練金
「転売だ」
マーケットを目の前にして、伝崎が出した結論。
商才があるものならば一度は考えることだった。
転売するために必要な情報は何か。
それは原価だ。
原価さえ分かれば、商品の基本をおさえたといってもいい。
たとえば、鉄の剣が標準価格の6000Gで売っていたとしよう。
鉄の剣の原価が仮に4000Gだと分かれば、それ以下で仕入れればいい。
3000Gで仕入れて3500Gで売り払ったとしても、相手は確実に利益を上げることができるので素早く買い取ってくれて。
こちらも利益を上げられる。
これから取り扱うべき品目は、一般的な品がいいだろう。
もしも特殊なアイテムを見つけても原価を調べ上げるのは難しいし、転売するまでに時間が掛かる。
今は時間がない。
風の靴に全力をかけて飛び上がるようにマーケットを巡る。
交渉スキルよろしく、情報を聞き出していく。
いくら衰えたとはいえ、交渉スキルB++は一線級のものであり、話を聞きだす分には問題がなかった。
二十分程度の時間を費やして、聞きだすことができた。
妖精のオッサンに指折り数えさせているところによると、残り時間は四十八分。
武器屋の通常価格と原価。
木の棒500G(原価200~300G)
銅の剣2000G(原価1200~1500G)
鉄の剣6000G(原価3500~4000G)
鋼の剣1万2000G(原価8000~1万G)
この原価を下回るものを地下都市で探す。
マーケットのひとつの店。
山積みの武器防具を不器用に捌く女店主の前に行く。その品々で安いものを探す。
取っ手がはげた鉄の剣5200G(原価3500~4000G)
剣先が欠けた鋼の剣9000G(原価8000~1万G)
交渉スキルで値引きすれば、もっと下げることができる。
だが、おそらく利益を上げるのは難しかった。
新品ではないからだ。
使い古されて価格が低下しているだけで、その実、通常価格で売っているのと変わらない。
転売しても利益は上がらないだろう。
伝崎は額に人差し指をあてながら考え込む。
肩の上に乗っている小さいオッサンは、厳しい顔で話す。
「伝崎、お前が一番わかってるはずだがなぁ」
世界は安易にできていない。
転売できるならば、他の誰かが先にしている可能性がほとんど。
そもそも原価以下で仕入れることがどれほど難しいことか。
元本27万7215G。
そこから、一時間で2万2785Gの利益を上げるということがどれほどのことか。
地球基準で考えるならば、深刻である。
著名な投機家ジョージ・ヘロスといえども暗黒の水曜日のような通貨ショックを除いては、一時間あたり10パーセント以上の利益率を叩き出したことは無い。
ハイパーリスクを抱えた金融商品を扱ったとしても、そんなバカげた錬金術を成し遂げることは不可能に近かった。
――今、その不可能をやろうとしていること。
異世界であっても簡単にできることではない。
しかし、情報網が現代の地球のように整備されていない以上。
もしかしたらが、あるかもしれない。
問題は時間。
すべてにおいていえる。
残り時間は、四十分。
考えているだけで砂時計は落ちていた。
「他を当たる」
伝崎は動揺していなかった。
こういうときに限って、妙な確信のようなものが頭にあった。
特有の勘のようなものだ。
しかし、それ以上に。
(安全パイがあるからな)
最悪、風の靴を売ればいいだけだ。
リスキーな賭けは、していない。
勝つ見込みがなければ、こんな動きを繰り広げたりしていない。
何か、何か、あと一手、その一手さえわかれば、答えに辿り着けるような感覚があって、それをたぐり寄せているようだった。
いろいろなモンスター商人たちに聞いて回る。
残り時間、二十四分。
「掛かるコストといえば、罠代とかですよ。なにせ、捕まえるときに動きを止めていないと、術式ひとつ刻めやしないんですから」
ゾンビ 1万5000G(原価9000G)
スケルトン 2万8000G(原価1万6000G)
