ただの洞窟の冒険者投稿欄(ダンジョン強化デー2)
ギルド新聞とは、冒険者ギルドが発行している新聞のことである。
ダンジョンに赴くとき、その新聞の評価を参考にしている冒険者は数多い。
女魔王の指令でギルド新聞でAランク評価を受けなければ、伝崎は元の世界に帰れないわけだが。
しかし、相変わらず「ただの洞窟」の評価ランクは-Fである。
最低ランクである。
ダンジョンランキングは23405位。下から数えると両手で事足りる。
いまだに微動だにしていない。
記者は次のように記述している。
ただの洞窟は。
『クソ』
この二文字で済ませられているのである。
だが、ギルド新聞には冒険者投稿欄というものが存在している。
冒険者たちがダンジョンの評価を投稿し合って、情報を共有するというシステムである。
本音が聞けるということで、はなはだ人気な欄であった。
冒険者Aのただの洞窟のタレ込み。
「・ただの洞窟は、ただの洞窟なんかじゃない!
-F評価とか(検閲) 黒い影がうごめいていたんだ! あれは上級悪魔か、それ以上の何かだよ。仲間があっけなくソイツにやられた。他のモンスターたちもまるで隙なく一斉に攻撃してくる。えらく訓練されたモンスターダンジョンだよ。俺は見たんだ。数千万Gの財宝もあった。この財宝情報をタレ込んだのは、俺の仲間の仇を取って欲しいからだ。頼む。仇を取ってくれ」
冒険者Bのただの洞窟のタレ込み。
「・上のただの洞窟の感想は創作と思って読むべし。
俺もただの洞窟にいったが、そんなモンスターは見られなかった。1万5000Gを拾ったね。それも拾った以上はもう何もないしな。せいぜい二、三匹のゾンビがのろのろ動き回ってただけで、奥には何もない。
ただの洞窟はダンジョンの体をなしてない。実際に行ってみたけど、モンスターも財宝も揃ってない適当なダンジョンだったしな。他にただの洞窟に行ったやつの話を聞いてみるといい。下にもあるだろ。そこに目を通してみるといい」(ズケ作)
冒険者Cのただの洞窟のタレ込み。
「・うん、うん、そう考えるよね。
憧れますよね。そういうダンジョンがあるってこと自体。すごい楽して一獲千金だって。そんな冒険者のツボをくすぐりますよね。
一昔前のダンジョンでそういう穴場があるって話がよくありましたよ。
合理的に考えてこのギルド新聞がある世界で、そんな穴場が王国の近くにあると思いますか。
私はかつて騎士の盾で武装したことがある職につき、今は趣味で剣術の道場に通っています。
私の若い頃も一獲千金を考えたことがあり、そんな妄想を書きたくなる気持ちもわかりますが、現実にそんなことありえないと思いませんか。楽して稼げるとかない」(ズケ作)
このギルド新聞の内容を読んで、にわかには信じがたいという話が冒険者の間で広まった。
それは下の感想が上の感想に対して同じ月刊の新聞であるにもかかわらず、なぜか同じタイミングで回答していたからである。
通常、人の感想を見て次の月間に返信を書くことはできても、その場で返すことはできない。
そんなリアルタイムな返信ができるのは水晶型の通信魔法アイテムぐらいだ。
ギルド新聞はあくまでも紙媒体に過ぎず、発行後時にはその時点の情報しか書けない以上、編集者以外では不可能なことだった。
なぜ、読者であるはずの冒険者が上の感想を見て、同時に下に感想を返せたのか。
何よりも冒険者たちは思った。
――どう考えても一番下の感想はただの洞窟に行ってないだろ。
というツッコミが冒険者の間でささやかれ、ギルド新聞に対する不信感が高っていくのは必然だった。
それもかしこもすべて。
ズケ作、のせいである。
中上級パーティの冒険者たちを倒せるようになるために。
「これからだよな」
ダンジョン強化を行うために伝崎は王都に来ていたが、武器防具を揃えられたとはいえ、まだ伝崎は強化する心づもりだった。
どんな強化をするかでただの洞窟の行く末が決まってしまうわけで、その強化の質は伝崎の手腕に掛かっていたが。
貪るように読んでしまった。
異世界で新聞を。
それは古書店に置かれていた。異世界新聞として、もう何か月も前の日本の新聞が珍しそうに片隅のコーナーになぜか置かれていたのである。
