神さえも黙らせる勇者の能力とは 1
「勇者について教えてもらえませんか?」
大手新聞社の記者がある記事を書きたくて、各所を聞いて回っていた。
王国には本物の勇者と偽勇者がいたわけだが。
偽勇者は王国一の知恵者とアトム実在論争を繰り広げた末に、世界の真理を証明してその論争に勝っていた。
(ちなみにアトムとはアウラの生命エネルギーの源泉の存在のこと)
つまり、偽勇者は偽物のくせにめちゃくちゃ賢いやつで通っていた。
ただ、腕っぷしについては謎が多かったのである。
ところで、『本物の勇者』についてはあまり語られてないところがあった。
本物なのに無名なわけがないのだが。
実際、先の大戦でも共和国相手にありえない戦果をあげて、王国を勝利に導いたという。
だが、実像に迫った記事はあまりにも少ない。
そこである記者は聞いて回っているのである。
「勇者について教えてもらえませんか?」
関係者をいろいろと当たってみるのが、どうも手ごたえがなかった。
勇者といえば、基本的には万能であることが多い。
力が驚くほどに強くて、賢者と論争しても勝つぐらいに賢くて、魔法を使えば一線級。
それこそ何でもできる真の超人でありながら、勇気を持っている人物というのが基本的なイメージだろう。
実際、魔王を倒してきた歴代の勇者たちはそうだった。
ところが、さる記者が先の大戦の新聞記事を書くために聞いて回った勇者評は奇妙なものだった。
「勇者について教えてもらえませんか?」
宮廷魔術師ドネア「僕はその頃、小さくて何も知らなかった」
得意先の商人「言うこと言うことなんでもねぇ」
民「英雄であることは間違いなしだが。もうなんかさぁ、手がつけられないくらいの」
顔見知りの賢者「話にならないぐらいの」
大臣「やつは超がつくほどの」
絶対魔術師ヤナイ「彼は、バカでした」
みんな口を揃えて言うのだ。
「最高峰のバカでした」
それが総意だった。
鮮明にそれを物語るのは、数年前の先の大戦時。
そのときの勇者の実像だ。
「なぁっ!」
玉座の前。
国王が狂人のように目を見開いて、大げさに両手を広げて。
「なぁっ! 本気かぁ??」
また、両手をぴんと必死に伸ばして言う。
国王の目は血走っており、ものすごい危機感にかられているのがわかる。
居並ぶ大臣たちだけではなく、その場にいる誰にでもやばい雰囲気が伝わってくるのである。
バーサーカーとかに見られるような興奮と狂気を帯びているかのようで。
「なぁっ! 二人で行くとか本気かっ??」
勇者は、うざそうに、かったるそうに。
「だから、援護いらねぇつってんだろ。じじぃ」
ぴしゃりと一言で黙らせた。
国王は、ゴーレムのようにその場で固まっていた。
ちなみに国王は「じじぃ」という年齢ではない。
髪の毛もまだ白髪になっておらず、茶色と栗色がまじったかのような若々しさがあり、ひげを蓄えているところを見ると中年手前の年齢に過ぎなかったが。
「じじぃ」
勇者はとりあえず、そう言いたかっただけである。
絶対魔術師ヤナイは、その二人のやり取りを後ろで静かに聞いていた。
絶対魔術師と勇者が今から向かおうとしているのは、王国南下の最深の森林地帯のダビド砦だった。
共和国軍が総兵力100万人のうち、20万人の兵力で迫る場所だった。
その砦は王国の防衛最終地点であり、そこを共和国軍に突破されれば王都近くの街にまで敵は迫ってしまう。
つまり、その砦を奪われれば王都は占領され、この大戦は敗北に終わる。
連戦連敗で、王国は疲弊し尽していた。
王国の残っている手勢は5万人を切っていた。
その残存兵力を援護に向かわせるという話だったのだが、それらをすべて拒否し、さえぎった上で。
そこに二人で向かうということを宣言したのだった。
「まだ間に合うぞぉぉおお」
まるでそれは王国の断末魔のようだった。
後ろから、その「間に合うぞぉお」という声が何度も何度も反響していた。
勇者は首をかしげながら、王宮の巨大な中央扉の前から出ていく。
「わからねぇ。ホント、わからねぇな」
耳をかっぽじって、意味不明とばかりに繰り返す。
「なんで、あんなにあいつ止めたの?」
