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最高の投資先

「アイリス!!」


 伝崎は結婚してくれと言わんばかりに顔を近づける。

 アイリスはますます怖気づいたかのようにカウンターの下に潜り込む。


 伝崎はどっかーんと「それ」を積み上げる。

 カウンターを埋め尽くすほどのそれは輝きを放っており。


 アイリスはおそるおそる顔をあげて、目が飛び出そうになる。


 伝崎は叫ぶ。


「この店に投資する!」


 カウンターに1000万Gを積み上げていた。


 なぜ、彼女に投資することになったのか。




 伝崎の脳内で戦略会議が繰り広げられていた。


 その頭の中をクローズアップしてみると、会社のような会議室が見えてくる。

 モニターがあり、机が置かれ、色々な小さい伝崎が話し合っているのである。


 分析が得意そうなメガネをかけた伝崎もいれば、行動派の日焼けした伝崎もいた。

 1秒間にいくつかの会議が立ち上げられ、そして解散しては考えられていたこと。


 1億2586万9432G。


 リトル伝崎A「つまり、このキャッシュをどう有効に使うかってことだろ!」

 リトル伝崎B「うまい使い方を考えるにしてもだな」


 リトル伝崎C「テーマを絞れ」


『資金増大』

『戦力増強』


 奇策として『資金増大』の方法についてあえて話し合う。


 畑に全投資して、その収穫収益で「さらに増えた金を畑に投資して」という方法も考えられる。

 人件費ゼロのアンデット農法によるバカみたいな無限資金増大法だが、10月末まで収穫できない以上、今は却下。

 もしも、奇跡的にできたら本当にダンジョン発展させ放題だが、10月までにダンジョンが潰されたら元も子もない。


 何より魔王の機嫌を損ねれば、元の木阿弥どころか面倒なことになる。

 畑は取り組むとしても後だ。

 あるいは、あくまで分散投資の対象だ。


 そこで『戦力増強』の選択肢に全力を上げるとして。


 リトル伝崎D「今のダンジョンの問題は攻撃力と防御力が足りてないってことだよ」


 『攻撃力問題について』


 仮に上級パーティが五人ぐらいの編成で来たとしよう。

 現在の戦力で考えてみよう。


 一人は、伝崎が一対一に持ち込めば何とか倒せるだろう。

 二人目は、覚醒キキとその部隊が互角まで持ち込めるかもしれない。


 三人目、四人目、五人目は、誰が倒せるというのだろう。

 倒し切れなかったら回復されて、逆転される可能性がある。


 実際、中級冒険者クラスの荒野武士に堅牢スキルを使われて、盾を構えられると全体攻撃が通り切らなかった。


 中級冒険者でそれだ。

 上級冒険者なら、もっとリスキーだ。


 つまり、攻撃力が圧倒的に足りてない。


 そのうえで、反撃を受けたときに防御し切れないのは目に見えていた。

 より高火力の範囲攻撃をしてくる可能性がある上級冒険者が来たら、こちらが火の車だ。


 そこでこの状況を改革しなければならない。

 いわゆる戦力強化に役立つ投資先を探さなければならない。


 色々な投資先がある。


 まずは、ダンジョンの未来を形作る投資を行いたかった。

 投資に利用する目安資金。


 およそ2000万G。


 それぐらいが冒険者と財宝額がバランスする目安だと見ていた。

 直接的な強化の資金も残しておきたかったゆえだ。

 経営基盤を形作る将来の投資を行ってから、その後にダンジョン強化を考えていた。


 印象的な投資先は、およそ二つ。


 今、手に入る最高の白竜鉄装備をみんなでしているが、その装備の攻撃が明らかに通らなくなってきている。


 ――装備の攻撃力防御力不足。

 解決策としての投資先は。


『モジャ頭の武器防具店』


 投資することで新たに強力な武器防具を仕入れてもらうわけだ。


 そして、もうひとつ重要なことがある。

 ダンジョンの戦力を下支えするモンスターをどうやって底上げしていくかということ。

 その底上げを実現する投資先はここしかなかった。


『アイリスの店(モンスターの優良調達先)』


 だからこそのアイリスへの切り出しだった。




 伝崎は、積み上げた金貨の山を両手で護送戦艦のようにじわりと推し進める。

 カウンターの奥へと突き出すようにして。


 大胆に1000万Gを投資する。


 伝崎は勢いよく力強い口調で話す。


「すんげぇ使えそうな新しいモンスターを仕入れてくれ! そこらの店に売ってないようなやつとか、ダンジョンに使えるのならなんでもいい」


 アイリスは戸惑うように金貨の山を見つめていた。

 見たこともない量なのだろう。

 彼女はいきなり立ち上がって、聞いたこともないような威勢の良い甲高い声で言う。


「で、できますっ!」


「本当か?」