その新聞を宮廷魔術師ドネアが一日半前に「ふむふむ」と言いながら読んだことを伝崎は知らない。
情報に飢えていた伝崎からしたら、その新聞はありがたいものだった。
数分だ、数分だけと言い聞かせながら読み、乾き切っていた脳が情報という潤いを得て、目覚めていくような感じがした。
伝崎は日本の古い新聞を立ち読みしながらその両手で広げて。
「はぁー○○○は低迷したかー。低迷して良かったよ○○○は。○○○は業界の歪みを象徴してたからな」
伝崎は目を上に下に小刻みに動かしながら文字を追っていく。
「いや、まじでありえなかったから。○○○は。従業員に適切な賃金を支払わずに鼻血出るまで働かせたらいいとか。同業者だけど思ってたね。もうね、チートオンラインも真っ青だった。チートチート。賃金払わずに死ぬまで働かせるとかチート。その経費を利益にしてるようなもんだろ。○○○はライバルですら無く、チート野郎も真っ青なチートだったね。○○○は」
肩の上の妖精の小さなオッサンが首をかしげてツッコミを入れてくる。
「○○○が多すぎて、もはや何言ってるか分からねぇよぉ!」
「よーく考えてみてくれよ。○○○は、従業員に給料をちゃんと払ってなかったんだぜ。労働時間もおかしかった。労働基準法とかもまったく守ってなかったんだよ。○○○はな。そんな○○○と競合してた俺は、零細ながらも善戦するために血反吐吐くような工夫を強いられたんだよ。○○○は金じゃない。夢がどうとか言って、社員がガリガリになるまで働かせてたんだぜ。金じゃないなら経営者の賃金は1円にして部下に全部金払えや。アメリカ方式であるだろ。それやらない時点でどう考えても金だろ」
「だから、○○○が多すぎて何を主張したいのか入ってこないんだよぉ」
「まぁ、その俺もダンジョンの部下に時給払ってないんだけどな。かっはははははは」
伝崎は日本の古新聞を両手に、後ろに反りながら笑った。
妖精のオッサンは肩の上であぐらをかきながら両腕を組む。
「笑えねぇよぉ。その乾いた笑い方がオイさん一番怖いよぉ」
「いや、でも飲食店経営してるときはちゃんと払ってたからな。ちゃんと払ってたぞ」
「免罪符にならねぇよぉ」
しかし、なぜ伝崎が古書店にいるのか。
理由があった。
ダンジョン強化のために王都に来ているわけで、一刻の猶予を争う中でこんな時事ネタを話している暇はなかった。もはや、時事ネタですらない時事ネタを異世界で話すシュールさは半端なものではなかったが。
伝崎は目的を思い出したように古新聞を丁寧に畳んで、古書店内を静かに歩いていく。
妖精のオッサンが思い出したように。
「おいさんなぁ、やっぱりキキに対して言うべきことがあるんじゃないかと思うんだよぉ。叱咤激励でもいいじゃないかぁ」
妖精のオッサンが言いたいことはこうである。
戦闘中に腰を抜かしていたキキに対して何か言葉をかけてやるべきということなんだが。
その言葉に対して、伝崎は片手を上げながら古書店の中に目をやる。
「キキを叱咤するとかありえんから。俺の教え方のミスもあるかもしれんしな。何よりもこれから活躍するためにな」
妖精のオッサンが古書店を見回して、不思議そうに聞いてくる。
「今さらだけどぉ、なんで古書店に来たんだぁ?」
古書特有の香ばしい臭いが鼻の中をつくと、改めて面白い本が目に入ってくるではないか。
伝崎は不敵な笑みを浮かべながら古書を指差していく。
「まぁ見てくれよ。古書っていうのは単なる娯楽のためにあるもんじゃないだろ?」
店主の説明を受けつつも本の簡単な概要をざっと思い出しながら見ていく。
ゼニアス王国式剣術書(15万G)
短剣から長剣に至るまでその扱い方を指南した書物。上級騎士ゼニアスが「これからの人」のために親切に解説したもの。
白黒統率指南書(28万G)
作者不詳。統率スキルを身につけるためのアウラの扱いから部隊指揮の実践に至るまで。
レレの槍術論(31万G)
今や槍術の大家となったレレが三十代のときに自分のために記した書物。あまりにも短文で書かれているせいで、逆に難解だといわれている。その奥深い内容に、とある槍使いは三日間口を聞けなくなったとか。
ノモンの黒魔術書(56万G)
