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ダンジョンマスターギルド

 伝崎はあくまでもポーカーフェイスを装い、セシルズナイフについて聞く。

「あのナイフは、いくらぐらいなんですか?」

「ああ、それねぇ。初期の作品だから、セシルズナイフでは安いほうだねぇ。本来なら11万Gの価値があるんだけど……」

「オッサンの妖精がついているから安くなってしまうということですね」

 遠めでオッサンが、両手をあげてコラァと叫んでいる。

 ぴぃぴぃ小鳥がさえずっているように聞こえる。

 ババアは不思議そうに言う。

「見えるのかい?」

「ええ、見えますとも」

 ババアは、そのことに驚いた様子で目をぱちくりとさせる。

 どうにも、それだけの洞察スキルを持っている人間は、めずらしいらしい。

 伝崎は、そのことよりも話をそらせたことに安堵する。

 ババアは揉み手を解く。

「盗もうとした人間には思えないねぇ」

 伝崎は、居酒屋のすべてを吐きそうになった。

 もう、限界だった。

 交渉スキルでごまかせるレベルじゃなかった。

 この人は知っているのである。

 心は折れていた。

 白状しよう。

 盗もうとしていました、と。

 あれをやるしかないか、と思った。

 ババアは、おだやかな口調でさとすように話す。

「その能力を盗みなんかじゃなくて、他に使いな。

 自分で稼げるはずだからね。

 どうだい、そのセシルズナイフをお前にタダでくれてやるよ。

 それで冒険者にでも何にでもなって、ちゃんと金をためるんだ。

 このガントレットは残しておいてやるから、次はちゃーんと金をもって正々堂々とおいで。

 なーに、私からしたら先行投資だよ」

 伝崎は、号泣していた。

 自分は、なんてことをしようとしてたんだ、と。

 こんな良い人から、物を盗もうとしてたんだ、と。

 地面にくずおれて、両手をついて、子供のように声を上げながら泣き続けた。

 この人は、強欲ババアじゃなかった。

 女神ババアだった。

 はじめて、この世界で人情に触れた気がした。




 伝崎の計算式。

 伝崎の独断と偏見による適当な計算式である。

 セシルズナイフを手に入れた伝崎はどうしても現状を把握したかったので、だいたい、こんなもんの攻撃力だろうとさまざまなものと比較検討を行った。

 あくまでも伝崎の個人的な考えに過ぎないが、案外とモグリの賢者たちが見ても納得したりするものである。

 伝崎が非力だった頃、筋力F-のパンチ力1。

 伝崎が称号を得た今、筋力D-のパンチ力9。

 筋力Dのパンチ力10。

 日本の通常のナイフの攻撃力100(基準値みたいなもの)

 この世界の鉄のナイフの攻撃力70(切れ味悪そうだから)

 手元にあるセシルズナイフの攻撃力240(ひげを剃ったことで伝崎は分かったらしい)

