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財宝額増大の効果

 王国歴198年3月4日。

 1パーティ目。踊り子LV19。踊り子LV20。踊り子LV17。

 2パーティ目。傭兵LV24。弓士LV18。弓士LV20。弓士LV15。

 3パーティ目。遊び人LV21。遊び人LV17。

 4パーティ目。戦士LV22。魔法使いLV17。僧侶LV16。

 5パーティ目。戦士LV20。魔法使いLV19。魔法使いLV18。

 6パーティ目。戦士LV18。槍戦士LV22。白魔道士LV18。

 7パーティ目。斧戦士LV27。

 8パーティ目。戦士LV23。戦士LV17。弓士LV16。踊り子LV19。

 9パーティ目。傭兵LV26。傭兵LV27。

 10パーティ目。武士LV28。魔物使いLV19。僧侶LV17。

 11パーティ目。戦士LV19。僧侶LV22。魔法使いLV27。呪術師LV29。

 12パーティ目。戦士LV17。占い師LV22。

 13パーティ目。野武士LV24。魔物使いLV24。弓士LV24。



 何人かの冒険者を宣伝のためにわざと逃がした。

 財宝額増大の効果は次の日に一気に現れた。



 王国歴198年3月5日。

 1パーティ目。貴族LV37。村長LV39。重戦士LV38。中弓士LV39。薬師LV35。

 2パーティ目。傭兵LV36。傭兵LV37。傭兵LV34。

 3パーティ目。強斧戦士LV37。遊び人LV39。中僧侶LV33。

 4パーティ目。武士LV35。武士LV34。武士LV37。

 5パーティ目。魔戦士LV30。魔法戦士LV32。傭兵LV39。

 6パーティ目。長槍戦士LV32。踊り戦士LV34。白魔道士LV34。

 7パーティ目。狩人LV35。中弓士LV37。

 8パーティ目。重戦士LV33。中弓士LV36。中魔物使いLV32。

 9パーティ目。アサシンLV38。



 冒険者パーティのレベルが一段と向上してきた。

 職業のクラスが明らかに上がり、その代わり来るパーティの数が減った。

 量よりも質が上がった。

 ただの洞窟のメンバーが強くなっていたこともあってか、何とか倒していくことができた。

 落とす武器装備の価格がぐんと跳ね上がり、収入が明らかに増えたことがわかった。

 しかし。

 伝崎がそのひとつひとつ落ちた装備を完全に品定めする前に、また白狼ヤザンが知らせを伝えてきた。

 もう夜になろうとしていた。


 10パーティ目。

 強斧戦士LV41。中級騎士LV45。中級魔法使いLV39。中僧侶LV35。


 最後に、一番強いのがやってきた。




「今こそすべての成果が試されるぞ!」

 伝崎はただの洞窟の中央の宝の山の前に立ちながら全部隊に布告する。

 まだ、10パーティ目の連中はただの洞窟に侵入していない。

 今なら心の準備ができた。

 伝崎はひとりひとりに対して事細かに視線を送りながら、何度もうなづいて鼓舞していく。

 第一軽槍歩兵団こと、金髪軍曹の部隊が入り口の左手前で四角く整列している。

 もはや、ほとんど9割近くがゾンビネスに進化しており、平均レベル20以上の精鋭部隊と化していた。

 そのせいかゾンビ独特の姿勢の悪さや、見た目の感じが変わっているのだ。

 つまり、顔の肉は剥がれ落ちておらず、なおかつ背筋を正して人間のような姿勢で立つことができるようになっている。

 そのゾンビネスたちが皮鎧を着て、鉄の槍を綺麗に天井へ向けているのを見ると、なんとも言えないシュールな気持ちになる。

 さらに加えて、ステータスが全般的に向上しており、Dクラスの筋力持ちがそこかしこにいる。

 ちょっと腕の筋肉が盛り上がっている感じである。

 訓練度は100になっていた。

