接客
先頭アベル、広場に辿り着く。
その空気の震える音に魔法使いマシューは異変に気づく。
戦士リュッケは、広がった視界に息を飲んだ。
たいまつの火がちろちろとあらわにしたのは、整列するゾンビ集団である。
右腕をだらけさせていたり、首をかたむけていたり、しかし決定的に異様だったのは、笑顔を浮かべていることだった。
「でへはへは、おきゃくさぁん」
リュッケは口を開き、恐慌状態に陥る。
「うああああああああ」
右手の鉄の剣を投げ捨て、すでに詠唱を始めていた魔法使いマシューを突き飛ばし逃亡。
マシューは両手をあげて、手持ちの杖を落としてしまう。
前衛の一部が崩壊。
アベルは、叫ぶ。
「下がれ!」
聞こえてきたのは空気をかっきる音。
直後、ぶしゅりという肉に何かが刺さった鈍い音が続く。
それが耳の奥を嫌にリアルに、かきわける。
アベルがたいまつを振り向けた先には、首の氷柱を両手でつかむ修道女クララがいた。
白く冷たい空気が周りに霧散していく。
「あっ、あっ」
何かを話そうとしているが、次の瞬間には激痛に顔をゆがませ、それをごまかすかのように微笑む。
地面にくずおれた。
クララの体の下に、すごい勢いで血溜りができていく。
「うぉおお」
アベルは振り向き直して、ラインランスをガシリと構える。しかし、前衛が考えなければならなかったことはあくまでも後衛の防御。
とはいえ、顔を真っ赤しながら激怒するアベルには、それを考える余裕がなかった。
投げ捨てた、たいまつの視界が広がる。
アベルは戸惑う。
全ゾンビたちは規則だった動きを見せ、崩壊していた前衛の空白部分を素通りしていく。
一メートル横を平然と騎士を捨て置いて通るのだ。それはさながら騎士団の訓練風景に似ていた。
――ゾンビがこの動き!?
狙っていたのはアベルでもなく、クララでもなく。
尻餅をついている魔法使いマシュー。
マシューは真顔で目を見開き、こわばる片手を差し出し、詠唱をし直している。
過去に見せたことのない想像を絶するほどの早口で、この場を打開するための詠唱を展開。
十秒を七秒に縮めるだけの瞬発力を発揮。強力な集中が全身のアウラを光らせ、死の危機に瀕することによって無尽蔵の潜在能力を引き出す。
その土壇場の思い切りが、この場の空気を振動させている。
手の先に、円形の赤き光文字が浮かび上がる。
狙っているのは、ヒノノルだ。
一方それよりも前に、それと同じだけの詠唱速度で洞窟深くでリリンは口を細かく動かす。もうひとたび、眼前に青き光文字の波紋を展開している。
アベルは冷静になり、一瞬にして思考を切り替える。
――マシューの援護に回る!