 そこで、伝崎の短刀スキルで攻撃力が加算される。

 短刀スキルDの攻撃倍率が1.1倍だとして。

 伝崎の短刀スキルC-の攻撃倍率は1.18倍。

 伝崎の筋力D-のパンチ力9を0.9倍として考えて、すべてをかけると出てくる。

 240 × 1.18 × 0.9 = 254.88

 端数を落とすと。

 254の攻撃力だ。

 さらにうまく急所をつけば、クリティカルとして単純に攻撃力が二倍になるとしよう。

 伝崎は器用A。

 すいすーいと急所に当てられる。

 伝崎は九割方、急所に当てる自信があった。

 しかし、実際の攻防になると八割ぐらいだろうと伝崎は予測。

 254 × 2 = 508

 八割方、508の攻撃力になる。

 この数値は異常だった。

 伝崎の計算式だと冒険者10レベルから20レベルの攻撃力は、それなりの武器をもっていたとしても100前後だ。

 冒険者たちが30~40レベルになり、なかなか良い武器を手に入れたとしても、200から300前後の攻撃力である。

 号泣しながら受け取ったセシルズナイフから器用Aでクリティカルを出しまくる伝崎は、もはや常人では考えられないほどの攻撃力を持ってしまったのである。

 計算では、中上級盗賊職の火力に匹敵していた。

 「戦神の驚愕」の称号を得たことで、非力な-補正がほとんどなくなったことも大きい。

 そこらの草が、サックサク。

 そこらの木の枝も、サックサク切れる。

 とんでもないことになっているのがわかる。

 わかるような気がする。

 あくまでも「伝崎の計算式では」の話である。




「なんつー切れ味」

 伝崎はセシルズナイフをアゴに当てて、ぼうぼうに生え散らかしたヒゲを刈り取っていく。

 すっと引いただけで跡形もなく、草むらが刃の上に乗って散っていく。

 切り残しゼロの平地がアゴに出現する。

 十分も立たずに剃り終えると、井戸の水に映った顔を確かめる。

「つるつるやないか」

「ヒゲ剃りに使うなよぉ」

 足元で小さいオッサンが不満そうだ。

 井戸水には、すっきりした顔が写っていた。

 無精ひげを剃ったことによりコソ泥属性が無くなり、魅力がアップ。

 魅力B++ → 魅力BB

 もう二度と盗みはしません。

 どこからともなく、洞察の神の声が聞こえてきた。

(王都に来てから間抜けすぎ)

 知力A- → B-

 評価が下がった。

 酒を飲んでも飲まれるなってね。

 完全に調子乗ってました。

 過大評価なフシがあったから、これが丁度かもな。

(その代わり、行動力だけ認めるわ)

