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竜覇祭本大会当日

「うらぁああああ」

 伝崎は、森の中で例のごとくスライムを分裂させては狩り続ける。

 ときどき懐剣術をリズムよく交えて、スキルも向上させる。

 レベルアップするごとに、また何かを数える。

「ニ、二、三。三、三、四」

 大会までの間に、その日課を延々と繰り返した。

 何万匹とスライムを殺し続けた結果。

 ただそれだけで、伝崎もセシルズナイフも桁違いに成長を遂げていった。




 現在の伝崎真のステータス。

 レベル25 → 32

 筋力B+ → B++

 耐久D  → DD

 器用S- → S

 敏捷S+ → S++

 知力A+ → A++

 魔力FF → E-

 魅力A  → A+

 特殊スキル。

 交渉B+。洞察B++。迷宮透視D。懐剣術EE+ → D+(スライムを殺すときに交えた)。見切りB- → 見切りB(単純に練習した)。心眼E+。煙玉E。転心A。投げ縄E。道しるべE。

 武器スキル。

 短刀B → B++

 セシルズナイフの殺害数「14048」→「42052」

 セシルズナイフの現在の攻撃力は「1745」→「8751」

(元々の攻撃力に、ここ二日分の成長が加わった)

 伝崎のコメント。

 すべてが充実してる!




