本当の慎重さ、打ち出す方針
3月6日の早朝。
伝崎はただの洞窟からすこし外に出たところ、入り口近くの森で戦闘が無い時間を見計らって考え事をしていた。
ただ一人、ぐるぐると木の周りをまわりながらアゴに手をすえて。
ときどき何かを思いついたのか立ち止まり、大きな木に片手を当てる。
その表情は険しくなったり、柔らかくなったり、険しくなったりの繰り返しである。
つまらなそうに妖精の女の子は左肩の上で足をぶらぶらしている。
妖精のオッサンが右肩の上に立ちながら聞いてくる。
「何をそんなに悩んでんだぁ?」
「ちょっと戦力増強のことでな」
「うーん? 伝崎自身が強くなり続ければ、それで全部解決じゃねぇかぁ?」
「まぁ、それは一理ある。でも、すべてとは言えないな」
ダンジョン経営の要点は、およそ大別すると二つしかない。
戦力増強と財宝強化である。
財宝は強化しうる。
しかし、戦力増強の面では明らかにまだまだ不備があるように思えた。
妖精のオッサンがちょっと理解できないといった様子で両腕を組んで。
「おいさんにはちょっと何を悩んでるのか分かんねぇよ。説明してくんねぇかぁ?」
「ああ、オッサンも俺の脳内会議に参加するか?」
「おうぅ、参加させてくれぇ」
「俺が悩んでることっていうのは単純なんだ。たとえば、俺が強くなればいいってさっきオッサンは言ったよな?」
「ああ言ったぜぇ」
「俺がたとえばケガをしたりしたらどうなる?」
妖精のオッサンは、「うーん」と声を漏らす。
伝崎は両腕を広げて。
「俺に依存してたら、俺が機能しなくなっただけでダンジョンの戦力がかなり無くなるわけだよな?」
「オイさんも見えてきたぜぇ」
「まぁ分かったと思うけど、つまりすげぇリスクが高いってこと」
「おう」
「俺も人間だから病気になったりケガをしたりする可能性がある。
それだけじゃない。リスクはそれだけじゃないんだ。
前も言ったけど、実際に上級冒険者相手にどこまでやれるのかって話。
俺がレベル99になって相当強くなったとする。相手もレベル99のやつらが来たらどうなる?」
「オイさんにはレベル99が想像できないんだよなぁ」
「たとえばそうだな。絶対魔術師ヤナイ。あいつがパーティを組まなかったとしても……だ。
他の99レベルの人間がパーティを組んでやってきたら?
やっぱり、一人では不足があると思うんだよな」
伝崎は、最大限の将来を見据えていた。
99レベル相手でも通用するのかということ。
たった一人で。
強くなる臨界点というものが確かに存在して、その状態で自分一人が強くなっても限界があると考えていた。
伝崎はちょっとだけ考え込んでから、ぱっと片手を上げて。
「三国志の諸葛亮って知ってるか?」
「有名も有名。オイさんも聞いたことはあるぜ」
「あいつは本当に有能で、世界史上屈指の大政治家だと言ってもいい。
だから、俺はよくあいつのことを考えるんだよ。
戦争以外は、ほぼすべて超一流。しかし、有能過ぎたフシがある。
自分一人で何でもできるからやってしまった。
そうしたら、どうなったと思う?」
「どうなったんだぜぇ?」
「諸葛亮が死んだ後、国が滅んだんだよ。代わりなんていなかったんだ。
全部自分でやったら、人材が全然育たなかった」
「バカなオイさんでも言いたいことはわかるぜぇ。人材を育てるのが重要ってことだろ?」
「ああ、そうだ。人材育成を怠ったら未来なんかないんだよ。国家でもな。
なんか酷似してないか? 今の状況。俺一人が強くて勝てるって状態がさ」
「でも、オイさん平のサラリーマンだったから人材育成の仕方が分からないんだよぉ」
「育て方がある」
「教えてくれだぜぇ」
伝崎は人差し指を立てて自信に満ちた顔で言う。
「仕事を任せること」
それから胸を張って未来を見据えるように続ける。
「信じて任せるんだ。
野球でもサッカーでも企業においてさえも若手に仕事を任せるんだよ。
育成するときは必ずポジションを任せる。
たとえ失敗しても信じて任せ続ける。
わからないことがあったら教えてやる。わかるまで教えてやる。
あの手この手で教えてやるんだ。やっていくうちにできるようになる。
そうしたら人材は育っていく。
仕事っていうのは本当は『誰でもできる』ように作られてるんだよ。
こいつ一人にしかできないって仕事はほとんどない。
同じ人間がやっているんだから、できないわけがない。
できないならそれは仕事にならない。企業にはならない。
育つかどうかだけが問題なんだ。
で、人材を育てることができない上司っていうのは自分で全部やっちまう。
そのほうが早いから、失敗がないからってな。
諸葛亮みたいに。
仮にやらせたとしても何も教えない。あるいは分かるように教えないんだよ。
だから育つものも育たない。
俺は、人材を育てられない経営者っていうのは経営者と呼ぶに値しないと思ってる。
経営ってのは持続し続けられなければ経営じゃない。人材を育てられなかったら会社を持続できないからな」
妖精のオッサンは、うなるだけうなると。
「いちいち、カリスマ店長の言うことは説得力があるなぁ」
「まとめるとだな。諸葛亮の失敗から学ぶとしたら、どうだ?