主に人間を殺傷するための下級魔法から中級魔法が記されている。黒魔術師ノモンが得意としていた雷系統の対人魔法から、その攻撃の当て方や隠し方、詠唱の簡略化方法。劣勢状態に陥ったときの対処法から逃げるときに適した魔法など多岐に渡る内容。ノモンの戦闘魔法哲学の総決算。ノモン曰く、上級魔法は一対一の対人戦闘に向かず、戦争に使うべきものだとか。
トリタニの水魔法書(77万G)
水大魔術師トリタニ先生が陽気な語り口調で水魔法を解説。ヘイヘイヘイ、水魔法はたのっしぃよーという文句から始まる。トリタニは先の大戦の英雄の一人であり、共和国軍兵士撃破数268人を誇る。主に水のナイフで展開する近接戦闘から水のトラップ性など、陽気に敵を葬る水魔法が記されている。
本棚に隙間ができていて、パプーの異世界旅行記(21万G)とシシリの転生論(188万G)がすでに売れていた。
逆に新しくひとつの興味深い本が追加されていた。
ラノーイラの魅惑魔法書(121万G)NEW
主に人を魅惑するための下級魔法から中級魔法が記されている。妖艶な魅惑魔法を得意としたラノーイラという女魔術師が人を虜にする魔法をまとめた書物と言われているが、その実、娼婦のごとき術であり、かなりの評判の悪さと云われている。第二級の禁書に指定されているとか。ちなみにこの本は偽勇者パーティ一行の一人が読んだとされている。
伝崎はあるコーナーの前に立ち止まると、武者震いするかのように小刻みに肩を震わせる。
紫色の五芒星が描かれた漆黒の魔導書をじろじろと見下ろす。
「あいつにこの本を読んでもらいたい……」
ノモンの黒魔術書(56万G)を手に取った。
手に持つとずしりとした重厚感を覚える。本を取った時にありえないぐらいの期待感が自分の中に満ちていくのを感じた。
妖精のオッサンが納得したようにポンと肩を叩いてくる。
「そういうことかぁ!」
「キキは魔法習得が驚くぐらいに早い。おそらくだが、氷魔法は一通りリリンから教わり終えてると思うんだ。それでこの雷魔法の魔導書を与えたらどうなる?」
「オイさん、すげぇワクワクしてきたぞ」
「強化の手段を与えずに活躍しろとか部下に○○タックルしとけって言うもんだろ」
「覚えたての言葉を使う子供みたいに、その言葉使うなよぉ」
「やらきゃ意味ないよって部下に言って追い詰めれば活躍するとか考える方がありえんだろ」
「だから、子供みたいに覚えたての言葉を使うなよぉ」
「ここは異世界だぜ。言わせてくれや」
「言っていいことと悪いことがあるだろぉ」
「オッサン、まじで真面目だな。まじ真面目」
「マジ卍みたいなノリで言うなよぉ」
伝崎のこの妙なテンション、これもかしこも久しぶりに日本の古新聞を見たせいである。
ノモンの黒魔術書を渡して、対人の雷魔法をキキに覚えさせたらどうなるだろう。そもそもこのノモンの黒魔術は、かなり対人戦闘に関する魔法を網羅しているみたいだし、キキはきっと革新的に新しい対人魔法を覚えていって、ただの洞窟のエースとして育つだろう。
単なる氷魔法を使うだけのユニットとしてではなく、本当にたった一人で戦況に好影響を与えるエースになり得る。
キキの成長は、イコールただの洞窟の成長を現していた。
伝崎が描いた未来図は決して無計画な野放図ではなく、しっかりとした計算があったのだ。
ノモンの黒魔術書を手に持ちながら、垢ぬけた感じの若い男の店主の前に歩いていく。
存在感の無い店主よろしく、伝崎はアウラを解き放って交渉スキルを発動しようとするが、一瞬だけ戸惑ってしまう。
「……っ」
もしも、また前みたいに立ち眩みのようになったらどうなるだろう。
妖精のオッサンがまるで引き留めるかのように肩の服を引っ張ってくる。
まるでやめとけぇよぉと無言で言うかのようだったが。
何があるか分からない。その何なのか分からないことに躊躇している自分を感じて。
伝崎は笑った。
使うんだよなぁ、それがと云わんばかりに頬を引き上げながら、漆黒のアウラを解き放つ。にじみ出すようにアウラが体外にあふれ出していって、「ひっ」と驚く店主をぐるりと取り囲んだ。
交渉スキルを発動する。
一瞬だけアウラがきらりと光った。それだけで店主は圧倒されたかのようにのけぞる。そうして、目がうつろになった。
前のような発作は一切起こらなかった。
そのまま伝崎は身振り手振りで。