バカだった。
常識的に考えて、二人で向かおうとすれば止めるのは当たり前である。
各個撃破されないように、敵軍がここぞとばかりに大軍を集結させて、総力戦を挑もうとしている地点に、たった二人で向かうというのは。
どこからどう見ても、馬鹿げている話である。
「わっかんねぇなぁ!」
勇者は、いまだ国王の必死の説得が理解ができないという様子だった。
絶対魔術師ヤナイは、頬に一粒の汗を伝わせながら黙っていた。
説明しても無駄だとわかっていた。
説明すればするほど、余計に彼はわからなくなるくらいに。
知力G-。
それが勇者の知力。
一般人よりも正直言ってバカだった。
一般人よりちょっと賢いぐらいの町のご意見番でも、Dぐらいの知力がある。
Eぐらいで一般人ぐらいの下の方の知力で、Fで五歳児ぐらいの知力である。
つまり、F以下ともなれば、どうなるだろうか。
ゴブリンである。
勇者のG-という知力はゴブリン以下の。
「わっかんねぇなぁ!」
知力ということだった。
強戦士ストロガノフ・ハインツ(知力FF+。筋力の種の食い過ぎで↓)よりバカだった。
勇者は、蒼い蒼いその髪をぼりぼりとかきながら、首をかしげて、うんともすんとも言っている。
肌は異様なほど綺麗で、ほっぺはつるんとしていた。
生まれたての赤子のように健康そうな感じ。
うへぇーという声を出した後に目を細めて、あきれた様子で、王の話をいまだに理解できてない感じで首を振る。
面会用の黄金の首飾りをめんどくさそうに外して捨てながら歩いていく。
Yと書かれた青いシャツに、真っ黒なズボンというシンプルな格好になった。
それ以外の装備を今はつけていないのである。
剣も持たず、盾も持たず、鎧すらつけず。
数年前にいろいろすごい勢いで一式売ってから、まともな装備を持たなくなっていた。
その姿かたちは、どこからどう見ても、そこらへんの街中にいそうな若者であり。
眠そうな顔は、起き抜けのただの無職のようでもあり。
彼が勇者たりえるのはなぜなのか。
「オレがバカだっていうのはわかってるよ」
誰も何も聞いてないのに、王都の中央路をとぼとぼと歩きながら話し始める。
絶対魔術師ヤナイは、細い目をさらに細めて、その話を聞いている。
彼には持論があった。
「バカだとダメなのは弱いからだろ?」
弱いからだろ、というのが口癖だった。
「強かったら、勉強せんでいいんよ」
絶対魔術師ヤナイが超訳すると、頭でこねくり回して作戦を立てないといけないのは弱者だけらしい。
勇者は偏った意見をさらっと『酒に酔わずに』いえるところがあった。
それはあまりの知力の低さから出てくる意見とも言えるが、それだけではない節もある。
――彼が勇者たりえるのは。
勇者は筋力B+であり、並みの戦士に僅差で打ち勝つぐらいにはあるが突出しているわけではない。
魔力に至ってはGであり、何の素質も見られないのである。
特別なスキルを持っているのかというと、実は勇者は「スキル無し」という一般人でもありえない生まれ立ての赤子同然の状態であった。
その頬がすごいつるんとしていることと関係はない。
――彼が勇者たりえるのは、なぜなのか。
「バカでも全部うまくいくんだよ」
誰に問われるでもなく、勇者は独り言を続けている。
バカ特有のきんきんする声の張り上げ方で。
「バカでも大丈夫なんだよ!」
人によっては勉強できる人に対する負け惜しみに聞こえるような言い方で。
「なんかわかんねぇけど、全部うまくいくんだよっ」
二人は戦場に向かうのであった。
共和国軍20万人が凶悪な兵器を携えて迫る最激戦区へ。
先の大戦が起きた理由について、必ず避けて通れない驚異的な事実が隠されている。
共和国の爆発的な発展についてだ。
「これほど弱腰の国はない……」
つい30年前まで、共和国は周りの国でそう言われるほどに弱かった。
事実、南に数多く乱立する国の中で『最弱国』だった。
わずか総人口2万人前後の国に過ぎず、永世中立というのは名ばかりのあらゆる国に貢物を贈る国に過ぎなかった。
だが、突如として現れた名宰相に導かれて、農業革命と産業革命を同時に成し遂げ、人口爆発を繰り返しながら、南のすべての国を統合してしまった。