この場の空気が殺伐とする。
アベルは横を素通りしようとするゾンビにラインランスを差し向ける。
突撃スキルCを発動させると、全身が赤く燃え上がるかのように光った。
全身の筋肉が一回り膨張。ぎしぎしと鎧がはね、盛り上がる。
すぐに。
突っ込もうとしたときに誰かが肩をつかむ。振り返ってはいけない、と直感的に思った。
「お客様」
魅惑的なほど甘く通る声で。
「戦士の叫び、シスターの嗚咽などなど。すこしはお楽しみいただけましたでしょうか?」
意味不明な出来事。
アベルは、何が起こったのか理解できなかった。しかし、その声を聞いただけで足元が止まる。
商人たちの客引きを受けた気分だ。しかも、その客引きはまるで異次元へとつながる迫力を持ち、動きを止めるだけの説得力がある。
アベルの体を覆っていたのは、オレンジ色に輝く別人の生命エネルギー。
何者かが自分にスキルを発揮した。
殺らなければならなかった。
アベルは肩にすえられた手を振り払い、ラインランスを横なぎにする。
無音。暗闇をかっきる先端。
その先端は、確かに後ろにいた何者かを捉えたかに見えた。
しかし、人影はカクっと瞬間的に後ずさり、黒い服の胸の部分が裂けて布が飛び散るものの、直撃していない。
「速いっ!?」
この接近状態で回避できるのは上級悪魔のスピードが必要。
こんなところに、このクラスの化け物がいる。
――魔王は……ここにいる。
アベルは額に汗をにじませながら確信。
パーティの撤退を決意。
即座に振り向き直して、マシューの眼前に迫るゾンビたちに突撃。
ブンっと全身が加速。残像が生まれ、三メートルの間合いが一瞬でつまる。
その光る先端がゾンビたちを貫く寸前、脇腹に衝撃が走る。
「がはっ」
アベルは一メートル斜め前に転倒する。重い何かが自分に突き刺さったのが分かった。
目と鼻の先で詠唱を終えようとしていたマシューの首元に、ゾンビが噛み付く。
「うぁっ」と声を上げて、マシューは詠唱を途絶。
後ろに連なっていたゾンビが追いつく。
アリのように殺到し始める。
足の付け根、腕の裏側、顔面、ガシリとかぶり付き、くいちぎると血が噴出す。マシューの顔は見えず。ゾンビの何本かしか髪が生えていない腐った頭だけが見える。
攻撃が飛んできた方角には、両目を見開く女の子。
黒いマントから差し出された両手には白い霧のような残り香があった。可愛げのある丸々とした目とは対照的に、無表情で容赦が感じられず、顔の陰影がその狂気をリアルにさせる。
アベルの鎧の隙間、脇腹には氷柱が突き刺さっていた。倒れたときの衝撃で体を貫通し、地面にめりこんでしまっている。
串刺しだった。
石ころをかきわけて赤黒い血が流れを作り出していく。土を侵食する様が、たいまつのゆれる炎ではっきりと見える。
マシューは規則正しく断末魔を上げている。
「ぁっ、かっ、かぁっ、ああっ」
天井に差し出された震える右手が、その状態を物語っていた。
アベルは、全力で立ち上がろうとする。
無理やりに氷柱をぶち抜くと、ありえない勢いで血が噴出す。背骨を貫く激痛。前歯をむきだしにして食いしばる。
地面に両手をついて血溜りを這いながら、落としたラインランスを拾おうと、にじり寄っていく。
「お楽しみ、いただけましたでしょうか?」
アベルは首だけで、向きなおした。
闇から浮かび上がってきたのは、一人の痩せた男だった。整いすぎるほど整った悪魔的な容貌。あやしい色気さえも持つその黒服の男は、無精ひげさえなければ美男子として認められた。
男は手をあげて降ろすと、優雅に体の前でかしづく。
「代金はお命でございます」
頭を下げて、男はそういった。
