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黒騎士パーティ戦。ダンジョン強化の結果は?

 伝崎はただの洞窟の整った陣容を見渡しながら思う。

 ――どうなるかね。

 実際にやってみるまでは分からない。

 こればっかりは計算ですべて分かるということはないので。

 直近のパーティと実際に戦って、その内容次第でダンジョン強化の流れも変わってくるだろう。

 ゆえに、次戦の内容は重要だった。

 今できる強化というのはできるだけやったので、伝崎の中には握りこぶしを作りたくなるぐらいの自信があった。

 ガッツポーズと言ってもいいだろう。

 いや、まだ勝っていないからそれはできないが。

 誰もが経験したことがあると思う。

 事前の準備を丁寧にやって、直前に自信がみなぎる。

 でも、いざ本番になると、妙に直前で不安になったりする。

 あの準備はどうだったかなとか考えなくてもいいことまで考えたりすることがある。

「いやぁー待て。もうちょい強化したほうがよかったか?」

 伝崎もそわそわし出していた。

 妖精のオッサンが肩の上で、伝崎の首の後ろをパンパンと叩いて

「伝崎ぃ、らしくねぇなぁ」

「いや、なんつーか」

 伝崎が目配せすると、小悪魔のリリンがしゃっきりとした顔でうなづいてくる。

 心強い。

 獣人のキキに至っては両手が握りこぶしになっており、力みすぎるぐらい力みながらゴーレムたちの股の下から広場の出入り口をにらみつけていた。

 肩の力を抜け、と思ったが、伝崎も同じように両手が握りこぶしになっていた。

 ――あかん。緊張が伝染してる。

 妖精のオッサンが励ますように言ってくる。

「自分を信じろよぉ」

 こういうときに最年長者の落ち着きはありがたい。

 伝崎はふっと両手の握りこぶしを解いて、ゆらゆらと姿勢をゆすって脱力する。

 今回、味方を使うっていうのがテーマだとして。

 できれば仲間の活躍をしっかりと見てからやりたいところだが、そんなことしてたら被害が出るかもしれなかった。

「やるしかねぇよな……」

 伝崎はそう一言つぶやいてから、一番ダンジョン内を見渡せる宝の山の前で構える。

 ゴーレム三体の側。

 キキの隣、そこでポケットから真紅に光り輝くセシルズナイフを取り出す。

 シャキっという綺麗な音がして、襟首の布が切れた。



 4パーティ目。黒騎士LV61。強戦士LV58。地中魔術師LV55。正僧侶LV60。



 パーティ侵入後のただの洞窟の状況。

 矢が広場の出入り口付近にばぁーと降り注いで、冒険者たちに当たっている。

 強戦士の身体にどばどばと矢が降り注いでいく。

 隣の黒騎士にもがんがんと矢が降り注いでいく。

 前衛二人に矢が集中。

 強戦士の状態をありのまま見ると、かなり矢が刺さっている。

 特に肩から胴体部分。

 どちらかというと軽装で銀色の胸当てをしているようだが、矢が貫通してしまっている。

 右肩には矢が突き立ち、動かせない状態になっている。

「ぐああぁあお」

 胸や、顔に当たらないように防ごうとした左腕も矢だらけになっていて、総合的なダメージから言って致死量だった。

 強戦士がよろよろとしながら前のめりに倒れていく。

「想像以上だろうがぁあ……!!」

 断末魔をあげた。

 ――めっちゃ効いてる。

 一方、黒騎士は背中から取り出した盾を構えていた。

 小型の黒光りする盾のようだったが、矢が突き立っていた。

 以前の矢だったら弾かれていた。

 装甲の固さに負けて、刺さりすらしなかっただろう。

 ところが、白竜鉄の矢はしっかりと竜の口の部分が食い込むようにして刺さっていた。

 盾じゃない部分は黒騎士の真っ黒な全身のフルアーマーが防いでしまっていた。

 腕を払うようにして防いではいたが、フルアーマーのひとつひとつにへこみができていく。

 当たるたびに黒騎士の両肩がよろめいている。矢に追いすがるようにリリンの氷柱が頭頂部に当たると態勢を崩してアゴをあげる。

 致命傷にはならないが、黒騎士を怯ませるぐらいの威力になっていた。

 ――明らかに威力が向上している!