南の国すべてを合わせても当時約6400万人だった人口はすさまじい勢いで増え続けて、1億人を突破していた。
その人口増加をもってしてもありあまるほどの食料と製品を抱えるようになっていた。
圧倒的生産力を背景にして、剣と魔法の世界を駆逐しようとしていた。
当時の王国の人口は数百万人前後だった。
そこから抽出できる兵力は多く見積もっても10万人である。
一方で、共和国は100万人の兵力を持ったとしても、余裕なほどの人口と国家予算と整備されたシステムを持つようになっていたのだ。
つまり、共和国は内政重視の国だったのである。
「異世界内政、楽しすぎる……」
曰く、名宰相は「異世界内政」と称していた。
共和国を発展させることをなぜ異世界内政と言うのか。
名宰相は異世界人というのがもっぱらの噂だった。
賢者たちは、異世界人によって世界のパワーバランスを完全に破壊されていると論じていた。
誰も共和国の勢いを止められなかった。
ある時期までは確かに王国の優位は、揺るがなかった。
ひとりの兵卒の優秀さだけではなく、魔法使いの火力が並大抵の兵器では圧倒することができないものだったからだ。
だが、それも共和国というスーパーパワーを持った国が現れることによって変わった。
倒しても倒しても湧いてくる兵力と、その内政力によって裏打ちされた生産力。
すさまじい技術が兵器に転用されていた。
共和国が作った兵器が、成してしまったことがある。
この世界には実は境界線を形作る古竜が存在していた。
レビトンと呼ばれる古竜であり、そのサイズは山脈に匹敵する大きさだった。
その古竜が10年に一度現れると、大地が振動し始めて、あらゆる物体が震えるほどだった。
地震を引き起こす竜。
その竜が通る場所に川が生まれ、山は切り裂かれ、道ができて、世界と世界の繋がりが生まれるような存在だった。
一方で、その竜のせいで消えた街もいくつもあった。
ゆえに、災害竜と呼ばれていた。
それが共和国に現れたときのこと。
海の向こう側に、最初は船がやって来るかのように見えた。
しかし、次第にそれが近づいてくると、小さな島のように見えた。
だが、より近づいてくると、共和国の首都と同じほどのサイズだということがわかった。
巨大な津波が起こり、港町が飲み込まれ、数万人を飲み尽くして、あらゆる人を死に絶えさせていく中で。
名宰相は、これに備えて作っていた『兵器』をひとつ用意した。
その兵器の形は、彗星のような輝きを放つボウガンのようにも見え、その両翼に弦が張られているようにも見えたが。
違った。
その中央に砲台が備えられていた。
サイズは古竜と比べれば大したことはなかったが、小さな長方形の館に匹敵する砲台だった。
足には車輪がつけられて、何十人もの兵卒がそれを押しながら進めていた。
古竜が港町をえぐり出し、進む。
その半身は港町にめり込み、その半身は海にあった。
大気は揺れ、大地は震え、世界が震撼する中で。
それを横目に近くの岩山の上に設置された『その兵器』は稼働し始めた。
機械兵のようにガシンガシンという音を出して、内部構造のシリンダーがひかれると、この世界の超爆発を引き起こす星降る流性曜石を絶妙に分離・混ぜ合わせた砲弾が埋め込まれた。
次の瞬間に砲身から、閃光を放った。
三角錐の砲弾が古竜の耳の上の小さなしわに当たった。
直後、すさまじい光が起きた。
閃光が半球形に広がり、山脈のような古竜の頭を飲み込み、さらにその光は巨大化していき、全身を飲み込み、鱗を砕き、五体は砕け、頭頂部の角が天高く燃え上がりながら、溶けて消えてなくなっていく。
「ぐぉああああおおおおおおおおあああん」
古竜の断末魔が空を貫いて、雲の形を変えていく。
周辺の海を蒸発させながら、その光はどんどんと広がっていき、海中の魚さえも焼き尽くした。
隣町が小さな一点に見えるほどの、爆発が海に見えている。
爆発のあとに、半球形の穴ができていた。
そこに海水が時間差でたまっていき、その穴は姿を消した。
――レビトン級ドラゴンをたった一撃で消し去る!
