見た目がすごい変わられて、パーティを組まれる
ゆっくりと路地裏から、その『何か』が姿を現す。
「ら、ら、ライン・ハート様じゃないですか……つい、てっきり、見た目がすごい変わられてて」
大弓士ライン・ハートが弓を構えながら、ズケの方に歩いてくる。
尋常じゃないくらいに大きくなっており、店に入るとその頭が天井に当たるくらいだった。
小柄で細身の、あの弓士らしい姿はなく。
筋骨隆々、あまりにも筋肉がでかくなりすぎて、上半身の白服が一部破けて胸筋が露わになっていた。
エルフらしい金色の長髪だったはずなのに、焦茶色の短髪になっていて髪の毛が逆立っていた。
――な、何があった?
ズケは両手をあげながら、愛想笑いを「へへへ」として首を傾ける。
「お、お、お強く、たくましくなられたようで何よりです」
その図体からすると、かなり小さく見える弓がぎりりと引き絞られていく。
「わ、わ、わかりましたよ」
ズケはカウンターから下りて、両手で頭を覆う。
後ろを見ると丁度、ズケサイズの人型の矢の形ができていた。
あまりの精度。あまりの矢数。
ズケは、依頼主なのに下手に出ないといけないのはなんでだと思いながらも、そのやばすぎる大弓士の風貌の変化にびびっていた。
大弓士は、ズケの横暴な態度を一切許していなかったのである。
ズケが参ったとばかりにカウンターから二歩、三歩と離れていくと。
カウンターの下に隠れていたアイリスがおそるおそる顔を出して言う。
「あ、ありがとぅ」
アイリスはエメラルド色の綺麗な瞳でちらっと見上げて、恥ずかしそうに目をそらした。
小動物的な、あるいは妖精的な、妙な可愛らしさがあった。
大弓士ライン・ハートは、当たり前のことをしたまでだと言わんばかりに無言で目をつぶりながら、すこしだけ頬を赤らめていた。
ズケはなんなんだこいつは、とイライラしながら思う。
変わりすぎだろ、ということもそうだし……だが、気に食わなくとも強ければいい。
あいつをやってくれさえすればいいのだ。
ズケは歩み寄ると両手を広げて。
「そ、そ、それよりライン・ハート様、依頼の話はどうなりましたか?」
ただの洞窟攻略の依頼だった。
大弓士ライン・ハートは「わかった」と言わんばかりに、ただうなづいて店の外を見た。
すぐにでも、ただの洞窟に向かおうとしているのがわかった。
その背には、見たこともない勇壮な矢(雷々魔の矢。時価3942万G、高騰中)が彼に負けず劣らずの迫力で電撃を帯びながらあった。
電撃を抑える黒狼のなめし皮の入れ物に包まれていた。
いつの間にか、店の扉に背を預ける人影。
「俺もすこしはただの洞窟のことがわかるぜ」
ズケの募集を聞きつけてやってきたサムライのマホトだった。
両腕を組んで、今度はやってやると言わんばかりの覇気に満ちていた。
白を基調とした紫色の刺繍がされた陣羽織を着こなしながら、上質な刀を二本(愛染紫剣、時価200G以上。カンザキハンマー、時価453万G)しっかりと備えていた。
「燃やしてぇな……」
店の外から、地獄の底から響いてくるような低い声が聞こえてくる。
黒いローブを着た肌の浅黒い男が、両手の平に二つの炎を起こして立っていた。
次第にその手の炎は大きくなり、手の平からあふれるような大きさになっていく。
熱風のようなものが起きて、手首の黒い真珠でできた数珠が揺れる。
最後に一気に圧縮されて、マグマのような濃厚な明るさの炎球に変わった。
そうして、ただの洞窟を攻略したくて、たまらないというふうに繰り返すのだ。
「燃やしてぇ……燃やしてぇ」
LV64の炎中魔術師だった。