 その後ろに軍曹(LV35)が鉄の兜をかぶりながら、後ろからひょっこりと顔を出して立っている。

 部下たちに目を見張らせ、耳元でささやいたりしている。

「できるぞぉ、お前たちならできるぉ」

 その目つきは、もはや本物の隊長である。

 実に頼もしい雰囲気があった。

 一方、出入り口右手前にある第二骸骨槍兵団はどうなっているかと言うと。

「ハイデス」

 リリンが二つの上腕骨を両手に持って、コツコツと何かを叩くとスケルトンたちがダンスする。

 そして、一斉に鉄槍を構えた。

 一切の防具をつけていないむき出しの体で、その鉄槍だけが構えられているのである。

 リリンがまた上腕骨二つを重ねて、コツコツ、コッツコツみたいな微妙な鳴らし方をしながらちょっとだけ出口手前に寄せたりして陣形を整えている。

 その姿を見て。

 伝崎は、唖然とした。

(骨語を習得しやがった……)

 リリンはスケルトン部隊の指揮に精通することができたようだ。

 はっきり言って不可能だと思えることを、苦心に苦心を重ねてできるようになったのだろう。

 最初の頃は、意思疎通すら困難だったにも関わらずだ。

 戦いに戦いを重ねていくうちに、リリンなりに答えを見つけ出していったのだろう。

 訓練度は100に達していた。

 まだスケルトンたちは進化していないようだった。

 それもそのはずで、スケルトネスになるには35レベルが必要だからだ。

 まだ平均20レベルそこらなのでそこまでいっていなかった。

 第三白弓兵団に至っては、安心感すらあった。

 白ゴブリンが部隊真ん中で弓を引き絞って構えて見せると。

「ふぉふぉ」

 部下のゾンビたちがそれを慕うように真似して、弓を一斉に構えた。

 誰一人として、白ゴブリンと違うところに弓を向けているものはいなかった。

 この部隊も訓練度は100に達していた。

 またゾンビネスに進化しているものは、五割を超えていた。

 つまり、20レベル以上に半分近くがなっていたのである。

 竜覇祭に参加している間にもこれだけただの洞窟は成長していたのか。

 伝崎は、両手に腰を当てて堂々と胸を張り。

「ただの洞窟がただの洞窟じゃないってことを思い知らせてやれ!」

「おぅうう」

 全部隊が入り口のポイントに槍や弓の方角を集中しながら声を上げたのである。

 訓練度が上がることによって、最初の一撃目が100パーセント生かされるようになっていた。

 またレベルが上がることによって攻撃力自体も上がっていた。

 ここで、連中が来たらどうなるだろうか。

 ――ガチの中級冒険者でも耐えられるのだろうか?

 それが知りたいところだった。

 伝崎は宝の山中央でセシルズナイフをポケットから出しながら逆手で構えた。

「来いよ、中級冒険者!」




 ただの洞窟の出入り口に。

 強斧戦士LV41が、かなり大きめの斧を肩にかけながら歩いてくる。

 その体には真っ黒な鎧を着ており、首元には毛皮みたいなものを巻いていた。

 筋肉で膨れ上がった両腕をこれみよがしに見せつけながら先頭をゆっくりと。

「はぁー、本当にあんのかよ?」

 とか言いながら入ってくるのである。

 その後ろに、中級騎士LV45がガッチガッチにその全身を装甲で固めながら歩いてくる。

 手には巨大なランスと、そしてもう一方の手には前に見た王国の大盾があった。

 あのとき、包囲されそうになったぐらいの大きさだ。

 全身を守るには十分だった。

 こちらは闇に目が慣れているが、まだ相手は目が慣れていないせいで何も見えていないようだった。

「これは見えづらいですね」

 と言って、後ろの中級魔法使いLV39が出入り口手前で何かの詠唱を始める。

 その手のひらに光の玉が灯りそうなる。

 ばちばちと光を放って。

 伝崎はとっさに。

(まずい!)