(なるほど、なるほど。それなりに原価が掛かっているわけだ。罠代なり、何なり、と。仮にそうだったして)
待て、何かがおかしい。
記憶のどこか奥深くに沈殿している違和感が浮かび上がる。
伝崎は、電撃に打たれた。
(見えた……)
直感が頭を貫く。
前々からおかしいと思っていたが。
「アイリスの店、安すぎるだろ」
「その手があったかぁ」
本来ならば、罠代などのコストが掛かる。
アイリスは特殊な魔法なり何なりを用いて、ほとんどそのコストをかけずに入手することができていたんだ。
彼女は、やはり異常なほど安い価格でモンスターを提供していた。
マーケットを駆け抜けて、地下都市の端にあるアイリスの店に向かった。
相変わらず、アイリスの傾いた店には人が来ていなかった。
最悪の立地条件のためか、人知れず隠れ家的に存在していた。
「ひぃいい」
伝崎を見て、アイリスは逃げ出した。
貯金箱には、めちゃくちゃ汚い字で「投資のおかげでモンスターを前より多く入荷できました」と書いてあった。
店の中を見渡すと、ゾンビが十二匹とスケルトンが八匹いた。
ゾンビ 8000G(標準価格1万5000G、通常の原価9000G)
スケルトン 1万5000G(標準価格2万8000G、通常の原価1万6000G)
最初の時点で原価を割っている。
どんな手品を使ってるんだ。
いや、今はそれどころじゃない。
残り時間、一〇分を切っている。
時間がなかった。
アイリスが出てくるのを待っている余裕はない。
店の奥にまで追いかけていくと、アイリスは部屋の片隅でわら人形のような棒を振るっていた。
アイリスの首根っこをつかまえてカウンターにまで出すと交渉を始めた。
銀色のカードを出し、交渉スキルを発動した。
ゾンビ 8000G → 4500G
スケルトン 1万5000G → 9800G
前より交渉スキルが衰えていたせいで高めの価格になったが、問題ではない。
ゾンビ十二匹とスケルトン八匹を仕入れて、他のモンスター商人に売り払った。
ゾンビは平均8000Gで売れて、スケルトンは平均14600Gで売れた。
原価を割っているので、素早く買い取ってもらうことができた。
7万7200Gの利益だ。
所持金が27万7215Gから35万4415Gになった。
残り時間、四分。
風の靴に空気が巻き込まれていく。
すぐに駆け出す。
例のモンスター商人の前にまで。
間に合わないと風を飛ばして、壁を蹴り上げて、バラックの屋根に飛び乗る。
屋根を何度も越えた先に着地すると。
檻の中には、キキがまだいた。
金貨三十枚を台の上にたたきつけると、モンスター商人は停止していた。
その金貨を何回か見直した後、こっちを見て、うぇいと表情をゆがめた。
「……この金は借りてきたんですかい?」
「いいや、商売で稼いだんだ。まぁ、実際稼いだのは7万7200Gだがな」
「こんな短時間でどうやって……」
「それはあんたが上客のことを言えないように俺も言うことはできないな」
モンスター商人の中年男性は、ひょっとこみたいに口を小さくしながら驚いていないですよと何度も言う。
檻のほうにおずおずと歩いていく。
その背中は、ちょっとした敗北感に満ちていた。
妖精のオッサンは、しみじみと言う。
「伝崎よぉ、お前さんの商売勘みたいなもんは、やっぱすげぇなぁ」
「商売勘がすごいというより、安価な仕入先を開拓していたのが大きかったように思うな。
元店長時代のくせみたいなもんだ」
仕入先を開拓していたら、不可能が可能になることはあるらしい。
――というか、アイリスの店おかしいだろ。
投資しまくって入荷数増やしまくった挙句、転売したらボロ儲けじゃないか。
ボロ儲けしよう。金が余ったら投資しまくろう。
檻は開かれた。
キキの前に手を差し出し、静かに語りかける。
「名乗ってなかったか。俺の名前は伝崎真だ。
今なら選択できる。俺についてくるか? それとも他の誰かについていくか?