未来に備えて人材を育成する必要があるだろ?」
妖精のオッサンは深くうなづいて。
「納得だぜぇ。心底なぁ。
しかしぃ、伝崎、お前さん飲食店経営ってレベルじゃないような気がするんだけどなぁ。
ひょっとすると諸葛亮なんかよりもちょっとすごいんじゃないかぁ?」
伝崎は苦笑いすると、両手を開いて。
「冗談、俺は到底及ばない。まったくと言っていいほどな。
後の時代に生まれたほうが歴史に学べるから有利なだけと思うね。
それに諸葛亮の場合、国力差があるから失敗できないっていう同情すべき点もあった。
育成どころじゃなかったわけだ」
伝崎は過去を振り返るように遠くの空を見つめて。
「まぁ、俺はこっちの世界に来てから何回も死にかけてるからな。本当の慎重さみたいなもんが身についてるのかもな」
考えるようになった。以前よりも。
以前の自分なら、きっと突っ走っていただろう。
一人でもやれると思って、やり切っていた。
そして命を落としていた。
だが、こっちの世界に来てから明らかに自分が変化していることを感じていた。
――育てる。
これこそが経営方針の根幹。
戦力増強のすべて。
いつか強戦士ストロガノフ・ハインツや絶対魔術師ヤナイがやってくるだろう。
その可能性を見据えて、育てるだけ育てる。
育てることが未来を切り開くと信じて。
――将来に備えて、対策を打つ。
考えるだけ考えて、それこそが本当の慎重さだと結論を出した。
伝崎はただの洞窟の入り口の方を見て、妖精のオッサンに目配せしながら解説する。
「ここはモンスターダンジョンにするつもりだからな。
ダンジョンが成長するってことは単にダンジョン内が変化することを意味しない。
人材が育ち、モンスターが強くなること。その中身の変化こそが成長を示す。
つまりだな……万全を期すとしたら」
「キキ殿、頑張りすぎデス。休みましょうヨ」
リリンにそう言われても、キキは魔法練習をやめない。
また氷の塊をその手から吐き出すと、食料倉庫の氷の山を新たに積み上げた。
もう深夜になっていた。一日中打ち続けていた。
リリンは気になって質問する。
「どうしてキキ殿は、そんなに頑張るのデス?」
毎日毎日、誰に褒められるでもなく、延々と練習に明け暮れていた。
それこそ、朝から晩まで力尽きるその瞬間まで、キキは頑張り続けるのである。
何がそこまで彼女を突き動かすのか。
「……」
キキは黙ったまま答えなかった。
また手から氷の塊を吐き出すと、山の中に新たに追加した。
リリンは彼女の側にまで寄っていって、その肩に手を置いて。
「教えてくださいデス」
キキは黙ったままだった。
リリンがずーっと目を見つめて、うながすように微笑みながら首を傾ける。
それで、思い余ったようにキキの頬のやけどのあとをそっと撫でる。
キキはちょっとうつむいて。
「ここにいていいって……そうなりたい」
彼女の過去に何があったのかは分からない。
しかし、存在理由を求めているようだった。
単純に褒めてほしいという思いがにじみ出ていた。
キキはまだ実戦に投入されておらず、活躍していなかった。
キキのステータス(獣人LV6から変わらず)
筋力F+
耐久E+
器用D+
敏捷C-
知力C++
魔力B+
魅力D++
詠唱スキルDD
その魔力はすでにB+。
すでにリリンと遜色なく、一線級だった。
その才能ゆえに、レベル6ではありえない水準に達していた。
「育てるは育てると言っても、もうひとつ大切なことがある」
伝崎はおじいさんに変装して、ブラックマーケットの中を進んでいく。
その肩に大きな布袋をかけて。
袋には金貨のような無数の盛り上がりと、一際形を変えてしまうようなものがあった。
「ここだここ」
伝崎は、とある店先に止まった。
髪の毛がモジャモジャの中年男が、カウンターに肘をかけていつも通り気だるそうに応対しているのが見えた。
・武器防具の内容。
――――――――――――――――――(棚の境目)