 もしもそこで光の玉を起こされたら、先手が取れなくなる。

 まだパーティすべてが入っていないが。

 やるしかなかった。

「攻撃ぃいい!」

 伝崎がそう叫ぶと。

 出入り口付近で、挟み撃ちの形で構えていた第一軽槍歩兵団と第二骸骨槍兵団が一斉に槍を突き出した。

 そこにおおかぶさるように十数本の弓の雨が次々と入っていく。

 強斧戦士LV41がとっさに斧を振り上げるが間に合わず、その体中に矢と槍が突き刺さっていく。

 むきだしの剛腕に槍があちこち刺さるが、その真っ黒な鎧には何一つ槍が入らなかった。

 しかし、足にも矢と槍が刺さり。

「くそったれが……!」

 斧を振るおうとするが、前に倒れるようにしてその場にうずくまる。

 後ろに続いていた中級騎士が鎧の下で目を輝かせており、何かスキルを発動したのか高速バックステップを踏みながら大きな盾を構えてガードしていく。

 鉄槍が体に当たってもその鎧ではじき飛ばし、矢が来ても盾で跳ね返してその場にどんどんと落としていく。

 まるで有効打になっていない。

 そして前衛が機能したことによって、後衛たちが生きてしまっていた。

 中級魔法使いが両手を差し出しながら詠唱している。

 狙い打つ形でリリンの氷柱が飛んでいくが、中級騎士がとっさに中間地点で叩き落した。

 中僧侶LV35がまだ洞窟内の広場にすら侵入しておらず、両手に白い光の輪を生み出していた。

 回復魔法を唱えている。

「助ける!」

 中級騎士がそういうと盾を構えながら前のめりに突撃して、強斧戦士の足をつかんだ。

 ゾンビたちが必死に攻撃を浴びせるが、すべてがその装甲にはじかれていく。

 大きな盾を力強く振り回しながら矢を防ぎ、強斧戦士が救出しようと後ろに下がり続ける。

 もうすでに中級魔法使いは詠唱を終えかけており、ただの洞窟のメンバーを焼き払ってしまう手前だった。

 伝崎は闇の中で目を光らせる。

 ――この反応の良さ!

