白騎士
「伝崎さんよぉ、確かにお前は成長したけどなぁ。本当に優勝できるのかぁ?」
妖精のオッサンが肩の上から吹っかけてきた。
伝崎は笑った。
「彼を知り己を知れば、なんとやらだ。まずは情報を集めないとな」
今は昼前。
午後過ぎの予選会のエントリーまで時間があった。
向かったのは闘技場近くの酒場。
酒場には様々な人が集まり、情報が自然と集まってくる。
カウンターに座ると、ちょっとした注文しかしなかったが先払いで1万Gを置いた。
「お、いいのかい」
「オマケさ」
情報料をかねて払った。
孫子もスパイをはじめとして情報などには金を惜しむなと云っていた。
所持金が691万4432G→690万4432Gになった(所持金といっても厳密には重すぎて、すべてをすべて手持ちにしているわけではないが)
下調べは戦いの定石。
注文を待つ間、伝崎はカウンターの上で踊る小さなオッサンに向かって話す。
「どんなやつが出るかで、全然変わる。戦いっていうのは所詮相対的なものでしかない。あるやつがどれだけ強くても、さらに強いやつがいるもんだ。相性、条件、コンディションによっても内容が変わるからな。俺が優勝するかどうかは他の出場者次第だってこと」
「で、酒場に来たってわけかぁ?」
「ああ、そうだ」
酒が出てくると伝崎は一口も手をつけずにオッサンに渡した。
オッサンは「お、いいのかぁ?」と言いながら、すぐにコップを両腕でつかんで飲み干していく。
これから戦う以上、一滴も酒を飲むわけにはいかなかった。
伝崎は片肘をついて酒場の亭主に聞く。
「竜覇祭の予選会にどんな人が出るか知ってるか?」
「ああ、誰が出るかはほとんど決まってないって話だ。だが、ひとり有名なのだと」
「有名なのだと?」
「リュウケン使いとかいうやつが出るらしいな。確か、心臓とか言ったっけな。闘技場で連勝中のすごい使い手だって話だ」
(……あいつか)
頭蓋骨の後ろに立っていた。
『……面白い奴』
そう嬉しそうに云うどこか不気味な雰囲気の男だった。
まず間違いなく予選会でマークしなければならないことだけは確かだ。アウラを隠すようなやつだ。きっと予選会でもあいつは隠し通そうとするはず。どうやって力量を計ろうか。
伝崎がカウンターに両肘をついて考え込んでいると、隣に誰かが座った。
それはもう、迫力ある真っ黒な全身鎧に身を包んだその騎士らしき人物が手を上げて。
「マスター、私にも酒を頼む」
りんとした女性の声だった。
伝崎は、ちらっと洞察スキルでその職業を見た。
酒場には様々な人が集まる。
集まるのだが、集まるせいともいえるが。
「あんた……」
白騎士LV72。
その役職に対して、見た目が何もかも真っ黒。
「どっからどう見ても、黒騎士じゃねぇか」
「白騎士だ」
「いやいや、どっからどう見ても」
「白騎士だ」
伝崎は笑った。
「私の名前はレイシア・ホスター。貴様に聞きたいことがある」