「お前は……」
体表に粘りつくようにまとうオレンジ色のアウラは商人のもので、魔力の青さは感じられなかった。
アウラには悪魔たちが放つ黒さがなく、人間特有の透明感みたいなものがあった。しかし、この世界の人間には見られないアウラの形、三角形のような広がり方をしている。
「……同じ……人間なのか?」
とめどもなく飛び出す血、泥人形のように動かない体。
男は微笑む。
「異世界から来たとはいえ……同じ人間でしょうね」
マシューの声が途絶えたとき、アベルは事態を受け入れざるを得なくなった。
勝敗は決していた。
もはや騎士としての出世も、マシューとの旅も、すべて無くなってしまった。
自分が抱いていた仄暗い炎が一瞬でかき消されると、眼前に青空が広がるように見えた。
青い。でも、その青はとても残酷だと思った。
――マシューの夢と自分の夢に大差なんてなくて……きっと、自由になりたかっただけ。
黒服の男は、接客を終えたのか本性を表したのか冷めた顔になった。
見下す目の中の瞳に、現実的な黒い赤を浮かべる。
片手をあげて、小悪魔に何か指示を出している。異世界から来たとはいえ、同じ人間でありながら悪魔に加担する。
その理由がわからなかった。なぜか話したくなった。もしかしたら、理解したかったのかもしれない。
世界を超える普遍的な何かを。
ぽつぽつと、アベルは問いかけ始める。
「最後に聞きたいことがある……」
その声は静かに響く。
黒服の男は、何気ない顔でクエッションマークを頭に浮かべながら向き直る。
アベルは口の中の血を吐き出すと、途切れ途切れに話す。
「小さい頃から自分に言い聞かせてきた。人を殺してでも成り上がると……だが、実際には人一人殺せなかった……僕の中にあるどうしようもない何かが、歯止めをかけるんだ」
この気持ちを割り切れたら、自由になれたんじゃないか。完全な自由があったんじゃないか。そんなことを何度も何度も考えた。
でも、割り切れなかった。
アベルは、血みどろの右頬をすこしだけ、つり上げる。
「教えてくれ。どうしてだ。どうして、お前はそんな顔でモンスターに加担できる……人殺しに加担できる?」
何も感じてないって顔で居られる理由が聞きたかった。答えてくれなくてもいい。ただ、問いたかっただけだ。
黒服の男は、ふーんと自分のアゴに手をすえて考え始める。近くの小さな岩の上に座ると、どういうわけか問いに答え始める。
「もちろん、俺も元いた世界で人を殺したことはない。つーか、お前を殺したいわけじゃないし。まじで悪いけど、お前がここに来た以上はそうするしかないというか。そういや俺の元いた世界でも、どうして人を殺してはいけないのか?と聞く奴がいたな。答えはいたって、シンプルだと思ってたよ」
男は道化のごとく顔の前で両手を上げ下げしながら続ける。
「日本っていう国だったんだけどな、人を殺すと案外すぐ捕まる。逃げ切れたとしても、時間、金銭、社会的な経済活動、その他多くのことに損害をこうむる……こっちの世界ではどうなんだろうなって思う」
この胸の奥底に宿る魂から、アベルは重く問いかける。
「何も、感じないのか?」
「いやぁー俺、すげぇ疑問なんだけどさ。お前たち冒険者がモンスターを殺すときにそういうことを考えたことがあるのか?」
「それとこれとは……」
「普通にモンスターを殺すだろ? たとえ彼らが襲ってこなくても、だ」
男は立ち上がり、両腕を広げて続ける。
「モンスターも生きてると思ったことはないか? しかも知性を宿してるって。ゾンビと話したんだけどさ、人間とモンスターの何が違うのか神の前で説明できるか?