 任せるように見ていたが。

 ――これが中級冒険者か。

 このまま放っておけば、被害が。

 伝崎は風の靴の一方に全体重をかける。

 その足に風が渦巻いていく。

 踏み出す。

 吹っ飛ぶように前進する。

 ただの洞窟の宝の前中央から入り口付近へとダイブするように迫ると、中級騎士がはっとしたように顔を上げて、こちらに向けて盾を構えてくるが。

 伝崎は セシルズナイフを思い切りその盾に向けて振るう。

 盾が当たり前のように真っ二つに割れた。

 その手が裂けていた。

「嘘だろ……!?」

 もう二撃目が中級騎士の首元に入り、瞬間的に伝崎は体を翻して、まるで踊るように間に入ると中級魔法使いの頭にナイフを突き刺していた。

 右、左、斜めに、瞬間的に入る。

 ステップが流れるように進んでいく。

 すでに中僧侶の前に立っており、伝崎は驚いて後ずさる中僧侶の白い光に向かってナイフを突き立てると引き抜いた。

 中級騎士の首元から時間差で血が噴き出し、中級魔法使いの頭のてっぺんから血が噴火して、中僧侶の胸元から血が流れ出した。

 一斉に三人が倒れると。

 強斧戦士ががたがたと震えながら言葉を漏らす。

「なんでこんなところに……準優勝した野郎が」

 次の瞬間、強斧戦士は全部隊の攻撃を一斉に浴びて、体中に矢が突き立ち、槍で貫かれ、致死ダメージを受けてしまった。

「ぐはぁあっ」

 両手を挙げて息絶えた。

 他のメンバーも伝崎から致命傷を受けて、動きすらしなかったが。

 中僧侶だけが痙攣しながら耳や目から血を噴き出し始めた。

 まるで頭蓋骨の毒の症状に似ていた。

 そのまま口から血を吐き出すと、死ぬのは時間の問題だということがわかった。

 もう回復魔法を使える様子でも無かった。

 伝崎は振り返って。

「ひぇー、あぶなかったなぁ!」

 と言った。

 伝崎は、本当に当たり前のようにそう言ったのだ。

 そう言って、ただの洞窟を見渡したのだが、なぜかただの洞窟のメンバーたちは沈黙していた。

 何か、居心地の悪そうに顔をそらしている。

 そう、言葉を失うとはこのことで。

 リリンは片手を顔の前に出しており、金髪軍曹は目を見開いて硬直し、白ゴブリンは苦笑している様子。

 伝崎は何かに気づいたのか口に手を当てて。

「……やべ」

 妖精のオッサンがにょきりと服から顔を出して肩を叩く。

「おぃい伝崎ぃ。ひょっとするとお前さん」

「……」

「お前さん一人で中級冒険者も全滅させられるんじゃねぇかぁ?」

 伝崎は、あごが落ちそうになるのを耐えた。

 かなり、竜覇祭で強くなりすぎたぽかった。

 普通に一人で倒せるような水準に達していた。

 いや、それは無理だと考えていた。

 中級冒険者をすべて一人で相手にするなんてありえないことだと。

 だからこそ人材を重視して、獲得したり育てたりしてきたのだが、今の伝崎はもはやそれが必要ないような、そんな雰囲気すらあった。

 ただの洞窟を見渡しながら、最後に伝崎は自分を指差して。

 ――これ……ダンジョン経営にならなくね?