木槍 1500G(攻撃力20)
鉄槍 9500G(攻撃力110)
鋼の槍 1万8000G(攻撃力140)
――――――――――――――――――
皮鎧 2000G(防御力15)
鉄の鎧 8000G(防御力70)
――――――――――――――――――
木の弓 3000G(攻撃力5)
鉄の弓 6500G(攻撃力70)
鋼の弓 1万2000G(攻撃力110)
木の矢 100本入り1000G(攻撃力追加0)
鉄の矢 100本入り5000G(攻撃力追加15)
鋼の矢 100本入り8500G(攻撃力追加40)
――――――――――――――――――(棚の境目)
店の片隅には、ずいぶんと大きいものや色づいているものが置かれていた。
・ユニークアイテム。
星潜竜の長槍 122万G(攻撃力423、筋力と耐久が一段階アップ)
漆黒鉄の大盾 25万G(防御力270)
よくよく見てみると、赤竜骨の長弓が売れて無くなっていた。
伝崎はずらっと並ぶ店の中の武器を見渡しながら、肩の上の妖精のオッサンに向かって話し始める。
「なかなか品揃えがいいよな、ここ」
「オイさんにも何が目的か教えてくれよぉ」
「中級冒険者との戦闘で、ダンジョンのモンスターたちの攻撃が効いてなかった。
つまり、俺は武器に問題があると見た。
鉄の槍じゃ中級冒険者の防具は無理なわけだ。
そこで新しく買い替えようかと思ったんだけどな。
鋼の槍でもおそらくこれからは難しくなってくるだろう」
「オイさんには話が見えてこないぞぉ」
「つまりだな」
伝崎は、モジャモジャの髪をした店主がいるカウンターの前に行くと話しかける。
「投資したら、武器防具がもっといいものが手に入るか?」
店主はどこか遠くを見ながら、前と同じ曖昧な返事をする。
「かもなぁ」
「これでどうだ」
伝崎は肩にかけていた大袋を裏返してその口を開くと、大量の金貨がカウンターに広がっていく。
十枚にまとめて数えていきながら、200枚近くを列にして積み上げる。
200万Gの大金である。
伝崎はモジャ頭の店主に顔を近づけて、金貨の小山を突き出しながら。
「これだけの金をこの店に投資しようと思ってる。鋼の槍よりも良い武器が手に入るか?」
「入るっ!」
モジャ頭の店主は、はっきりと繰り返す。
「もっとすごいのが仕入れられるぞ!」
「それでいいんだよ。あんたに投資する」
「ありがとうございます」
モジャ頭の店主は背筋を正して綺麗にお辞儀した。
所持金は、4334万3245Gから4134万3245Gになった。
伝崎は片手を広げて店から出ながら話す。
「とにかく良い武器をモンスターたちにさせたいわけだ。
中級冒険者を倒せるような武器をな。だから、手始めに200万G投資した。
これでどれくらい良いのが入ってくるか見てみたい。
もし良いのが入ったら、それをモンスターに装備させるだけでダンジョンの戦力は確実に上がる」
「なるほどだぜぇ。オイさんワクワクするなぁ、そういうの」
「ああ、楽しみだな。店を育てることもダンジョンの成長に繋がるわけだからな」
ブラックマーケットの真ん中あたりを歩いていると。
今も中年女性が布の上に大きな卵を置いているのを見つけた。
『竜の卵(770万G)』
ものすごく重厚そうな銀色がところどころ混じる卵だった。
前に見たことがある。
伝崎は両腕を組んで、それを見ながら。
「これも買おうかな」
妖精のオッサンが肩の上から咎めるように言う。
「おいおい、あんまり金を使ったら財宝額が下がって、期待以上の効果が下がるんじゃねぇかぁ?」
「いや、むしろ期待以上になるかもしれん……」
「ほぅう?」
「竜の卵は財宝にもなりうる。しかも770万Gよりも付加価値があるかもしれない。欲しいやつは喉から手が出るほど欲しそうだろ?」
「確かにぃ」
「それでさらに孵化すれば将来の戦力になる可能性も……」
伝崎は数秒間考え込んでから決断した。
――買いだ!