 全然、前と与えているダメージが違う。

 それらの攻撃とほとんど同時。

 矢に覆いかぶさるように槍の雨が突き出される。

 強戦士を通り越して、盾を持っていた正僧侶に槍の先が突き立っていく。

 がががが、という火花が散るような音がなり、為す術なく正僧侶が針のむしろみたいになっていく。

「ぁあ」

 前衛の黒騎士にもゾンビ部隊から槍が放たれるが、何らかのスキルを発動したのか体から輝きを放つ。

 回避防御スキルを発動したのだろう。

 黒騎士がさらに黒光りして全身を岩のように固くしながら、前に転がって槍を避けようとしている。

 矢だらけの盾を押し付けるようにして、大量の槍先を持ち前のパワーでねじふせて、その下をかいぐぐる。

 いわゆる中腰に近い前かがみの姿勢になる。

 だが。

 黒騎士の兜部分が、吹っ飛んでいく。

 その顔の隣には赤い光がほとばしる。

 伝崎のセシルズナイフだった。

「それ以上先に進ませる気はねぇわ」

 伝崎はナイフの先を思い切り突き出しながら隣を通り過ぎていく。

 黒騎士が片手をあげながら、その素顔をさらして体を回転させる。

 そして振り向きながら驚いた顔をして、その場に倒れ込んでいく。

 そのダメージを確認すると、伝崎は唇を「ちぃ」とかむ。

 致命傷になっていなかった。

 ほとんど紙一重で、黒騎士の首は薄皮一枚に小さな切り傷があるだけだった。

 露わになった黒騎士の容姿は想像を絶するほどのイケメンであり、長い長い金色の髪をたなびかせながら両手をついて立ち上がろうとしている。

 伝崎は任せたぞ、という感じで片手をあげて前を見る。

 それだけに構ってられなかった。

 黒騎士パーティの後ろで詠唱しているやつが見えて、それを止める必要があった。

 地中魔術師だ。

 ドレッドヘアの日本で言うところのラッパー的な女が、薄汚いローブを着てラップ調でテンポよく詠唱をしていた。

 途中で詠唱をうまく変えたのか、その魔術師の詠唱がごく短く終わりかけているように聞こえる。

 ――っ。

 その岩魔法がどんなものか分からないのが怖い。

 伝崎は右頬をあげて前ステップを一瞬で踏む。

 魔法をむやみに撃たれたくない。

 だが、もう二歩のところで詰めきれず、地中魔術師が振り上げた手を前に突き出して魔法を撃とうとするのが止まった時間の中で見える。

 次の瞬間、人差し指ぐらいの太さの細長い電撃がほとばしる。

 ――キキ!

 後ろから雷撃魔法を撃ったのだ。

 その細長い電撃が地中魔術師の額に当たると、一瞬だけのけぞる。

 ナイス、と伝崎は思った。

 しかし、一秒も経たないうちに地中魔術師は態勢を立て直して手を振り下ろす。

 伝崎は思い切り手を伸ばしてナイフを突きつけようとするが。

 ――だめだ。

 まだ電撃の威力が足りなかったのだろう。あるいは初級魔法しか使えなかったのだろう。

 怯みが足りなかった。

 地中魔術師の両手の先から巨大な円形の岩が現れて、出入り口の八割を覆うほどの岩の盾となる。

 伝崎の鼻先にそれが出たせいで、ナイフを振るえない。

 とっさに頭をかがめて両手で覆う。

 後ろから来ているものに気づいていた。

 出現した岩石に大量の矢と槍の先がだだだだという音と共に突き立っていく。

 数多くの味方の攻撃で小刻みに岩が振動している。

 だが、地中魔術師には届かない。

「この岩をどうにか!」

 さっさと地中魔術師を葬らないとどんな追撃の魔法があるかわからなかった。

 味方を使うか。

 一瞬、伝崎は振り返る。

 ゴーレムが持ち上げてくれはしまいかと思ったが、ゴーレムたちは宝の山の前で手持無沙汰で両手を地面について立ち止まっているだけ。

 まだキキがちゃんと指示を出して、ゴーレムを戦力として使えていないようだ。

 セシルズナイフを振るって、その岩をかち割るのが最良と判断するが。

 後ろで倒れ込んでいた黒騎士が全身アーマーの隙間をぬって肘に刺さった槍を引き抜く。

「……ぬっ」

 噴き出す血にも見向きもしない手際。

 黒騎士はうまく中央に転がりながら攻撃を避けつつ、ゲイボルグにも似た紅いもりのような槍を右手で掲げる。

 ――あれ、なんだ?

 伝崎はあまりにも細長いその奇妙な槍に目を奪われる。

 後方で今、行われようとしている挙動に体中の汗という汗が吸い取られて、大きな疑問がわく。

 ――あれは。

 黒騎士が次の槍の総攻撃が始まる前に、ただの洞窟の中央にその奇妙な紅い槍を投げる。

 その挙動は一瞬だった。

 突然その槍が輝き出すと、三十本近くに分裂して180度前に拡散すると全部隊に襲い掛かるのが見えた。

 伝崎はとっさに叫ぶ。

「――やばいっ!」


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