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この兄をどうにかしてください!!  作者: 杮かきこ
第1章  『この兄をどうにかしてください!!』
7/69

第2幕  2


「おー。ついてるね、俺たち」

 見つけたヴノは上機嫌だ。

「…ヴノ。お前、本当にすごいな…」

 アーラがぽつりと呟いた。

「…なんだよ」

「見てみろよ。オレたちの他に、誰もついてこないだろ?」

「あれ?本当だ」

 ヴノは、先ほどまで自分たちがいた場所から、ついてくる人間が皆無だったことに驚いた。

「『神託ティミの場所』だね。見つけ出すだけでも、奇跡に近い」

 クレイが意味ありげな笑顔でヴノを見た。

「あのさぁ。2人して、その知ったかぶるのやめてくんないか?もったいぶらないで教えてくれよ。俺は馬鹿なんだし…」

 クレイまでが知り尽くしたように解説を始め、とうとう人の良いヴノが拗ねてしまった。

 ちょっといじめ過ぎたか?とばかりに、アーラとクレイがヴノをなだめ始める。

「ねぇ、兄さん。あんなところに『神託の場所』があるね。行こうよ」

 アーラの背後から、急に少女らしき高い声音が響いた。

「…この気配っ」

 アーラが振り返る。

 が、アーラはその直後、ラベンダー色の双眸を大きく見開く結果となった。

 『深紅』。一面深い紅の色が眼前に広がっていた。


 

驚いて目を何度も瞬くと、それは腰以上の長さのある美しい髪の色だった。

 1人の少女が、凛とした態度でアーラの目の前に立っていた。

 深すぎる紅のせいか、日光の恩恵を受けない部分では、髪は黒い光沢を放っている。

 そして薄紅色の虹彩。堀はそれほど深くない目鼻立ち。

 東の民の特徴を示し、実際の年齢よりかは幼く見えているかもしれない。

 しかし見る者を捕らえて離さない魅了チャームは存分に放っている。

 『美の女神アフロディーテ』の加護を受けて生まれてきたのだろうか。

 ヴノを魅了したアーラでさえ(本人にその自覚はないが)、この少女の美しさぶりには、視線を釘付けにされるしかなかった。

「こんにちは」

 満面の笑みをアーラに向ける。

「…こんにちは」

 ついアーラも答えてしまった。

 そして少女から、あまり嗅ぎなれない香りが漂ってきた。

 甘く…それでいてどこか品のある香り。

(『香』か?とすると、この女の子は『レユアン王国』か『カイ国』の出身か?!

 目鼻立ちもその地域のものだ。年齢はずっと下に見えたけど、この地域の民族は見た目が幼く見える特徴があるからな。同じくらいの年齢かもしれない)