昔々の、伝説が、その瞬間に死に絶えるほどの威力があった。
吐いて捨てるほどの製品を圧倒的に生産し続ける工業力によって、その兵器は作り上げられたのだ。
『スターマイン』という兵器だった。
落ちてくる巨大隕石のような威力とも称されたし、その隕石そのものを一発で砕けると言われた。
異世界人はその兵器の威力を見て、汚染物質の出ない『綺麗な核兵器』と呼んだ。
この兵器は大戦中にも使用されおり、王国の街がいくつも綺麗に消え去ったことはいうまでもなかった。
騎士団の洗練された陣形突撃も、古から続く術という術を駆使した魔法使いも。
皆殺しにした。
このひとつの『スターマイン』という星殺しの兵器で。
戦争の形を変えてしまった。自然を形作る伝説の竜を殺してしまった。
それが異世界出身の名宰相の力だと見せつけるように。
実際、たったひとつあれば一国の軍隊を消し飛ばすことができるのだから。
王国の命運は、風前の灯火だった。
「ひょえー、だだっ広いただの荒野」
勇者は片手を額に当てながら、ダビド砦前の荒野を見渡していた。
本当に何もない、ただただ広いだけの荒野が無限大に広がっている。
「この地平線の向こう側に、共和国の第三の都市レイエンがあると言われていますが」
絶対魔術師ヤナイがさらっとそう説明する。
まだ、共和国軍はやってきていなかった。
二人の背後には深い深い森林地帯があり、東南のジャングルとも称されるような広大な生命の楽園があった。
どこまでもずっと広がっていて、王都まで徒歩で2か月掛かるほどの時間的距離を生む。
世界を分け隔てるような最高峰の山脈が森の向こうにあって、空の手前まで埋め尽くすかのようにひとつの城壁となっていた。
地図上ではここを通れば王都への最短ルートに見えるが、実際には地理的影響で通るのに大変に時間が掛かるために共和国は迂回ルートを選択しなければならないほどだった。
その荒野と森の境界線部分に、王国のダビド砦は存在していたのである。
小さな小さな、まるでやぐらのような、縦に細い心もとない砦だった。
それを建て替えて、数万人の魔法師団の拠点として使おうというのが国王の提案でもあったが、勇者は却下したのである。
ちなみにダビド砦は、現在は一切兵士がいなかった。
すべて撤退させられており、勇者と絶対魔術師しかこの場にいなかったのである。
理解に苦しむのは、なぜ共和国軍20万人が改めてこのルートに殺到してくるのかということだが。
王国の忍者部隊がつかんだ情報が、偽情報の可能性も否めなかったが。
確かな情報筋だからこそ、こちらに国王も告げてきたわけで。
「へ? あれなんだ?」
勇者が指差す方向を、絶対魔術師ヤナイも見てみる。
荒野の地平線の向こう側に、ぽっと『何かが』現れる。
まるで浮かび上がるかのように、真っ平らな線の上に出現したのだ。
例の兵器『スターマイン』だった。
たったひとつだけで、荒野を駆けてこちらに迫ってくるのが見えた。
彗星のごときボウガンのような容貌も、距離が遠いために豆粒に見える。
あまりにも舐め腐った態度すら匂わせるような。
たったひとつの兵器が大地を駆けてくるのだ。
これだけあれば十分とばかりに。
王国は確かにこの兵器に苦しめられたようだけれど。
そして、共和国はこれがたったひとつあればいいと考えているようにも見えるけれど。
「ぷっ」
勇者は頬をふくらませるだけふくらませて、限界に達すると破顔した。
「はははははは、あんなオモチャひとつでオレたちに勝てると思ってんのかよ!」
勇者は腹を叩いて、指差して、ヤナイと顔を見合わせて。
たまらないぐらいに愉快と言った様子で、共和国の最新兵器をバカにしていた。