俺からしたら、すべて同じなんだけど。本当は両方生かすべきなのかもしれないけど、お前らはモンスターを殺すためにダンジョンにやってくるだろ。なんつーか、逆の立場で考えると割に合わなくねぇか? なんかおかしいって思わないか? 自分たちだけ一方的にモンスターを殺せて、自分たちが殺されることになったらそれは嫌だと思う」
目を合わせながら男は話し続ける。
――こいつは、人とモンスターを区別していない。
良し悪しで世界を捉えてなんかいないんだ。
――もっと簡単なモノで見てる……
「ダンジョンに来た以上は、平等だろ」
清々しいほど割り切っていた。
言葉を発した男の黒い瞳は、この世界の何も妨げていないのではないというぐらいに透き通っていた。
ふっと、めまいがして目をそらしたくなる。とらえどころのなさが常識を消失させている。
異質な倫理観の持ち主だった。
彼がダンジョンマスターだというのならば、その考え方こそが最も相応しいと思った。異世界から来た人間が一番この世界のダンジョンマスターに相応しい考え方をしている。その皮肉に笑いたくなった。きっとこのダンジョンは誰も止められないものになる。そう予感させるだけの……雰囲気が男にはあった。魔王なんか問題じゃない。この異世界人こそが王国の問題になる。
男は顔だけ残して、背を向けようとする。まるで世界を振り切り、どこかへ向かうかのよう。
信じられないほどの割り切りが、彼の所作に簡潔な美しさをもたらしていた。
「身包みをはげ」
闇にまぎれる男の横顔からは悪意は見出せず、どちらかというと無邪気な子供のそれに見えた。
その表情も、すぐに黒に埋もれた。
闇の中から、男のくだけた声が聞こえてくる。
「リリン、お前すげぇわ。まじ感謝。ありがとうな」
「いいんですいいんです、伝崎様のためならば」
「あれ、殿から様に呼び方が変わってるんじゃ」
「それはその……デスから……ねっ?」
「ちょ、そんなもの……ぎゃああああああ」
伝崎と呼ばれたその男も楽ではないらしい。
アベルは感覚のなくなった体をゾンビに噛み付かれながら、フッとため息を漏らすと力の抜けた顔で目をつむる。
その男と話して、やっと気づけた。
自由になんて、なれなくてよかった。
生まれ変わったら、少しだけ優しく生きようと思う。
洞窟の外、森のはずれにて。
武器と防具の小山を前に、伝崎は買い取り業者と話しこむ。
「このラインランスは、8000Gと相成ります」
「ちょっと待ってもらいましょうか」
伝崎は姿を消した。半日してから紙に大量の文字を書き込んだ伝崎が現れる。
「王都やその他周辺の街で調べたところによると、ラインランスは3万Gから4万Gで買取されていますね。で、このラインランスは新品同然。店先におけば、2万5千Gで売ることだってできます。どうです?
2万2千Gで買い取っても、3千Gの利益を上げることができますが……」
赤っ鼻の買い取り業者である商人ベンジャミンは、ぐぅと黙りこくってしまった。
伝崎がわずかに口元をあげる。
交渉スキル発動。
オレンジ色のアウラが伝崎から放たれ、買取業者をおおい始める。それに負けじと買い取り業者も交渉スキルを発動するが、圧倒的な力量差によって伝崎のアウラが飲み込む形となった。
すべてはそこから交渉が始まった。
商人ベンジャミンは額に汗を一粒浮かべながら口走る。
「1万5000Gだ」
「2万1000G」
「1万6500G、これ以上は譲れない」
「1万9500G、他を当たっても構いませんよ?」
「ぬぬぬ、1万7100Gだ」
「1万9100G、ですね」
最後の最後のほうは1Gまで争っていた。
商人ベンジャミンは、声を震わせる。
「1万8754Gで、よろしゅうございます」
ほとんど伝崎の一方的な勝利だった。
2万2千Gは最初から吹っかけた値段で、1万7000Gまで譲歩する考えがあった。
実際売れるまでの手間や期間、在庫の保管に関するコストを見込むと、この世界のアバウトさからいっても買い取り価格の適正はよくて1万5000Gだろう。
が、想像以上に吊り上げられたもんだと、満足そうな笑顔を伝崎は浮かべている。
買い取り業者は、他で取り返そうと躍起になる。
「この杖ですが魔石入りとはいえ、泥がついており、傷もちらほらと見受けられますから……」
伝崎は速攻で川に行き、綺麗に泥を洗い流して杖を持ち帰ってきた。
リリンに持たせて、魔法を打たせる。それなりに威力が上がる。目の前で何度も打たせる。