 アイリスは左手で指折り数えて。


「これだけの資金があれば……その、檻とかを新調して捕らえられないのを行けます……」


 口調の最後辺りには恥ずかしくなったのか自信なさげにうつむいていた。


 伝崎は両目をつぶって頭を下げる。


「頼む!」


「はい」


 投資成立だった。


 妙な達成感があった。

 豊富な資金ができてから、アイリスの店を取り戻すことができたのはベストタイミングだった。

 モンスターダンジョンを作り上げるなら、優良モンスター店との関係は命綱。


 まさにアイリスの店とは一蓮托生、運命共同体だった。

 これから格安で優良なモンスターを仕入れられるようになるかもしれないと思うと、期待に震えた。


 最高に楽しみだった。


 もちろん、アイリス次第では仕入れが失敗する可能性もあった。

 それでも、彼女の才能や能力に賭けたいと思った。


 これが投資だ。


 この期待感、たまらないものがあった。


 そういえば、将来の期待といえばもうひとつあるじゃないか。

 伝崎は服の中でじたばたして、ひょっこり顔を出した銀ちゃんを見つめる。

 くりくりとした竜の目、宇宙人のごとき凶々しい丸みのある頭蓋。


「まぁ……この子」


 アイリスがそれに気づいて、伝崎は銀ちゃんについて聞いてみることにした。


「あと、この子なんだけど、なんか知ってることあったら教えてくれ」


 育成方法のヒントとか知りたかった。

 アイリスはよしよしと銀ちゃんの頭をなでてから言う。


「この子……飛べません」 

 

 確かに銀ちゃんを両手で持ち上げて、背中を見てみると体躯に比べて小さい翼しかなかった。

 伝崎は銀ちゃんの翼を見つめながら聞く。


「大きくなってもか?」


 アイリスはモンスターのことになると、流暢に話し始める。


「竜にしては珍しく飛べない種類なんです。でも、大きくなったらいっぱい技を覚えます」


 やけに話し方がすらすら。人見知りの緊張がなくなったかのようだった。

 どれだけ話すのが苦手な人でも、得意なことや好きなことは話が弾むという。

 アイリスは、モンスター商人として「伸びる」と改めて直感した。


 伝崎はそのことに触れずに、銀ちゃんについて聞き返す。


「技を覚える?」


「そう、足を使った蹴り技とかブレス系の技をいっぱい覚えます」


「蹴り技? 格闘竜かな。教えてくれてサンキュー!」


 伝崎は大切に銀ちゃんを服の中に入れると、のぞきこむように話しかけながら店から出ていく。


「そうか、お前は大きくなったら色んな技を覚えるんだなー」


「ぴきゅ」


 銀ちゃんは目を細めて応えてくれたような気がした。

 アイリスは何かに気づいた様子で、伝崎の遠のく背中を見送りながら、つぶやいていた。


「あれ……あの子もしかして」




・伝崎の楽しい投資一覧


 1 アイリスの店に1000万Gを全力投資!


 2 モジャ頭の武器防具屋に500万Gを投資。

「かも……行ける! また仕入れられる!」


 3 異世界商店の商人に250万Gを投資。

「アリガトウゴザイマス!」


 4 馴染みの古本屋に250万Gを投資。

「これなら興味深いやつにつばをつけられる」


 商品の仕入れにも時間がかかるだろうから、投資効果が出るのは数日後だろう。


 新しく上位武器を手にいられたり、ユニークアイテムを手にいられたり。

 新たなスキルを習得できる本などを手に入れられるであろう馴染みの古本屋にも投資した。


 まずは2000万Gをかけて、将来のダンジョンのための投資を実行。


 所持金1億2586万9432G。

 →1億0586万9432Gになった。


 店の装備やアイテム、モンスターが充実すればするほど戦力アップに繋がる。


 戦力増強のための将来へ向けた投資だ。


 まさに経営の基本。

 設備投資に近いもので、すぐに効果は出ないけれど、後でじわじわと効いてくる。

 重層構造のような投資で、経営の基盤をきっちり固めた。


 ワクワクとする投資とは、このことだった。

 ダンジョン経営の成長に繋がる期待感が湧いてくる。


 どんな新しいものが出てくるのだろう。


 ズケは自分の利益しか考えず、アイリスの店も先細っていたようだが、経営はそういうものじゃない。

 共に栄えていくことで、成り立っていくものだった。

 投資することでお金が回り始めて、周囲の店が賑やかになり始めていた。


 ダンジョンの根幹を成す投資はできた。

 この投資に関しては結果が出るまで待てばいい。


 次は。


「ここが舞台、ここがすべて。根本レベルで改革しないとな!」


 伝崎は両腕を広げて、手狭になった洞窟内を見渡していた。


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