 頭を一瞬抱えた。

 こんなはずじゃなかった感があった。

 しかし、パンと手を叩いて顔を上げて。

「いや、まぁ、その……あれだ。あれだよ」

 伝崎はごまかすように何かを言って、はははははと笑って見せた。

 はははは、と乾いた笑いを繰り返して。

「いるさ、いる。必要がある。お前たちがいなかったら未来はないんだよ」

 また、はははっは、と笑って見せた。

 誰も反応を見せず、すごい場違い感があった。

「いや、これは良いことなわけで……決して悪いことなわけではないのであって。よく聞いてほしい。確かに中級冒険者は俺一人で倒せる!」

 認めてしまった。

 伝崎はあまりにも素早く認めてしまった。

 ただの洞窟は、沈黙に満ちていた。

 内心は、みな例外なく騒然としていた。

 今までの努力とか何だったんだと言いたくなるような出来事だったのだろう。

 あるいは、まったく別の感情を抱いている者もいるのかもしれない。

 謎に近い沈黙がある。

 しかし。

「お前たちが必要だ! 俺一人じゃ上級冒険者のパーティは倒せるないんだよ!」

 伝崎は舌を噛んでしまった。

 わけ、の辺りが言えなかった。動揺で滑舌が悪くなっていた。

 伝崎は片手で頭を押さえて沈黙する。

 とにかく、この浮いた空気をなんとかしなければならなかった。

 というのも、こういったことは士気に関わるからだ。

 自分だけで十分となれば、全部隊が手抜きで戦い始めるかもしれないからだ。

 そうなると戦力ダウンが否めない。

 いや、大丈夫だろと考える意見もあるかもしれない。しかし、戦力ダウンしていいとかそういう話にはならない。

 実際、もっと強い冒険者が来るかもしれなかったからだ。

 中級冒険者は一人でやれるかもしれなかったが、さらに上位は一人では無理だろう。

 いや、鍛えたらできるとかじゃない。

 強戦士ストロガノフなんかは絶対に無理だ。

 いや、もしかしたらできるかも。

 いや、パーティとかだったら無理だろう。

 伝崎は神妙な面持ちになって顔を上げる。

 言葉を待つかのように全部隊が伝崎に視線を向けていた。

「もう一度言う。俺一人では上級冒険者のパーティは倒せない……」

 伝崎は頭を下げていた。

 某経営者の言葉がある。

『百人までは命令で動くかもしれないが、千人になれば頼みます、一万人にもなれば、拝まなければ人は動かない』

「力を貸してくれ。お前たちが必要だ」

 ただの洞窟は、沈黙に満ちていた。

 しかし、その頭を下げる時間が長く続くと。

 リリンが盛り上げるように拍手を送ってくれる。

 まばらな拍手がどんどんと起こっていく。

 軍曹や白ゴブリンが拍手を始めると、全部隊が一斉に拍手を始めた。

「最強のダンジョンマスターだぞぉ、それが頭を下げているんだろうぅ」

「素晴らしいですなぁ」

 伝崎は、ふいに片手に握っているセシルズナイフの刀身を見つめる。

 その刀身の根元の部分に斑点気味に緑色がついていて、何度拭いてもそこだけは落ちなかった。

 頭蓋骨の毒がなかなか取れないのだ。

「これ、どうやっても落ちないな」

「オイさんでも取れないよぉ。根元は磨けないぜぇ」

「ポイズン効果もついたっぽい……」

 そう、冒険者たちがセシルズナイフの攻撃を喰らったときに痙攣が止まらなくなったのはそのせいだった。

 つまり、セシルズナイフがさらに強くなっていた。

 このナイフを根元近くまで刺せば戦闘不能に陥らせて、さらに三日間だけなら冒険者を簡単に生かしながら捕まえたりできるだろう。

 それで軍曹の育成とかにも、なんかいろいろと使えそうだった。

 しかし、それにしてもなぜ拭いてもこの毒は落ちないのか。

 危うく触ってしまったら死んでしまうではないか。

「頭蓋骨の怨念みたいなもんかね……」

 頭蓋骨と口走った瞬間に、伝崎の脳裏に見たこともない記憶がフラッシュバックする。

(シャオロン、お前も来るのか?)

(お前を弟弟子に持って俺は良かったよ)

(耐えろ、耐えて耐えて耐え抜け)

(レイチェルは俺が救う)