俺についてきたら、与えられるものは全部やろう。その代償はいささか大きなものになるかもしれんがな」
キキは猫耳をぴんっと立てた。
茶色い瞳の奥は澄み切っていて、こちらを見抜くようだった。
まばたきを何度も繰り返して、真っ直ぐに目を見開く。
目の奥の何かをとらえたようにコクリと頷くと、やけに通る声で言う。
「伝崎がいい……」
「よく言った。どーんと大船に乗ったつもりでついて来い」
キキの手を引っ張り上げると、檻の中から引きずり出した。
所持金は35万4415Gから5万4415Gになった。
もうすぐ獣人を買い集めている奴が来るだろう。
この場に止まり続けるか。
それともすぐに離れるか。
できれば、どんな奴か知りたい。
しかし、もしも遭遇してしまったら、揉めるかもしれない。
慎重に慎重を期そう。
この場から離れることにした。
モンスター商人が見えなくなっていくと、大通りの喧騒の中に飲まれた。
キキの手を離さないように人ごみの中を歩く。
誰かと肩をぶつけて、ちょっとだけ、よろける。
それだけでキキは両手を口に当てて小さく笑っていた。
何が楽しいのか分からないが、一々どうでもいいことが面白いらしい。
目を向けると無表情になった。
目をそらすと、また声を殺して笑っていた。
ガラの悪そうなモヒカンの大男が酒瓶片手に見下ろしてきて怒鳴る。
「ちゃんと周りを見ろよ!」
「すみません。気をつけます」
伝崎は、丁重に頭を下げた。
それで通りすがるかと思ったが、大男は酒臭い息を吐きながらにじり寄ってくる。
キキの顔半分の火傷の痕を見つけると、ツバを吐き捨てて。
「きたねぇ獣人をつれてんじゃねぇぞ」
伝崎は、ふっと目を細めて、冷たい顔になった。
体から夜色のアウラが漏れ出し、立ち上りすらせずに両肩にねばりつく。
澄み切った夜の気配が肩の上、頭の周りに現れたようだった。
時間をかけて頭をあげると、ひややかな目線を送る。
大男は目が合っただけで手を上げて硬直した。半歩だけ後ずさって。
「な、なんだよ。きたねぇからきたねぇって言ってんだよ」
伝崎は、自然に間合いに入ると大男の胸元の服を片手でつかむ。
夜色のアウラがその片手に集中し、力がこもる。
ぎりぎりと、ねじりあげていく。
大男が手で振りほどこうとしても何の苦もなく、両足が地面から離れる。
「もう一度同じことが言えるか……」
「ぐぁあ」
大男は手元の酒瓶を落として、うめいた。
伝崎の筋力はC-。
大男の筋力はD+だった。
もはや、一般人のはるか上の筋力になっていた。
その上、夜色のアウラで忌々しく強化されているような、あるいは大男の体重が半減しているような、力を奪っているような、そんな感覚があった。
大男は、よだれを垂らして視線が遠くなっている。
誰かが背中の服を引っ張ってくる。
振り返ると、キキが真っ直ぐな眼差しで首をゆっくりと横に振っている。
大男を突き放すと、尻尾を巻いて逃げ出した。
伝崎は、自分の頭を何度も軽く叩いて苦笑いする。
「わりぃわりぃ。ああいう言葉を気にすんなよ」
「うん……」
「俺はあんまりお前の見た目とか気にしてないし、つーか全然、気にならないからな。
でもまぁ、街中だと悪目立ちするから、この布やるよ」
そういって、伝崎は身に着けていたクテカ山の赤布をはずすと、キキの頭に羽織るように巻いてやる。
アラビアの女のような装束に見えた。
魔法使いに相応しいな、と伝崎は思った。
「似合う、似合う」
そういうと、キキは目をぱりくりさせて背を向けた。
伝崎の見た目は地味になった。魅力はAからBB+になった。