 称号を与えられた。

 軽率なる先駆者。

 敏捷A- → A

 すこし体が軽くなったような気がした。

 一通り反省した後、伝崎は気になることを問いかける。

「で、オッサンの付加効果って何なんだ?」

「夜中にこのナイフを研磨することだよ」

「なるほどな。どっちにしたって、オッサンのせいで付加効果をもう付けられないんだろ?」

「そりゃ、そうだけどぉ」

「11万Gの価値が、4、5万Gぐらいに落ちるな」

「半値以下かよぉ」

「付加効果が砥石だけとかどんなギャグだよ」

「日ごとに切れ味上がってくんだぜぇ」

「ホントか?」

「おぅよ、その代わり、ちゃんと使ってくれよなぁ。

 俺の妖精としての能力も殺害数、つまりモンスターでも人間でもいいから何か生き物を『殺した数』で決まるらしいからな。

 セシルがそう作ったらしいぜ」

「面白い効果じゃないか。しかしまぁ、あんたが付いてると、やっぱり半値以下になりそうだがな」

「これ以上、いじめるなよぉ」

「しかし、大変だろ。ずっと妖精してるのも」

「まぁなぁ」

「どうやったら解除できんだ、これ?」

「明らかに殺す気だろぅ。おしえねぇよ、絶対におしえねぇ」

「つーか、あんた、ずっと妖精してるつもりか?」

「いや、これはこれで楽しかったんだがなぁ。

 リーマン生活にも嫌気が差してたし。

 しっかしなぁ、それも最初のうちで妖精じゃ飲み屋の姉ちゃんも口説けねぇし、辛くなってきた。

 オイさんをこの武器に縛り付けた神は魔王を殺せば帰還も考えてやるとか何とかいってたけど……

 魔王ってどこにいるのかね?」

「さぁ?」

 伝崎は白々しく、そう言う。

 彼の帰還は、無理そうだと思った。

 ――魔王を倒せるわけがない。

 仮に姑息を重ねて倒したら倒したで、自分が帰れなくなる。

 異世界転移の魔法は、魔王しか使えないからだ。

 どうやらオッサンとは利害が対立しているようだ。

 まぁ、んなこと気にせず、利用させてもらうだけ利用させてもらうが。

「うっ、なに企んでるんだよぉ?」

「いや、何もない何もない」

 伝崎は屈託のない笑顔でオッサンを見下ろしていた。

 そんなこんなで本来の目的を思い出し、足元の井戸を頼りに探し出す。

 女主人エミリーから聞いた闇市場への道を。

 長い回廊を抜けると、地下都市が広がった。

 空は黒くなった。

 大通りに馬車が止まった。

 向こう側の商人がかけてきて、通りすがりの少女に話しかけている。

 市場の活気が匂い立つ。

 商人は遠くへ呼ぶように。

「お嬢さま、お嬢さま」

 明かりをさげてゆっくりと大通りをかきわける金髪の少女は、黒毛皮を分厚く着込み、指には宝石をちりばめている。

 歩き方は人形のように不自然で、カクカクとしている。

 側には白い面の男を従えている。

 大通りには市場のバラックが所狭しと集まっていて、夜の色をその明るさでかき消していた。

「お嬢さま、ご機嫌よろしゅうございます」

「お久しぶりでございますわ」

 どっかで見たことがあるような、と伝崎は思った。

 しかし、今はこの地下都市に興味が集中していた。

 歩き回って、闇ギルドの存在を探った。

 アサシンギルドとか、アサシンギルドとか。

 意外にもあっけなく見つけ出した小さな建物の中には、黒尽くめのザ・ニンジャといわんばかりの連中が鋭い目つきで鎮座していた。

 最初こそ、びびりはしたものの、すぐに聞き出すことができた。

 どれだけ簡単な依頼でも、一人殺すのに最低100万Gがいるらしい。

 騎士団に付け狙われる以上、これより安いことはないらしい。

 そこから200万G、300万Gと難易度に応じて値段がつり上がっていく。

 他にも闇ギルドには、シーフギルドからペテン師ギルドまであった。

 その中にダンジョンマスターギルドも存在していた。

 すぐに伝崎は、ダンジョンマスターギルドの受付嬢に聞いた。

「特典は何なんですか?」

「当会に所属しますと、ダンジョンマスターギルド公認のお店の商品を20パーセント安く買うことができるようになります。

 また専属のトレーナーから各種スキルを有償で学ぶことができるようになります。

 当会にしかないスキルもございます」

 これは大きい。

 しかし、安易に乗らない。

「ギルドに入ると職業は何になるんですか? たとえば洞察スキルではどう見えるんですかね?」

 ダンジョンマスターって表記されたら、街中も歩けなくなる。

「商人と表記されます。ちなみにシーフギルドに入りましたら旅人と表記されますよ」

「上納金みたいなものはあるんですか?」

「それですと当会に所属する場合、毎年売り上げの10パーセントを納めていただくことになります」

 脳内で計算。

 100万Gの10パーセント=10万G

 それに対して元を取るには、割引された商品をどれだけ買うかにかかっている。

 50万Gの20パーセント=10万G

 100万Gの売り上げがある場合、50万G使えば元が取れる。

 そういう仕入れは確実にするだろう。

 20パーセントの割引は大きい。

 とはいえ、上納金は利益じゃなくて売り上げか。

 すぐにダンジョンマスターギルド公認の店を歩き回って、おおまかに調べ上げるとそれが意外と少なく全体の三割だった。

 その上、ほとんどが標準価格で売っており、もっと安いところで買えば、どっこいどっこいになる可能性が高い。

 しかししかし、ダンジョンマスターギルドに所属すれば、他にもメリットがある。

 職業仲間から情報を得ることができるようになる。

 この情報っていうのは、かなり重要だった。

 もちろん、足の引っ張り合いがあるかもしれないが。

 よし、決めた。

「ダンジョンマスターギルドに加入したいのですが」

「当会は、紹介がなければ加入できません」

 伝崎は、絶望した。

 地下都市をあてどもなく彷徨った。

 突然、肩が誰かにぶつかる。

 突き飛ばされるような形で、伝崎は腰をついた。

 目の前には、白い面の男に肩を支えられている黒毛皮の少女がいた。

「いてて」

「あら、あなたは、あの……平伏していた人ではありませんか?」

 そういうと黒毛皮の少女は笑いをこらえた。

 どこかで見たことがあると思ったら、その少女は自分の土下座を大いに笑っていた人間だと気づいた。

 なぜか、少女の片方の足が取れていた。


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