伝崎は夜色のアウラを体から一気に解き放ち、中年女性を包み込もうとする。
交渉スキルを使おうとするが、頭が一瞬だけクラっとした。
アウラが光らず、スキルが発動しない。
伝崎はとっさに頭を押さえる。
(疲れてるのかもな……)
もう一度、交渉スキルを発動すると、アウラが光った。
今度はうまく発動したのか中年女性の注目をこちらに集めて話し始めることができた。
「この値段ですが……」
それからなかなか売れてないことを理由に値切り、竜の卵を570万Gで買うことができた。
所持金4134万3245Gから、3564万3245Gになった。
「軍曹殿は楽しそうデスね」
リリンは軍曹の訓練の様子を眺めながら、そう言った。
ただの洞窟内にて。
軍曹は相変わらず、「お前たちぃ」と言いながら指示を出したりしていたが、どこか笑顔でやっていた。
姿勢もきびきびとしていて、その掛け声には覇気のようなものすらあったのである。
雰囲気が人間に戻ってきていた。
その素肌は青白かったが。
軍曹は槍を天井に向けて、リリンのほうに振り向き答える。
「ええ、毎日が楽しいですぅ。楽しいという感情をぉ、取り戻してきましたぁ」
「記憶はどうなってきたのデス?」
「今はまだちょっとした名前しか思い出せませぇん。しかしぃ」
「なんデスか?」
軍曹は突然槍を手から落とすと、両手で頭を抱える。
「ぐ……もっと、もっと記憶を取り戻したらぁ、『私』はどうなるのでしょうかぁ?」
頭の中が詰まってしまったようだった。何か思考が出てこないのだろう。
もしも、その詰まりみたいなものが解消されたらどうなるのか。
タロウ軍曹のステータス(ゾンビネスLV35)
筋力C+
耐久C
器用E+
敏捷D+
知力C+
魔力D
魅力DD+
ゾンビロードになるためには、レベル45まで上げる必要がある。
さらに筋力がC+以上必要であり、知力はB-以上必要であり、魅力はC++以上必要である。
優秀な冒険者を倒すことで、筋力の条件はすでに満たされていた。
あとは知力と魅力の問題である。
もしもゾンビロードになれば、「ゾンビ化」というスキルを身につけられる。
冒険者たちをゾンビ化できるようになる。
そうなったら、ゾンビたちがただの洞窟にあふれかえるだろう。
軍曹は目をしちゃくちゃにつぶりながら、両手で頭を抱え続ける。
自分の金髪をわし掴みにしながら。
「私は……『誰』なのでしょうかぁ?」
まるで。
失ったはずの自我が、芽生え始めていた。
その様子を見て。
リリンは冷たく目を細めた。
(その取り戻していく自我が、ただの洞窟にとって良いものになればいいのデスが……)
ただの洞窟の宝の上の側に座りながら伝崎は考え込んでいた。
このままの流れで、戦力増強を続けるか。
それともミラクリスタルを強化して財宝額を増大させるか。
現状維持か、さらなる期待以上を重ねて『上』を目指すか。
伝崎は立ち上がった。
「やるしかないだろ」
1200万Gを使い、ミラクリスタルを強化することにした。
王都に持っていき、鍛冶屋を巡っていく。
有名どころのかなり大きめの鍛冶屋が見えたが、どうやら店主がすごい難しそうな怖い顔をしていたので避けた。
そこからすぐを歩いていくと、三軒隣にかなり弱小そうな鍛冶屋があった。
並立しているせいで商売あがったりの雰囲気があったが入ってみた。
「ひっ」
見たことのないひげ面の大男だったが、そのつぶらな瞳で分かった。
とっさに鍛冶屋の奥に隠れたのは。
竜覇祭で辞退をうながした鍛冶屋のペンタだ。
「ミラクリスタルっていうんだ。これを強化してくれないか? 値切らないからさ」