あの兵器一つなら、余裕も余裕。簡単に潰せるとばかりに、笑い転げていたが。
ダダダダダダダという地鳴りのような音が聞こえてきた。
古竜が消し去られたこの世界において、地震というものは珍しいものになっていた。
ほとんど起きないし、滅多に経験することのない事象になっていた。
にもかかわらず、なぜ今になって地震が起こるのだろうか。
勇者の笑いが止まっていた。その地鳴りのする方を自然と見ていた。
「おや」
絶対魔術師ヤナイが細い目をさらに細めて、その方角を見つめると。
荒野の地平線に、まるで折り重なるように『線』が浮かび上がる。
「あれは……?」
その『線』が地平線を上塗りすると、その全容がすべて見えた。
地平線を埋め尽くす量だった。
相手も情報をつかんでいたのだろう。
3万台以上のスターマインが現れた。
たった一台のスターマインを先頭に、その後ろに数万台が続いている。
20万人の工作兵がそれを押し進めながら、大地を踏み鳴らすようにして迫ってくる。
共和国は、莫大な生産力を有していると言われていた。
そして、それを聞いてもいたし、知ってもいた。
有り余るほどの工業製品は世界を席巻してもいた。
だが。それでもだ。
スターマインという兵器をたった一台作るのが、どれほどのコストを必要とし、どれだけの技術を必要とし、どれだけの人員を必要とするのか。
たった一台作るだけで、小国の一年分の国家予算に匹敵する。
鉱山を切り拓き、街という街の人の手をかけて、あらゆる材料を根こそぎ使い尽して。
名宰相が育て上げた国の桁違いの生産能力、技術力、なにもかも。
その全力を。
たった二人を殺すためだけに。
ここにぶつけてきた。
――共和国は、勇者殺しに全力をあげてきた。
名前だけが一人歩きしていないか。
二人の人間にすべてをかけ過ぎていないか。
世界をすべて消し去るほどの火力が必要なのだろうか。
そんなふうに誰もが噂したが、それでも名宰相はその決断を下した。
勇者は背筋を正して、真顔になっていた。
口を半分開きながら。
「ヤナイ、あれ避けきれるか?」
絶対魔術師ヤナイは糸目になりながら、淡々とした口調で答える。
「まぁ、無理でしょうね。今から空を飛んで逃げ回ったところで、この視界一杯のすべての景色が吹き飛ばされるでしょうから」
勇者は、ぼけっとした様子でさらに聞いてくる。
「なぁ喰らったら、死ぬよな?」
「死にますね。私は攻撃力は自負するほどにあるけれど、防御力は大したことありませんので。普通に一発で死にます」
ダダダダという大地を踏み鳴らす音は次第に大きくなってくる。
耳元で叫ぶ声も聞き取れないほどになってくる。
眼前を埋め尽くす兵器という兵器が、どんどんとこちらに近づいてきて、息苦しくなってくる。
次第に端から端まで、逃げ場のない牢屋の塀を作るかのように。
スターマイン数万台は勇者たちを射程距離にとらえた。
一瞬で訪れる静寂。その場にピタリとすべて止まった。
完璧に統率された軍隊だった。
目の前で、ゆるーい半円を描いて、大地を埋め尽くす。
この世界の兵器という兵器が、そこにあった。
勇者は右手を突き上げて、声を張り上げる。
「なぁ、ヤナイ! 来世でもオレたち二人で……」
「ええ」
「なんつって」
勇者は、ニカーっと共和国軍をあざ笑うかのように、子供みたいに無邪気に笑ってから言い切る。
「死ぬのはあいつらだよな!」
勇者はぴょんぴょんとジャンプして。
「神々もわかってんだろ、おい」
まるで神の目に気づいているかのように。
「わかってんだろ、おい」
天上世界に向かって吠えてきた。
――なぜ、彼が勇者たりえるのか?
その答えが今、ここに刻まれるところであった。