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竜の卵がかえる

「ぴきゃーー」


 小さいドラゴンが生まれていた。


 竜の卵の上部分が割れて、その殻の一部分を押し上げて、小さな小さなドラゴンが顔をのぞかせている。

 まだ目も開いていないのに、卵の中で座っているようにも見えた。

 卵内の液体の中に浸かっている。


 そっと取り上げてみると、その灰色の全身が見えてきた。


「この世界に来てから、はじめて竜をまじかで見た気がする」


 伝崎は感心したように、その竜の子どもを卵から両手で持ち上げていた。

 片手の上に乗せても、大丈夫なぐらいに小さかった。


 妖精のオッサンが手首の上で竜の赤ちゃんに顔を近づけて言う。


「こいつぁあーーー、ほんまもんの竜じゃねぇかぁ!」


 鱗は、小型のトガケのようにも見えた。


 全身、基本的には灰色の鱗なのに、頭頂部だけが銀色に輝いている。

 翼は退化しているのか、とても小さかった。

 一方で足が胴体部分のように大きくて、力強い蹴りを打てるようにも見えた。

 頭はラグビーボールのような細長さがあった。


 獣人のキキは、後ろで期待感に満ちた目をキラキラとさせていた。

 軍曹が賢そうに拍手を始めると、それにつられるように一斉に洞窟内に拍手が巻き起こった。


「おめでとうございますぅ」


 軍曹の一言に、みんな新しい命を祝福し始めた。

 白ゴブリンの爺さんは目を細めて、感慨深そうに言うのだ。


「ふぉふぉ、これは楽しみですなぁ」


 灰色の小さいドラゴンがいきなり仲間になった。

 その代わり、竜の卵が宝としての役割を終えたけれど。

 頭上にある小さな銀色の鱗が、これからの成長の可能性を感じさせる。


 伝崎は急に思いついたように、小さなドラゴンを見つめながら言う。


「お前は銀だ。銀色の頭をしているから、銀ちゃんって呼ぶことにしよう」


 銀ちゃんと名付けられた小さな竜は、ゆっくり目を開けると伝崎の顔をまじまじと見つめた。


「ぴきゃー」


 と、初々しい声で鳴いていた。


 伝崎を親だと認めたような愛らしい目つきで見つめ返してきた。

 洞察スキルを発動して、銀ちゃんのステータスを見てみた。


 銀ちゃんのステータス(銀竜LV1)

 筋力C

 耐久C++

 器用E

 敏捷A-

 知力D

 魔力C

 魅力C


 伝崎は、そのステータスを見てから改めて言う。


「やっぱ、お前は銀竜だよな。え? おいおい、敏捷がやけに最初から高いな」


 カモシカは生まれてから数時間で走れるようになると言われているが。


 銀ちゃんはじたばたすると手からこぼれ落ちるように脱出して、走り始めた。

 ずかずか、という音が聞こえてくるような走り方だった。

 足がタイヤのように高速スピードで回転しているように見える。

 そのスピードは、車よりも速いように見えた。


 白狼ヤザンが動くものに反応してしまうのか後ろを俊足で追いかけていくが、最初は並走で始まっても、どんどんと銀ちゃんが引き離していく。


 銀ちゃんは洞窟の端から端まで行くと、壁まで競り上がって天井を走り抜いて、地面に辿り着くとまた走り抜けて、ぐるぐると洞窟内を何周もしている。

 隊列と隊列の隙間を小さい体で駆け抜けていくのだ。

 それを見ていた軍曹が目を回しながら、昏倒するかのように大の字で倒れてしまった。


「銀ー、ちょっと待てってー」


 伝崎は楽しげにステップを一、二、と瞬間的に重ねて、銀ちゃんの背中に辿り着いて捕まえていた。

 辿り着く動きを横から見るとその背に影が出て、次に瞬間移動して数メートル先にいるようにしか見えなかった。

 移動の間隔が見えないぐらいに伝崎の動きは早かった。


 伝崎が銀ちゃんを持ち上げると、目をぱちくりさせて「ぴきゃーー」と鳴いていた。

 足だけがじたばたと動いている状態になった。


 すでに、銀ちゃんはこの洞窟で伝崎の次にスピードがあった。


 白ゴブリンの爺さんはとても驚いた様子で言ってくる。


「銀竜ですと!?」


 伝崎は銀ちゃんを抱きかかえながら聞き返す。


「ああ、ステータス見たけど、銀竜だよ。それがどうかしたのか?」


「灰竜の亜種でして……そもそも灰竜自体が俊竜とも呼ばれる走りの得意な竜ですじゃ。

 銀竜は灰竜の中でも大変に珍しく、育てば偉大なる竜となりますぞ」


「良いのか?」


「良いなんてものじゃありませんぞ」


 竜の中の竜なのだろう。


 今は見た目が灰色で弱そうに見えるけれど、成長していくと全身が銀色になって強くなっていくのかもしれない。

 銀ちゃんを高く持ち上げていると、丸く小さな腹がはっきりと見えて可愛らしかった。

 足をもじもじと動かして、抱きつきたがっているようにも見える。


 伝崎は銀ちゃんを胸に抱えるように包み込むと、銀ちゃんも抱きつき返してきた。


「何を食わせたらいいんだ?」


 伝崎がそう聞くと、白ゴブリンはすこし考え込んでから話し始める。


「草木などを好んで食べると聞いたことがありますなぁ。岩石や果実も好物と言われていますじゃ」


「草食なのか。意外だな。岩石も食うとか竜らしいけど」


 伝崎は銀ちゃんを胸の服の中に入れて、大切に育てることにした。

 まだまだ小さく、か弱いこの竜が傷つかないように。

 育てていけば、とんでもない竜になるに違いない。


「銀ちゃん、これからよろしくな」


 伝崎がそう言うと、獣人のキキも慎重に近づいてきて、ぺこりと服の中の銀ちゃんに挨拶した。


「よろしくね」


 銀ちゃんは「ぴきゃー」と鳴いて応えていた。

 絶対に大切に育てねば。


 期待の新メンバーも加わって、この洞窟の未来が最高に楽しみになってきた。

 ダンジョンマスターとして、こんなに嬉しいことはなかった。


「良いことばかりが続く!」


 伝崎がそう快活に言うと、いえぁあああ、と洞窟のメンバー全員が歓声をあげて祝福してくれていた。

 このままぶっちぎっていきたい。

 Aランクダンジョンへと一気に。


 銀ちゃんをどう育てていくかで、洞窟の未来が切り拓かれていくように思えた。


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