キキの見た目は鮮やかになった。魅力はDからD++になった。
クテカ山の赤布をキキは何度か見て、その匂いをかぐように鼻に押し付ける。
鼻先をくんくんと立てるように動かす。
身につけていたものの匂いをかぐ仕草は、獣人特有の行動なのかもしれないが。
普通の人間としては受け入れがたく、気恥ずかしさがあった。
自分のものを勝手に嗅がれるとか。
そう考えると、体の温度が急激に上昇していって顔が熱くなった。両手を顔の前で、ちぐはぐに交錯させる。
「ボァアアアア、なに嗅いでんだよ。嗅ぐんじゃねぇよ」
ポケットの中のオッサンが、しめしめと。
「伝崎を動揺させるとはなぁ。キキは大物になるぞぉ」
また人ごみの中を歩いていると大通りの向う側から、人だかりを広げて進む人間がいるように見えた。
目の前にひとりでに道ができて、誰かが姿を現す。
金色のアウラを放つ青年だった。
緑色のローブを着込んだ黒髪の男だった。
そのアウラから来る存在感は別格といってもいい。
群衆はまぶしそうに後ずさりして顔をそむける。
この場のすべてを磨き上げているような異様さがある。
ちりゆく金色のアウラにマーケットの汚らしい屋根でさえも輝く。
伝崎はしらじらと目を細めながら、キキの手を引く。
気にせずに誰も通ろうしない道を歩いていく。適当にキキに話しかけながら。
「よく従業員になってくれたな。接客の仕方とか教えてやるから安心しろ。
分からないことがあったら何でも聞いていいからな」
キキは小さく相づちを打つ。
金色のアウラを放つ青年は、こちらをちらりと見る。
視線を変えたと思ったら、二度見してきた。
細い目を見開き、初めて何かを見つけたように驚いていた。
隣のキキに見入られているというよりは、伝崎の横顔に惹きつけられているようだった。
見逃すまいと、ただただ少年のように見ているようだった。
伝崎は、目をそらしながら見てみぬフリを装う。
(なんなんだ、こいつは……金貨みたいなアウラを放ちやがって。じろじろ見るんじゃねぇ)
気になったので洞察スキルを発動する。
絶対魔術師レベル99。
アウラは見えているのに、能力が見えなかった。
見ようとすればするほどに、思考が飛びそうになる。
(げげ……例外さんかよ。ザ・最強みたいな奴だろ。変態じみてる。関わったら、あかん)
キキは伝崎の手を強く握りこむ。
絶対魔術師ヤナイは伝崎が通りすがった後、苦笑する。
(あの黒い男。一瞬ただの無職かと思いましたが、どうやら違いますね。
あれは無、そのもの。
あんな特異な存在がいるとは。いやはや、世界は広いですね)
リリンは憂鬱げに水晶を眺める女魔王を見ていた。
――魔王様が伝崎を見る頻度が増えた。
前は九対一だったのに対し、今は七対三ぐらいの比率になってる。
――魔王様は知っているのでしょう。
あのアウラからして、伝崎がどれほどの脅威になりうるのかを。
――どうして生かしているのデスか?
心の中の問いかけは空しく、女魔王は鼻歌混じりにベットの上で寝転んで水晶をめでている。
悔しがる伝崎を見ると、両足をはしゃぐように上げたりする。
照れた伝崎を見ると、水晶を殴りつける。
今の魔王様に、どんな言葉をかけても意味を成さない。
――あたしが止めないといけない。
以前にも増して、その決意は強くなっていた。
今までの行動、マーケットでの行動。
伝崎を見れば見るほどに、簡単に予測できる。
伝崎は利害に敏すぎる。
おそらく、自分にとって有害とみなせば魔王様といえども殺そうとする。
それが今の間は不可能なだけ。
伝崎は、利害だけの人間。
本当に、本当に。
それだけ?