 二日分のダンジョンの収入で、伝崎の所持金は57万1950Gから337万5320Gになった。

 どれだけ金を使ってもこれだけ増えていくのは、やはり「期待以上」の効果がすさまじかった。

 もしも竜覇祭を優勝して、その賞金4000万Gを宝に置いたら、さらに全冒険者がうらやむような「期待以上」を重ねられる。

 家を建てられるだけの金だからだ。

 そうしたらどうなるだろうか。もっとすごくなる。

 伝崎はそれを考えるだけでワクワクしていた。




「伝崎ぃ、ひとつ質問があるんだぜぇ?」

 妖精のオッサンがただの洞窟への帰り道で両腕を組みながら聞いてくる。

「なんだ?」

「レベルアップするごとに何を数えてたんだぁ?」

「あれか、経験値がどれぐらい入ったらレベルが上がるのか数えてただけだ。スライム一匹が1として、分裂したら減る経験値も計算してだな」

「どれくらいだってわかったんだぁ?」

「レベルが上がるごとに3、3倍ぐらい経験値が必要になるっぽかったな。まぁ、かなり大雑把な計算だが」

「なんでまたそんな計算してたんだぜぇ?」

「まぁ、どれぐらいでレベル上がるか分かってれば何かと便利だからな」

 伝崎は何度もレベルアップを繰り返したせいか、ものすごく自信に満ちた顔でそう言った。

 顔つきもどこか力強くなっていた。

 左手には銀色のギアス・ガントレット。

 その足には風の靴。

 そして、その右手には真紅のセシルズナイフが強烈に光っていた。

 何か持ち金で他に良い武器や防具を買おうとしたが良い物が見当たらず、また最高品質の物を買おうとするには今のお金では足りなかった。

「十分だ、やれる……」

 万全と言っても過言ではない装備に身を固めているおかげで、自然と「勝てる」という確信が湧いてきていた。




 竜覇祭の本大会当日。

「うぉおお、そろそろ始まるぞー」

 闘技場は満員で熱気に満ち満ちていた。がやがやとした話し声がそこら中にあった。

 初戦を飾るのは、白騎士レイシアVS強戦士ストロガノフだった。

 まだ当事者たちは闘技場の場に立っていないというのに、人々は対戦の場となる中央から目を離せないようだった。

 最上段の特等席にて、賢者ユクテスは腰を低くして揉み手をしながら。

「せっかく余興に参加されたのですから優勝者を予想してみてはいかがでしょうか? 感情移入できて一段二段楽しみが増しますぞ」

 威風堂々とした老賢者がわざわざ揉み手をするほどの相手。

 賢者ユクテスの視界の先の席に座っていたのは。

 姫様だった。

 黒い髪を腰にまで伸ばしており、華々しい白のドレスを着ていた。

 唇は青白かった。

 年齢は十代後半で王の子女子息としては最年長らしいが、とても童顔で年齢よりも若く見えた。

 天性のくりくりとした目を、おそろしく冷たく細めている。

 まるで人形のように糸で吊り下げられたように微動だにしなかった。

 ナコという名にちなんで、ナコ姫と呼ばれる。

 賢者ユクテスはもう一度、聞き直した。

「どなたが優勝されると思いますか?」

 ナコ姫は、一言。

「ストロガノフ・ハインツ」

「はい?」

「優勝するのは強戦士ストロガノフ・ハインツ」

「なぜあの強戦士が優勝すると思われますか?」

 ナコ姫はすらすらと言葉を紡ぐ。

「彼の威圧スキルを耐えられる人間はいない。私の従者が調べた限り、筋力的に不可能。さらに彼の攻撃を耐えられるのはレイシアのあの鎌の鎧だけ。でも、攻撃時にレイシアは鎧を鎌に変えなければならない。そのときに致命傷を貰う」

 賢者ユクテスは、驚きを隠せない様子で。

「そこまで調べ上げておられましたか……」

 頭を下げて敬服を表す。

 的確な回答に感心すらしていた。

(なんという慧眼けいがん。聞こえきた話によれば、もしも男子に生まれていれば王になり、もしも貴族の子息に生まれていれば大臣になっていたといわれるだけある)

 しかし、賢者ユクテスはクスリとも笑わないナコ姫に、寒々とした雰囲気すら感じていた。

 生まれてから一度も怒ったこともなければ、笑ったこともなく、驚いたこともないという。

 すべてはじめから読み通して、人生に対して諦観すら抱いているように見える。

 そのような無表情だった。




・セシルズナイフの攻撃力の変化について。


 攻撃力は、「8751」になった。

 もはやセシルズナイフのその刀身は、完全な真紅になっていた。

 ときどき、マグマが燃えたぎるようにぎらつく。妙な光を放っているのだ。

「試してみっか」

 伝崎は近場にあった固そうな岩石に、その刃を突き立ててみる。

 ジューという音をなぜか立てる。

 何の手ごたえも無かった。

 いや、正確には豆腐にナイフが入っていくような感覚だった。

 そのままセシルズナイフが岩石の中に簡単に入っていった。それを押し下げると、下の下まで岩石が切り下げられた。

 力がまったく必要無い。

「ありえねぇ……なんて切れ味だ」

 伝崎はただただそのナイフを片手に驚いていた。

 妖精のオッサンは、胸を張るようにして。

「オイさん、頑張って磨いたんだぜぇ」

 前に拾った頭蓋骨の鱗の一つにセシルズナイフを突き立てると、その鱗があっけなく割れてしまった。

 頭蓋骨の鱗でさえも何の手ごたえも無かった。

「オッサン、あんたのおかげで今の俺は文句なしで優勝候補だって言える」

「頭蓋骨を見返せるかぁ?」

「ああ、もちろんだ。あんたは最高のナイフを仕上げたんだよ。誇っていい」

 妖精のオッサンは照れくさそうに鼻を手で払って笑った。

 そこに割って入るように妖精の女の子が反対側の肩の上で言う。

「私のことも忘れないでよね?」

「ああ、活躍してもらうぜ」

 伝崎は、ギアス・ガントレットをはめた左手を確かめるように握り込んだ。

 その足で闘技場へと向かった。




 第一回戦。

 白騎士レイシアVS強戦士ストロガノフ。

 闘技場の中央の門が開き、両者の影が浮かび上がる。

 二人がゆっくりと別々の道から入ってくる。




 闘技場の本大会に参加した者だけが入れる待合室の広場にて。

 そこから闘技場の様子を眺めることができる。

 伝崎はイスにもたれかかりながら、隣に座っていた人間に何気なく聞く。

「なぁ、ソノヤマ。お前はどっちが勝つと思う?」

「レイシア……あの女だ」

 凶戦士ソノヤマ・オミナは白面に手を当てて、つい先日あったエリカのダンジョンでの出来事を思い出していた。

 そこであった、随分とひどい出来事を。

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