「この香りは『香』かな?」

「そう。さすがに詳しいのね。気に入ってくれた?」

「うん。好きな香りだ」

「よかった」

 話し方からすると同年代らしい。敵意は感じられない。むしろ友好的な雰囲気を感じる。

 が、殺意を含んだ敵意は、その少女の背後に聳えていた。

 アーラが少女から視線を上にあげると、青年が1人立っていた。

 特徴は完全に東の民。というより、その青年が着ている服が、『レユアン王国』の民族衣装だった。

 髪色は漆黒。黒すぎて、青みがかった輝きさえある。この地域の民の髪は豊かで、髪の毛1本の太さも、西の民の物よりしっかりとしていて太い。

 髪色は黒がほとんどで、多彩な髪色のエリュシオン周辺の民から比べると、とてもわかりやすいとも言える。

 目鼻立ちは浅く、外見は幼く見える特徴がある。

 この青年はすべての特徴を備え、鋭い眼光は藍色の輝きを帯び、精悍な面立ちはこの少女の可愛らしさと完全に対照的な、野性味溢れた猛々しさを感じさせた。

 そのためこの迫力から繰り出される『殺気』は、半端なく怖い。

 一般の民ならば、下手をすると意識を失うレベルの話かもしれない。

 が、アーラもこの青年と同等の『気』を放ち、『殺気』の相殺を試みた。

 このような『場』にあまり慣れていないであろう、ヴノとクレイが完全に『気』に飲み込まれ、声を出すことさえ敵わないほど体を硬直させていた。  

それに気がついたのか青年の『気』が和らぎ、少女を伴ってアーラの前から立ち退いた。

「お先」

 と、少女は相変わらず友好的な態度でアーラに手を振った。

「…な…なんだ、ありゃぁ!?」

 ようやくヴノが声を上げた。

 この速さで声を出せるなら、『戦い』という局面でも期待はできそうだとアーラは心の中で思い、口元を緩めた。

「…『レユアン王国』の関係者だろうか?名のある『戦士』なのかもしれない。生半可な迫力じゃないな」

 クレイの方も、ここまで冷静な判断ができるなら問題ないな。と、こちらにもアーラは密かに合格点を出していた。

「あの2人…ずっとオレたちをつけてきた気配の主だ」

「えっ、なんで…!?」

 アーラの突然の、しかも呟くような告白に、ヴノもクレイも一瞬わけがわからなかった。

 が、すぐ気を取り直して、今は自分たちより先を行く不可解な2人の背中を見つめた。

「…試された…のかもしれないな。オレ」

「アーラの実力を。ということかい?」

「…たぶん。理由はオレにもわからないけど…」

 クレイの問いにそれ以上答えることができない。否。できるわけがない。

 この行動の意味など、不可思議すぎるのだ。

「触らぬ神に…か。これ以上関わるのはやめた方がいいな。危なすぎるよ、特にあのお兄ちゃん」

「あぁ。そうする」

 ヴノに頷き無視することを決めたが、それでも仕方なく2人の後を追う形になる。

 ふと何かを感じアーラが視線をあげると、少女の視線とかち合った。

 にっこりと微笑まれる。アーラも仕方なくそれに答える。

 と、兄であろう青年に睨まれる。…この構図。どこかで…。いや。すぐ身近に、それもつい最近まで展開されていた図式ではないか?

「…そうか。兄様によく似てるんだ…」

「なんか言ったか?」

 ヴノに突っ込まれ、「何も」と答えたが、内心ひどい疲れを感じていた。

 これは確信だろう。まさか自分が真逆の立場になろうとは…。



◆◆◆



「あたしこれにするっ。この紅水晶がいい。すごくかわいいもん」

 無邪気に軽く握れる程度の大きさの紅水晶を見つけ、少女は兄に自慢げに見せていた。

「お前にすごく合っている」

 と、兄も満更ではない様子で微笑んでいた。

「ねぇ、君はどう思う?」

 少女は同じテンションで、アーラにも意見を求めてきた。

だからその行動が余計なんだってっ!と、心の中で思いっきり突っ込んだが、

「君の瞳の色を同じで、すごく似合っていると思うよ」

 しまった。と、思ってももう遅い。先ほど以上の殺気を孕んだ視線がアーラに無条件で送られる。

「…いいかげんにしてくれ」

「お前も律儀に答えなきゃいいのになぁ」

 ヴノはアーラに深い同情を寄せ、そんな言葉を送ってくれた。

「ならヴノは無視できるのか?」

「…う」

 普通なら「当たり前」という答えが返りそうだが、ヴノという無敵のお人よしだろう友人は、ここで律儀に答えに詰まってくれた。

「なんかあったら僕も援護するよ。さっきのように、場の雰囲気に簡単には飲み込まれたりしないさ」

 何故かクレイは臨戦態勢を整えてる。

 結構、好戦的なタイプなのか?と、いうより友人の危機に対して、今度は自分が助けようとしてくれている。ということなのだろう。本当になんていい友人たちなのか。

 こうしている間にも問題の青年は、髪色とさほど変わらない黒水晶を選んでいた。

 すべての光を吸収しそうな、光沢のない黒い石。

「…あいつのイメージ、ピッタしじゃん…」

 細心の注意を払い、ヴノがアーラの耳元で呟いた。

 瞬間、青年の藍色の『魔眼』がヴノに向けられた。

「なんでわかったんだよーっ!!」

 これは恐怖以外何者でもない。おそらく、ごそごそとアーラの耳元で囁いているヴノのしぐさで、けしていいことを言っていないだろうという確信のもと、ヴノを睨みつけただけだろうが。