『リリン、もう一回言うわ。ありがとうな……』
苦しかった。
前よりも、オモリがかさばっている。
だからこそ、早くやらないといけない。
これから時間を重ねれば重ねるほどに。
『俺は、お前を信頼してる』
痛い。
信じられれば信じられるほど、痛い。
しかし、機会を伺い続けなければならない。
いや、きっとそんなものは何回もあった。
そして、これから何回もあり続けるだろう。
寝ているところを撃ち殺せばいいだけなのだから。
その信頼を利用して。
水晶に写るのは、獣人の少女の手を引く伝崎の後姿。
――伝崎様。守ったのはお金のため? それとも。
きっと伝崎は、そうだ、と即答するだろう。
それが目に見えている。
あるいは、その答えが自分にとって「損になる」と考えるならば、違う、と答えるだろう。
もっと思考を冷静に。
冒険者にかけた言葉がすべてだ。
『得だから俺はお前を殺す』
気づいてください。
――魔王様。いつか貴女様でさえも伝崎は飼いきれなくなりマスよ。
女魔王は、ベットの真ん中に水晶を置くと思い立ったように身を起こして言う。
「リリン。ちょくちょく殺気を放ってるけど、なんかある?」
とある古書店に伝崎とキキは一緒にいた。
伝崎は、本棚の中の鍛錬白書を取り出すと、カウンターでボケっとしているジジイに交渉スキルを発動した。
ジジイは押しに弱いのか、6万Gの価格からなんとか5万3011Gまで値切ることができた。
所持金は、5万4415Gから1404Gになった。
これでキキの育成がはかどる。
ただの洞窟に帰るまで待ちきれなくなり、強い知的興奮に導かれて古書店の片隅で鍛錬白書を開く。
特に、重要そうな項目を見ていく。
・ステータスの上げ方。
筋力を上げたければ、重いものを持ち上げてください。
耐久を上げたければ、棒とかで体を叩いてください。
器用を上げたければ、手先の細かい作業をしてください。
敏捷を上げたければ、全力で走りこんでください。
知力を上げたければ、知識を蓄えるだけでなく良く考えてください。
魔力を上げたければ、基本的な魔法を繰り返し打ちましょう。
魅力を上げたければ、着飾ってください。
(おおおおお、これが知りたかった。なるほどーすげぇ重要な情報じゃないか。
まぁ、最後の魅力の上げ方だけは投げやりだな)
・成長限界と才能限界。
ステータスには成長限界があり、スキルには才能限界があります。
成長限界はアウラの広さともいえ、才能限界はアウラの深さといえるでしょう。
厳密にはまだよく分かっていないのですが、これらの例えが今のところ適切だといわれています。
成長限界はレベルアップによって上がり、才能限界は天性のものです。
また才能限界の刻める深さ、奥行きの容量はほとんど変化しないので、どのスキルを習得し、鍛え上げるのか注意したほうがいいでしょう。
あれも欲しい、これも欲しいと習得している間に、どれも中途半端に終わることがあります。
(スキル習得って、絞ったほうがいいんだな。そりゃそうか、何でもかんでもできる奴なんていないわな)
・成長法則のひとつ。
倒した対象の生命エネルギー次第では、成長限界や成長そのものに好影響を受けるでしょう。
例えば対象が自分を上回る筋力の持ち主だとして、その対象を倒し生命エネルギーを吸収した場合、筋力の成長限界、成長そのものに好影響を受けます。
ですから、自分より優れた相手を倒すほうがいいのです。
(だからか! 俺は昔から非力で、筋力の才能はゼロ。
称号があってレベル上がったからってC-の筋力になるのは、ちとおかしいなと思ってたんだ。
ゴブリン王のあのスーパー筋力アウラを吸収したから成長限界が上がってたんだな。
重戦士のアウラも吸収してるから、耐久の成長限界も上がってそうだな)