「これはこうで……こういうわけで、お願いできませんか?」
「わ、わかりました」
ノモンの黒魔術書(56万G)を値切ることで、30万Gきっちりで購入できることになった。
資金1662万4255G→1632万4255Gになった。
「サンキュー」
伝崎はずっしりと重みのある黒魔術書を手に意気揚々と速い足取りで古書店から出た。
間違いなかった。
この魔術書を与えればキキの成長に貢献する。
自然と笑顔にならざるを得なかった。
「よっしゃー!」
肩の上の妖精のオッサンが両手をあげながら話す。
「オイさんなぁ、すごい期待が湧いてきたぞー。それで新しい魔法を覚えさせて、電撃びりびりっ子にするんだろぉ」
「まぁな」
「強化も捗ったねぇ。あとはただの洞窟に帰るだけだなぁ」
伝崎はぱたりと立ち止まって断言する。
「いいや、まだだ」
「なにぃい?」
妖精のオッサンがしかめッ面になり、歌舞伎俳優のようにメンチを切ってくる。
速足で歩いていくと次第に地下都市のブラックマーケットの紅い明かりが目に入ってくる。
ずらりと並ぶバラックの中で、がやがやとした人の騒ぎの中に奴隷化されたモンスターたちが並んでいる市街が目についてきた。
ゾンビ 1万5000G
スケルトン 2万8000G
サイクロプス 100万G
ゴーレム 120万G
獣人がいなくなっていた。
店主たちの話では絶対魔術師ヤナイの一言によって王国の法令が変わったようだ。
伝崎は市井の変化に正直言って驚かざるを得なかった。
――どれだけ影響力あるんだっての。たった一人の人間が。
ちょっと人気があるとかそういう次元の影響力ではなく、一国を片手で滅ぼすことができる魔術師の一言の重さは計り知れないようだった。何よりも王国民総出で尊敬している様子で、誰もかしこも絶対魔術師を褒めそやしていた。
前に来た道を歩いていると、目に入ってきた。
黒サイクロプス(403万G)
通常価格の四倍以上。サイクロプスは通常は黄色い肌のようだが、このサイクロプスは黒肌のレアモンスターだった。いまだに大通りのど真ん中で、鉄の塊を振るう大道芸を披露している。二メートルはゆうに越える体格の持ち主だった。
LV49。筋力A+、耐久A、器用E、敏捷D、知力E+、魔力E、魅力D。
代わりに近くの檻の中は空になっていて、獣人の荒くれ者(130万G)が売れてしまっているのがわかった。
「なんだありゃ……」
伝崎は思わず声を漏らす。
広場ですごい大騒ぎになっていて、見世物小屋みたいなところでひとりの小麦色の肌のエルフらしき女が黒いローブに身を包んで立たされていた。スタイル抜群とばかりに薄い黒のローブに豊満な体の各所が強調するかのように盛り上がっていた。
両手を金色の鎖でぐるぐる巻きにされていたが……彼女の放っているアウラが青色を下敷きにして銀色の光を力強く放っている。
洞察スキルでその能力を見てみることにした。
ダークエルフLV74
筋力D+、耐久C+、器用A、敏捷A+、知力B+、魔力AA+、魅力A-。
杖B-。詠唱A+。窃盗B++。暗視B。魅了A-。砂漠徒歩C。痺れ打ちA+。高速詠唱A。
「やべぇ……」
伝崎は思わず声を漏らす。
値段もやばかった。
『3455万G』
全財産を掛けてもいいほどの能力を有しているが……ダークエルフの女の両手をぐるぐる巻きにしている黄金の鎖は子供のオモチャみたいにとても細めで単純な作りのようだった。
どう考えても自力でその鎖をほどいてしまいそうな雰囲気がすごかった。
鎖をわざと付けているだろうと思って、伝崎がじろじろと見ているとダークエルフの女がこちらに気づいたように目を合わせてくる。
その銀色の瞳と目が合うと、ダークエルフは誘惑するかのように笑みを作る。目の奥には光という光はなく、どちらかというと打算に近い闇が宿っているように見える。
伝崎は背筋が凍りつくような寒気を感じた。
野次馬たちがひゅーひゅーと口笛を吹いて、品定めするかのようにその視線を送っていたが。
(違う……)
伝崎は気づく。
野次馬どもがダークエルフを品定めしてるんじゃない、と。このダークエルフこそがその冷めた目つきで野次馬どもを品定めしているんだ。
伝崎は首をかしげる。
(飼い主を殺すって目をしているよな……何が目的なのかね?)