「…じゃ、選ぼうか…」

 疲れた様子で自分たちの順番とばかりに、アーラたちが所狭しと並ぶ水晶の前に来たとき、少女も興味深げに覗き込んできた。

 嫌なら先に中に行っていればいいのにと、アーラは兄に進言したくなる。

「おー。俺はこれにしよう。これはキマイラで取れた水晶に間違いないな」

 自身たっぷりに太陽に向けて、ヴノはひとつの水晶を掲げた。

「…お前。見かけによらず、いい目をしているな」

 これは兄から発せられた、ヴノを褒める言葉。

 固まりながらも、ヴノは「ど、どうも」と礼を述べた。

 どこまでも律儀なやつだと、アーラは思った。

 しかしこの兄は水晶について、結構な知識を持っている。ということになるのだろう。

「僕はこれにする。なんか繊細な力を感じるな」

 クレイもお気に入りの代物を見つけたらしい。

「あなたも可愛い水晶見つけたね。とても合ってる」

「そう?あ、ありがとう」

 今度は少女がクレイを褒めた。クレイは戸惑いつつそれに答えた。

 兄だけではない。知識というより、そうとうの『目』と『能力』を持っていると考えた方が合っているようだ。アーラはこの兄妹をそう分析した。

 そして今度はアーラの番。

 何故か全員の視線が濃密に集中している。

(やりずらい…)

 見えないように苦笑いを浮かべるが、すでに目当ての水晶が決まっていたので、迷いなくそれを手にした。

 1本の長柱状の形。長さは15センチ程度。

 まるで短刀かナイフのような形状をしている水晶だった。

「…へぇ。さっきの黒髪のお兄ちゃんもそうだけど、君も一番の『獲物』を手にしたね」

 その言葉は以外な人物からアーラに送られた。

「そうですか?」

 この水晶市を少し離れた場所から見ていた、『監視者』らしき人物。

 黒いローブを身に纏い、フードを深めに被っているため顔はよく判別できないが、気配なくアーラたちの背後に立っていたということは、よほどの『能力』を持っている。そんな気配だった。

「あぁ。そのお兄ちゃんのは『エクリクスィ(爆発)』だ。君のは『ケラヴノス(雷)』。

 どちらも今回で一番の『獲物』だよ。どんな連中が手にするのか楽しみにしてたんだが、意外と若い連中で予想外だったなぁ。ちなみにお嬢さんは『ケオ(燃える)』。キマイラ産と当てたお兄ちゃんのは『エリモス(砂漠)』。このヒョロっとしたお兄ちゃんのは

『イリス(虹)』だ。それぞれの意味はわかるだろ?

 全部『名付き』の代物だ。

 こんなに一度に『名付き』が売れるのは何百年ぶりなんだろうな。

 大事にしろよ。それはもう1人の君らだ。

 きっと君らの果てしない未来の相棒になってくれる」

 ローブの人物の話が終わると同時に、アーラたちは催眠から解かれたように我に返り、辺りを見回すと、すでにその人物の姿はなかった。

 まるで御伽噺の語りを聞いていたような…そんな不思議な余韻だけがあった。

「……『ケラヴノス』…か」

「それって確か、神の王ゼウスの武器『雷てい』の名前じゃないか?」

 クレイが呆然と手にした水晶を見ているアーラに話しかけた。

「それを言うなら、クレイのは虹の女神のことだろう?」

「…なぁ」

「いや、君の方がすごいだろう?あの人物も、『一番の獲物』と言っていたし」

「…なぁ」

「そういう意味か…。そう言われても……」

「おいっ。誰かこの状況の説明してくんねぇかっ!?」

 クレイとアーラの会話に、ヴノがブチギレ寸前で割って入った。

「『名前付き』って言うのはね。その『神杯ネクトル』の力を示すものなの。

 それは同じ『神杯』の中でも特別中の特別。

 この『名付き』を手にすることができた『綺晶魔導師メイスン』は、巨大な神の力を振るうことを許された存在。

 だからその誉れを示すために、自分の名前の間…『二つ名』として名乗ることが許される。それが『ティミ(名誉)』なのよ。

 あなたの場合は『ヴノ・エリモス・ロフィス』となるわけ。わかった?」

「うん…わかったんだが…どうして君は俺の名前を知っているんだ?」

「アーラに港で名乗っていたじゃない?あたしたちも同じ船に乗ってたから聞こえてたの」

「それでずっとつけてきた…と?」

 ヴノに説明してくれたのは、意外にも少女だった。

 ヴノとしては説明してくれたことはありがたいが、ずっと見られてたことにはいい思いを持つことはできない。

 その表情は不快を感じていることを表していた。

「俺の名はジン…。そうだな。ジン・エクリクスィ・フェイツイ。こいつは妹のミゲ・ケオ・フィークス。ちょっと訳ありでな。妹がお前たちに興味を持ったようだったんで、悪いと思ったが後をつけさせてもらった」