「傷がついていても魔法には影響がないようですが?」
そこからは、一方的な伝崎の時間だった。
紙にはその他の武器防具の情報も書かれていた。いくら買い取り業者が、ごまかそうとしても市場の適正価格を把握した伝崎の前ではなす術がなかった。
買い取り業者の心は、バキバキに折られた。
ありとあらゆる交渉面で素早く対応され、後手後手に回った挙句目をぐるぐると回しながら舌を出して腰を抜かす。
「計6万3821Gと相成りました」
チャリン、という音と共に金貨が渡された。
伝崎は、うれしそうだった。
両腕を腰に当てて、はっはっはははっと高笑いをあげている。買い取り業者が帰った後、「金貨一枚、金貨二枚、金貨三枚」と怪しい笑顔をにじませながら、にやにやしている。しまいには金貨を数十枚の銀貨に換金して、空に投げながら遊び始めた。
リリンは「面白い人種もいるものデスね」と首をことりと傾ける。
今回の戦果。
損害、0G
売り上げ、6万3821G。
決算、+6万3821Gの利益。
総資金、7万3821Gになった。
伝崎は、両手をあげて喜ぶ。
「よっしゃああああああ」
武器防具のすべてを売り払った後、ラインランスに付いていたひとつの赤いリボンだけが残った。
買い取り業者も武器防具として機能しないその赤いリボンをさすがに買い取りはしなかった。
最後のタバコをひいこら吹かしながら、伝崎はリボンを見下ろしている。
唇に達するぐらいタバコを吸い尽くすと、伝崎は片手でリボンを拾い上げる。
とても気になる様子で、聞いてきた。
「これ、なんなんだ?」(これ、いくらになりそう?)
手渡された赤いリボンを触って、リリンは気づく。
大理石のような、なめらかな肌触り。
その色合い、赤の中に光沢を戴き、太陽にかざして角度を変えていくと、リボンが虹のように変化する。赤を下敷きに、青、緑、黄、黒くなったり、白くなったり。
「これは、デスね。クテカ山にしか生息しないという竜の血で作られたものデス。竜にしては珍しく、その血に力を与える能力はないのデス。しかし、その血は七色の輝きを持つといわれ、布の加工に使われていまーす」
「高いのか?」
「なかなかの値段になると思います」
伝崎にしては珍しく、真剣な面持ちでそのリボンを手に持ち、自分の頭に巻いてしまう。
「ハチマキだ」
と言った。
伝崎の黒尽くめの服、黒髪、そのダーティな雰囲気に一点の赤が浮かび上がると、ひとつの力強さが生まれた。
「似合いマスね」
「そ、そうか?」
伝崎は、照れくさそうに鼻先をちょっと赤くし、乱れた髪を降ろした。その黒髪がハチマキを隠すと、その髪の間に出てくる赤が余計に際立つ。
降ろした髪型からは若々しさも出てきて、さわやかな印象も与えた。
「髪を降ろすと、もっと似合いマスよ」
「褒められすぎると、なんか変な気分になるな……まぁ売るかもしれんが」
しかし、それにしても、とリリンは思う。
この奇跡的な戦果。どう説明がつくのだろうと。
腹黒リリンは、とぼけた表情の裏側にその本性を現す。
洞察スキルの誤差。神でも見逃す、その知力。
知力C+ → 知力???
額に人差し指を当てながら、リリンは分析するのだ。
――伝崎が活躍しなければ、こちらの全滅もありえた。
その勝因は一体何なのか。まず第一、先手を重視したこと。
――第二に、あたしにシスターの喉を攻撃させたこと。
もちろん、最初に主戦力の騎士を攻撃する選択肢もあった。しかし、騎士が一撃で死なない可能性があり、シスターの回復力が分からない以上……あくまでもシスターへの先制攻撃が最善手。
第三に、防御力の高い騎士にゾンビたちを向かわせなかったこと。第四に、ゾンビの全攻撃力を防御力の低い魔法使いに集中させたこと。
すべてがすべて、計算され尽くしている。
一挙手一投足に隙がない。
彼は、ゾンビでさえも使いこなした。
――まるで、ヘイホウは魔術的。
最後の最後で、交渉スキルを足止めに使ったことには度肝を抜かされた。
――もしも、伝崎があそこで数秒稼がなかったら、ゾンビたちは騎士に半滅させられていた。
ゾンビたちが半滅して、魔法使いが詠唱を実現。そうなると、すべての展開が変わっていた。
あれだけ戦う前は怯えていたのに、ゾンビが危険にさらされると豹変する辺り。
伝崎は、土壇場で能力を発揮するタイプ。さらに加えると仲間のためなら、がんばれるタイプか?