人間にわざと捕まって、わざわざ王都に来た理由。その鎖を解けるのに解かずにそこにいる理由が想像できなかった。
手に入れてしまったら、ただの洞窟がなぜか危うくなる気がする。
妖精のオッサンが肩の上から興奮したように叫ぶ。
「オイさん、すぐに手に入れるべきだと思うぞぉ」
伝崎は妖精のオッサンをつかんで、ポケットにぐにぐにと押し込みながら言う。
「それはない」
「……ぅおぉいぃい」
すぐに来た道を戻って、伝崎はバラックの中のあるモンスターの前に辿り着く。
見上げるほど巨大な、それは。
三メートル近くあるのではないかと、バラックの天井を貫いてしまうのではないかと思いながら、その巨大で正確な四角い岩の身体を何個も積み上げたような体を見上げる。
ゴーレム 120万G
LV1 筋力B-、耐久B+、器用G、敏捷D、知力E、魔力D、魅力E。
ロボットが目を光らせるかのように、真っ黒な空洞の両眼の辺りに黄色い光を放つ。
このレベルでこの筋力と耐久は最高だった。育ったらめちゃくちゃ固くなる。
ただの洞窟の強化の目玉。
――上級ダンジョンに出てくるようなモンスターを仕入れる!
伝崎は震えそうになりながら交渉スキルを発動して、ゴーレムの価格を値切り倒しながら購入に踏み切った。
「三体、くれ」
「わかりやした」
それが何を意味するのか。どういう理由で仕入れるのか。
中級冒険者たちに対して、どういう意味を持っているのか。
ゴーレム三体を201万Gという破格の値段で仕入れることができた。
資金1632万4255G→1431万4255G。
妖精のオッサンが肩をぱんぱんと叩いてくる。
「やるなぁ! 伝崎ぃ」
伝崎はうれしそうに声を張り上げる。
「攻めるぜ。これからな!」
このゴーレムをどこに配置するのかがダンジョンマスターの大切な采配部分だった。
ゴーレムを搭載した高速バス的な馬車三台を見送ると、伝崎は風の靴に体重を預けながら全速力で王都から飛び出して、ただの洞窟に死に物狂いで向かう。
うおお、と声を上げながら風になるぐらいの気持ちで。
なぜ、打って変わって脱兎のごとく帰還を急ぐのか。
――中上級パーティの冒険者がただの洞窟に侵入していないことを祈る。
伝崎の読みは簡単だ。もし、間に合わなかったらただの洞窟が全滅している可能性が十分あり、そもそもこの強化もすべてパーになることも考えられた。
「待ってろ」
現在、王国歴198年3月6日。伝崎ゾンビ化の日は5月5日。
4パーティ目。黒騎士LV61。強戦士LV58。地中魔術師LV55。正僧侶LV60。
王都とただの洞窟を直線で結んだルートの丁度真ん中あたりを一行が歩いている。
時間にして、徒歩一時間半でただの洞窟に到達する場所だった。
伝崎の読みは正しかった。