「…ふうん」

 アーラの答えは素っ気無い。目を細め、ヴノ以上に不快感を露にしている。

「オレが名乗る必要もないだろう。時間が勿体無いし、さっさと宮殿に行こうぜ」

 これにはヴノも、クレイも行動を共にした。

 ジンとミゲと名乗った兄妹のした行為は、3人にとって、気持ちのいいものではないし、先ほどの行動はむしろ自分たちを試しているものだ。いずれにしても、許せる範疇はすでに越えていた。

 ここで先ほどのようなことになるならば戦いもやむなしという覚悟で、3人は兄妹の前を無言で立ち去り、怒りの態度を示した。

「…完全に怒らせちゃったね」

 ミゲが寂しそうに呟いた。

「その程度の器の連中だ。お前が気にすることじゃない」

 ジンはため息と共に、そう言葉を吐き捨てた。



「やりすぎたかな…」

 係りの人間に案内されて、小さな門から宮殿内へと3人は入っていった。

 あんな立派な門を見た後で、なんとなく拍子抜けしてしまう感じではある。

だがほとんどそんな感想を持つこともなく、3人は先ほどの兄妹、ジンとミゲがずっと気になっていた。

 というよりも、底なしの人の良さのせいか、ただの気が小さいせいか。ヴノがずっと気にかけていた。

 だんだん冷静になるにつれて「やりすぎたかもしれない」という、思いに駆られ始めているようだった。

「…あのミゲって子。別にそんな悪い子じゃなかったよな。問題はあの兄貴にあるわけで」

「ヴノ。なにか用があれば、きっと向こうからまた言ってくるよ。

 今はほっておこう。こちらも何かと忙しいからさ」

「アーラに同感だ。僕らに非はないよ。気に病むことはない」

 アーラもクレイも、その表情は冷静だ。ヴノは自分だけおかしいのかと考えたりもしたが、確かに自分だけ気にしても仕方ないので、ここは2人の言葉に従うことにした。



◆◆◆



「アーラ、ヴノ。あれ…」

 急にクレイが右前方を指差した。

 2人がつられて見ると、12~3歳の少女が心細げに、大きな柱に隠れるかのように立っていた。

「なんかプレートみたいの…持ってるよな?」

 ヴノはその少女が手にしていた…隠す様に持っているノート程度の大きさのプレートを見つけた。

「……。あの女の子…『マディス』じゃないのか?そう書いてあるように見えるぞ」

「ヴノ、視力いいなぁ。確かオレらが選んだこの『神杯ネクトル』を、『綺晶鑑定師マディス』に見てもらわないといけないんだよな?」

 アーラが、自分の右手に持っていた水晶を指差した。

「丁度いいな」

 クレイも興味半分で、選んだ水晶をポケットから取り出した。

「今度は落とさないでくれよ」

「…わかってるっ」

 クレイは、「しつこい」という非難の視線を、笑っているヴノとアーラに送った。

 


3人が少女の方へと足を向けたとき。

「おー。いっちょまえに、美少女『綺晶鑑定師マディス』様が、鑑定する人を待っておられるぞ」

 少女を嘲笑し、囃し立てる少年たち。

 年恰好は、ヴノやクレイに近いだろう。身なりは貴族や、富裕層の商人などの子息らしく、木綿布などの安価な服ではなく、絹などの高級な布地を使った服を身に纏い5人程で怯える少女を取り囲んだ。

「や…やめてください」

「や、やめてください。だってよぉ。だったら、あなたが「辞めてください」だろう?似非『綺晶鑑定師マディス』様ぁ」

 直後鈍い音が聞こえ、そう言っていた少年の1人が、少女の足元にひれ伏した。

「なっ、なんだ?」

「な、なんだ?ってさぁ。その『綺晶鑑定師マディス』の方に用事があんだけど。どいてくんない?」

 少年を殴った右手を痛そうにひらひらと振りながら、ヴノがしれっと答えた。

「人良さそうで、案外怖いな…ヴノ」

「うん。思いっきり殴ってたよね。相手、意識失ってるし」

 クレイとアーラが後ろでぼそぼそと会話をしていると、「外野がうるさいよ。あの女の子を保護する方が先だろう?」と、抗議の声をヴノが上げたときは、アーラがすでに呆気に取られている少年たちの間を縫い少女のもとに立っていた。