 さまざまな映像が駆け巡っていった。

 あのとき頭蓋骨の赤黒いアウラを吸収して以来、ときどきフラッシュバックが起こった。

 人間のアウラには、その記憶も内包されているのかもしれない。

 モンスターを殺した時とは明らかに違っていた。

 いや、他の冒険者たちを倒してもそんなことはなかなか起きなかった。

 特に頭蓋骨のアウラが強かったせいもあるかもしれない。

 なぜか頭蓋骨のことを考えると、彼の記憶が巡っていった。

 ――あいつは、だからいたのか。

 それがなんとなくわかっただけで、何か心臓に対する感情が変わっていくような気がした。

 伝崎は首を振って、ただの洞窟を見渡していく。

 中級冒険者の装備品の山ができていた。

 漆黒の鎧に、巨大な斧。それこそかなりの獲物の数々だったが。

 とりあえず最初はできるだけ売り払っていって、その価格を調べてみることにした。




 一パーティ当たり平均して10万Gの利益だったのが、40万G前後にはね上がった。

 一日で稼げる額の平均が140万G前後から400万G前後になった。

 所持金は昨日今日の二日分の利益を合わせて、3847万5320Gから4334万3245Gになった。

 この勢いは半端ではなかった。

 期待以上の効果がすごかったのである。

 ただの洞窟の財宝額。

 4334万3245G+ミラクリスタル300万G。




「だめでしょうが……」

 ギルド新聞の社長タチは、かなり深刻な表情で頭を抱えて言った。

 高級料理屋のテーブルの上に積み上げられたものを指差す。

 テーブルからあふれそうになるぐらいの手紙があった。

 それがいくつもいくつも折り重なっていて、ひとつの山を形成しているのだ。

 ときおり斜めに崩れるようにして手紙がスリップし、テーブルの側に落ちていく。

 ――すべて苦情の手紙だった。

 社長タチはそのテーブルの側に落ちた手紙を山の上に戻しながら。

「だめでしょうが! これは!」

 ――すべて、ただの洞窟に関する内容だった。

 ダンジョンマスターのズケは、立ち上がると地団駄を踏みながら逆切れする。

「待てって言ってるだろうが!」

「待てませんよ!」

 社長のタチとズケは額と額をすり合わせて、にらみ合う。

 ギルド新聞の購読者数。

 5万5110人→5万4391人→5万0231人。

 明らかに信用を失っており、減り方が加速していた。

 噂が広まっているのだろう。

 社長のタチは丸めたギルド新聞の一つでズケの頬を叩いて。

「うちが出してる損害があんたの支援料を超えてるんだよ!」

 もう限界に近かった。

 ズケはぎりぎりと食いしばるような苦渋の顔をした後、ふと笑みを作って懐に手を入れると。

「これを……出るとこ出してもいいんですよ?」

 水晶を取り出した。

 そこに映像が映し出される。

 今までの高級料亭での賄賂の受け取りの様子がすべて記録されていた。

 もしも、それが表に出たら社長タチは冒険者に殺されるだろう。

「それは……あんたは!」

 タチが奪おうとすると、それをズケは頭の上にあげて。

「無駄ですよ。他に記録してある複製品なんていくらでもあるんですから」

 冒険者は気の荒い人間が多かった。

 そもそもギルド新聞の情報を見て、冒険者が行くダンジョンを判断している。

 その情報には、命が掛かっているのである。

 もしも不正があって、それが原因で仲間が命を落としていたことが分かったら狙われても文句が言えなかった。

 しかし、ズケの命も危険にさらされることは間違いなかった。

「同士討ちになってもいいんですよ? 自分はね」

 ズケはにへにへと笑うと、社長タチは脂汗をかきながら。

「あんたねぇ……」

 それから社長タチは黙ってしまった。

「まぁ、安心してくださいよ。悪いようにはしませんから」

 ズケは同士討ちなどするつもりなどなかった。

 脅せば怯むぐらいの小物だと思っていたから出したまでだった。

 どちらにしてもこのまま行けば、タチが破滅するのは時間の問題だ。

 なぜならば数多くの中級冒険者に命を狙われれば、どうなるか分からなかったからだ。

 いくら護衛を雇っていても対処には限界がある。

 まして上級冒険者の恨みを買ってしまったら、ほぼ確実に死ぬことになるだろう。

 時間が無かった。

 ――あの弓士、まだ帰ってこないのか!

 いまだに大弓士ライン・ハートは帰還していなかった。

 もう関係なしにパーティを組む必要があるように、ズケには思えてきた。




 うっそうと森が生い茂る中。

 大弓士ライン・ハートは空を見上げた。

 木々の隙間から塔が見えた。

 その塔の一番上は円形のドーム状になっており、すべてが銀色の鉄製でできているのか光を反射していた。

 賢者の鉄塔だった。

「あれか」

 そこに、『雷々魔の矢』があると聞いていた。

 ここに来るまでに距離的には三日となかったが、迷いに迷って時間が掛かってしまっていた。

「あと少しだ」




「おい、これも強化したらどうなると思う……?」

 伝崎は茶色いミラクリスタル片手に、ただの洞窟でそう口走った。

 ミラクリスタルの強化は、財宝額増大を意味する。

 さらなる期待以上を重ねる余地がこのダンジョンにはあった。

 パンドラの箱が開かれるのか、それとも。

次は三日以内に更新できたらと思ってます。

引き続き、お楽しみください。

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