表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/119

ギルドに加入するために

 エリカ・ビクトムと名乗ったその少女は嘘みたいに肌が白く、澄んだ金髪を肩に流している。

 前髪は切り揃えられているが、それがとてもよく似合うぐらいに綺麗な顔立ちだ。

 人形のような、という表現が近い。

 しかし、笑いをこらえると、可愛げのあるえくぼができる。

 170センチほど身長があり、ほぼ対等な形で対面できるのだが、切れ長の流麗な目を見ていると、どちらかというと見下されているかのような印象を受ける。

 十代後半ぐらいの少女に過ぎないというのに高級そうな黒毛皮を着こなし、その胸の大きさは分からないものの、引き締まった長い足のおかげで抜群のスタイルに見えた。

 ただ、片足が取れてた。

 致命的なことに、片足が無造作に横になられている。

 エリカは、まったく気にする様子もなく話す。

「あの所作は美しかったですわ」

 ――あれ、本人気付いてない?

「ど、どうも」

 ――もしかして、俺が切っちゃった?

 つい手が出たみたいなノリで、セシルズナイフをつい出したみたいな。

 白い面の男が黒いマントから白手袋をした両手を出して、エリカを支えている。

 男は190センチ近くの身長なのだが、マントの間から見える体はあまりにも細身だった。

 通常よりも背が高く感じられ、雲を貫くような高身に見えるといっても問題なかった。

 白い面の後ろには黒髪が生えていた。

 計り知れない重みのようなものを仮面の下の赤い瞳から感じさせられた。

 彼は、その体から微塵もアウラを放っていないのである。

 おそらく、その筋の人間。

 洞察スキルで見てみる。

 レベル61凶戦士。

 ステータスは分からないが、明らかに剛の者。

 ――やっべ勝てるか?

 白面の男は、ぎろりと見てくる。

 ――勝てる気しないんすけど。

 というか、戦うという前提がおかしいか。

 冷静に考えると取れた片足からは血がまったく出ていない。

 それからいって義足に思われた。

 現に切断面と思える場所から何も出てこず、不自然なくらい真っ白だった。

 片足で立ち続けるエリカ。

「あの作法をどこで身につけたのですか?」

「ここではないどこか、というべきでしょうか。この王国にも土下座自体はあるかもしれませんが、あの動きはいささか違うものに見えたでしょうね」

 ――本当に気付いてないのかね、この子。

 エリカは、ちょっと疲れてきたのか片足をもじもじさせる。

 ――やっぱ、分かってるよな?

 エリカは、白面の男に何度か舌打ちしながら目配せする。

 ――めっちゃ、気付いてる。

「わたくしにも教えていただけませんか、あの作法を」

「いいですよ。ただ、大変な修行が必要ですけどね」

 白面の男は、仮面の下の目を右往左往させている。

 首には汗をにじませる。

 明らかに、あせっていた。

 目が合った。

 伝崎は目をそらしながら口笛を吹く。

 白面の男は、信じられない早業を演じて見せた。

 すっと屈んだかと思うと立っていた。

 エリカの片足は元に戻っていたのである。

 白面の男は辺りを見回し、独り言を漏らす。

「ふ、ばれてないな」

 ――ばれてるよ。

 エリカは何事もなかったかのように話し続ける。

「ええ、ですからね」

 あ、また取れた。

 白面の男は、めまいがしたのか顔だけで天を仰ぐ。

 何秒かして顔を降ろす。

 よく見たら、つぶらな瞳で問いかけてきた。

 ――気付いてないよね?

 と。

 伝崎は鼻先で義足を差しながらウィンクする。

 ――いいから付けろよ。

 白面の男は、小さく頷く。

 伝崎は、エリカと話をして時間を稼ぐ。

 謎の連携が生まれていた。

 白面の男は、高速で義足を付けることに成功する。すると深々と頭を下げて、感謝をこちらに表してくる。

 ――あ、こいつ良い奴だ。

「あの所作には奥深しさみたいなものがありましたわ」

「そうですかね」

 あ、また取れた。

 白面の男は、「オゥフッ」といって天を仰いだ。

 お互い、変な主人を持つと大変だなと思った。

 そうして、心の中で厚い友情を交わしたのである。

「失礼」

 伝崎は白面の男がいい加減にかわいそうになってきたので、エリカの足元に膝を折って近づいていく。

 召使のようにかしづきながら、曲がった義足を拾い上げる。

 ぶらんぶらんの義足と、彼女の膝をよく見て器用につけた。

 できるだけ彼女の生足には触らないように、しかしスムーズに終わらせたのである。

 エリカは戸惑い、目を横にそらしていた。

 口をむすんで、無言のままだった。

 ちょっと顔が赤くなっている。

 伝崎は、立ち上がると静かに話す。

「自分で付けれるようになったほうがいい。付き人がかわいそうだ」

 白面の男は、恐縮したように頭を下げていた。

 エリカは、むっとしたのか目をつぶりながら高い声で話す。

「あ、あなたのような無礼な人は初めてです」

「そうですか……」

「し、しかし、他人でありながら、わたくしの足を付けてくれた人は今までいませんでした。それに、こ、こんなにうまく。その、えっと」

 エリカは両腕を組み、何度か言葉につまりながらも言った。

「お礼をいってさしあげます。あ、ありがとうございます」

 ――あ、この子も良い子だ。

 伝崎は、不敵な笑みを浮かべる。

「どういたしまして」

「そ、そう、改めて言われると腹が立ちますわ」

 エリカは口をとがらせて、不服そうに言った。

 その態度はその態度で可愛いと思った。

 しかし、それにしても白面の男は明らかに優れた戦闘能力の持ち主。

 このお嬢様の付き人に収まるには、不釣合いな感じを受ける。

 理由があるはずだろう。

 金持ちが娘可愛さに大枚で雇ったか、あるいは。

 この子を知ればいい。

 洞察スキルを発動する。

 エリカは、オレンジ色のアウラをわずかばかり一本の線を立てて頭から放っている。

 エリカ商人レベル42の基本ステータス。

 筋力D

 耐久D-

 器用B

 敏捷C

 知力B-

 魔力F

 魅力B+

 ――驚いたな。十代で、この実力?