「はやっ」

 ヴノが呟いた。

「なんだよ、お前たちっ!!」

 気がついた少年たちは驚きで飛び上がらん勢いだったが、そのうちの1人がなけなしの自制心を働かせた様子でアーラたちに叫んだ。

「なんだよ、お前たち。って…言ったじゃん。この『綺晶鑑定師』さんに用事があるって」

 容赦のないアーラの返答。

 完全に攻守が逆転し、今度はアーラたちが、少年たちを馬鹿にした態度で対応した。

「…騎士気取りか?貧乏人が」

アーラたちの身なりを見て、少年の1人が悔し紛れの文句を垂れる。

「あぁ。あいつ『ニキティス家』の関係者なんだ。ほら、目の色ラベンダー色でしょ?」

 が、クレイがアーラを指差して発した言葉に、まるで少年たちの動きが『時間停止』の術をかけられたごとく、愉快なほど見事に停止していた。

 本人たちにしてみると、それが本当のことならば自分たちの犯行現場を現行犯で見つかった以上に死活問題なのだ。事は自分たちだけでなく、『親』、しいては『家』の存続にまで問題が及びかねない。

 5人の視線がアーラの瞳に集中し、その色を確認すると、

「失礼いたしました」

 と、一応に頭を下げ、意識を失っている仲間を1人が背負い、

「『ルルディ』殿。その方たちをお願いします」

 という台詞を置き土産に、そそくさと退散していった。

 


少年たちが去ったことを確認すると、ヴノとクレイから笑い声が上がった。

 それも『大笑い』だ。

 アーラは呆れた様子でため息をつき、少女に怪我がないかを確認し、名前を聞き出していた。

「す…すまない、アーラ。無駄な争いは避けようと…」

 笑い苦しそうにしながら、クレイがアーラに詫びた。

「別にいいけどねぇ。そんなことだろうと思ったし。でも、さっきまで「やりすぎたかな」とか悩んでたやつが大爆笑してるし」

「う、うるせぇよ。で…そのお嬢さんは?」

「怪我はないそうだ。名は『カメリア・ルルディ・ルーシュエ』さん。なんと13歳」

「うわ、すげぇっ!!」

 ヴノの変わり身の早さに、アーラの方が驚いた。

 確かに『神杯ネクトル』を見つけることに年齢は関係ないのだろうが、13歳の若さで『綺晶鑑定師マディス』を名乗るのは、一種の英才と言えるだろう。

 とは言え、つい一瞬前まで大笑いしていたやつが、すでに目玉をひんむいて驚いている様子にだんだんこの友人の本来の姿が見えてきた。

(絶対、素直すぎる愉快なやつだ)

 これはすでに『確信』となっていた。

「俺ん家の妹なんてただの馬鹿なのに、カメリアさんはたいしたもんだ」

 妹を比較したくなるヴノの気持ちもわからんではないが、「ただの馬鹿」扱いは、ヴノの妹本人がこの場にいたら、間違いなく大喧嘩に発展しているだろう。

「妹さんを『馬鹿』だなんて酷すぎますっ」

 意外にも抗議をしたのはカメリアだった。

「…すみません」

 ヴノが右手を後頭部に当て、ペコリと頭を下げた。

「許して上げます」

 カメリアの上から目線の言葉も、まるで嫌味なんて感じさせないぐらいにその可憐な笑顔が愛らしく、先ほどの勝気な美少女ミゲとは違う儚げな少女の可愛らしさが発揮され、3人の少年を瞬く間に魅了した。