・食生活について。
食べるものによって、成長や成長限界に好影響を受けるでしょう。
筋力の種と呼ばれているゼネニアスの実を一日三回食べるだけでも筋力の付き方が違います。
耐久の種と呼ばれているソノミアの実でも然りです。
敏捷の種と呼ばれているサシルの実でも然りです。
このように、それぞれの上昇に好影響を与える実が存在するのです。
しかし、こういう種の食べすぎはよくありません。
食べすぎると病気になりますし、他のステータスの成長に悪影響を受けることもあります。
筋力の種ばかり食べている人がいますが、頭の中まで筋肉になっているように見えます。
また、食生活自体に成長限界に影響を与えるものがあります。
肉類を中心に食べれば、筋力の成長限界が上がるといわれています。
穀物類ならば、耐久の成長限界が上がるといわれいます。
野菜類ならば、敏捷の成長限界が上がるといわれています。
正確な影響率については実験中でまだよく分かっていませんが、無視できない影響があることは確かです。
魅力や魔力、知力などは天性のもので、食物などからの影響を受けにくいようです。
それはそうですね。いくら好い物食べたって賢くなったり、美貌を手に入れるのは難しいですから。
一流の戦士になりたい貴方、ちゃんと良質な肉を食べてます?
(ますます畑が重要じゃねぇか。筋力の種と敏捷の種、量産体制を作りたいな。
それで野菜類を栽培しまくって家畜を飼育する。穀物はいる分だけで済ます。ひゃっほー)
・クラスチェンジとモンスター進化。
一定のレベルに上がり、ステータスの条件が満たされているとクラスチェンジが行えます。
巫女に祈祷を頼み、どのクラスに変化するのか選ぶのです。
例えば戦士ならば、様々な戦士職の中位系統にクラスチェンジできるわけです。
モンスターの場合も本質的には同じわけですが、巫女に頼らずに進化できるようです。
クラスチェンジやモンスター進化は、ステータスの成長や成長限界、スキルの能力や才能限界に影響を与えるものなので、とても大切です。
(ゾンビとかも進化するのかね? 大ゾンビとかになるのかね?
だったら、面白くなってくるぞ。
無職の俺は……無理くさいな。つーか、なんで無職になっちまったんだ?
ダンジョンマスターギルドに所属してるから、商人のはずだろ。
例外みたいなもんか?)
伝崎は、いささかの疑問を抱えながらも、鍛錬白書の内容に興奮していた。
これらの情報がどれだけ欲しかったか。
まだ書いてることがあるが、今はいいだろう。
かなり重要な情報は得られた。
満足感があった。
6万G以上の価値はあったかもしれない。
あとは、エリカに色々と話を聞いて帰るだけだ。
ダンジョンの評価の上げ方や食料コストの抑え方、その他もろもろ聞きたいことがあった。
古書店から出ようとすると、本棚の向う側でジジイに話しかけている誰かの声が聞こえた。
「パプーの異世界旅行記が売っていると聞いたのですが」
ジジイは、さてどこじゃったかねぇと言いながら本棚を探そうとしているようだった。
気分が良いので、場所を教えてやることにした。
「ああ、それならここにあるぞ。あんた、いい趣味して」
そう声をかけた先を見て、目を見張る。
絶対魔術師とやらが控えめに黄金の光を後頭部から放っていた。
その黄金の光とは対照的に、そばかすのある顔が妙な親しみと愛嬌を感じさせる。
何気なく普通の顔をしていて、まるっとした頬をこづいてやりたくなる感じだ。
伝崎はパプーの異世界旅行記を手に取りながら話しかける。
「相変わらず、金貨みたいなアウラ放ってんな」
「これはこれは……さっき、すれ違った方ですね」
絶対魔術師の青年は、ニッコリと微笑む。
キキは黒服をぎゅっとつかむと、後ろに隠れた。