「やりますからぁあああ。だから命だけは勘弁してください」
鍛冶屋のペンタは1200万Gの代金を受け取って、すぐにミラクリスタルの茶色い結晶を部屋の奥に持っていくと裏口から材料の買い出しに行く。
すぐに戻ってきて、かんこんっという音を立てて、すごい勢いで研磨を繰り返し、あっけなく強化してしまった。
「もう?」
「へい」
すごい腕だった。生きておいてもらってよかった。
ミラクリスタルは茶色い結晶から、ピンク色の光り輝く水晶に変わった。
サイズは一回り小さくなった。
なぜか、重さは倍に増していた。
誰でも手をかざすだけで未来を占うことができる超アイテムになったのである。
そのピンク色に輝くミラクリスタルを持ち帰り、ただの洞窟の金貨の山の上に乗せた。
その隣には竜の卵があるのである。
部屋が一気に豪華な雰囲気を放ち始める。
妖精のオッサンがミラクリスタルに頬ずりしながら言う。
「試しに手をかざしてみるかぁ?」
伝崎は首を振って言う。
「まぁー、俺は占いは信じないからな」
さらなる財宝額の強化。
これがいったい何を意味するのか。
それはつまり、さらなる期待以上を積み重ねることを意味し、ギルド新聞をぶっ潰す一手を打ったことになる。
同時に、もっと強い冒険者を招くことを意味する。
ただの洞窟の財宝額。
2364万3245G+ミラクリスタル(3000万G)+竜の卵(770万G、謎の付加価値あり)
一気に合計額が6000万Gを突破した。
王国歴198年3月6日。
1パーティ目。重戦士LV35。武士LV32。武士LV33。
このパーティの一人は倒し、二人には財宝を見せるだけ見せて宣伝のためにわざと逃がした。
2パーティ目。傭兵LV56。強戦士LV51。炎中魔術師LV52。助祭LV58。
「来た来た!」
いきなり50レベルを超えるような強いパーティがやってきた。
これはピンチでもあり、チャンスでもあった。
倒すことができれば、大きな利益をあげられる。
負ければ損害。
ただの洞窟の中央で伝崎が居丈高に両腕を組んでいると、妖精のオッサンが肩の上から勢いよく聞いてくる。
「大丈夫かぁ伝崎ぃ!」
「いいんだよ、これで」
「今さらだけどな、おいさんは年を取ったせいもあるけどよぉ。安全に戦力を増強したほうがいいと思うんだよぉ。慎重さだよぉ、慎重さぁ」
「俺が単独でやれなかったらそれはそれでいいんだよ」
「どういうことだぁ? また考えでもあるのかぁ?」
「結束する。仲間の力がいるってこと」
伝崎が手招きすると、彼女が勇み足でやってきた。
獣人のキキだった。
「キキ、お前もこれからは戦闘に参加しろ」
とうとう、新戦力を投入する。
ただの洞窟の『未来』がどのように活躍するのか、それ次第ですべてが変わってくる。
「キキ、お前を少尉に任命する。第四魔法師団の隊長だ。
まだ一人部隊だが、これからお前の部下ができていく。
隊長に相応しいってことを証明しろ。
活躍すれば、お前の欲するものはすべてやる!」
キキは、コクリとうなづいた。
まさにこの一戦が未来を占うものになる。
軍曹をゾンビロードに育て上げれば、ゾンビたちの最高の指揮官になるだろう。
しかし、強力な攻撃を誇る後衛は、キキこそ相応しい。
――新しいポジションを与え、仕事を任せる。
それが人材の成長を促す。
「お前に期待している!」
キキはキキで口を強く結んで、宝の山の前で身構えていた。
藍色の髪の中に白い一本の髪を逆立てる。
――やる……
この戦いで活躍すれば、きっと認められると思いながら。