リリンは気づいていない。
伝崎は「損をしたくなかった」だけである。
リリンは人差し指で自分の頬をぽんぽんと叩く。
――しかし、伝崎は戦士が逃げ出すと本当に分かっていたのか?
それが分かっていなければ、すべての計算は破綻していた。
前衛が空いたから魔法も当てられたし、ゾンビたちも攻撃にいけた。
その洞察力は未来さえも捉えたのか?
洞察スキルはB+。
これでも無理。
天性の予知スキルなんてもってないし。どうやって予測した?
そういえば、聞いたことがある。人間は死の危機に瀕すると信じられない能力を発揮するときがあると。
それが起きたのか?
リリンは気づいていない。
伝崎は「損をしたくなかった」だけである。
昔からの伝崎の口癖。
『そりゃもう損をしたくなかったら、血眼になって人を見るもんですよ』
その商才、兵法を金にする。
伝崎は、コソ泥のように無精ひげを触りながら前々回に冒険者が落とした袋片手に出かけようとしている。
「うぉおおお、買い物だ。モンスターを買ってくるぞ。それでダンジョンを強化してやる! すげぇダンジョンになるぞ、俺は天下を取る! ダンジョン王になる!」
すごいテンションで伝崎は洞窟から飛び出していった。
7万3821Gを手に。
リリンは急にドっと疲れが来たのか右肩を落として片目を閉じ、一息ついた。
戦闘の結果が、天界を駆け巡る。
戦の神は、白いアゴ髭を揺らし叫ぶ。
「異世界人はなんなのだっ!?」
そのどら声は地上界に震え渡り、伝崎に称号が与えられた。
戦神の驚愕。
伝崎真レベル1の基本ステータスと称号。
筋力D-(称号で二周アップ。元ステータスF-)
耐久E-(称号で一周アップ、元ステータスF-)
器用A
敏捷A-
知力A-
魔力F
魅力B++(痩せて赤いハチマキアップ、無精ひげでコソ泥マイナス、元B)
称号、戦神の驚愕。
リリンのコメント。
すごい、すごい補正が掛かってますデス。筋力専門職の戦士とかが20から30レベルぐらい上げないと、二周のステータスアップはありえませんよ。
伝崎は頭をぼりぼりとかく。
「う、なんか意味もなく力があがったような気がする……」
ただの洞窟のゾンビたちのレベル6(5レベルアップ)の基本ステータス。
筋力D(アップ、元D-)
耐久E
器用F
敏捷F
知力E
魔力E
魅力E+
リリンのコメント。
一ランク、筋力があがりましたね。
伝崎のコメント。
ああーなるほどね。ゾンビが最弱の理由がわかったわー、めっちゃわかったわー(棒読み)
金髪ゾンビレベル7(4レベルアップ)の基本ステータス。
筋力D(アップ、元D-)
耐久E
器用F
敏捷F
知力E++(アップ、元E+)
魔力E
魅力E-(ダウン、元E)
リリンのコメント。
だから、知力が上がっても意味ないのデス!
伝崎のコメント。
なんで、魅力が下がっとんねん。
小悪魔リリンレベル34の基本ステータスと基本スキル。
筋力F
耐久D
器用C+
敏捷B
知力C+
魔力B
魅力B+
詠唱スキルB
伝崎のコメント。
むっ、何も変化してねぇな。やっぱレベル差が大きすぎて経験値が少なかったか。