのではなく、自分の剣身によって実現される。

 何度も何度も繰り返していくうちにアウラから影ができて、その影が色を帯びて、さらに容姿を帯びて、最後には声まで出すようになる。

 いわば、アウラによって作られた剣の分身だ。


 マホトは声までは出せなかったが、その分身を自分が斬る刹那に出すことができた。

 マグマ風呂でも相ヌケして、自分の分身に挑戦させていたのだ。


 マホトが槍で一斉に突き抜かれるが、次にその姿は消えていて。

 後方数歩の場所で、本物のマホトが刀を切り上げていた。


 初撃を必ず外すことができる。

 磁石のように自然と分身から弾き飛ばされる。


 これが彼の相ヌケの術理だった。




「めんどくせぇ技もってんな!」


 伝崎はそう言いつつも、意表を突くようにドドンダの方向に駆け抜ける。

 隊列から突出した軍曹を支援。

 ドドンダが軍曹の長槍をはねのけて、追撃で上から振り下ろそうとするところに、手早くセシルズナイフを背後から突き立てていた。

 ドドンダの背が弓なりになる。


「ぐっ」


 マホトが振り返って、それを助けに行こうとするが。

 ドドンダにゾンビ部隊の槍が次々と突き刺さっていく。


 小悪魔のリリンが氷柱魔法を使って、中くらいのサイズの氷をマホトに向かって飛ばす。

 マホトが転がるようにして、それを鮮やかに切り上げると。


 キキが間髪入れずに詠唱を終えて、輪のような電撃を瞬間的に放っていた。

 ライルル。足止めする雷の魔法だった。

 それが直後にマホトの頭に当たると、ばちばちと音を立てて、ひるんでいる。

 顔が硬直したようになって、頬を震わせている。

 手をじたばたさせるがその場から動けない。


 攻撃直後には、自慢の剣技を使えないようだった。


 すんのがいる場所にも矢が飛んでいって、怯えたように下がりながら詠唱をしている。

 一本、二本と肩や腕に容赦なく当たると、「やだよ、こんなの!」と叫んだ。

 痛そうに顔をしかめて、詠唱中断。

 矢が刺さった部分を押さえながら、その場に腰を抜かしたようになった。


 身動きできなくなっているマホトに向かって、追い打ちの矢が引き絞られようとしているところで。


「待て」


 伝崎は手を上げていた。


「待て、もういい」


 一斉に攻撃が止んだ。

 妖精のオッサンがポケットから顔を出して、「どうしたんだぁ?」と言うが。

 伝崎は無表情に近い。

 だが、どこか慈悲を帯びているともいえるような、穏やかな顔で黙っていた。




 マホトは、すんののローブの襟をつかんで、洞窟の一本道の通路を走っていた。

 その一本道には、引きずられて進む彼女の血がいくつかの筋を作っていた。


「ありえねぇ……ありえねぇ……ありえねぇ!」


 ――なんで、あいつは俺を見逃したんだ!?


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