 翡翠色の髪は頬下辺りまでの長さの短さ。対して赤茶の瞳は目じりは下がり気味で、パッチリしていて大きい。

 可憐で、清楚で、どこか儚げで。支えてあげないと折れてしまいそうな華奢な体。

 10歳児程度の年齢にしては低すぎる身長も、すべてに拍車をかけている。

 ミゲとカメリアはまったく真逆の印象を持った『美少女』だった。

「あ…申し訳ありません。助けていただいた方にこんな失礼なことを…。

 先ほどは本当にありがとうございました」

 カメリアは3人へ、無駄のない品のある動作で頭を下げた。

「カメリア。君はどうしてあんな目立たない場所に立っていたんだい?さっきのやつらがそんなに…」

「……」

 クレイが何気ない疑問を訊いてみた。

 しかしその途端、カメリアは顔を俯け押し黙ってしまった。

「クレイの馬鹿っ」

 ヴノが小声で、クレイの脇腹を自分の肘で突付いた。

「だっ、だって……」

 慌てるクレイを一瞥し、アーラは俯いたままのカメリアと同じ高さまで体を前かがみにした。

「…自分に自信がなかった…かな?」

 優しいアーラの問いかけに、カメリアは弾かれるように顔を上げた。

 そこにはアーラの満面の笑顔があった。

 カメリアの頬が一気に紅潮する。

「君はもっと自分に自信を持っていい。『ルルディ』の名前は君にピッタリだよ。きっとその『神杯ネクトル』は、君と出会うために、長い年月を地中でじっと待っていたんだ。

 その頑張りを君は無駄にしちゃいけない。そうだろ?」

 カメリアは何かに気がついたのか、赤茶色の瞳を大きく見開らき、アーラは無言で小さく頷いた。

「…はい」

 カメリアの今にも泣き出しそうな笑顔に、アーラはその小さな肩に手をそっと置き、

「大丈夫だよ」

 と、優しく笑みを浮かべた。

 アーラが何気なくヴノとクレイを見ると、なにやら感心した様子でアーラをじっと見つめていた。

「2人してなんだよっ」

「いやぁ…なるほどな、と。俺の選んだ水晶も、そうだったのかなぁってね」

「…そうでした。皆さんの水晶を見せてください」

 ヴノの言葉で思い出したのか、カメリアは張りのある声で3人に話しかけた。

 アーラが「頼むよ」と水晶を差し出すと、「任せてください」とカメリアは笑顔で答えた。



 カメリアは3人の水晶を、間違いなく『神杯ネクトル』と鑑定し、その中でも希少性の高い『名付き』であることを3人に告げた。

「たいしたもんだ」

「これで僕らも晴れて、『アカデメイア』の学徒になれるわけだ」

 ヴノがカメリアの鑑定結果に感心し、クレイも嬉しそうな笑みを浮かべていた。

「この『アカデメイア』では学徒のことを『准士じゅんし』と呼びます。

 学ぶ者というより、『綺晶魔導師メイスン』の予備生としての立場と考えての扱いです」

 カメリアが説明を施す。アーラの言葉が励みになったのか、カメリアの表情は晴れやかに見えた。

「へぇ…なるほど。アーラは…当然知ってたよなぁ。その顔だと」

「いやな言い方するなよ。オレは兄貴にいろいろ聞いたって言ったじゃん」

 何度言わせるんだと、アーラがヴノに抗議する。

 ヴノは人の悪い笑みを浮かべ、「悪い、悪い」と謝るだけだった。



「カメリアっ!!」

 カメリアに良く似た声が聞こえアーラたちが振り返ると、20歳前後の女性と共に、顔までカメリア似の少女が走ってくるのが見えた。

「…カメリアによく似てるなぁ…」

 ヴノが呟いた。

「双子の妹なんです」

 カメリアの告白に、3人が反射的にカメリアと妹と言われた少女の姿を見比べてしまった。

「カメリアっ、大丈夫だった?」

「うん、カリディア。この人たちが助けてくれたの」

「助けてって…」

 走ってきたせいで、駆け寄った少女の呼吸は荒い。

 それでもなんとかカメリアに答えようとする。

「助けてくれた」の意味を知りたかったようだった。

「…まさかラフティのやつらがまた?」

「うん。でも、この人たちが追い払ってくれたの…」

 カメリアの双子の妹は、アーラたちに頭をペコリと下げた。

「姉を助けていただいて、本当にありがとうございました」

「オレたちは何も…。あ。ヴノは活躍したか」

「まぁ…一発な」

「…はい?」

 アーラとヴノの妙な会話に、少女は小首を傾げた。




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