 才能があって。

 その上で。

 小さい頃から、多くの努力を積み重ねたのだろう。

 そのアウラには、もっと別の何か形が見える。

 あるものは十字架の形をしていたり、あるものは罠の形をしていたり、それこそ色々な情報が内包されているのである。

 目の前に、フラッシュが走ったかと思うと。

 見えてくる。

 エリカのスキル。

 罠設置A+

 罠解除C-

 交渉B

 洞察B

 迷宮透視B

 道具の心得C

 堅牢B

 煙玉B-

 脅威への耐性A-

 闘争本能C

 見切りB+

 的確な一撃C

 防腐処理B

 呪詛A

 洞窟の使者C

 ――この子は、スキルの化け物だ。

 どうやって、身に付けた。

 どうやって、これだけのスキルを身に付けたんだ。

 スキルの効果自体も、わからないものが多い。

 しかし、それにしても。

 なんとなく片足がない理由がわかった。

 この子のスキル。

 罠設置A+

 罠解除C-

 ――たぶん、自分の罠の解除失敗しとる。

 まだ、ただの洞窟には罠は仕掛けないでおこう。

 あの一本道。

 出るときに食らって死ぬ自信がある。

 そのスキル内容からいって、聞いてみるだけ聞いてみる。

「もしかして、ダンジョンマスター?」

「あら、すごい洞察力の持ち主ですわ。その通り、わたくしはダンジョンマスター」

 運がいい。

 絶対に逃してはならない機会だ。

 伝崎は、ゆるやかに自らのアウラを放ち始める。

 彼女とて、腕利き。

 白面の男が一瞬、警戒心をあらわにしようとしたが、目でいなす。

 ――大丈夫。あくまでも友好を望む。

 伝崎は、いつになく澄ました顔で提案する。

「すこし、別の場所で話さないか?」

 エリカは一瞬止まった。

 何かを考えているのか、まばたきの回数が雪だるま式に増えていく。

 顔を真っ赤にしながら自分の片足をおさえて、しどろもどろで答える。

「え、その、えっ、別の場所ですか? そ、それはどこなんです?」




 今まで繰り返し洞察スキルを使用していたことで経験値が蓄積していた。

 エリカの複雑なアウラを見抜くことによって多くの経験値が入ったことにより。

 伝崎の洞察スキルB+ → B++

 見抜く力が上がった。




「ここはわたしがいつも通ってるところだし、ツケといてあげる。

 また、会ってくれるよね? 絶対だから。

 あ、そういえば、わたしの誕生会を開くから、その招待状も書こうかな。来ないと怒るから」

「じゃあ、これで」

 伝崎は喫茶店から出て、エリカと白面の男に別れを告げた。

 すると、ポケットの中のオッサンが話しかけてきた。

「お前、すげぇなぁ。すぐに仲良くなっちまったじゃねぇかい。あの子、お前に興味持ってるというより、好意を抱いてたぞぉ」

「ああ、まぁな。職業柄コミュ力には自信があるっちゃあるからな」

「なんだよ。その透かした感じ。口説いちまえ、口説き落としちまえよぉ」

「俺には彼女がいる」

「なにぃい? もうこっちの世界で彼女を作ったのか?」

「いや、日本にいる」

「なにいってやがる。こっちでも彼女を作れよぉ。現地妻みたいなもんだ」

「今の彼女を裏切るつもりはない」

「なんだ、その考え。ここに来てまで紳士ぶってやがる」

「あのさ、なんか勘違いしてるみたいだから言うけど、俺は外道でもなんでもないから。ただの合理主義者だから」

「この万引き紳士が! おこぼれにあずかれねぇだろうがぁ」

 オッサンは地団駄を踏んで、プンプンと両手をあげる。

 伝崎はオッサンの頭をつまみ上げると、ささやく。

「お前の口にナイフ突っ込んで、三回転半つけて投げてやろうか?」

「ひぃいい」

 ひたすらに首を振り続けた。

 その後、ダンジョンマスターギルドに行くことにした。

 エリカのサインを見ると受付嬢は驚いた様子で素早く手続きを済ませてくれた。

 1万Gの手数料も請求されなかった。

 エリカがどれだけの権威を持っているのかを思い知らされる。

 銀色の小さなカードが支給される。

 ペラペラの薄いカードだ。

 何も書かれていない。

 これを店主が識別魔法で読み取ると、割引してもらえる。

 ダンジョンマスターの身分証明としても使える。

 しかし、騎士団には絶対に見つからないように、と注意された。

 それなりに細工が施されているとはいえ、上位の識別魔法を使われるとダンジョンマスターであることが発覚するからである。

 ちょっとしたリスクだが、まぁ気にならない程度のリスク。

 伝崎は、正式にギルドに加入した。

 胸元にできた黒服の傷を5000Gで縫ってもらって身支度をする。

 所持金6万9121G → 6万4121G。

 とりあえず、エリカの誕生会に参加することにした。

 コネがいる。

 そこから情報が手に入るようになれば、元が取れるどころの話じゃない。

 莫大な利益に繋がる。

 金になる関係は、熟すまでが大切。

 果実のように最初は苦く、後は甘くだ。

 まだ、エリカに聞いていないことがある。

 ――スキル取得方法だ。

 スキル次第で、ダンジョン経営が劇的に変化するかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